投稿日:2025年8月26日

CADデータ精度と公差の整合でCMM測定の手戻りを無くす

はじめに:CMM測定の手戻りはなぜ発生するのか

CMM(Coordinate Measuring Machine、三次元測定機)は、現代製造業の精度保証において欠かせないツールとなりました。
しかし、CMM測定の現場ではしばしば手戻りが発生し、生産効率や納期に大きな影響を及ぼしています。
この手戻りの多くは、CADデータの精度や設計側で定義された公差との整合が取れていないことが主な原因です。

この記事では、長年製造現場で培ってきた知見をもとに、CADデータ精度と公差の整合性がなぜ重要か、どのようにそれを担保しCMM測定の手戻りを無くすかを、現場目線で深掘りしていきます。

CADデータの精度がCMM測定を左右する理由

CADは図面作成や設計の効率化を目的として導入され、多くの企業で“ものづくりの原点”となっています。
設計者が意図する形状や寸法・公差が、いかに正確にモデルデータへ反映されているかは、製造工程全体に直結します。

デジタル→リアル:誤差の伝播問題

CADデータで設計した部品モデルは、加工データ(CAM)、そして最終的にCMM測定で照合されます。
この流れの中で、わずかなモデル精度のズレも大きな問題へと拡大する傾向があります。

例えば、設計段階で小数点以下4桁まで寸法を設定していたとしても、実際のCADデータが内部的に2桁までしか保有していなければ、微妙なズレや誤差が生じます。
そのズレが、製造現場や品質管理で「公差違反」と判断される原因となってしまいます。

現場でありがちなCAD精度の落とし穴

昔ながらのアナログ図面からCADへの置き換えを進めた企業では、図面データの精度設定や管理フローが曖昧な場合があります。
結果として、設計意図と異なる3Dモデル・2D図面が現場に下ろされ、「こんなつもりじゃなかった」となることも少なくありません。

このようなトラブルは、いまだ現場の“昭和的体質”が残る企業で特に生じやすく、サプライヤーやバイヤー双方の信頼性リスクとなっています。

公差管理の本質:設計~検査現場間での共通言語とは

上流工程である設計では、「ここだけは厳格に守りたい」というクリティカルな寸法が必ず存在します。
しかし、その重要寸法や公差が現場側に正確に伝わっていないケースが多発しています。

定量的な公差指定の重要性

例えば「ギリギリ入ってもOK」という曖昧な指示や、逆に「±0.1mm」など極端に厳しい公差を設定してしまう例が後を絶ちません。
現実には、組付け後や工程間で影響の少ない部分はラフな公差で十分な場合も多々あります。
重要なのは、設計意図をCMM測定基準まで落とし込み、具体的な数値に変換して設計側と現場側の共通言語化を図ることです。

GD&T(幾何公差)の活用で情報伝達を強化

欧米の先進製造業では、GD&T記号を積極的に活用して設計意図を詳細まで表現し、「何のための公差か」「どこを基準にするか」が明確化されています。
ところが国内ではまだ従来型の“注記と寸法”だけで済ませてしまう現場が大多数です。
そのため、CMMプログラム作成側で解釈の違いが発生し、工場間の手戻りリスクを高めています。

CMM測定の現場で起こりがちな手戻り事例

具体的な現場での失敗例や、手戻りが顕在化するプロセスを知ることは、自社の改善策を考える第一歩となります。

手戻り事例1:CADデータの不一致による測定不可

よくあるのは、部品モデルの最新版CADデータと測定用データが一致しておらず、本来測定すべき箇所と違うポイントをCMMが測定してしまうケースです。
結果、“不良”と判定されたが実製品は問題なかった、という手戻りが発生します。

手戻り事例2:公差指定の曖昧さによる再測定発生

「ここのRは参考寸法のはずだが、CMMオペレーターが公差対象と解釈してしまいNGに。」
「ある部分の基準座標が設計上はA面、測定プログラムではB面基準とされ違反扱いに。」
設計図面と測定側の解釈齟齬が、CMM測定リードタイムを引き延ばす元凶となります。

手戻り事例3:現場独自解釈による余計な“安全マージン”

“設計図面通りでは心配だから”という理由で、現場で勝手に追加工を加えた結果、本来の設計意図から外れてNGとなることも多いです。
慣例や暗黙知に頼りすぎた運用が、サプライヤーとバイヤー双方にとって予期せぬ手戻りを生む温床です。

手戻りゼロへ:CADデータ精度と公差整合の最新ベストプラクティス

CMM測定工程の手戻りゼロを目指すためには、設計~品質保証~現場オペレーター間のシームレスな情報連携が必要ですが、業界には“昭和の壁”が依然高く存在しています。
その中でも実践性の高いベストプラクティスを紹介します。

1. CADデータ精度管理の標準化

全てのモデルデータに対し、寸法の精度桁数やトレランスレベルを統一するガイドラインの整備が有効です。
例えば、全社ルールとして「小数点第3位まで必ず保持」「全モデル保存時にチェックリストを回覧」といった多重化された基準を持つことで、抜け漏れや個人依存を無くせます。

2. 設計意図と公差根拠の“見える化”

設計者は3Dモデル・2D図面に寸法公差だけでなく「設計意図」「なぜこの公差か」をドキュメント追記し、CMMオペレーターや現場担当も参照可能な形で管理します。
PDM(Product Data Management)やPLM(Product Lifecycle Management)システムを活用し、設計根拠まで履歴として紐づけると良いでしょう。

3. CMM測定プログラム作成時のクロスチェック体制

測定プログラム作成時には、設計者やCAD担当者とダブルチェックを行い、基準面・基準長・公差箇所の認識合わせが重要です。
場合によっては、オンライン会議等も活用して意思疎通の効率化を図ります。

4. GD&TやMBD(Model Based Definition)の積極導入

グローバルで競争力を保つため、図面ベースからMBD(3Dモデルに製造・検査情報を埋め込む手法)へ業務フローを刷新していく企業も増えてきました。
“読む図面”から“読み込ませるモデル”へ移行することで、設計から製造・検査まで全てを一貫したトレーサビリティ管理が可能となり、手戻りリスクを大幅に減らせます。

日本の製造業が“昭和から脱却”し未来を切り拓くために

未だにFAXや紙図面、口頭ベースの指示が横行している現場も少なくありません。
こうしたアナログ体質では、グローバル調達や多拠点連携での脱落リスクが徐々に高まっています。

一方で、日本の製造現場には「知恵」と「現物で合わせる細やかさ」「現場力」が根強く残っています。
これらをデジタル上で仕組み化し、設計~調達~製造~検査まで“意図を汲み取る”サプライチェーンへ進化させるところに未来があるといえます。

現場主義を貫きつつ、世界標準と融合させることで、ものづくりニッポンの新たな競争力が生まれるのです。

まとめ:サプライヤー・バイヤー・現場全員で進める“手戻りゼロ”活動

CMM測定の手戻りの多くは、CADデータ精度や公差設定の“わずかなほころび”から始まります。
それは決して一人の責任でも、部門の責任でもありません。

設計、調達、生産、品質管理すべての現場が一丸となり、

– CADデータの精度を標準化する
– 設計意図と公差根拠をドキュメントとして残す
– 測定プログラムのクロスチェック体制を整える
– GD&TやMBDなど先端技術を現場へ着実に展開する

これら一つひとつの積み重ねが、“手戻りに無駄な時間をかけない”理想のものづくり環境を実現します。

昭和から続くアナログ的な良さと、新しいデジタルの力を組み合わせることで、今後もしなやかに進化する製造業であり続けましょう。

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