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放電加工電解加工の原理と加工条件最適化でトラブルを防ぐ実践ポイント

目次
はじめに:放電加工・電解加工の必要性と現場のリアル
現代のものづくり現場では、従来の切削加工や研削加工だけでは対応しきれない複雑形状や高硬度材料の需要が高まっています。
こうした要求に応える加工手段として「放電加工」と「電解加工」があります。
長年、製造現場で努めてきた私の経験では、これらの非伝統的加工法はその独自性ゆえにトラブルも多発しがちです。
しかも現場は未だに“昭和的”な勘と経験頼みの部分が色濃く、マニュアルも情報も限定的なことが少なくありません。
そのためバイヤーや現場担当者、ひいてはサプライヤーまで一丸となった知識の底上げが企業競争力を左右する時代になっています。
この記事では放電加工と電解加工の基礎原理から、現場で遭遇しやすいトラブル、そして加工条件最適化のための実践ポイントまで深堀りして解説します。
放電加工の原理をおさらい:なぜ“非接触”が可能か
放電加工(EDM)とは何か
放電加工(Electrical Discharge Machining, EDM)は、電気エネルギーによって加工物と電極の間に火花放電を発生させ、その熱エネルギーで材料を溶融・蒸発させて除去する非接触型の加工法です。
この原理的なポイントは「電極が直接ワークに接触しない」点にあります。
従来の切削工具は摩耗やカケがつきものでしたが、放電加工はその心配が少なく、難削材や複雑な金型などにも幅広く利用されています。
微細加工や深い穴あけにおいても高い精度で対応できるのが強みです。
加工作用のメカニズム
加工槽内には絶縁性の加工液(通常は灯油や専用オイル)が満たされ、電極とワークを数ミクロン~数百ミクロンの微細な間隔で対峙させます。
高電圧を一瞬印加することで、その間隙にブレークダウン(絶縁破壊)が発生し、プラズマチャネル内で爆発的な瞬間放電(火花放電)が生じます。
局所的に数千度にもなる高温・高圧エネルギーでワーク表面が溶けて蒸発・飛散し、徐々に複雑な形状が削り出されます。
放電加工が特に活躍する分野
例えば、
・高硬度材料(超硬合金、焼入れ鋼)
・金型のリブ、アンダーカット
・精密な微細穴・複雑形状
こうしたケースにおける放電加工は、まさに“最後の切り札”と言えるでしょう。
電解加工の原理とその特徴
電解加工(ECM)とは?
電解加工(Electrochemical Machining, ECM)は、加工物と電極に電圧をかけ、導電性の電解液中でアノード(加工物)側の金属のみを選択的にイオン化・溶解除去する加工法です。
いわば金属表面を「電気化学的に溶かしていく」方法で、放電加工同様、非接触かつ応力レスで高精度な成形が可能です。
加工のメカニズム
導電性の電解液(例えば塩化ナトリウム水溶液など)にワークと工具電極を対峙させ、直流電圧を印加します。
ワーク(アノード)はイオン化し、溶液中で金属陽イオンとして流出します。
一方、電極(カソード)はほぼ消耗せず、形状を保ったまま加工が進行します。
このとき工業的な対象は、粘りやすく、切削が困難な材質(ニッケル合金、チタン合金、超合金など)が多いです。
メリット・デメリット
【メリット】
・熱や機械的応力がかからず、バリやクラックが無い
・工具電極の摩耗がきわめて少ない
・複雑形状や大面積加工が得意
【デメリット】
・設備コストやメンテナンス負担が大きく、導入障壁が高い
・環境面(排液処理や設備周辺の腐食防止)が課題
・高精度を得るには“条件出し”に熟練がいる
実務で苦労する「昭和的トラブル」とその背景
現場で繰り返される“よくあるトラブル”
私が工場勤務する中で、放電加工・電解加工の工程では次のようなトラブルがよく報告されました。
・電極摩耗や形状転写不良(放電加工)
・ショートやアークによる加工停止
・残渣付着による表面粗度の劣化
・電解液の劣化や漏れ、設備腐食
・数値条件設定ミス(スピード優先の条件が品質低下を招く)
これらの問題の背景には、“勘と経験”だけでなく、「そもそも加工原理の理解があいまい」、「工程設計書が先人依存でアップデートされていない」といった“アナログ体質”が根強くあります。
なぜ属人化・ブラックボックス化するのか?
1つは新素材や新形状部品が次々と登場するのに、従来のノウハウ重視でアップデートが遅れる点があげられます。
また、トラブル発生時に「誰にも聞けない」「正解が誰も分からない」ため、その都度自己流の調整や応急処置が横行し、根本の見直しが進まない。
バイヤーであっても、「どのサプライヤーが真に最適条件で最小コストを実現しているのか」ブラックボックス化してしまいがちです。
加工条件最適化の実践ポイント
放電加工の条件最適化:現場で成果を出す着眼点
条件最適化のきほんは
・電極素材・形状の選定
・パルス電流波形(オンタイム/オフタイム/ピーク電流)
・加工液の循環・ろ過管理
・チャッキングや治具の剛性確保
これらに尽きます。
特に量産現場では「加工速度の向上」と「加工寸法精度/表面性状の安定化」が相反するため、トライ&エラーが避けられません。
最近ではIoT対応の放電加工機も増え、加工履歴や条件データを自動収集できるので、「異常値をすぐ見つけて条件調整に役立てる仕組みづくり」が非常に重要です。
私は必ず「1ロットごとに加工条件と結果をデジタルデータで記録」し、異常発生時のフィードバックで迅速に条件変更を指示する体制を作ってきました。
電解加工の条件最適化:どこに着目すべきか
電解加工は加工速度や精度に大きく影響する因子が多数あります。
主なものは
・電圧・電流密度
・電解液の濃度・流速・温度
・工具電極とワークの間隙管理
・電解液のろ過・メンテナンス
・ワーク材料特性、表面処理履歴
です。
特に、電解液管理の徹底はトラブル防止の生命線です。
液漏れや腐食は、最終工程だけでなく工場全体の品質事故にも波及しかねません。
加工速度を過度に優先すると、局部電流密度の異常上昇→ワークと電極の衝突や未加工部の発生につながります。
「段取り八分」とはよく言ったもので、段階ごとに微調整しながら「狙った精度をブレなく出せる」プロセス設計こそが、現場の腕の見せどころです。
昭和的アナログ現場から脱却し、製造業バイヤー・サプライヤー双方に求められる視点
なぜ今、現場DX・自動化が急務なのか
今や、世界競争も激しく、サプライヤー選定時には加工ノウハウや安定した品質アウトプットは大前提です。
下請け丸投げや「伝統の勘」だけでは、グローバルクラスの品質やQCD管理に太刀打ちできません。
工程データをデジタル化し、加工条件の最適化やトレーサビリティを確立する。
属人的ノウハウやブラックボックスの排除を図ることで、バイヤーが安心して取引できる体制を作る必要があります。
現場ローテーションやOJTの充実、加工理論に基づく教育資料のデジタル配信なども重要ですが、IoT導入による加工トレーサビリティや装置稼働率の可視化が、アナログ体質からの脱却に直結します。
トラブルゼロの実現=利益向上への近道
「トラブルが多いのは特殊な加工だから仕方ない」
とされがちですが、加工原理理解と条件データの積み上げ・見える化に投資することで、歩留まり・生産性が飛躍的に向上します。
バイヤーの立場では「どのサプライヤーがこうした見識と現場改善への意欲を持っているか」が見極めポイントとなります。
また、サプライヤーは「先端加工の強み」をわかりやすく伝えるためにも、実践事例やデータ開示を積極的に行うべきです。
まとめ:放電加工・電解加工の現場は“今こそ知恵の時代”
放電加工も電解加工も、高度化する製造業において不可欠な技術です。
加工原理を正しく理解し、現場でのトラブル原因やアナログなボトルネックを構造的に把握すること。
そしてバイヤーとサプライヤーが共通言語を持ち、最適な加工条件出しや現場改善を協働で推進できる企業が、今後ますます強くなります。
これから製造業を目指す方や、現場バイヤー、サプライヤーの皆さまにとって、放電加工・電解加工の基礎から実践までを体系的に学び、創造力豊かな改善に挑戦し続けてほしいと願っています。
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