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業務が効率化されても利益率が上がらない課題

目次
はじめに ― 製造業の現実と向き合う
製造業の現場では、近年「業務効率化」という言葉が喧伝されています。
RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)やIoT(モノのインターネット)、生産管理システムの導入により、業務プロセスの効率化に取り組む工場も増えています。
私も工場長として、現場改善やデジタル化推進に尽力してきました。
しかし、現場で汗を流す方々からは「効率化しても、なぜか利益率が上がらない」といった声が根強くあります。
本記事では、なぜ「効率化=利益率アップ」にならないのか、その背景と原因を現場視点で深掘りします。
そして同じ悩みを持つバイヤー志望者やサプライヤーの方、それぞれにヒントとなる実践ポイントまでご紹介します。
効率化すれば利益率が上がるという幻想
コスト削減と利益率改善はイコールではない
多くの工場や現場責任者が効率化にかける理由は「コスト削減」です。
例えば、生産ラインの自動化や書類業務のRPA化によって、人的工数を減らし残業代を抑える。
その結果、人件費が下がれば利益率も上がる……そんな期待を持つ経営層や管理職の方が非常に多いものです。
しかし実際には、単純なコスト削減だけでは利益率がなかなか改善しません。
生産コストが下がっても、売価を下げざるを得ない受注環境や、削減したコスト以上に値引きを求められる商慣行が根強いためです。
たとえ効率化で「コスト低減」を実現しても、その分納入価格へ反映させてくれと言われてしまい、結果として企業の利益率が上がっていない、という状況に陥りやすいのです。
「成果」をどこで測るか、未熟なKPI設定
また、業務効率化活動自体のKPI(重要業績評価指標)が曖昧な点も影響しています。
例えば、「作業時間を10%短縮」だけが目標になっており、肝心の売上や利益にどう寄与したのかまで検証されない。
現場では「やりきった感」は得られても会社全体としては成果につながっていない。
これは伝統的な製造業特有の、昭和から連綿と続く“目の前の仕事を早くこなす”ことが善とみなされている文化にも根ざしています。
なぜ効率化しても利益率が上がらないのか?
価格転嫁ができない現状
製造業の取引構造は長年“売り手”が弱い立場にあります。
下請け構造が色濃く残り、「業務効率化=単価値下げ圧力」に直結しやすいのが現実です。
バイヤー(調達担当者)は効率化で生まれた余力部分を値引き材料として捉えがちです。
現場は「努力した分がそのまま収益増に結びつかない」というジレンマを抱えています。
例えば、調達部門がコストダウン要求を突き付けてくる一方、現場からはリソース削減で疲弊が進む。
企業として本当に“利益を取りに行く交渉”や価格転嫁スキルが不足している実情が、利益率に反映されています。
限界費用発想の罠
アナログ業界では、「現場の無駄を省くこと」が善だとされてきました。
しかし効率化によって“空いたリソース”をそのまま“遊休資産”にしてしまうことで、結局間接コストが割高になり、単価原価の見直し圧力を受けます。
複数ラインをまたいで生産していたものが1ラインで可能となると、使わなくなった設備や人材を次の付加価値領域に回せなければ、利益は伸びません。
資源最適化を組織横断で進める必要があるのです。
短期目線・長期ビジョンの欠如
企業によっては「今年度の目標達成」が第一で、来年以降のビジネスモデル変革や新規事業開発がおざなりになっています。
結果、効率化して余力ができても、それを新しい稼ぎ方や高付加価値の創出に結びつけるという発想が弱い傾向です。
これでは「利益率向上」という本質的な目的に到達しません。
業界動向 ― 昭和型アナログ慣習の根強さ
紙文化・ハンコ・FAXの世界
まだまだ多くの製造業現場では、紙の伝票・ハンコ・FAXによるやり取りが日常です。
どれだけ生産現場を自動化しペーパーレスを掲げても、顧客や取引先がアナログであれば、成果が限定的になってしまいます。
自社の効率化が“業界の標準”になるには、実は「周囲を巻き込む力」も問われているのです。
親子関係に縛られるサプライチェーン
日本型サプライチェーンの特徴の一つに“系列意識”や“親子関係”があります。
効率化の恩恵を自社のみで享受しづらい、つまり“親会社の調達方針”や“主要先の経営環境”に左右されやすい文化です。
本来サプライチェーン全体を巻き込んだ改革こそが重要ですが、「ウチだけ効率化しても吸い取られるだけ」という保守的な受け止め方が根強いのです。
「現場力」が強いゆえの現状維持意識
製造業の誇る「現場力」は、本来日本の強みです。
しかし、それが逆に「やり方を変えるくらいなら今のままで…」という現状維持バイアスにもなります。
変革には痛みとコストが伴うため、現場主導だけでは利益率向上に直結しない、という壁があります。
新しい地平線 ― ラテラルな発想で利益率を上げる鍵
コスト削減から価値創造へシフトする
業務効率化は極めて重要ですが、それは“余力”を生む手段でしかありません。
そこから「コスト責任」だけでなく「価値創造責任」へ思考を転換しましょう。
例えば、効率化で捻出できた工数や人員を、新製品開発や既存顧客への提案営業、既成概念を超えた異業種連携など新たな稼ぎ口に活用することです。
現場発のイノベーションや、小ロット・高付加価値のプロトタイプ製造などにもチャレンジできます。
フロント(調達・バイヤー)と現場をつなぐ視点
調達バイヤーの方は、現場で生まれた効率化の成果がどこまで価格転嫁できているか、単なるコストダウン要求だけでなく、ともに「新しい利益モデル」を創出できる提案型パートナーシップへ進化する必要があります。
一方サプライヤーの方は、従来の「言われたことをやる」から脱し、「現場起点で起こした改善をビジネスにつなげる」総合力が求められます。
つまり、双方が「現場力+ビジネス創造力」を持ち寄ることで、楽しい製造業の未来が開けます。
ユニークなKPI・OKR設定
「忙しさ削減」や「コスト低減」だけに留まらず、「新規事業の種を何件生み出せたか」「提案から実際に採用されたアイデアの数」など、現場と経営がワクワクするKPI・OKR(目標と成果指標)も重要です。
利益率アップを後追いするだけでなく、「どんな未来の利益源をどれだけ育てているか」に注目しましょう。
全体最適を考えた資源再配置
効率化で空いた人員や設備は、放置せず「次の成長戦略」へ再配置します。
例えば、社内横断型の改善プロジェクトや、現場と営業、開発、調達の“壁”を超えたコラボレーション。
昭和型の縦割り意識を乗り越えることが、利益率アップの起点になります。
実践的なアクションプラン
サプライヤーができること
– 効率化で生まれた余力を、必ず新規受注・開発提案などに振り向けるルールを作る
– 単なるコストダウンで終わらず、バイヤーへの「価値向上提案」を怠らない
– 取引先と共に課題解決型プロジェクトを推進し、“ファン”をつくる
バイヤーができること
– サプライヤーの効率化努力や改善活動に対し、真正面から評価し対価を示す
– コストだけでなく、現場の知恵をパートナーシップで事業成長に活かす
– 全体最適やサスティナビリティ、共創で新たな利益を生み出す視点を持つ
まとめ ― 製造業DX時代の「効率化→利益率向上」の条件
「業務が効率化したのに利益率が上がらない」という現象は、昭和型の商慣行や、現場と経営層の意識ギャップ、取引構造まで複数の要因が絡んでいます。
大切なのは、効率化だけに満足せず「余力をビジネス成長にどう結びつけるか」まで発想を広げることです。
現場の知恵とバイヤー・サプライヤーが連携し、全体最適・長期目線を持てれば、きっと製造業は強くしなやかに進化できます。
利益率を地道に上げていくため、今こそ“ラテラルシンキング”で新しい地平線を一緒に切り拓きましょう。
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