投稿日:2025年10月17日

スマートフォンの背面塗装が剥がれない静電塗布と硬化温度設定

はじめに

スマートフォンの背面塗装は、製品のデザイン性や高級感を演出するだけでなく、端末の耐久性やブランドイメージにも大きく関わります。

しかし塗装面の剥がれやキズ、ムラは今でも業界共通の大きな課題であり、特に市場からは「長く美しいまま使いたい」というユーザー目線の要求が高まっています。

本記事では、静電塗布技術と適切な硬化温度設定による「塗装剥離ゼロ」を目指す実践的なノウハウを、昭和流から抜け出せない現場、今まさに進化を遂げつつある製造業の視点で掘り下げます。

調達購買・生産管理・バイヤー・サプライヤー…すべての製造業関係者に、現場技術と最新トレンドを分かりやすくお伝えします。

スマートフォン背面 塗装の進化と課題

なぜスマホの塗装は剥がれるのか

スマートフォンの背面素材としてよく使われるのは、アルミニウムやガラス、ポリカーボネートなどです。

素材そのもののデザイン性や強度は日進月歩で進化しているものの、「塗装剥離」という現象は、いまだに工場現場では頭痛の種の一つとなっています。

剥がれの主な要因には、下記があげられます。

・素材処理工程の不徹底(脱脂・洗浄の不足、エッチングムラ)
・塗料の選定ミスや混合不良
・静電塗布の不安定さ(電圧・距離・湿度管理不足)
・塗布後の硬化(焼付け)温度や時間の誤り
・搬送中の外力(打痕やキズ)や異物混入

これらはすべて、いわゆる“昭和型”管理(職人感覚の勘や経験頼り)で運用されることも多く、属人的で再現性に乏しい工程管理に原因があるといってよいでしょう。

トレンドは「美しさ」と「耐久性」

昨今では、背面デザインのバリエーションが増加し、ツヤ消し・光沢・グラデーション・特殊コートなどの差別化が進んでいます。

美しい仕上げを安定的に量産するためには、塗布均一性と十分な密着がキーファクターとなります。

ここで重要になるのが最新の静電塗布技術と、それを最大限に生かすための硬化温度設定です。

静電塗布とは?効果とトラブル回避のポイント

原理とメリット

静電塗布は、塗料粒子に高電圧をかけて背面パネルに静電気力で吸着させる塗装方法です。

この仕組みによって、塗着効率が大きく向上し、塗料の無駄が減少。
複雑な曲面や微細な凹凸があっても塗膜の均一性を保つのが大きなメリットです。

また、オーバースプレー(余分な飛散)が減ることで周囲や他部品への悪影響も抑えられます。

一方で、静電塗布は繊細な制御が要求されるため、季節・気温・湿度など“現場の空気”にも大きく左右されます。
特に、工場の空調・除湿を怠ると途端に不安定になり、「帯電しない」「密着しない」「ツノやムラになる」など、新たな不良要因が発生します。

静電塗布で発生しやすいトラブル

・エアブロー不十分による表面異物混入
・ライン設定(電圧・電流・噴射距離・角度)の誤り
・ガン詰まりによる塗布ムラ
・塗膜厚の不均一(薄すぎ=剥がれやすい、厚すぎ=クラックが出やすい)
・相対湿度60%以上・40%未満での制御不良

どれも熟練作業員の経験だけに頼らず、工程条件をデジタル計測・自動化で標準化することが解決の近道となります。

塗膜強度を左右する「焼付け温度」の最適化

硬化工程の重要性

塗装はただ吹き付けるだけでは不十分です。

静電塗布で均一に塗着した後、所定の温度・時間で焼付けて塗膜を化学反応させる“硬化工程”こそが、剥がれにくさ・耐久性・美観すべてを決めるポイントです。

焼付け温度が低すぎると、硬化不十分で簡単に剥がれる塗膜になりがちです。

逆に温度が高すぎる、または焼付け時間が長すぎると、変色・黄変・ヒビ割れ(クラック)が発生しやすくなります。

この最適なバランスを工場ごと、機種ごと、さらにはロットごとに安定させる管理が、今まさに要求されています。

温度管理の工場実践ノウハウ

・塗料メーカー提供の規定温度(例:150℃×20分)を基準に、工場実情で検証
・流動層炉や熱風循環炉・赤外線加熱等、装置特性にあわせ「実温度」をK熱電対や非接触温度計で計測
・加熱中のワーク温度立ち上がりカーブ(温度プロファイル)をロガー記録し、“芯”まで確実に到達しているか検証
・複数点(中央・端・上面・下面)で焼付けムラを検証
・時間短縮・省エネ要求との最適バランスを現場で繰返し試験

昭和型の「焼け具合を目で見る」「時間でアタリをつける」では、再現性は確保できません。
多変量条件をロジカルに管理し「温度・湿度・焼付け時間・搬送速度すべて数値化→標準化→トレーサビリティ管理」することが求められます。

剥がれない塗装を実現する工場の工夫~現場からの提案~

アナログ現場の“気合”にデジタルの“知恵”を加える

現場の職人意識も大切ですが、デジタル測定機器の導入・IoTの活用で工程品質を見える化することが、今後さらに要求されます。

たとえば、

・塗布装置やコンベアラインに温湿度センサー導入。自動で記録・警報発信
・塗料粘度を自動測定・自動調整する仕組みの導入
・焼付け炉の温度プロファイル自動収集と蓄積。傾向管理の実践
・現場アラームやタブレットでリアルタイム異常を“誰でも”把握できる仕組みづくり

こうした“デジアナ融合”の取り組みが、長く安定した品質を守るカギです。

バイヤー・サプライヤーの関係でも「工程見える化」を

製造委託や外部協力工場に塗装を依頼する際、バイヤーとしては、サプライヤーの工程標準や品質測定結果をしっかり確認し、「言った言わない」「品質トラブルの押し付け合い」を防ぐ文化づくりが求められます。

最近では、納品後の「剥離率保証」や「焼付け温度グラフのロット添付」など、エビデンス管理も進みつつあります。

この流れはサプライヤー側にも大きな武器となります。
アナログ現場も少しずつ、“根拠を持った説明力”が商談力・受注力そのものに直結しているのです。

まとめ:現場×理論×ITで「剥がれない」未来へ

スマートフォンの背面塗装における「静電塗布」と「最適な硬化温度設定」は、美しさ・耐久性・効率のトライアングルを実現する要諦です。

昭和流の職人気質・アナログ管理に、IoTやデジタルセンサー、工程の数値標準化を加えた“デジアナ現場力”がこれからの成長産業には不可欠となります。

調達購買・生産管理・品質保証のすべての立場で「現場の工程設計に深く関わり、一貫した品質保証ルールを構築」することが、サプライチェーン競争力につながります。

最終的には、「高品質で剥がれない塗装」を支える現場技能者と、工程を標準化・見える化できるデータ力、その双方の融合こそが製造現場の新しい時代を切り拓くものといえるでしょう。

今日からできる改善として、まずは工程ごとの数値見える化・履歴管理・異常の即時共有から着手してみてはいかがでしょうか。

持続的な高品質製造は、一歩一歩の現場改善と“理論×現場叡智”の融合から始まります。

You cannot copy content of this page