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組込みソフト開発現場における効率改善と高信頼化技術

目次
はじめに ― 組込みソフト開発現場の現状認識
組込みソフトウェアの開発現場は、製造業の中でも特に現場の工夫や経験が色濃く反映される分野です。
私自身、調達・購買、生産管理、品質管理、そして工場自動化のプロジェクトを長年担当しながら、組込みシステムの進化や直面する課題を目の当たりにしてきました。
昭和時代から続く現場主義の文化が根強く残る一方で、IoTやDX、AI技術の導入が避けて通れない時代となっています。
現場に即した実践的な改善と、世界標準に迫る「高信頼性」が、現代の組込み開発現場には強く求められています。
本記事では、長年の経験と現場・業界動向をもとに、組込みソフトウェア開発現場の効率改善と高信頼化技術について、実務的・具体的な視点から掘り下げていきます。
組込みソフト開発の現場に根付く課題とは
効率化が進まない現場の実態
多くの組込み開発現場でまず目にするのは、設計~実装、検証~量産までのプロセスが依然として「人に依存」している点です。
ベテラン技術者による属人的な管理・運用、手作業でのドキュメント類作成、コードレビューも紙ベースの指摘が繰り返される。
このようなアナログなやりとりが効率化の阻害要因となっています。
特に、昭和から続く日本のものづくり現場では、「良いものは現場で生まれる」「口伝こそ技術伝承」という文化が根深く、急な自動化や標準化に対する抵抗感が見られます。
高信頼化へのハードル
自動車や医療機器、産業機器など、高信頼性が必須の分野では、バグゼロ・ダウンタイムゼロが求められます。
しかし、現実にはスケジュール優先、要件や仕様変更の度重なる繰り返し、文書化が追いつかない属人管理などの問題が発生しがちです。
組込み開発の「現場あるある」としてよく聞くのが、以下のような状況です。
・動くが、なぜ動いているかの説明ができない
・設計者にしかわからない“裏仕様”が横行
・テスト工程に十分な工数が割けない
・過去トラブルの情報共有が不十分
高信頼化には、こうした現場起因の属人性・アナログ性を排除し、標準化・自動化・体系化へ転換することが必要不可欠です。
現場主義を活かしつつ効率改善を実現する方法
既存資産・現場知見のデジタル化とナレッジ化
効率改善・自動化を目指す際、最初に直面するのが「現場で長年積み上げてきたノウハウをどう活かすか」という問題です。
現場主義と効率化は対立するものではなく、“現場知見のデジタル化”によって新たな資産とすることが可能です。
たとえば、
・過去のバグレポート、トラブル伝票、品質課題報告をデータベース化
・設計ノウハウ、レビュー指摘事例を社内Wikiやナレッジベースに蓄積
・レガシーコードの解説を動画やテンプレートとして新人教育に応用
「誰でもすぐに調べられる・利用できる」状態を目指すことが、次世代の現場力向上につながります。
バーチャル設計/検証環境の導入
組込み開発の効率化を大きく左右するのが、「バーチャル設計・検証環境(仮想シミュレーション)」の活用です。
ハードウェアを準備しなくても動作確認やデバッグができる仮想環境を早期から採用することで、
・設計⇔テストの同時進行
・端末不足・機材待ちによる工数ロスの削減
・想定外のパターンも含めた網羅的なテストが可能
こうした圧倒的な効率化を実現できます。
また、クラウドやリモートアクセスと組み合わせることで、現場にいなくても共同開発・レビューが促進され、属人性を抑止できます。
DevOps・CI/CDの思想を組込み現場に応用
ソフトウェア業界で広がる DevOps や CI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー)の思想は、組込み開発現場でも有効です。
たとえば、
・コードコミット→自動ビルド→自動テストの仕組み作り
・静的解析・セキュリティチェックの自動化
・全工程ログの自動収集と進捗“見える化”ダッシュボード
既存現場でよく使われるExcelや手書きチェックリストから、ツールによる一元管理・自動記録へシフトすれば、品質と効率の両立が可能です。
高信頼性を実現する最新技術と実践手法
モデルベース開発(MBD)の積極導入
高信頼性を担保するうえで注目されているのが、モデルベース開発(MBD)です。
設計段階からシミュレーションモデルを作り、そのモデルをもとにコード自動生成や仕様検証を行うことで、
・設計/実装ミスの早期発見
・要件誤解・認識齟齬の減少
・設計変更の影響範囲把握
などのメリットがあります。
MBDツール(MATLAB/SimulinkやSCADEなど)の活用により、局所最適なローカルルールから、全社標準・自動化されたグローバル開発へ転換でき、組込み現場の実力底上げにつながります。
静的解析・動的解析ツールとルールエンジンの徹底活用
組込みソフトのバグ・脆弱性・メモリリークを未然に防ぐには、人手によるレビューだけに頼るのではなく、静的解析や動的解析ツールを活用した自動チェックが強力な武器となります。
MISRA CやCERT Cといったコーディング標準の自動判定、定型エラー・既知バグパターンの自動検出エンジンを開発プロセスに組み込む事で、
・ヒューマンエラーを防ぐ
・横展開、他部署への標準技術移管
・人的リソース不足への対応
といった課題を着実にクリアできます。
セキュア設計とライフサイクル管理の統合
IoTやコネクテッド機器の普及で、セキュリティリスクはかつてないほど高まっています。
従来の「機能・品質保証」だけでなく、設計初期からセキュア設計(セキュリティ・バイ・デザイン)を計画に組み込むこと。
また、リリース後も脆弱性管理やOTA(Over-the-Air)アップデート、障害時の原因分析~リカバリプロセスまでを含めた“ライフサイクル管理”が欠かせません。
こうした全工程管理は、工場の現場管理や品質管理の思想とも共通するものがあります。
製造現場の「トレーサビリティ」や「作業履歴管理」を、ソフトウェア開発現場にも積極的に導入することが、高信頼性の大前提です。
説得力のあるバイヤー・サプライヤー連携のコツ
見積もり評価と品質保証要件の突き合わせ
バイヤー(調達・購買担当)が組込みソフト開発を委託する場合、コスト中心でサプライヤーを選定してしまいがちですが、高信頼性製品では品質保証や保守・セキュリティ要件を明示的に要求し、見積もり内容と突き合わせることが必須です。
サプライヤー側も、単なる価格競争だけでなく、
・設計手順、レビュー体制、静的解析の実施有無
・トラブル時の対応フローとサポート体制
・過去開発実績や第三者認証(ISO26262, IEC61508など)
といった“定量的な信頼指標”を示し、バイヤーと同じ目線で説明できることが差別化になります。
現場の意見を吸い上げるコミュニケーション設計
プロジェクト現場で“想定外の仕様変更”や“緊急トラブル対応”が頻発するのは、典型的な現場・調達・サプライヤー間の「情報断絶」が背景です。
品質・納期・価格のバランスを現実的に調整するには、現場リーダー・品質担当・バイヤー・サプライヤーの四者による定例会議・情報共有、リスクの早期通報フローを構築することに尽きます。
口頭やメール通知で終わらせず、
・チケット管理/タスク管理ツールによる課題の一元管理
・議事録や仕様変更理由の履歴化
・“なぜなぜ分析”の共有によるトラブル再発防止
「アナログな現場感覚」と「デジタルな共有環境」の両立が、現代の開発現場には欠かせません。
まとめ ― 現場を活かす“開発力日本”への挑戦
組込みソフト開発の現場効率化と高信頼化は、単なるIT化やツール導入だけでは実現しません。
現場独自の知見とベテラン職人の感覚を、いかにして標準化・ナレッジ化・自動化するかが本質です。
現場主導の改善活動と最新技術の融合、高信頼性を支える工程管理と見える化。
長年“昭和型現場”で培った知恵をベースとしつつ、DX/IoT/セキュリティの新潮流を積極的に取り込む。
調達・購買、バイヤー、サプライヤーそれぞれが「対等な開発パートナー」として現場を見つめ直し、「新たなものづくり地平線」を切り開くこと。
それこそが、グローバル競争時代を勝ち抜く“開発力日本”の再生に欠かせないポイントだと考えています。
今後も現場の知恵・工夫を発信し、業界全体の底上げに寄与していきましょう。
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