投稿日:2025年11月6日

ベルトのコバ塗り仕上げに使われる熱処理と顔料の調合

はじめに〜製造業の現場目線から考えるコバ塗りプロセスの重要性

革ベルト製造において、コバ(端部)仕上げは製品価値を左右する非常に大切な工程です。

購買バイヤーや生産管理者から見れば、外観品質や耐久性は最終顧客の満足度を直接左右します。

それにも関わらず、いまだに手作業・経験頼みでの工程管理が多く、材料や手順の標準化、工程自動化は決して進んでいません。

本記事では、長年の製造現場で培ったノウハウをもとに、ベルトのコバ塗り仕上げで使われる「熱処理」と「顔料の調合」について、技術的な基礎から現場のリアルな工夫、そして今後の自動化やDXのヒントとなる視点まで、深く掘り下げて解説します。

サプライヤーの立場で発注側の求める品質要件を理解したい方、より高いレベルで製造管理を行いたい方の一助になれば幸いです。

コバ塗り仕上げとは?その目的と品質への影響

コバ仕上げの役割

コバ仕上げは、革や合成皮革ベルトのカット断面(コバ)の美観と耐久性向上を目的としています。

具体的には以下の意味合いがあります。

– “切りっ放し”によるほつれ、剥離、毛羽立ちの防止
– 水や油、汚れの侵入防止
– 光沢・色調安定による高級感の付与
– 使用時の摩耗や手触りの向上

見た目が均一になり、高耐久なベルト製品に仕上げられるため、BtoBでもBtoCでもコバ仕上げの質は価格の決定要素となります。

アナログ工程が根強い理由

コバ塗りは、塗料の調合・塗布・熱処理・磨きなど一連の工程が密接に絡み合っています。

1つ1つの工程が“熟練の勘”に頼るところが多いため、デジタル化しにくいことが現状を縛っています。

量産ラインでも人や作業時間ごとに品質ムラが発生しやすく、日本の製造業が「昭和の伝統技術」と「グローバル標準化」の狭間で悩み続けている大きな理由のひとつです。

コバ塗りに使われる「熱処理と顔料調合」の基本知識

コバ塗り熱処理の技術的ポイント

熱処理は、コバ塗料(エッジペイント)を化学的に安定定着させ、耐久性を出すために不可欠な工程です。

特にベルトは曲面や折れ曲がりの負荷が大きいため、物理的に強靭で割れ・剥がれが生じにくい仕上がりが求められます。

現場で使用される熱処理方法は主に2種類です。

1. アイロン/ヒーターなど局所加熱
革ベルトのコバに塗布した顔料に直接熱を加え、塗膜を一層ずつ硬化・滑らかにするやり方です。
手作業が主流ですが、最近は小型IR(赤外線)ヒーターを使って自動化への取り組みも始まっています。

2. オーブン加熱
一定温度(60-80℃が多い)でラインごとオーブン加熱し、塗膜全体を均一硬化します。
ライン速度や投入量による温度ムラ管理がカギで、短納期品や一括大量生産時に有効です。

顔料の調合と最適な配合比

コバ塗り顔料(エッジペイント)は、基本的に水性ポリウレタン樹脂をベースに、ピグメント(着色剤)、可塑剤や艶消し成分、硬化剤などを混合しています。

現場で行われる主な調合作業は次の通りです。

– 色合わせ(指定色の再現、ロット間バラツキ最小化)
– 粘度調整(気温・湿度による変化吸収、塗りやすさの維持)
– 艶・マット感の微調整、特殊感(パール、ラメ等)の再現
– 乾燥(硬化)速度の設定

発注元の求める色番号や質感データをもとに、顔料ごとBtoB仕様にチューニングするのがバイヤーやサプライヤーの腕の見せ所です。

現場でよくある課題と解決アプローチ

課題1:ロットごとの色ブレや外観不良

コバ塗りはミクロン単位での塗布厚さや、温度・湿度管理に工夫が必要です。

現場目線でよくあるトラブル例と対策を紹介します。

– 原材料ロット変更による色ムラ:
ベース樹脂や顔料、特に着色剤ロットごとに微妙な差が生じます。
→実機分でテスト混合を事前に行う、標準サンプルの確実な保管、顔料は“ロット跨ぎ”でタイミングをズラして使う。

– 塗布後の気泡やピンホール:
気温・塗装速度・乾燥工程に余裕がない場合に発生しやすいです。
→作業現場の気温や湿度計測を徹底し、仕上げ直前に細かいエアブロー清掃を行う。機械化の場合でもエアノズルの位置や風量に工夫する。

課題2:塗膜の割れ、剥がれ、摩耗

塗膜だけでなくコバの下地処理もポイントです。

熱処理が十分でないと、後加工の磨きや折り曲げ耐久テストで割れが発生しやすくなります。

– 2回〜3回重ね塗りし、各層ごとに確実な熱処理(推奨は60℃で10分以上の強制加熱、またはアイロンでの連続加熱)。
– 端部コーナーは下地サンディング作業を丁寧に、研磨パッドやフェルト使って滑らかに仕上げる。
– 量産下ではロボット塗布・加熱も積極活用し、温度センサー付きIoTモニタリングシステムで工程を見える化する。

これにより、外観と耐久性の両立を高いレベルで実現できます。

発注側(バイヤー)が求める視点とサプライヤーへのアドバイス

バイヤーの多くは、外観検査・寸法・強度などの「定量評価項目」には強い関心を持っていますが、コバ塗りプロセス自体のノウハウには“ブラックボックス”感を抱いていることが多いです。

この「知ってほしい現場事情」を伝えることで、価格交渉や品質評価、共同開発プロジェクトで大きな信頼を生み出せます。

バイヤーが重視するポイント

– 色・仕上げの均一性とロットアクセプタンス(初品から量産までの安定再現性)
– 高温多湿・摩耗などの“過酷使用”条件でのテスト証跡(見せ方も重要です)
– 環境法規(RoHSやREACH)への適合、有害成分(NMPレスなど)の有無

サプライヤー現場の工夫が差別化につながる

– 工程標準書やQC工程表を「写真+数値データ」で整えて提示する(現場が見える化されることで、バイヤーは安心して発注できるようになります)
– 塗膜強度や耐摩耗・耐薬品テスト結果の短納期報告
– 小ロットでも色ブレの無い“個別調合能力”の提案

これらの現場主導型技術サービスは、単純なコスト競争を脱却する力になります。

今後の業界トレンドと現場適応の未来

コバ塗り工程にも自動化やIoTセンサー活用が少しずつ進みつつあります。

たとえば、

– ロボットアームによる定量塗布と熱風加熱ラインの導入
– 顔料レシピのクラウド一元管理+バーコード照合
– カメラAIによる外観検査・色差自動測定

こうした“昭和→令和”の現場進化には、従来の「技能継承=徒弟制度」ではなく、見える化と再現性という新しい価値観が求められています。

バイヤーは「現場と共創する」視点でサプライヤーと対話し、サプライヤーは「困りごと可視化」「技術の軸足」をしっかりと社内外に示す必要があります。

まとめと現場への提言

コバ塗り仕上げは、製品の外観と耐久性を大きく左右する重要工程です。

「熱処理」と「顔料調合」というアナログ現場の技能が、いかに製品価値=バイヤーの信頼につながるかを認識し、現場の知恵を体系立て、標準化・自動化の第一歩を踏み出すことが、これからの日本の製造業には必要です。

サプライヤー・バイヤー・生産現場、それぞれが現場を理解し合い、新たな“ものづくりの地平線”を一緒に切り拓いていきましょう。

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