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災害やパンデミックによる納期遅延時に有効なフォースマジュール条項の活用

目次
はじめに:変化の時代に求められるリスク対策
新型コロナウイルスや地震・台風などの自然災害、さらにはサプライチェーン断絶が日常茶飯事となった現代。
製造業は、これまで経験したことの無い納期リスクと常に向き合わされています。
特に調達購買やバイヤーの立場においては、発注先のサプライヤーと結ぶ契約が非常に重みを増しています。
そうした中、災害やパンデミックによる納期遅延リスクをコントロールする「フォースマジュール条項(不可抗力条項)」が注目されています。
この記事では、長年の製造業現場で培った実体験も交えながら、現場目線でこの条項の設計と使いこなし方を解説します。
アナログ色濃い日本の製造業の中で“実際どう対処されているか”、業界の現実も交えお伝えします。
フォースマジュール条項とは何か?
基本的な定義
フォースマジュール(Force Majeure)とは、フランス語で「不可抗力」を意味します。
要するに、契約当事者のどちらの責任でもない予測不能・防止不能な事態が発生した時、その履行責任を免除(または一時的に猶予)するという約束です。
例えば大地震・大火災・洪水・戦争・疫病・行政指導などが「フォースマジュール」事由とされます。
製造業契約における具体的な記載例
実際の取引契約書には
- 「不可抗力による納期遅延の場合、当事者は責任を負わない」
- 「不可抗力発生時は速やかに相手方へ通知する」
- 「不可抗力事由が◯日以上継続した場合は解除できる」
などといった文言が設けられています。
但し、どの範囲が不可抗力に該当し、どんな手続きを踏むべきか――は契約ごとに異なります。
そこが“現場運用で揉める”最大のポイントです。
「予見可能性」と「回避可能性」の壁
フォースマジュール条項は“全てを免責する魔法の言葉”ではありません。
過去の判例や商慣行では
- 事前の合理的な対策が講じられていたか
- 本当に予見不能・不可避の事象だったか
が厳しく問われます。
たとえば、「コロナ禍で部品生産がストップ=不可抗力」と一概には言えません。
社内在庫や調達ルート更新・発注タイミング等、相当の工夫や努力の有無が後から必ず問われます。
フォースマジュール条項の実用的な活用法
1. 事前対策で「定義と手順」を明確化する
製造業の購買・調達部門では、そもそも「万が一」を想定して仕組みを整えることが重要です。
昭和スタイルの“損得勘定の現場任せ”では、緊急事態に曖昧な責任追及・感情的なトラブルに発展しやすいです。
ポイントとなるのは
- 何がフォースマジュールに該当するのか〈事象の定義〉
- 不可抗力が発生した際の通知方法と期日
- 業務再開・解除・代替策のプロセス
これらを契約時点から明記し、両者で再確認しておくことです。
2. バイヤー視点:リスク分散の観点で活用
調達担当・バイヤーとしては、単に免責を並べるだけでなく
- 複数仕入先による発注ポートフォリオの作成
- 納期遅延時の優先供給条項やキャンセル権等の発動条件
- 自社部品/代替部品の承認フロー明文化
など“不可抗力発生後の現実的な方策”まで盛り込むのが現代的です。
フォースマジュール条項は「法的な最後の砦」であり、
それを使わなくて済むための危機管理体制全体設計(BCP:事業継続計画)が本当は主役になります。
3. サプライヤー視点:信頼関係を築き直すチャンスに
サプライヤーの立場では、納期遅延に怯えず堂々と交渉するために
- 誰が・いつ・なぜ遅延(不可抗力)が発生したかをタイムリーに記録・報告する
- 何を・いつまでに復旧できるのか具体的な工程表を提示する
- 再発防止(リスク低減)のための社内改善活動を積極提案する
ことで、“不可抗力時の信頼関係”を強めることができます。
現場からの一次情報(現地写真や動画、現場の声など)も活用し、バイヤー側にリアルな事情を的確に伝えましょう。
これが長期契約維持の差になります。
コロナ禍・大規模災害時の“生々しい現場対応”
「うちは受け取ってくれませんでした」失敗事例に学ぶ
2020年のコロナ初期、ある自動車部品工場のエピソードから。
サプライヤー側は「不可抗力による納期延長」を文書で申請。
しかしバイヤー側は
- 安全在庫や追加調達が可能だったのに、なぜしなかったのか
- そもそも、不可抗力通知のタイミングが遅すぎる
と突き返し、最終的に“損害賠償請求”に発展――こんな事態も起こりえます。
「緊急時こそコミュニケーションの質が問われる」
業界現場では「不可抗力宣言=免責」で済ませることは極めて稀です。
特に日本のものづくり現場では、現場同士での緊密な情報共有や現実的な“応急手”工程に全力を尽くします。
例えば
- 定期/臨時の進捗ミーティングによる状況確認
- バイヤー工場側での一時代替生産の検討
- 物流ルートの再構築や人材の一時派遣
一見泥臭いですが「何とか最終製品納期を守る」「現場同士で助け合う」意識は、令和の今も昭和のDNAとして根強く残っています。
契約条項の整備と人間関係構築、その両輪が大切なのは今も変わりません。
デジタル化とともに再定義されるリスクマネジメント
最新動向:契約書のデジタル化・AIによるフェアな判断
近年は
- 電子契約サービス導入による履歴管理
- AIによる過去事例の自動類似判定
- サプライチェーン全体のリスクモニタリング
といった、デジタル技術の活用が進みつつあります。
但し、テクノロジーが高度になっても「どう解釈し・どう対話するか」のプロセスは人間中心。
“不可抗力”の範囲をSRM(サプライヤー・リレーションシップ・マネジメント)戦略全体で知恵に変えていくことが、不可逆的に求められています。
フォースマジュール条項運用で絶対に外せない心構え
1. 「条項は盾であり、矛でもある」現場感覚を忘れずに
単なる免責の言い訳や、責任回避の逃げ道とせず
- 本来の信頼関係と情報共有こそ最優先
- 災害・パンデミック下でも“現場が回る”BCP設計でリーダーシップ発揮
- 条項の文言とセットで「何をどこまでやる」という現実的な備えと説明責任意識
を各担当者・管理職まで浸透させることが大前提となります。
2. 業界の常識を塗り替えるチャンスにするために
昭和型の現場主義・慣例のみに頼らず、
- 契約書の透明性とフェアな運用
- デジタル化を通じた情報開示・コミュニケーションの高度化
- 自社・パートナー双方の取引価値最大化
をめざす。これが、現代製造業において世界と伍して生き残るための“新しい地平線”です。
まとめ:フォースマジュール条項は“誠意と知恵”で活きる
災害やパンデミックによる納期遅延リスクは、今後ますます頻発します。
フォースマジュール条項は、リスク回避の法的ツールであると同時に
「現場の知恵と情報共有」「信頼あるパートナー関係」の象徴でもあります。
法律やデジタル技術だけに頼らず、現場目線を尊重しながら、今までに無い新しい協業文化を育てていきましょう。
その取り組みこそが、製造業の真価をさらに高める礎となります。
納期リスクが高まる今だからこそ、「フォースマジュール条項」を企業文化、現場力、未来創造力に変え、日々チャレンジを続けていきましょう。
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