時代遅れの管理方法を笑い話にする現場社員たちの裏側

はじめに：昭和的管理こそ、現場のリアル

製造業の現場にいると、デジタル化やDXの波が語られる一方で、いまだ“伝票マシン”や“手書き日報”が現役で活躍しているというギャップに直面します。

最近では、IT化が遅れている業界として製造業が揶揄されることもしばしばですが、現場には現場なりの「昭和的管理方法」が根強く残っているのが実情です。

その中で、時代遅れの管理方法を半ば自虐的に笑い話として語り合う現場社員の姿も少なくありません。

この記事では、こうした現場のリアルな実態に触れながら、なぜ昭和的なアナログ管理が根強く残るのか、そして今後の製造業改革にどうつなげていけるのか、現場目線で深掘りしていきます。

現場の声：「令和なのに、まだFAX？」

未だ消えないFAXと紙文化

もうすぐ令和も6年。

しかし多くの工場や協力会社では、いまだにFAXによる注文・受注、伝票管理が幅を利かせています。

発注書や納品書は、メールやクラウドでなくFAXでやり取りし、「どこいった!?」と書類を探して現場内が騒然…といった光景が日常です。

担当者間で「紙焼けして字が見えない！」などと自嘲気味に笑い合う…。

この光景自体が現場の“あるあるネタ”であり、一種の共感を生み出す場となっています。

なぜアナログ管理が残るのか？

理由はいくつもあります。

一つは「取引先との慣習」。

サプライヤーやバイヤー側が「紙でやってほしい」「FAXでもらえる？」と頼むことで、紙文化が温存されてしまいます。

また、現場担当者はIT機器が不得意な世代も多く、「新しい仕組みに抵抗がある」と感じている場合も少なくありません。

安全性や権限管理の観点から、従来通りの運用が安心…という“心理的バリア”も根強く、現場独自の風土となっています。

笑い話になる「手書きの神髄」

帳票・日報はハンコだらけ

筆者も工場長時代、手書き日報や各種帳票の「ハンコリレー」に苦笑いした経験が数え切れません。

1つの書類に4,5個のハンコ。

それを持って“課”から“係”へと“お遍路”のように回していく。

しかし現場社員にとっては、「この手続きが身の安全保証だった」と口にするケースもあります。

現実には、過去のトラブルを紙の履歴で追跡できたり、現場の暗黙知が書き込みで伝承されたり、アナログにも一定の合理性がありました。

現場に根付く「なんとなく安心」

「こうしておけば安心だ」「この管理帳票は先代の工場長から続いている伝統だ」。

笑い話ながら、「見える化」や「可視化」が重要視される昨今、アナログ帳票や現物管理は、意外と現場現実にフィットしていたのです。

会議で「これExcelにできますよ」と言っても「不具合の時に誰が入力したか分からなくなる」などの声も根強いです。

業界構造がデジタル化を阻む？

サプライチェーンの複雑さ

製造業、とくに自動車・電機などの重厚長大型産業では、サプライチェーンが非常に多層で複雑です。

中小サプライヤーや一次下請け、孫請けまでを含めると、全体のデジタル化は容易ではありません。

「うちは大手メーカーの要請でシステム変えたが、取引先が付いてこられない」といった実情もよく聞きます。

こうして、部分的なデジタル化は進んでも、全体最適には至らないボトルネックとなっています。

既存設備との兼ね合い

古い現場設備や管理システムを置き換えるには、相当な決断とコストがかかります。

「古いけどまだ使える機械」「昔からの帳票」をどう扱うかは現場の長年の悩みです。

したがって、「部分的なIT化」「見える化システムの併用」といった“つぎはぎ運用”が続き、結果としてアナログ管理が残存する形となっています。

現場改革の方向性：アナログの良さも活かす

大事なのは「無理強い」しないこと

一方で、現場中心の改革が進み始めているのも事実です。

キーワードは「現場の声を聴く」「アナログ・デジタルを併用し段階的に進める」。

いきなり全てをクラウド化、AI導入、RPAとせず、「なぜこの作業が必要か」「どこの工程がネックか」を現場目線で見直します。

既存の帳票や段取りの一部だけでも電子化し、現場での“納得感”が得られれば、徐々に変化の波を広げていくことができます。

「共感」と「納得」が変革のカギ

現場社員は、決してアナログ管理に固執しているのではなく、「わかりやすい方法」「困らないやり方」を求めているにすぎません。

上司や管理職が、「なぜ今変わる必要があるのか」「この業務をどう良くできるか」を丁寧に説明し、現場社員と一緒に進めていくことが何より大切です。

そうした“心の共感・納得”が得られれば、変革もスムーズに進むでしょう。

バイヤー・サプライヤーは何を考えるか？

バイヤー視点：効率と信頼性の両立

バイヤーにとって重要なのは「トラブルなく安定してモノが届くこと」と「業務効率化」です。

ただし、現場をよく理解するバイヤーは、「新システムを押しつけて混乱が起きては逆効果」とも認識しています。

「現場で困らない入力画面」「必要時には紙出力も可」といったハイブリッド型運用を模索している企業も増えています。

サプライヤー視点：付き合い方と将来設計

一方、サプライヤーは「お付き合い優先」「取引ルールに従う」のが日本企業の美徳とされてきました。

そのため、たとえ非効率でも「お得意様には紙帳票で」といった慣習が守られやすいです。

しかし最近は「これからの若手人材確保」や「海外との取引強化」のため、デジタル化による業務改革に前向きな姿勢も目立つようになっています。

立場を超える“現場思考”が最強

重要なのは、おたがいが「現場の作業プロセス」を尊重し、共通ゴール（品質・納期・コストのQCD向上）をしっかり共有することです。

実際、優れたバイヤーやサプライヤーは、「うちの現場にも見学に来てください」「現場で一緒に改善しましょう」と積極的に横のつながりを作っています。

こうした“共創型バリューチェーン”が、今後の製造業のサバイバルを左右していくでしょう。

まとめ：変える勇気と守る知恵

時代遅れの管理方法は、単なる笑い話で終わりません。

現場で受け継がれる「知恵」と「歴史」には、その職場ならではの工夫やノウハウ、安心感が詰まっているからです。

一方で、変化に対する柔軟な姿勢、現場・バイヤー・サプライヤーが垣根を超えて一緒に進んでいく“協働の知恵”も不可欠です。

昭和的アナログから令和的デジタルへ。

その狭間で、現場社員たちが笑い話と共に、着実に進化の一歩を踏み出している現実を、これからも業界全体で支えていくことが求められています。

あなたの現場にも、今日からできる小さな改革がきっとあるはずです。

変える勇気と、守る知恵。

製造業の明日は、あなたの“現場力”がつくります。