投稿日:2025年8月31日

歩留まり改善努力を正当に評価してもらえない問題

歩留まり改善努力を正当に評価してもらえない問題

なぜ歩留まり改善は評価されにくいのか?

歩留まりとは、製造工程において良品として出荷できる製品の割合を指します。
歩留まり改善は製造業にとって極めて重要なテーマですが、多くの現場で、その努力が正当に評価されていない現状があります。

歩留まり改善は、会社全体に利益をもたらします。
たとえば、不良品を減らすことで廃棄コストが抑えられ、再加工や追加の作業工数も削減できます。
材料やエネルギーの無駄もなくなり、サステナビリティ経営の観点でもメリットが大きいのです。
実際、歩留まりが数%向上するだけで、数億円規模の原価低減につながることも珍しくありません。

しかし、現場の改善担当者や生産技術者が歩留まり改善に尽力しても、その努力や成果は他部門や経営層には十分伝わらず、きちんとした評価や報奨に繋がらないケースが多いものです。
なぜ、このような理不尽が起こるのでしょうか。

歩留まり改善活動が抱える3つのハードル

1つ目の理由は、歩留まり改善は「当たり前」という認識が根強いことです。
昭和から続く製造業の現場では、「不良は出さないのが当たり前」とされ、意識改革や地道な改善が軽視される傾向にあります。
どんなに苦労して大幅な歩留まり向上を実現しても、「それが君たちの仕事だろう」という無理解な空気が蔓延している現場も少なくありません。

2つ目は、「悪化した時しか注目されない」問題です。
歩留まりが急激に悪化した場合には、重大クレームやトラブルとして大問題になりますが、「現状維持」や「じわじわ改善」にはスポットが当たりません。
そのため、日々コツコツと進めている小規模な改善活動や再発防止の努力が可視化されず、結果的に評価もされないのです。

3つ目は、評価指標や仕組みの曖昧さです。
現場の歩留まり改善は、業績評価制度や人事考課の項目として明確に設定されているケースが稀です。
部門間での連動もなく、購買・設計・生産・品質管理といった多岐に渡る部門が分業しているため、どの部門がどの貢献をしたかが分かりにくい構造となっています。

現場目線で読み解く:具体的な「歩留まり改善活動」とその苦労

実際の製造現場では、歩留まり改善に向けた地道な活動が積み重ねられています。
例えば、生産工程の一部に不良品が多発していた場合、不良内容の詳細分析(なぜなぜ分析、FMEAなど)や現場観察を通じて、原因特定作業が始まります。

設備の老朽化による微細な精度ズレ、半自動ラインでの作業員によるバラツキ、サプライヤーからの原材料ロット差……。
問題は多様で、直接の責任部門が特定しにくいこともあります。
実際には、生産管理と品質管理、現場作業員が一体となり、時に夜通し設備調整やテスト生産を重ねて原因の切り分けと改善策の検証を行います。

このプロセスにおいては、現場独自の工夫や「職人技」的なノウハウも必要です。
ベテラン作業員の細かな気配りや、作業手順の標準化、新たな治工具の製作、検査基準の見直しなど、現場レベルでの自発的な改善活動こそが、歩留まり改善の要です。

長期間にわたり、工程ごとのデータ取得・解析、実験計画法(DOE)を用いた工程パラメーター最適化、サンプル試作と検証分析……。
こうした地味だが高難度の取り組みは、目に見える成果が出るまで長い道のりを要し、評価のタイミングも分かりにくくなりがちです。

現場でのモチベーション低下が離職率増加・技術承継危機を招く

しばしば見落とされているのが、評価されない歩留まり改善活動が、現場スタッフのモチベーション低下や退職、技術承継の断絶につながるリスクです。

若手社員や中堅技術者は、日々の努力や工夫が給与や評価、キャリアに反映されないことに不満を募らせます。
「どうせやっても会社は見ていない」「出しゃばるだけ損」「トラブルが起きた時だけ責められる」といったマイナス思考に陥りやすくなります。
こうなると、現場に蓄積されてきた暗黙知や技術ノウハウが次世代に受け継がれず、企業全体の競争力低下に直結します。

また、日本の製造業がグローバル競争にさらされている昨今、D2CやIoT時代の競争優位を保つ上で、現場力の総合的な底上げは不可欠です。
目立たないが価値ある改善活動を、顕在化させて評価する仕組みづくりが急務なのです。

バイヤーやサプライヤーの視点:双方にとっての「歩留まり」の意味

ここで一度、バイヤーやサプライヤーの立場から歩留まり改善を考えてみましょう。
バイヤーにとって歩留まりの向上は、取引コスト削減や安定供給の確保、納期短縮など多くのメリットが生まれます。
また、仕入原価の低減やサステナブル調達のアピール材料にもなります。

一方、サプライヤー側は、不良率が減れば検査コストや返品リスクも減り、継続取引の信頼構築につながります。
バイヤーが現場の努力を正当に評価し、良好なパートナーシップを築くことで、ロングタームの技術革新や共同開発にも発展できます。

ところが、現実には「価格交渉一辺倒」「品質トラブル時だけの一方的なペナルティ」となり、歩留まり改善イニシアチブの価値が取引先に伝わっていない例が多いのです。
これは、日本型サプライチェーンの“昭和的な取引慣習”の名残ともいえるでしょう。

現状打破へのアプローチ:可視化と評価指標の確立

これまでの問題を解決するには、まず「歩留まり改善活動の可視化」が欠かせません。
具体的には、以下3つのアプローチが有効です。

1)定量的な成果データと業績KPIへの組み込み
不良低減活動の成果を、「廃棄コスト削減額」「工数削減時間」「クレーム件数の減少」など、定量データで算出します。
この指標を人事評価制度や部門KPIに明確に位置づけると、「評価されにくい」からの脱却が図れます。

2)改善活動のプロセス評価、チーム横断評価の導入
個人任せ、部署任せにせず、複数部署横断のチーム活動として推進し、その全活動記録とプロセス内容をレポーティングします。
例えば、品質管理・生産技術・購買の合同プロジェクトとして進捗管理することで、関係者全員の貢献を評価できる枠組みを作れます。

3)バイヤー・サプライヤーと連携した共有評価制度
取引先との定期ミーティングで、歩留まり改善の取り組み状況や成果をレポートし、相互評価を行う仕組み導入が有効です。
たとえばサプライヤー表彰や改善事例の共有会開催など、取引先も巻き込んだ価値共創の場を設けます。

デジタル化・自動化との融合で新たな地平を拓く

さらに、近年のIoT/デジタル化によって、歩留まり改善活動にも変革の波が押し寄せています。
AI外観検査、画像解析による不良予兆検出、センサーデータのリアルタイム監視など、現場の改善が“データドリブン”で推進しやすくなりました。

これにより、これまで見えなかった改善内容や成果が、具体的なデータとして即座に可視化・評価できます。
また、「ボトルネック箇所の自動分析」や「原因推定システム」といったDX活用で、熟練者の勘とノウハウを数値で再現・伝承する取り組みも進んでいます。

同時に、こうしたシステム投資や新たな改善活動が、従来の評価制度に組み込まれていない場合もあります。
つまり経営層が「見える化」した内容をきちんと吸い上げ、「見える化」された成果に対して明確に報酬や人事評価で報いることが必要なのです。

まとめ:現場の歩留まり改善努力こそ企業価値の源泉

歩留まり改善は、製造業の現場力そのものを象徴する活動であり、日々の地道な改善活動が企業の競争力と信頼を支えています。
しかし、日本の古い評価システムや業界慣行が邪魔をし、現場の真摯な努力が埋もれてしまう現状が根強く存在しています。

これからの時代、業種や部署、企業の枠を越え、歩留まり改善の努力と成果を“三方良し”の枠組みで正当に評価し合うことが、グローバル競争時代の製造業に求められます。
現場を支える全てのプレイヤーが、自分の貢献に自信と誇りを持ち合えるような評価文化と仕組みを、日本のものづくり全体で再構築していきましょう。

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