投稿日:2025年10月9日

電着塗装の通電不良を防ぐ電極設計と洗浄工程の重要性

はじめに:電着塗装で発生する通電不良の課題とは

自動車や家電、建設機械などの多くの製品に活用されている電着塗装は、腐食防止や美観向上のために欠かせない表面処理技術です。
しかし、現場では電着塗装における「通電不良」が一大トラブルとして繰り返し現れます。
この問題は、塗装のムラや剥離といった品質低下の要因になるばかりか、再作業や納期遅延といったコスト上昇も招きます。

製品の大型化・複雑化に伴い、電着塗装プロセスも高度化していますが、一方で昭和時代から変わらぬ旧来のアナログ作業も現場には根強く残っています。
「なぜ通電不良は発生するのか」「どんな対策が可能か」――。
20年以上の現場経験を持つ筆者が、電着塗装の電極設計や洗浄工程の最適化について、バイヤー・サプライヤー双方の視点から深掘りします。

電着塗装の原理:通電が成否を左右する

電着塗装の基本プロセス

電着塗装は、塗装対象物(ワーク)を電極として電解槽に浸し、直流電流を流すことで塗料粒子を均一に定着させます。
ワークと対極の電極(一般にはアノード、またはカソード)間に電位差をかけて塗膜を生成します。
ここで電流が流れなければ、塗料は定着しません。
そのため「確実な通電」が絶対条件となります。

現場で多発する通電不良の実例

電着塗装における通電不良は大きく分けて以下のような形で現れます。

– 塗装ムラ・未塗装部分の発生
– 塗膜厚のばらつき
– 塗膜剥離やピンホール

いずれも最終製品の外観不良、耐食性低下など致命的な問題につながり、重大な品質クレームの原因となります。

通電不良の主な原因

1. 電極設計の不備

最も根本的な原因は、電極設計が適切でないことです。
ワーク形状やサイズ、投入の仕方に応じて電極の配置を最適化しなければ、局所的に電気抵抗が発生し“死角”となるエリアが発生します。
さらに、現場での配線や接点の磨耗・腐食、電極バーの汚染も通電不良の大きな要因です。

2. 前処理工程、特に洗浄の不十分さ

溶接スパッタ、古い塗膜や油脂、防錆処理の残渣がワーク表面や接点に残っていると、絶縁層となり電流の流れをブロックします。
特に複雑なシャーシや筐体では、洗浄液や水の当たりにくい“溜まり”が残留しやすく、ここから重大な不良を誘発します。

3. 治具・ハンギングの技術的課題

ワークを引っ掛けるための治具(ハンガーやクランプ)の設計が甘い場合、安定した電気接触が得られず通電不良が発生します。
現場では「昔ながらのハンガーを流用」や「傷防止のために接点面積を極度に小さく」しすぎることでトラブルを生みがちです。

電極設計の最適化とは何か

通電経路の「見える化」と設計ポイント

適切な電極設計を行うためには、ワーク全体に均一な電流が流れるよう「通電経路」を可視化することが重要です。
そのためには次のポイントが欠かせません。

– ワークの支持点(接触点)を複数確保して冗長化する
– 接点間の距離を最小化し、必要以上に“電気が遠回り”しないよう設計する
– 電極バーやクランプの材質(耐腐食性・導電性)を適切に選定し、定期的な清掃・更新を徹底する
– ハンガー治具の形状を、ワーク形状・重量・加工工程にあわせて最適化する

工場現場では「治具の流用」や「経費節減による更新先送り」が多々見られます。
しかし、目先のコストダウンが結果として大きな品質ロスに直結してしまうという、製造業特有の“落とし穴”がひそんでいます。

治具設計は標準化だけでは勝てない

昭和のアナログ現場では、職人の経験則に基づいて“なんとなく”治具設計されているケースも多々あります。
近年では、3D CADやシミュレーション技術で電流分布の最適化が進んでいますが、実際のラインに投下してみて初めて分かる「隠れた盲点」も存在します。

現場目線では「標準化と個別最適のバランス」「トライ&エラーで磨き上げる粘り強さ」が極めて重要です。

洗浄工程の重要性:アナログ現場の“盲点”を暴く

洗浄が不十分だとどうなるか

前処理洗浄は、ワーク表面を完全に活性化し、電着塗装が確実に密着・通電されるためのファーストステップです。
しかし現場では「納期優先」「予算削減」の掛け声の元、洗浄槽の液管理やスプレー圧の維持が疎かになることも珍しくありません。

– 脱脂が不十分だと皮膜付着不良やスポット未塗装の発生
– 金属イオンや塩分残留で部分的な絶縁状態発生
– 洗浄槽・ライン部材の“劣化”で均一洗浄が困難になる

こういった「見えにくいミス」が、最終の通電不良・塗装ムラに直結します。

洗浄工程の「見える化」とデジタル活用

アナログ時代の洗浄工程では「目視」と「職人の勘頼み」が一般的でした。
しかし、最新の製造現場では以下のようなデジタルツールが活用されています。

– 洗浄液の濃度や温度、pHをIoT管理し、異常アラームを自動で通知
– ワークごとに固有QRコードを付与し、洗浄履歴や前処理条件を管理
– 定期的なワーク断面観察(X線・顕微鏡)による皮膜評価

こうした「プロセス条件のデータ化・数値管理」への転換こそ、令和の“勝てる製造現場”の突破口です。

現場改善のラテラルシンキング:異業種の知恵も活用する

自動車業界の電着塗装革新事例

例えば自動車業界では、従来型の電極一体治具から「マルチ点接点治具」への切り替えや、「動的ハンギング(自動クランプ式)」の導入で大幅な歩留まり改善が実現しました。

異常検知もAI画像解析を活用し、塗装欠陥を早期抽出→即判断→再投入を自動化できるようになりました。
この徹底的な“面の管理”は他業種にも波及しつつあります。

サプライヤー視点の「提案型商談」時代へ

調達バイヤーの立場では「コスト」「納期」「安定した品質」が最重視されますが、今やサプライヤーからの“生産プロセス改善・歩留まり向上”提案は大きな武器となります。

例えば、「歩留まり向上=コスト低減」だけでなく、「環境経営(省エネ、廃棄物削減)」と結びつけた改善案は、SDGsやコーポレートガバナンス対応でも極めて評価が高いのです。

「バイヤーが何を考え、サプライヤーに何を期待しているのか」――その本音を知ることが、今後のピカイチなパートナー関係構築に不可欠です。

まとめ:昭和から令和へ、通電不良ゼロを目指す現場変革

電着塗装の通電不良は、電極設計・治具設計、そして洗浄工程のどこか一つでも手抜き・油断があると、たちまち発生する致命的な品質課題です。
昭和時代からの現場知恵と、令和のデジタル技術、異業種の先端ノウハウ――すべてをラテラル(水平思考)にクロスオーバーさせ、「見える化・数値化・標準化・提案型」の現場改革が求められています。

– 電極設計では通電経路の最適化と継続的な現場観察を怠らない
– 洗浄工程では不可視なリスク要因をデータで“見える化”する
– バイヤー/サプライヤー間で知見を共有し、真の共創現場を実現する

これからの製造業を担う皆さんには、知恵と経験、デジタルの力を最大限に活用し、通電不良ゼロの高品質生産ラインをともに築いていただきたいと願っています。

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