投稿日:2025年6月30日

災害対応強化に向けた電気設備のメンテナンス業務連携法

はじめに:災害時に強い工場とは何か

近年、地球規模での気候変動や異常気象、さらには地震などの自然災害が頻発するなか、製造現場・工場に求められる「災害強靭性」はかつてないほど高まっています。
特に、電気設備が集約し高度化した工場では、停電や雷、浸水などによる被害が生産停止や納期遅延、品質トラブルにつながるリスクを孕んでいます。
その一方、日本の製造業界、特に昭和時代からの慣習が根強く残る現場では、電気設備のメンテナンスが場当たり的、もしくは外部に「丸投げ」となりがちです。
このような現場実態を踏まえつつ、災害対応力を高めるための電気設備メンテナンスの業務連携のあり方を、実践的な観点で解説します。

現場目線で見る電気設備のリスクと課題

1. 昭和的な「点検名ばかり」の習慣

実際の現場では、月次の点検日や法定点検はカレンダー通りに実施されているものの、「とりあえずやった」という記録作業に終始しているケースが珍しくありません。
特に、点検結果が「異常なし」一本槍となっている場合、それは現場の機能維持ではなく、単なる形式的な作業となっています。

2. 保守現場と生産現場の壁

保全部門やメンテナンスチームと、実際の生産現場で設備を操作するライン担当者や管理者との間で、情報が遮断されがちです。
「電気はよく分からないから、保全任せ」
「生産ライン最優先だから、止めたくない」
こんな声がまだまだ多いのが製造業の現場の実態です。

3. 内製と外注の狭間での責任の所在

緊急時やトラブル発生時、外部の電気工事業者や専門メーカーへ対応を依頼するものの、その「橋渡し」や「現場情報の共有」が甘いまま派遣を待つ状況があります。
修理や復旧が終わらず納期遅延や商機を逃すリスクを高める要因です。

災害対応力を強化するための業務連携の進め方

1. 部門横断の協働体制を構築する

まず不可欠なのは、電気設備メンテナンスに関わるすべての部門(生産・保全・品質・購買・総務・工事業者など)が平時から「災害対応」をテーマに話し合える場を設けることです。

たとえば、
・点検時に設備老朽化や不具合傾向があればすぐフィードバックする
・現場オペレーターからの「違和感」や「不安点」をルーチン報告として吸い上げる
・緊急時の意思決定ルールや連絡網を定期的にメンテナンスする
など、部門間の「サイロ化」を解消する小さな仕組みづくりが重要です。

2. デジタル技術を活用した情報共有

いまだアナログ管理が残る現場でも、タブレットやクラウドサービスを活用し、点検履歴や不具合情報を「いつ・どこで・誰が」閲覧できる環境を整えることで対応力が格段に向上します。
また、IoTセンサーによる電圧や温度の見える化で、変化の兆候を早期に捉える仕組みを普段から整備しておきます。

3. バイヤー・購買部門との連携強化

災害時は、必要な電材・部品の調達が一気に難しくなります。
普段からバイヤー部門は、危機対応品の候補リストを作成し、複数サプライヤーとの連携体制や「優先調達枠」を確保しておくべきです。
またサプライヤー側も、バイヤーが何を重視して調達先を選ぶのか、平時から情報共有を進め連携の強化を図ることが、信頼関係構築のポイントです。

具体事例:工場現場の取り組み例

1. 全員参加型の災害メンテナンス訓練

ある中堅自動車部品メーカーでは、年1回必ず、全工場従業員(臨時含む)が参加する「災害想定メンテナンス訓練」を実施しています。停電中の非常点検、手動生産切替え、応急処置のプロセスを疑似体験し、部門横断のコミュニケーションを体験します。
この訓練の効果で、「何かあったとき、誰にどう頼れば良いか」が工場全体にすばやく共有されるようになり、実際に台風被害が発生した際も復旧が迅速に進みました。

2. 外注業者との連絡体制の見直し

半導体部品メーカーのある現場では、外部電気工事業者と年2回の「情報共有ミーティング」を制度化しました。現場の劣化部位や設備投資計画、不足部材のストック状況などをすり合わせておくことで、非常時にも円滑な対応が可能となっています。

3. サプライヤー巻き込みによる在庫BCP

あるバイヤー担当者は、主要サプライヤーに対し「大規模災害時の納品体制シミュレーション」を依頼し、自社と納品先の間で「持ち寄り在庫」「緊急代替部品リスト」を準備しました。
結果、震災時も主要設備の復旧が優先調達部品で速やかに行え、顧客対応でも信頼を獲得しました。

今後求められる業界動向:アナログからの脱却と共創へ

1. デジタル技術の利活用が必須

電気設備の点検報告やBCP計画をアナログ帳票管理からデジタルへ移行することは、今後ますます重要です。
IoTによる異常予兆検知や、AI活用の機器診断も積極導入が求められます。

2. 「連携」がキーファクターに

ひとつの部署・ひとつの会社・ひとつのサプライヤーだけで災害に備える時代は終わりました。
生産・保全・バイヤー・サプライヤーが「共創」する意識で日々の備えを行うことこそが、現実的な災害対応力に直結します。

まとめ:災害に強い現場は、“日常”の積み重ねから

電気設備のメンテナンスや災害対応は、特別な場面だけの仕事ではありません。
現場での小さな変化を見逃さず、部門を超えて情報を共有し、バイヤーや外部サプライヤーともオープンな協力体制を構築する。
これが、災害対応力を本質的に高める近道です。
昭和の「点検=安心」から脱却し、現場起点のラテラルシンキングで新たな価値を創造しましょう。
今日からできるひと手間が、将来の大きな安心・安全となって現場を支えます。

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