投稿日:2025年11月9日

ガラスピッチャー印刷で露光後の剥離を防ぐ乳剤の硬化厚と洗浄条件

はじめに:ガラスピッチャー印刷と乳剤の重要性

ガラスピッチャーは、見た目の美しさと衛生性からレストランや家庭用品として高い人気を誇ります。
その印刷工程では、繊細でありながら丈夫なデザインを実現するため、シルクスクリーンなどの間接印刷技術が活用されています。
この工程において印刷版(スクリーン)の乳剤の硬化や露光条件、さらには洗浄工程は、品質を大きく左右するポイントです。

特に露光後の乳剤剥離、いわゆるピンホールやパターン抜けの発生は、生産性だけでなくコスト、顧客満足度にも直結するため、現場では極めて重要な改善対象となっています。

この課題に対して、私は長年の製造現場経験をもとに、昭和から続くアナログな作業習慣の中でも正しく根付く技術と、最新動向を踏まえた対策・知見を共有したいと思います。

ガラスピッチャー印刷における乳剤剥離の基礎知識

なぜ、乳剤剥離が発生するのか

スクリーン印刷の製版工程では、乳剤(感光乳剤)をメッシュにコーティングし、版として使用します。
露光後に現像・洗浄を行いますが、この段階で乳剤が剥離したり、想定以上に落ちてしまったりすることがあります。

この原因は多岐にわたります。
代表的な例は、乳剤の厚みや露光量の不適切さ、洗浄水温や圧力の過剰、版の前処理不足、乾燥不良などです。
一つひとつの工程が最終的な印刷品質に直結してきます。

乳剤の厚み(コーティング厚)が与える影響

乳剤の厚みは、スクリーン版の強度・パターン再現性・露光耐性のバランスにかかわる大きな要素です。
厚みが不足していると、印刷回数を重ねる中ですぐに乳剤が擦り減りやすくなります。
厚みが過剰だと、露光が内側まで十分に届かず、現像時に未硬化のため剥離が発生しやすくなります。

最適な厚みとしては、標準的なガラスピッチャー印刷の場合、感光乳剤のメーカー推奨値を基準につや消し白なら約5~8μm、カラーや細線多用の図柄なら10μm以上が目安です(実際には版のメッシュサイズやデザイン特性にも左右されます)。

昭和時代から根付いている「見た目の均一さ」を大切にしつつ、デジタル測定機器による厚み管理の導入も、歩留まり改善に非常に有効です。

露光工程におけるポイント:硬化の深さと均一性

露光量(UVライト強度・時間)の最適化

露光不足では、乳剤内部が十分に硬化せず、洗浄時や印刷時に未硬化部分が剥離の直接原因となりがちです。
一方でオーバー露光すると、細かいデザイン部分まで乳剤が残り、パターン再現性を損ないます。

ここで重要となるのが、乳剤の厚みに対して適切な露光量を確保することです。
最近の現場では、UVインテグレータなどの照度計を活用し、再現性のある露光管理が常識となりつつあります。
一方で、多くの工場がコストや教育面からアナログ管理を続けているケースも少なくありません。

具体的には、乳剤厚が8μm前後の場合、累積UV露光量は300~800mJ/cm²が目安です。
毎日のランプ点検と定期的な校正記録は、繁忙期や人員交代時の品質ぶれ防止に必須といえるでしょう。

乾燥と版の前処理も見落とせない

乳剤の硬化均一性や露光効果を最大限に引き出すには、版の脱脂洗浄や乾燥工程も非常に大切です。
ガラスピッチャー印刷の現場では、少なくとも中性洗剤での洗浄、50~60℃程度の温風乾燥を実施し、湿度管理も徹底する必要があります。

昭和からのマニュアル管理では「手触りで確認」などが主流でしたが、現代のトレーサビリティ強化の流れでは、温湿度センサーや乾燥履歴の記録も意識したいところです。

洗浄条件:圧力・水温・洗浄剤の使いどころ

水圧・水温のコントロール

現像・洗浄工程での高圧水使用は、未硬化乳剤だけでなく、想定外の部分まで乳剤を剥がしてしまうリスクがあります。
とくに新しい版・厚塗りの版では、圧力の上げすぎが剥離を増やす要因となるため注意が必要です。

推奨される圧力は、家庭用シャワーヘッド程度の約0.2~0.4MPa、水温は常温~40℃以下が一般的です。
また、厚い乳剤や寒暖差の激しい現場では、温水を使いすぎない・急激な温度変化を避けるといった工夫がロス低減につながります。

洗浄剤との適切なバランス

油性インクの強力な洗浄には、有機溶剤や専用アルカリ洗浄剤の利用が条件となりますが、過剰利用は乳剤硬化膜を傷め、露光後の剥離リスクを上げます。
洗浄剤選定時は、インク種や乳剤メーカーの推奨を尊重しつつ、過去の洗浄実験記録やトラブル発生履歴を共有しておきましょう。

現場では、新規に導入する薬剤のMSDS確認や担当オペレータへの講習など、アナログな工程でも地道な「伝言ゲーム」を残すことが長期的には事故や歩留まり悪化の未然防止に寄与します。

現場で活きる管理手法・新しいチャレンジ

厚み・露光・洗浄情報の「見える化」

IoT化の進展により、印刷現場でも作業データの見える化が進んでいます。
日々の版管理台帳に乳剤厚み測定値、露光照度、洗浄圧・水温等を記録し、現場の「事件年表」として管理することで再発防止に大きな効果を発揮します。

昭和以来の紙帳票文化も、スキャン保存やデジタル化で「誰でも引き継げる」しくみを構築するのが望ましいです。

サプライヤーとの協働・新素材の試行

バイヤーや品質管理担当の視点では、サプライヤー(乳剤やインクメーカー)との連携が欠かせません。
定期的な技術相談や現場見学会、素材サンプルの評価を積み重ねることで、より剥離しにくい新乳剤や印刷プロセスの共同開発も可能となります。

製造業に求められるスピーディな問題解決力は、このような「現場起点のチャレンジ精神」から生まれると私は実感しています。

まとめ:地味な工程こそ現場の価値を生む

ガラスピッチャー印刷の乳剤剥離対策は、ひとつひとつの工程の積み重ねと、現場での実践的な管理が大きなカギを握ります。

乳剤厚みの最適化、露光量の標準化、洗浄条件の安定化、そしてそれらデータの記録・検証が、昭和から続くアナログな生産現場においても日々の品質向上につながっています。

一方で、IoTやデジタルツールの導入、中長期的なパートナーシップによる素材開発など、従来の延長線上にとどまらない新しいアプローチもこれからさらに必要になります。

あらゆる現場経験は、未来の製造業を支えるための財産です。
バイヤーを目指す方、サプライヤーとして現場ニーズを掴みたい方は、こうした「見えにくいけれど重要な小さな工夫」を大切に、深く現場を観察・改善していくことをおすすめします。

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