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工程改善案が承認されず効率化が進まない問題

目次
はじめに:現場の「あるある」—工程改善案が通らない理由
製造業の現場で働いていると、「せっかく工程改善案を提出したのに、なかなか承認されない」「もっと効率化できるのに、なぜか進まない」という悩みは、誰しも一度は感じたことがあるのではないでしょうか。
これは古くから続く製造業ならではの“しきたり”や“常識”が障壁になっていることが多いです。
昭和時代から続くアナログな習慣や、現場熟練者の“勘と経験”への依存、部門間のサイロ化。どれも日本のものづくりを成り立たせてきた大切な文化である一方、変革の足かせにもなっています。
本記事では、20年以上の現場管理職経験と調達・生産管理・品質管理すべての業務を経験してきた筆者の立場から、工程改善案が承認されず、効率化が進まない“根本原因”を掘り下げます。
また、バイヤーを目指す方、サプライヤーとしてバイヤーの考える「現場課題」を知りたい方にも有益な、実践的なアドバイスと現場のリアルな視点を共有していきます。
日本の製造現場によくある工程改善案の“壁”
1.「前例踏襲」とリスク回避文化
日本の製造現場では「前にこうやっていたから今回もこうしよう」という発想が根強くあります。
過去の成功体験とリスク回避意識が組み合わさることで、新しいことへの挑戦に二の足を踏む傾向が強まります。
なぜなら、工程改善案が失敗した場合、その責任問題を恐れる組織体質だからです。
「変化によるリスク>現状維持のリスク」とみなされてしまい、せっかくの効率化提案も「ちょっと様子見しよう」「設備が壊れたタイミングで検討しよう」と先送りされてしまうのです。
2.評価制度・KPI の歪み
製造現場や本社スタッフの評価制度が、本質的な改善活動ではなく「日次の生産数」「クレーム件数」など短期的なKPIに偏っている場合も問題です。
この場合、工程改善で一時的に生産が落ちる、新しい手順の習熟期間が発生する、といった“移行期のリスク”を現場リーダーが取りたがらなくなります。
また、改善活動そのものが評価されず「とにかく今月のノルマ優先」になりがちです。
3.現場コミュニケーション不足と温度差
現場担当者・スタッフが自身で苦労して考え出した改善案も、上層部や他部門にはその“熱量”が伝わらないことが多々あります。
生産管理、品質管理、開発、調達など複数部門が絡む場合、共通ビジョンやゴール認識のすり合わせが不十分だと、調整に時間がかかり「まぁ今回は従来通りで…」となることが少なくありません。
<h3>4.「現場の本音」 VS「机上の理屈」
本社や管理側からの「もっと効率化できるはずだ」「AIや自動化ソリューション導入!」といった上意下達型の改善提案も、現場では「でもウチの現状だとまだ難しい」「昔えらい目に遭った…」と現実感を持たれづらいです。
現場で本当に必要なのは、「膝詰めでの対話」と「小さな成功体験の積み重ね」です。
なぜ工程改善は進まないのか:昭和から続くアナログ体質の影響
「職人技」への過信と“ブラックボックス化”
多くの製造業現場には、「あのおじさんしかできない特殊技術」「この設備は〇〇さん専用」といった属人化が色濃く残っています。
この“ノウハウのブラックボックス化”は、新しい工程設計や自動化の大敵です。
もしもベテランが退職すれば、技術継承すらできなくなる恐れがあります。
また、現場が「変わることで自分の仕事の価値が下がる」と無意識に思っていると、改善提案に消極的になるケースも多いのです。
「帳票」と「はんこ」の文化
今やDX(デジタルトランスフォーメーション)が叫ばれて久しいですが、現実の多くの現場では「紙の帳票」「手書きの記録」「はんこによる承認ルート」が根強く残っています。
小さな改善でも「帳票のフォーマットを変えるだけで部門調整に半年」「IT化の予算申請に2年」のように、スピード感をそがれる場面にしばしば遭遇します。
この書類主義・はんこ文化こそが、「現場からの俊敏なボトムアップ型イノベーション」を妨げています。
工程改善を組織で承認させるための戦略
1.周囲の“味方”を先につくる
改善案を承認させるには、「最初から決裁者を説得しにいく」よりも、
まず周囲の現場メンバーや、関係部門の“小さな味方”を作るのが鉄則です。
同じフロアや班のメンバー、設備保全部門、現場リーダークラスに実際に案を試してもらったり、「これ面白そうだね」「楽になるかも」と声をもらえるよう根回しをすること。
組織は「誰かの困りごとや課題」に対しては反対しづらいですが、「前例のない新提案」には強烈に保守的です。
だからこそ、直接的に効果を享受する層から「賛同者」を増やしておくことが大切です。
2.“小さな実験・成功事例”を積み重ねる
数百万~数千万単位の投資を伴う大規模な工程変更や自動化はいきなり実現困難です。
「この工程のこの部分だけ、試しに改善してみよう」「まずはこの班だけ、新しいやり方を導入してみたい」といった“小さな実験”や“パイロット運用”を重ねていきましょう。
その過程で「〇〇が〇〇日短縮できた」「不良率が〇割減った」といった、定量的な数字をしっかり記録します。その “結果報告資料”を、上司や決裁者の前で実データとして示すことが承認への近道です。
3.“上流工程・下流工程”の連携を意識する
調達購買、物流、生産管理、品質管理など、どうしてもサイロ化しやすい製造業現場では、「自工程だけ」良くなっても全体最適になりません。
改善案を出す際には、「この改善で、 upstream(上流工程)の負担がこれだけ減る」「下流工程(次工程)が楽になる」など、“会社全体にとっての利益”を具体的に数値やシミュレーションで示すことで説得力が増します。
また、バイヤーの立場であっても「サプライヤーの工程改善提案」でコストダウンや納期短縮がされる場合、共に現場を巻き込んで“Win-Win”のストーリーを描くことが重要です。
4.経営層/決裁者の“言葉”で翻訳する
技術屋、現場スタッフが思いつきや情熱で話しても、経営層や意思決定者は「会社の成長・持続性・リスク管理」といった言葉を求めています。
たとえば、『この工程改善で10人分の作業コストが年間800万円削減』『AI画像検査を導入すれば、技能伝承が不要となり、最短半年で新人でも検査が安定する』のように “数字”や“経営インパクト”へ言い直しましょう。
また「安全面」「品質保証」「働き方改革」「ESG(環境・社会・ガバナンス)」など、経営の課題・社外アピールポイントとしてつながる道筋も明確に添えておくと、通りやすくなります。
ラテラルシンキングで生まれる新たな工程改善
“他業界”や“異分野”から学ぶ思考法
昭和の常識に縛られすぎると、社内の過去事例の焼き直しや「他社もやっていないから無理」といった諦め思考になりがちです。
しかし、ラテラルシンキング(水平思考)を取り入れることで、“常識の外側”から課題を見つめ直すことができます。
たとえば、トヨタの「かんばん方式」も、スーパーマーケットの店頭在庫管理をお手本にしたものです。
飲食チェーンのオペレーションや、IT業界のアジャイル開発手法、医療現場のトレーサビリティ・リスク管理など、意外な分野のやり方をヒントに、工程改善の新しいアプローチを生み出すことができます。
AI・IoT時代の“仮説検証型改善”
データ取得や分析がより手軽になっている今、工程改善も「まずやってみて、リアルタイムで検証、軌道修正していく」サイクルが求められます。
IoTで取得した稼働データを可視化し、AI画像判定で不良検知を自動化する。これまで“勘”や“経験”に頼っていた部分をどんどんデータで見える化し、小さなトライ&エラーを繰り返せば、最初は70点でも十分な価値創出が可能です。
時代は「永久不変の正解」から「高速試行錯誤」に変わっています。成功体験や失敗事例を素早くシェアし、現場内外に水平展開することがこれからの製造業のキーとなります。
製造業で働く全ての人へ:現場から“変革”を生み出すために
“工程改善案が承認されず、効率化が進まない”という悩みは、誰もが抱える非常に普遍的な課題です。
ですが、その本質は“現場と経営層・他部門の間での情報非対称”、“旧来の文化・評価制度の壁”に起因しています。
小さくても現場の声に基づいた実験から着手し、他部門とコミュニケーションを密にし「経営の言葉」「現場の価値」を橋渡しできる工夫を続けてきた現場こそ、長期的に高く評価されます。
製造業の現場には、まだまだ「あなたにしか気づけない現場の改善の種」がたくさん眠っています。
ぜひ、この記事で紹介した視点を取り入れて、自身の現場や社内外の組織の中で“新たな地平線”を切り拓いてください。
また、バイヤー志望の方、サプライヤーの立場の方、それぞれが「お互いの立場と現場課題を尊重し合う」関係を築き、小さな改善の積み重ねから大きな変革を目指しましょう。
現場と未来をつなぐ“現実的なラテラルシンキング”が、日本の製造業再興の鍵となります。
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