投稿日:2025年10月3日

現場の士気を下げる上司を笑いのネタに変える社員たち

はじめに:職場の“空気”を作るのは誰か

製造業の現場――そこは一人ひとりの能力とチームワークがものを言う場所です。毎日が安全第一、納期厳守、品質至上主義。そんな張り詰めた空気のなか、現場の士気を左右する最大の要因と言えば、やはり「上司」の存在ではないでしょうか。

どういう上司が現場の士気を上げるのか、逆に、どんな上司が士気を下げてしまうのか。20年以上、現場の第一線で管理職として働いてきた私にも、身につまされる話です。

今回は、「士気を下げる上司」をテーマに、その現象がなぜ起きるのか、どういった悪影響があるのか。そして、現場の社員たちがいかにして、そのネガティブな空気を“笑い”に変え乗り越えているのか、実際の現場目線で深堀りしていきます。

士気を下げる「上司」とはどんな存在か

昭和イズムを引きずる上司の典型例

製造業は、良くも悪くも「昭和的」な体質が色濃く残る業界です。

朝礼では「気合いを入れろ!」と声が飛び、現場での意思疎通は「阿吽の呼吸」頼み。一方通行の指示、部下のミスに対する叱責、無意味な残業の推奨……。

時として「俺の若い頃は~」という自慢話に終始する上司もいます。

これはもはや“あるある”ネタとなり、下の世代からは「昭和親父」と呼ばれて笑いの的です。

ですが、この“空気を読まない指導”が現場の士気に与える悪影響は、決して無視できません。

士気を下げる言動のパターン

・部下の成果や努力を認めない
・自分の非を決して認めない
・曖昧な指示で丸投げ
・上司の保身や責任転嫁
・若手社員へのパワハラ/モラハラ

これらは一度でも経験すればトラウマになりかねません。

「やる気が削がれる」
「どうせ無駄」
「やっても評価されない」

……このような言葉が現場から漏れ始めると、負のスパイラルが始まります。

とどめは“評論家上司”

現場の汗をかかず、会議室で「こうしたほうがいい」「なぜやらない」と批評ばかりの上司。現場の実情を理解しない指示や無理難題は、理不尽さへの笑いとあきれしか生みません。

なぜ士気を下げる上司が生まれるのか

アナログ業界に根強い「年功序列」

製造業はまだまだ実力主義ではありません。年齢や在籍年数が評価され、昇進する傾向が根強いです。

変革期が来ても、従来の仕組みに固執したり、新しい価値観やスキルを学ばない管理職が多く存在します。

結果、現場感覚を失い、現実離れした指示やマネジメントを繰り返す上司が生まれやすい土壌ができています。

現場からの声が届きにくい構造

現場の意見を吸い上げる仕組みが弱い工場も多いです。

会議は管理職ばかり。実際のオペレーターやエンジニアの声が反映されない。現場の「何とかしてくれ」が上層部に届かない、そんな閉塞感が存在します。

だからこそ、現場は自分たちで“空気”を変える工夫を凝らし始めるのです。

負の空気を“笑い”で乗り越える現場社員たち

自虐や風刺で「あるあるネタ化」

現場の士気を下げる上司も、社員たちにとっては“日常茶飯事”です。

いつしか、「やってられねえな」と溜息をついてばかりではなく、極端な上司の言動を自虐や風刺ネタとして共有し、笑い飛ばすようになります。

「今日も課長の名言が炸裂したね」
「部長の“神指示”シリーズ、今日で20回目記念!」

そんな形で、上司の対応を一種の“笑いネタ”に昇華することで、ストレスやフラストレーションをやり過ごす現場の知恵が生まれます。

社内“ブラックジョーク”が活力に

例えば、ある工場では「課長語録ノート」が回覧されています。

これは課長の珍言・迷言を匿名で記録し、月末にみんなで読み返して腹を抱えて笑うというものです。

上司の背中を見て無言で従うだけでなく、ユーモアで毒消しをしつつ、「まあ仕方ない、頑張ろう」と前向きな空気にしていきます。

時には、「自分もこんな上司にはならないように」と自分の戒めにもなります。

心理的安全性の確保、「共感=仲間意識」

笑いネタの共有によって、「自分だけが辛い思いをしているのではない」という共感が生まれ、仲間意識が強まります。

「自分たちは理解し合える」と感じることで心理的安全性が高まり、本音を出せる風土が育ちます。

これは結果的に、不満をただ溜めこむより、ずっと健全な流れと言えます。

バイヤーやサプライヤーも知っておくべき“現場のリアル”

交渉や提案時に現場の空気を読む

サプライヤーの立場でバイヤーの現場に足を運ぶ際、こうした“現場のネタ”や職場文化まで掘り下げて観察すると、コミュニケーションが一気に円滑になります。

机上の論理や数字の話ばかりでなく、「現場の感覚」を押さえることで、「この人は分かってる」と信頼されやすくなります。

また、「士気を下げる上司」の下で苦労している担当者の本音や課題を引き出すことで、思わぬビジネスチャンスにつながる場合もあるのです。

柔軟性が求められるバイヤー職の現場感覚

今後のバイヤーは、単にコストや納期だけで相手を評価するのではなく、現場の雰囲気や人間関係まで踏まえて交渉できる柔軟さが不可欠です。

「現場の士気を下げる上司」による遅延やトラブルまで予想して、リスク対応を考えておくことで、大きな失敗を未然に防ぐことができます。

これからの時代、「笑われる上司」にならないために

上司自身が変わる・学ぶ姿勢の重要性

昭和の“怒鳴り声指導”や“俺流やり方”は、もはや通用しません。

IT化・自動化・グローバル化が進む現場では、多様な人材の個性を尊重し、現場の声に耳を傾け、共感しながらチームをまとめることが、これからの上司に求められる資質です。

自分の“弱さ”や“分からないこと”も認め、謙虚に学び続ける上司ほど、社員からも“ネタ”にはされにくくなります。

笑いに昇華する現場の底力

しかし人間関係が複雑化するなか、「笑い」が現場に根付き、仲間意識や心理的安全性を高めているのは、実は日本の製造業の大きな強みです。

苦しい状況でも、ただ不満をこぼすのではなく、健全な自虐や風刺で切り抜ける。これが現場の知恵であり、底力と言えます。

まとめ:上司も部下も、現場も管理職も「笑い」と成長で前進を

士気を下げる上司の存在は、決してプラスではありません。ですが、その“負”の要素を笑いに変える現場力が、日本のものづくりを支える原動力であったこともまた事実です。

現場の声に耳を傾け、共感し、必要であれば一緒に笑い飛ばしつつ、ゆるやかに変革を進めていく。そんな柔軟な発想とラテラルシンキングを持ち続けることで、昭和時代を超えた新しい製造業の未来が開けるのではないでしょうか。

現場で頑張る皆さま、またバイヤーやサプライヤーとして関わるすべての方々に、現場目線の「笑い」と「知恵」を通じて、一歩先の価値創造につながる気づきを提供できれば幸いです。

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