ティッシュペーパーが柔らかくなるエンボス加工と繊維長管理

はじめに：ティッシュペーパーの品質は何で決まるのか

ティッシュペーパーは、私たちの日常生活に欠かせない必需品です。
一見シンプルな消耗品ですが、実はその品質差に驚く方も多いのではないでしょうか。
とくに「柔らかさ」は消費者からの満足度を大きく左右するポイントです。

では、その柔らかい使い心地は、どのような技術や管理によって生み出されているのでしょうか。
本記事では、製造現場の目線から、柔らかいティッシュペーパーを実現するための「エンボス加工」と「繊維長管理」について掘り下げます。
これから製造業の現場に携わる方や、バイヤー・サプライヤーの皆様にもご参考いただけるよう、実践的な内容も交えて解説します。

ティッシュペーパーの構造と素材：知っておきたい基礎知識

ティッシュの原材料と紙の層構造

ティッシュペーパーは主に木材パルプ（バージンパルプ、リサイクルパルプ）や竹などのパルプ繊維から作られます。
また、高級品にはレーヨンやコットンを混ぜる製品も見られます。
製紙の工程では、パルプを水と混ぜてスラリー状にし、この液をシート状に形成します。

ほとんどのティッシュペーパーは2層構造や3層構造になっており、層ごとに異なる紙の特性を持たせることで、強度と柔らかさを両立させています。

柔らかさに関わる繊維配置の重要性

ティッシュの柔らかさは、繊維の太さや長さ、そして繊維の絡み具合によって決まります。
柔らかい仕上がりには、細くて長い繊維が理想的です。
一方、繊維が短いと紙の強度が出にくく、ちぎれやすくなります。
そのため、原材料の選定・繊維長の管理が製品開発の第一歩となるのです。

エンボス加工とは：加工の仕組みとその狙い

エンボス加工の概要と製造工程

エンボス加工とは、シリンダーやロール状の金型を用いて紙に凹凸模様を転写する加工方法です。
紙同士の間に空気層が生まれ、見た目にもふんわりボリューム感が増します。

製造現場では、抄紙工程の後、乾燥した紙をロール状に巻き取る前にエンボスロールを通します。
この際、過剰な圧力やズレを防ぐため、ロール温度・速度・湿度管理が重要となるのです。

エンボス加工がもたらす多様なメリット

エンボス模様には様々なパターンがあります。
代表的なものは「リング型」「ドット型」「リーフ型」などです。
それぞれ、紙に与える物性や触感が異なり、商品イメージの差別化にも活用されます。

1. 柔らかさの向上
   
   紙の表面積が増え、繊維同士が立体的に配置されることで、コシを損なわずに柔らかさを強調できます。
2. 吸水性・拭きとり性の向上
   
   凹凸によって水分や汚れが内部まで届きやすくなり、拭きとり性能が上がります。
3. 嵩（かさ）高・見た目の向上
   
   同じ紙量でも、厚みが出て「ふんわり感」が出るため、消費者の満足感が高まります。
4. 段取り替えコストの削減
   
   同じ紙を使っても、模様だけ変えることでブランド毎の差別化が可能となり、ライン切り替えのコスト最適化にもつながります。

エンボス加工時の現場課題と改善アプローチ

現場では「エンボス目のズレ」「紙割れによる歩留まり低下」「模様の潰れ」など課題も多いです。

例えば昭和から使われ続けているエンボス機では、構造的なガタや湿度コントロール不足による不良が発生しがちです。
この場合、計測センサーや湿度センサーの導入といったデジタル化だけでなく、金型や送りローラーの定期メンテナンスによるアナログ改善も不可欠です。

繊維長管理の実践：こだわる現場が生む品質

なぜ繊維長が大切なのか？

繊維長は、ティッシュのしなやかさ、柔らかさ、破れにくさを決める最重要因子です。
長い繊維はしなやかで手触りが良く、短い繊維は強度や紙のまとまりを補助します。

木材パルプでも、「長繊維パルプ（針葉樹系）」と「短繊維パルプ（広葉樹系）」を独自配合し、目的に応じてバランスを調整します。

現場での繊維長管理の方法

繊維長を安定させるために、原材料パルプの仕入れ時にはロットごとの分析・検査が不可欠です。
また、ミキシング時の撹拌や、パルプ解繊の圧力調整も欠かせません。

さらに製造ラインでは、紙の物性検査（破断強度、厚み、柔らかさ、吸収性など）を工程ごとにサンプリングし、「どのセクションで不均一が起きているか」を見極めます。

このように、アナログな現場の感覚とデジタルデータ分析の両輪で品質を守ることが、良いティッシュづくりには必須です。

繊維長とコストダウンの「攻防」

繊維長を長く確保できるパルプは希少でコストも高くなります。
一方で短繊維比率が増えるとコストダウンにはつながりますが、今度は柔らかさやふんわり感が損なわれてしまいます。

バイヤー視点では、「一枚いくら」ではなく、原材料比率と加工管理によるコスト最適化と品質維持の観点が重要です。
またサプライヤーとしても「価格競争」だけの戦いにせず、「望む最適な品質を維持する技術力」を提案価値にしていく必要があります。

アナログからの脱却：最新動向とデジタル技術の活用

AIやIoTによる品質管理の進化

昭和世代の職人の“手の感覚”や経験則も未だに頼りにされる現場ですが、昨今ではAIやIoTを活用した物性検査の自動化が進んでいます。

・オンラインで厚みや表面状態を追尾する高速センサー
・紙割れ、ロール端部の品質異常を検知する画像解析システム
・エンボスの深さ・形状を自動計測し、品質履歴データベース化

これらによって、アナログ作業者の勘に依存せず、品質の標準化と工程改善が格段に進んでいます。

消費者ニーズの多様化とブランディング戦略

消費者の嗜好は「柔らかくて丈夫」「無香料で敏感肌対応」など多岐にわたります。
実際、配合繊維やエンボス模様による微妙な違いが“使い分け”を生み出し、商品の高付加価値化につながっています。

ここで現場目線としては、ライン共通化しつつも、エンボスパターンや層構造を自在に切替えられる設備投資が求められるのです。

実践的なポイント：現場・バイヤー・サプライヤーの目線で

現場スタッフが注目したい改善策

• エンボス金型の清掃と摩耗点検の徹底（模様潰れ・ズレ防止）
• 湿度・温度・紙含水率の毎ロット記録と異常値早期発見
• 繊維長測定のサンプル頻度UPと結果のフィードバック共有
• 現場ノウハウに頼るだけでなくデータ分析の定着化

バイヤーが取引先へ求めたい指標と提案例

• 原材料繊維の分析データ開示
• エンボス加工パターンごとの歩留まりや生産安定度の見える化
• 工程トレーサビリティや異常時の是正対応履歴提出
• 品質に対する柔軟なカスタマイズ提案

サプライヤーが訴求すべきポイント

• 高機能設備対応（エンボスパターン変更、AI検査付きなど）
• 低コスト・高品質実現のための省人化・自動化ノウハウ
• 消費者（川下）のトレンド情報を踏まえた商品企画力
• 「一枚いくら」から「消費者満足度×工程最適化」へ転換提案

まとめ：新しいティッシュを生み出すために必要な視点

ティッシュペーパーの“柔らかさ”を支えるのは、単なる価格や見た目だけでなく、現場の緻密な「繊維長管理」と「エンボス加工」による技術の積み重ねです。

アナログ時代のノウハウを守りつつも、最新のデジタル技術や消費者ニーズへの柔軟な対応が今まで以上に求められます。
製造現場・バイヤー・サプライヤーがそれぞれの役割で品質と価値を追求し、新たな付加価値を生み出すことが、ティッシュ業界の発展を牽引する大きなカギといえるでしょう。

ぜひ、“柔らかさ”の裏にある現場の知恵と工夫を次世代に伝えていきたいものです。