投稿日:2025年10月19日

靴下のゴム口が緩まない弾性糸テンションと縫製工程の制御

はじめに:靴下製造の品質を支える弾性糸テンション管理の重要性

靴下は一見単純な衣料品に思われがちですが、その製造現場では高度な技術と精密な工程管理が求められます。

特にゴム口部分は、一般消費者が靴下の品質をもっとも体感しやすい場所です。

履いているうちにゴム口が緩くなり、ずり落ちてしまう靴下は多くの人にとってストレスの元です。

この緩みを防ぐためには、弾性糸テンションや縫製工程の徹底した制御が鍵となります。

本記事では、現場目線で長年培ってきたノウハウを交えながら、弾性糸テンションの調整ポイントや、縫製の工程管理がもたらす品質向上について詳しく解説します。

また、昭和時代から抜け出せないアナログな慣習が根強い靴下業界の現状にも触れつつ、現場を変革するヒントまで掘り下げます。

靴下の「ゴム口」とは?消費者視点から掘り下げる機能と課題

1.弾性糸の役割

靴下のゴム口部分には、主にナイロンやポリエステル、ポリウレタンなどの弾性糸が使用されています。

この弾性糸が適切な力加減で編み込まれることで、靴下が足首にしっかりフィットし、簡単にはズレ落ちない履き心地を実現しています。

弾性糸の品質や本数、編みこみピッチ、そしてテンション(引っ張る力)の設定は、完成後の靴下の快適さと耐久性を大きく左右します。

2.ゴム口の緩みとクレーム

消費者の立場から見ると、ゴム口が緩い靴下ほど不満が出やすい商品はありません。

買ったばかりのときは満足していても、数回洗濯しただけでフィット感が失われると、リピート購入にはつながりません。

この現象の多くは、弾性糸テンション・素材選定・縫製精度の3本柱が影響しています。

昭和から抜け出せない現場の定番トラブルと背景

1.“目分量”テンション管理の弊害

靴下製造の現場では、いまだに昭和時代の生産体制が色濃く残る部分があります。

テンション管理についても、「熟練工の目分量」「手触り」など、属人的な暗黙知に依存したままになっているケースが珍しくありません。

たとえば、「うちでは先輩の言う通りのテンションでやれば大丈夫」という雰囲気がまかり通り、具体的な数値管理や工程分析がなされていない―。

その結果、“作業員によって出来上がりがバラバラ”という品質のばらつきが温存されてきました。

2.「使いまわし部品」のリスク

一部の中小アパレルOEM工場では、コスト圧縮や段取り短縮のため、テンション調整用のパーツを流用することもあります。

しかし、部品の摩耗や変形によってテンションが狂えば、ゴム口の強度や均一性が失われます。

結果的に、製品不良やクレームの増加へとつながります。

弾性糸テンションの数値化と標準化への道

1.テンションを「見える化」する施策

テンション管理の最初の一歩は“数値化”です。

多くの現場では、専用テンションメーターを使い、弾性糸を編み機に通す時点で「何グラムの力で引っ張るか」を定量的にチェックすることから始めます。

この測定データを日々記録し、品番ごとに標準値を設定することで、再現性と品質の安定が格段に向上します。

また、異常値が出たときの対応履歴も重要な資産となります。

2.テンション異常が完成靴下に与える影響

テンションが高すぎる場合、ゴム口が必要以上にきつくなり、消費者にとっては「履きにくい」あるいは「跡がついてしまう」といったストレスになります。

逆に、テンションが低すぎる場合、ゴム口が簡単に伸びてしまい、数回の着用や洗濯で本来の機能を失います。

これらの“バランス”を常に意識した管理が重要なのです。

3.自動化とIoT化による更なる精度向上

機械化が進む現代では、テンション管理も自動化・IoT化が進んでいます。

各編み機にテンションセンサーを設置し、リアルタイムでデータをモニタリング、異常値を検知するとアラームで作業員に通知するといった仕組みです。

生産管理システムと連携すれば、ロット間の品質ばらつきや機械ごとのクセも「見える化」しやすくなり、現場の不良撲滅に直結します。

縫製工程での「見えないリスク」撲滅術

1.縫製段階でのテンション維持テクニック

弾性糸テンションがいくら正しく調整されていても、後工程の縫製作業でゴム口に負荷を与えると、一気にテンションが緩む場合があります。

現場では、「仮止め位置」「供給速度」「押さえ具の強さ」といった縫製機のセッティングや、作業者の扱い方を徹底的に標準化しています。

特に自動縫製ラインでは、工程データのログを記録し、問題ロット発生時に即座に追跡できるよう工夫しています。

2.検査工程の“壁”の克服方法

どれだけ最先端の生産ラインを導入しても、最後は人の目や手で検査を行う工程が残ります。

その際、あいまいな基準や個人的な感覚に任せてしまうと品質にムラが出てしまいます。

対策としては、ゴム口の引張り強度や耐久性試験をサンプルごと定期実施し、合格・不合格の基準をデータで明確に定める必要があります。

さらに、検査員の教育や定期評価制度を実施することで、品質の一貫性を保ちやすくなります。

調達購買・サプライヤー管理の現場で重視すべき観点

1.バイヤー視点:サプライヤーへの要求事項明確化

調達・購買担当が素材や部材を選定する際にも、テンションや耐久性に直結する品質スペックをしっかり明文化することが極めて重要です。

たとえば、

  • 「弾性糸は〇〇デニール、耐熱処理〇〇℃」
  • 「標準引張強度〇〇g/cm 以上」

といった形で、製品ロスやクレーム発生時に「ここが原因だ」と特定しやすい項目を規格書に盛り込むことが発注側の責任です。

2.サプライヤー側の視点:現場ヒアリングとフィードバック

サプライヤーとしては、バイヤーから示された要求仕様を一字一句正確に守ることはもちろん、実際の生産現場の声を積極的に吸い上げて反映する姿勢が評価されます。

たとえば、「うちの環境ではこの糸は冬場だとテンションが不安定になる」「組み合わせる生地によって伸縮性が変化する」といった情報を随時フィードバックし、協業の中で仕様をブラッシュアップしていけるかどうかが、最終的に“品質が高く、長く使える靴下づくり”の秘訣です。

現場改革のためのマインドセットと次世代へのアクション

1.“暗黙知→形式知”の徹底

「昔からこうしているから…」では、今後のグローバル競争の波には飲み込まれます。

現場のノウハウを数値と記録で“形式知化”し、技術伝承を容易にする仕組みを整えるべきです。

テンション管理一つをとっても、作業手順書、トラブル時の対応フロー、検査記録など、すべて日常業務の中で“データ化”する意識が重要です。

2.他業界の技術導入で次世代をリード

靴下の縫製技術も、医療用ゴムや自動車部材製造など異業種から学べる部分は多くあります。

たとえば、医療機器分野で使われる正確なテンション制御技術や材料の耐久テスト法を取り入れることで、従来とは一線を画す高品質な靴下が生み出せます。

ラテラルシンキングで異分野のヒントを現場に積極導入する姿勢が、現代の工場長に求められます。

まとめ:靴下ゴム口の「緩まない」品質は攻めの現場改革から生まれる

靴下のゴム口が緩まない品質は、弾性糸テンションの科学的管理と、縫製工程の徹底標準化という2つの要素を両輪として成り立っています。

また、その裏には昭和の現場に残るアナログ慣習からの脱却や、調達・購買~サプライヤー現場との密接な連携が不可欠です。

バイヤーを目指す方、サプライヤーとして現場改善を志す方も、本記事をヒントにして、常に「なぜ?」を問い質し続ける現場改革の担い手となってください。

靴下製造という身近な分野から、日本のものづくり全体の底上げにつなげていきたい——そんな思いを込めて、実践的な知見と現場目線の「攻めの品質管理改革」を今、共に進めていきましょう。

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