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伝熱熱回路網解析で放熱設計を効率化する手法

目次
はじめに:現代製造業における放熱課題の重要性
現代の製品開発現場では、電子機器や制御装置の高性能・高密度化が進み、発熱問題がこれまで以上に製品品質や生産性、さらには安全性に直結する大きな課題となっています。
例えば、インバータやパワー半導体を搭載した産業機器、またはロボットのコントローラーなどの制御盤は、限られたスペースの中で、多様な素子が発熱源として共存しています。
昭和の現場では経験と勘、そして「とにかく大きなヒートシンクを付けておけ」といった慣例的アプローチが常態化していました。
しかし、時代は効率とスピード、デジタル化により最適設計が必須となっています。
今回は、現場目線から「伝熱熱回路網解析(Thermal Network Analysis)」を用いた、放熱設計の効率化・高度化手法について詳しく解説します。
バイヤーやサプライヤーも知るべき、製造業の放熱設計の本質的な思考と、実務レベルに落とし込むヒントが得られる内容です。
伝熱熱回路網解析とは何か?
熱設計において、伝熱熱回路網解析とは、電気回路のアナロジーを用いて、熱の流れ(熱伝導・対流・放射)を回路網上で“視覚化”し、計算可能にする手法です。
熱抵抗を抵抗素子、発熱源を電源に見立てることで、複雑な立体構造物や多層プリント基板のような熱経路も、計算式で定量的に捉えられます。
慣例的に「R-θ(サーマルレジスタンス)」モデルとも呼ばれ、ヒートシンク選定やFEM(有限要素法)によるシミュレーションの前段階で、手早く設計案の妥当性チェックや改良方向を定めるのに威力を発揮します。
なぜ今、熱回路網による解析が求められているのか
複雑化する現代の製造業では、以下のような背景から熱回路網解析の需要が急速に高まっています。
・省スペース化、高集積化による過酷な放熱条件
・カスタム対応品や多品種小ロット化による設計サイクル短縮
・サプライチェーン上流でのコストダウン・品質確保ニーズ
・デジタルトランスフォーメーション(DX)によるシミュレーションベース開発の本格化
これらの変化に即応するため、長年の経験や「暗黙知」だけでは通用しない、体系的かつ再現性のあるアプローチとして、熱回路網解析が強く求められています。
熱回路網解析による放熱設計の基本的な進め方
製品開発の現場で、実際に熱回路網解析をどのように進めれば良いのでしょうか。
ここでは、実務経験をもとに、バイヤー視点・サプライヤー視点も踏まえて具体的な手順を解説します。
1.発熱源・伝熱経路の正確なモデル化
まず初めに、機器内の主な発熱源(パワーIC、抵抗、リレー等)をリストアップします。
次に、それぞれから最終的に熱が逃げるまでの“経路”をできるだけ現物に忠実に分解し、材料ごと、接触部ごとに熱抵抗([K/W]や[℃/W])として抽象化します。
ここで重要なのは、安易に「部品全体から外気までひとまとめ」するのではなく、例えば
・IC素子 → ICパッケージ → 基板パターン → ケース → ヒートシンク → 周囲空気
といった個々の経路を、現場で実際に使用されている材料、接合材の仕様(実装用グリスの有無、かしめ圧等)を反映させてモデルを作成する点です。
2.定格発熱量や境界条件の設定
次に各発熱源の定格損失や、設計上許容される最大内外温度(環境温度も含む)を設定します。
ここでの温度設定ミスは、後工程や現場トラブルの引き金となり得るため、「現場ヒアリング」と組み合わせることで設計精度が大きく向上します。
サプライヤーがヒートシンクやファンを納入する場合も、実際の取付位置や通気条件、隣接部品との距離・熱干渉などの詳細条件まで踏み込んだデータ収集が“差別化”となります。
3.合成熱抵抗の計算とボトルネック抽出
設定した熱回路網モデル上で、各経路ごとに熱抵抗を直列・並列合成します。
たとえば熱源が複数の経路で外気へ逃げている場合、合成熱抵抗は並列回路として計算されます。
ここで、理論的にシンプルな公式(ΔT=Q×Rθ、ΔT=温度上昇、Q=発熱量、Rθ=合成熱抵抗)により、部品個別・全体の最大温度上昇を高速に算出できます。
この工程を通じて「最も熱抵抗が高く、温度上昇が深刻な部分(ボトルネック)」を抽出できます。
例えば、“ICと基板間の絶縁材がボトルネック”、“アルミ押し出しヒートシンクの根元で熱詰まり”など、設計案の弱点が一目瞭然となるのです。
4.改善策の立案・周辺設計へのフィードバック
抽出したボトルネック箇所に対し、材料のグレードアップ、接触面積の拡大、グリスの塗布などの具体的な手立てを検討します。
重要なのは「いきなりコストをかけてヒートシンクを大型化する」のではなく、回路網解析で影響度の高い因子を見極め、本当に必要な箇所だけを重点的にチューニングする点です。
結果として“最小限の投資で、最大の冷却効果”を狙った合理的な設計変更が、確実に現場力を高めます。
実務現場における熱回路網解析の活用事例と効果
ここでは、実際の製造現場で熱回路網解析を駆使したことによる、現場改善・コストダウンの成功例をいくつか紹介します。
事例1:産業用インバータのヒートシンク最適化
旧世代品では「絶対安全」を理由に大きめのヒートシンクを標準搭載。
試作段階で熱回路網解析を導入した結果、パワー素子直下の絶縁パットだけ材質を高熱伝導タイプに変えることで、ヒートシンク本体は従来比30%のサイズ削減が可能に。
材料費・加工費ともに大きな削減を実現し、“大きいことは良いことだ神話”の見直しに成功しました。
事例2:制御盤設計での現場トラブル未然防止
制御盤メーカーにおいて、現場温度環境の聞き取り→熱回路網で最大温度上昇量を事前評価。
回路網上で盤内の熱分布にムラが出ることが判明したため、実機配線の箇所を補強・レイアウト修正。
現場納入後の「装置起動後にリレーが想定温度以上に発熱し、故障」というクレームをゼロ化できた事例です。
事例3:EMS発注時のサプライヤー間比較での活用
バイヤー視点として、EMS(電子機器製造サービス)への発注時に各社の熱設計提案を熱回路網で“見える化”。
ヒートシンクやケース構造の差異を定量的に比較、調達段階で「価格だけでなく設計の強み」を技術的に検証。
結果として調達の質向上と、長期的な製品信頼性アップが両立しました。
昭和型アナログ設計からの脱却ポイント
日本の多くの製造業現場では、今もなお「設計はベテラン技術者の頭の中」や「とにかく従来通り」が根強いのが実情です。
熱設計も例外ではありません。
ここで伝熱熱回路網解析を導入し、プロセスを明確化・見える化することで以下のようなメリットがあります。
・担当者交替や属人化リスクが低減。“ナレッジの継承”に最適
・大手ユーザーやグローバル案件に対応できる設計プロセスの見える化
・サプライヤーと“技術的な会話”が可能となり、相見積もりでも優位に
また、現場でありがちな「過去の経験値で余裕を見すぎることでのコスト増」や「トラブル発生時の責任のなすり合い」も、明確な計算根拠により、建設的な議論・改善サイクルが回るようになります。
選ばれる・選ぶための放熱設計:バイヤー×サプライヤーの新しい関係
これからの製造業においては、調達現場・設計現場がともに「再現性と合理性」をもった設計カイゼンを追求することが重要です。
バイヤーとしては、熱回路網解析をベースとしたコスト合理化や品質確保の要求仕様を明確にサプライヤーへ提示できます。
一方、サプライヤー側も、「うちの部材・構造ならこのボトルネックが緩和できます」といった技術的提案型営業が可能となり、価格競争だけに陥らない付加価値志向が実現します。
今後の製造業発展のため、設計だけでなく調達・営業現場まで「伝熱熱回路網解析思考」を共通言語として取り入れることが、真の現場力向上と競争力強化に繋がります。
まとめ:製造業DX時代の新・放熱設計戦略へ
この記事では、伝熱熱回路網解析を活用した放熱設計効率化の手法、その導入効果、アナログ設計からの脱却ポイント、バイヤー・サプライヤー間の新しい提案型関係について、現場目線で深掘りしました。
“勘”や“慣れ”から一歩進み、熱設計を理論的プロセスへと進化させることは、単なる現場改善・コストダウンに留まらず、貴社製品の信頼性確保やグローバル競争力の源泉となります。
熱回路網解析という「誰もが取り組める現場起点のDX」から、製造業の新たな地平線を切り開いていきましょう。
最後までご覧いただきありがとうございました。
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