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板金のヘム折りを活用して面取り工程を不要化する端部設計

目次
はじめに:板金加工現場の「常識」を問い直す
板金加工において、端面のバリ・鋭角は安全性や製品の信頼性を損なう要因として知られています。
従来、多くの現場では面取り(C面やR面)加工を追加工程として設けることで、エッジの危険性を排除してきました。
しかし、面取り工程はどうしても「コスト増」や「リードタイムの長期化」と表裏一体です。
長年にわたってアナログ的な慣習が根強く残る板金加工現場においても、近年は生産効率・省力化・コスト低減への要求が一段と強まっています。
昭和から続く“当たり前”を疑い、板金端部設計の新たな地平を切り拓く一手として注目度を増しているのが「ヘム折り」です。
本記事では、20年以上工場現場で研鑽を重ねてきた実務家ならではの視点から、ヘム折りを活用した端面設計のメリットや導入の考え方、バイヤーとサプライヤー双方が知っておきたいポイントまで、実践的に掘り下げて解説します。
板金のヘム折り:基本原理と従来の面取りの課題
ヘム折りとは?
ヘム折りは、板金の端部を180度、ないしは135度程度に折り返すことで、鋭利な端面を封じ込める加工手法です。
単純な端曲げ(フランジ)に対して、ヘム折りでは板厚の2倍程度の構造物となり、露出エッジがほぼ消滅することが特長です。
海外では「Hem(ヘム)」、日本では「ヘム曲げ」「ヘミング」などとも呼ばれます。
なぜ面取り工程は“非効率”なのか?
従来の板金設計では、図面上で「端部C0.5」「R1.0」などと指示し、切断・穴あけ後の二次加工として面取り工程を追加してきました。
面取りは、各部の機械や工具による追加工程が必要であり、数量が多いと大きなコスト要因・納期要因になります。
さらに、自動化や大量生産との相性が悪いです。
ロボットや自動化ラインにより効率化された工場であっても、面取りだけは手作業・熟練工依存となるケースが散見されます。
結果として、面取り工程は「量産コスト圧迫」「リードタイム長期化」「技能伝承困難」という三重苦を現場に強いてきたのです。
ヘム折りによる端部設計の具体的メリット
鋭利な端面ゼロを実現、安全・品質を一挙に解決
ヘム折り構造を採り入れることで、以下の効果が得られます。
・バリや鋭利な切断面の露出がゼロになる
・作業時、使用時のけがリスクを大幅に低減できる
・面取り忘れ・バリ残しの不良品流出が完全になくなる
・断面強度も増し、歪み・変形にも強くなる
これらは製造現場だけでなく、使用現場(最終顧客)まで安全性・信頼性が拡大する点で、非常に大きな価値です。
コストダウンに強く効く理由とは
面取り工程が不要になることで、工程数・工数・工具コストを削減できます。
また、設計時に「ヘム折り指定」を反映させておくことで、外注サプライヤーの見積もり精度も向上し、無駄なコミュニケーションや再見積もりのロスがなくなります。
加えて、ヘム折りは金型(ベンダー)が対応していれば自動化ラインとも親和性が高く、数量スケールに対して非常に強い省力化効果を発揮します。
量産品であればあるほど、1個あたりのコストメリットは劇的です。
品質保証(検査・トレーサビリティ)が簡単に
面取り後のエッジ品質は、目視・手触り・ゲージといった人手検査に頼るため、品質ばらつきが発生しやすいのが現場実感です。
一方、ヘム折りは曲げ寸法さえ守れば「端面品質が均一」になるため、品質保証が格段に容易です。
さらにロットトレースしやすく、公差・寸法保証が楽になります。
ISO・IATFなどグローバル規格要求への対応もしやすいのです。
意匠性・高級感アップという思わぬ副次効果
ヘム構造は見た目にも美しく、「切断面が見えない」「シームレス」「エッジラインがシャープ」という効果があります。
家電筐体、車体パネル、建材、デザイン什器など、デザイン性・高級感を求められる分野で重宝されます。
設計手法:ヘム折りを生かした端部設計の勘所
設計段階で盛り込むべきポイント
端部ヘム折り構造を図面上に落とし込む際は、下記ポイントを押さえてください。
・曲げR(アール)の最小値=板厚×(1.5~2倍以上)が目安
・折り返し幅は5mm以上が現実的(金型・材料ばらつき考慮)
・曲げ後に噛み合い、干渉する部位がないかを事前確認
・溶接やスポットを併用する場合、合わせ目のすき間に注意
・塗装や表面処理(パウダー・電着等)後の外観イメージもCADでシミュレーション
このように、表層的に“曲げ構造”を加えるだけでなく「製造プロセス全体」「最終用途」「コストインパクト」まで逆算して設計に落とし込む力が重要となります。
見積もり依頼時には明確な要求記載を
図面や3Dデータで「ヘム折り指定」「曲げ寸法」「端部処理方法」を明記しておくことで、サプライヤーによる曖昧な解釈による失敗やコスト増を防げます。
JISやDINなど共通規格値を引用しておくのもおすすめです。
シートメタル担当者との意思疎通を強化する
ベンダー(金型)設備の型状や自動化対応可否など、板金加工会社ごとの得手不得手があるのが現状です。
現場との適切なすり合わせを行い、試作品・サンプルで事前検証を重ねることで、納入後のクレームや再加工リスクを大きく下げることができます。
バイヤー・サプライヤー双方にとっての「ヘム折り戦略」
バイヤー視点:現場目線で工程見直しの旗を振る
バイヤーは、現場の声を踏まえて「図面要求品質」「工程数」「コスト」の全体最適を目指す役割です。
ヘム折りを設計段階で指定することで、社内外の製造コストダウン、品質安定、納期短縮の全てを同時に達成することができます。
特に、板金部品の外注サプライヤーを多用する組立加工業態では、ヘム折りによる省工程化は取引額ベースで大きな成果につながります。
サプライヤー視点:付加価値型提案で差別化を図る
サプライヤーは「言われた通りに作る」から一歩進み、設計変更や端部改善案としてヘム折り活用策を自社から積極提案することで、顧客への貢献度・信頼度を高めることができます。
量産ラインへの組み込みが容易な点、端部一貫品質が出しやすい点などをアピール材料に据えれば、他社との差別化、取引拡大も狙えるでしょう。
また、エンドユーザーにとっても「もっと安全に」「もっと美しく」といった目に見えるベネフィットを訴求できるため、QoQ(品質の質)向上活動の一環として活用が可能です。
アナログ業界でも着実に進む「工程改革」の必須知識
日本の板金加工業界は今なお熟練工の勘と経験による属人的工程が多く、デジタル化・工程自動化が遅れがちです。
しかし、ヘム折りのような「設計段階から生産性を最大化できる工法」はDX時代のアナログ脱却・スマート工場実現の切り札にもなり得ます。
これからバイヤーを目指す方、現場力を伸ばしたい方程、「単なるコスト削減」ではない設計改革への理解が必須となるはずです。
まとめ:ヘム折りを活用した端部設計が製造業にもたらす進化
板金の端部設計に「ヘム折り」という一工夫を加えるだけで、面取り工程の全廃と同時に製造現場・使用現場双方の安全性・生産性・コスト競争力を大きく引き上げることができるという事実。
これは、現場たたき上げの実務家ほど痛感している“工程見直しの本質”です。
単に安く速く作るためだけの方法論ではなく、ものづくり現場の総合力・技術力を底上げし、未来のスマートファクトリーに向けた進化の一歩を切り拓く。
そんな端部設計イノベーションの核となる「ヘム折り活用」を、今こそ職場、プロジェクト、商談の場で積極的に検討してみてはいかがでしょうか。
バイヤー・サプライヤー、設計・製造・品質全ての立場で、ロスゼロ・危険ゼロ・非効率ゼロを目指す。
それこそが、これからの製造業に求められるラテラルシンキング的アプローチだと私は考えます。
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