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投稿日:2026年10月2日

「どれが最新の購買ファイルか分からない」を無くす——正を一か所に決める

この記事のポイント(結論先出し)

「どれが最新の単価表か分からない」「発注一覧が 3 つある」という問題は、ファイル名の付け方では止まらない。ファイル名の規則は探しやすくはするが、コピーが作られること自体は止めないからである。止める方法は、データの種類ごとに「正」を一か所に決め、ほかは日付の入った写しとして扱うことと、上書きをやめて変更を記録として残すことの二つである。取適法の対象取引で発注の記録(7 条記録)をそのファイルで持っているなら、給付の内容を変えさせたときや代金の額を変えたときに内容と理由を記録し、電磁的記録では訂正や削除の事実と内容を確認できるようにしておく必要がある。単価表のようなファイルの版を残すこと自体が義務なのではないが、発注の記録を上書きで直していると、この要件は満たせない。共有の表計算に移すだけでも改善するが、取引先に送った版と社内の版の対応、ダウンロードされたコピーの扱いまで決めておく。

最新版が分からなくなる 6 つの道筋

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購買のファイルが増えていく道筋は、だいたい決まっている。

1. メールに添付して回す
単価表を上長に確認してもらうためにメールで送り、上長が直して返信する。直した版は上長の送信済みメールと担当者の受信箱にあり、共有フォルダの版は直っていない。

2. 手元に保存して編集する
共有フォルダのファイルを自分のパソコンにコピーして作業し、終わったら戻すつもりが戻さない。次に開いた人は、古い版を最新だと思って使う。

3. 名前を付けて保存で版を増やす
「単価表_最新」「単価表_最新2」「単価表_0915改」が同じフォルダに並ぶ。どれが本当に最新か、作った本人にしか分からない。

4. 共有の場所と個人の場所に同じファイルがある
共有フォルダとパソコンのデスクトップ、クラウドの保存先と社内のサーバーに、同じ名前のファイルがある。どちらも少しずつ直されている。

5. 取引先に送った版と社内の版がずれる
見積依頼で送った図面の一覧や、発注の内示の表を、社内で直したあとに取引先へ送り直していない。取引先は古い版で動いている。

6. 印刷した紙に手書きで直す
現場や会議で印刷した一覧に、数量や納期を手で書き込む。書き込んだ内容がファイルに戻らない。

見積の比較で同じ会社から何回も見積が届いて版が増える問題は相見積をメールとエクセルで回す限界で扱った。この記事は、見積に限らず、単価表・品目表・発注一覧・納期の一覧といった購買のファイル全般の話をする。

ファイル名の規則だけでは止まらない

最新版の問題が起きると、まずファイル名の規則を決めることが多い。日付と版番号と作った人の名前を入れる、といった規則である。ファイル名の規則には効き目がある。国税庁も、電子取引のデータを検索できるようにする簡易な方法として、ファイル名に規則性をもって日付・金額・取引先を入れ、特定のフォルダに集約しておく方法を挙げている[1]。規則のある名前は、探すときに役に立つ。

だが、規則は「どれが新しいか」を分かりやすくするだけで、「どれが正しいか」を決めない。手元にコピーを作る人がいる限り、規則どおりの名前を持った別々のファイルが増えていく。日付の新しいファイルが、正しく直されたファイルとは限らない。最新版の問題を止めるには、ファイル名とは別に、置き場所と直し方を決める必要がある。

データの種類ごとに「正」を一か所に決める

最初にやることは、購買で使っているデータの種類ごとに、正の置き場所を 1 つだけ決めることである。正とは、そこを直せば会社として直したことになり、ほかの場所の内容と食い違ったらそこが優先される場所である。

データ 正の置き場所の例 直してよい人 配るときの形
品目表 共有の場所の 1 ファイル、またはシステムの品目マスタ 登録・変更の担当(1〜2 人) 日付入りの PDF か、読み取り専用の写し
取引先の情報 取引先の台帳 1 つ 購買の担当(経理と分担を決める) 必要な列だけの写し
取引先ごとの単価 単価の台帳 1 つ(見積・合意の根拠と一緒に) 単価を決める権限のある人 適用日を書いた写し
発注の一覧 発注の記録 1 つ 発注の担当(状態の更新は副担当も) 一覧の画面か、日付入りの書き出し
取引先に送った書類 送ったものそのもの(送信の記録と一緒に) 直さない(訂正は新しい版として送る) —

正以外の場所にあるものは、すべて「写し」として扱う。写しには作った日付を入れ、写しを直しても正には反映されないことを全員が知っている状態にする。読むために配るなら、PDF のように直せない形にすると、写しが勝手に直されて第二の正になることを防げる。

単価の台帳をどう持つかは取引先ごとの単価を一か所で持つ、取引先の情報は散らばった取引先の情報をまとめるで扱う。品目の仕様のうち、図面のように版そのものに意味があるものは、品目表の欄で上書きせずに外に置く。その考え方は品目仕様をどこまでマスタに持つかにある。

上書きをやめ、変更を記録にする

正を一か所に決めても、そこを上書きで直していると、「いつ、誰が、何を、何から何へ、なぜ変えたか」が残らない。最新版は 1 つになるが、1 つ前の版が分からなくなる。

取適法(中小受託取引適正化法)の対象になる製造委託で、発注の記録をそのファイルで持っている場合は、この「前の版」が記録として求められる。公正取引委員会と中小企業庁のテキストは、委託した側が作成・保存する記録(7 条記録)の事項として、給付の内容について変更またはやり直しをさせた場合はその内容と理由、代金の額に変更があった場合は増減額とその理由を挙げている[2]。これらは事実が生じたときに速やかに記録しなければならない[2]。電磁的記録で持つ場合には、記録事項について訂正または削除を行ったときにその事実と内容を確認できること、という要件もある[2]。上書きで直すファイルでは、この要件を満たすのが難しい。なお、これは発注ごとの記録の話で、単価表や品目表の版をすべて残せという定めではない。単価表を変えたときに要るのは、その変更で代金が変わった注文の記録に、増減額と理由を書くことである。

上書きをやめる方法は、ファイルで持つ場合でもいくつかある。変更の履歴を残す専用のシートを作り、変更のたびに 1 行足す。単価表なら、古い単価の行を消さずに適用の終わりの日付を入れ、新しい単価の行を足す。数量や納期を変えたときは、変更前の値と理由を備考に残す。どれも手間はかかるが、「何から何へ変えたか」が後から追える。

金融庁の企業会計審議会が示す内部統制の実施基準は、IT に係る業務処理統制の例として、マスタ・データの維持管理や、システムの利用に関する認証、操作範囲の限定などのアクセスの管理を挙げている[3]。上場会社の財務報告のための基準だが、誰が正のデータを直してよいかを限り、直した記録を残すという考え方は、ファイルで持つ場合にも当てはまる。

共有の表計算に移すときに確かめること

最新版の問題に対して、最も手軽な手当ては、ファイルを共有の表計算(クラウド上で複数の人が同じファイルを開ける仕組み)に移すことである。メールでの添付やコピーの持ち回りが減り、版の履歴が自動で残るものも多い。

国税庁は、電子取引のデータの改ざん防止の措置として訂正・削除の履歴を残すシステムの例を説明するなかで、利用者の側で訂正削除ができない、または訂正削除の履歴(ヴァージョン管理)が全て残るクラウドシステムであれば、通常は要件を満たしていると考えられる、としている[4]。一方で、その方法で改ざん防止の措置を講じたとするには、保存だけでなくデータの授受もそのシステムの中で行う必要があり、メールで受け取ったデータをそうしたシステムに保存するだけでは措置を講じたことにならない、とも説明している[4]。共有の表計算に履歴があることと、法令の要件を満たすことは同じではない。操作の記録として何を残すべきかは購買システムの操作ログで扱っている。

法令とは別に、運用として確かめておくことがある。

  1. ダウンロードできるか:共有の表計算でも、手元にダウンロードして直せば、また別のファイルができる。ダウンロードした写しを正として扱わない決まりを作る
  2. 誰がどこを直せるか:全員が全部の列を直せると、単価の列を発注の担当が直してしまうといったことが起きる。直せる範囲を分けられるか
  3. 履歴を誰が見られるか:版の履歴があっても、見方を知っているのが 1 人だけなら、問題が起きたときに追えない
  4. 取引先に送った版との対応:送ったときの版がどれだったかを、送信の記録と結びつけて残せるか

移すときの手順

1. いまあるコピーを数える
共有フォルダ、各自のパソコン、メールの添付、クラウドの保存先に、同じデータのファイルがいくつあるかを書き出す。

2. 正を決め、中身を突き合わせる
正にするファイルを決め、ほかのコピーにしか無い変更が無いかを確かめる。ほかのコピーで直された値があれば、正に取り込んでからコピーを片付ける。

3. 古いコピーは消さずに、読み取り専用にして別の場所へ
名前の先頭に「旧」と片付けた日付を入れ、直せない設定にして、決めた保管場所に移す。過去の取引を調べるときに使うことがあるので、すぐには消さない。

4. 切替日を決めて知らせる
この日からは正だけを直す、と社内に知らせる。取引先に送っている一覧があるなら、次回からどの版を送るかも知らせる。

5. 正のバックアップを取る
一か所に集めると、その一か所が壊れたときの影響が大きくなる。情報処理推進機構(IPA)の中小企業の情報セキュリティ対策ガイドラインは、対策の例として、重要情報のバックアップを定期的に行うことを挙げている[5]。バックアップは、正とは別の場所に、日付を付けて取る。バックアップから戻したファイルを直接直し始めると、また正が 2 つになるので、戻す手順も決めておく。

6. 1 か月後に、コピーが増えていないか見る
切り替えた直後は守られていても、忙しい時期に手元のコピーが復活する。1 か月後に手順 1 をもう一度やり、増えていたら理由を聞く。たいていは「正の場所が開きにくい」「直したい列が直せない」といった不便が原因である。

システムに移すと、何が変わり、何が変わらないか

品目・取引先・単価・発注を受発注や購買のシステムに移すと、データの正は自然に 1 か所になり、画面から直した内容は履歴として残る作りのものが多い。最新版を探す手間はかなり減る。

ただし、システムから書き出したファイルは、書き出した時点の写しである。書き出した一覧を表計算で直しても、システムには戻らない。書き出したファイルを配り、それが直されて回り始めると、システムの外でまた最新版の問題が起きる。書き出しは、配るためではなく、その時点の記録や分析のために使うと決めておく。どの業務から順にシステムへ移すかはエクセルの購買業務をシステムに移す順番で扱う。

発注の状況を特定の担当者しか知らない問題も、根は同じで、情報が個人の手元に分かれていることにある。その対処は発注の状況を担当者しか知らないときにまとめる。

よくある質問

ファイル名に「最新」と付けるのはやめたほうがよいですか

やめたほうがよい。「最新」は付けた時点では正しくても、次に直した人が名前を変えなければ嘘になる。正の場所にあるファイルには、版や日付を付けずに固定の名前を付け、写しにだけ日付を付ける、という分け方のほうが崩れにくい。

取引先から届いた表計算のファイルはどう扱えばよいですか

届いたファイルそのものは、取引の記録として直さずに残す。国税庁は、表計算やワープロの形式で受け取ったデータを PDF に変換して保存することは、取引内容が変更されるおそれがない合理的な編集として認められると考えられる、としている[4]。社内で使うために中身を自社の台帳へ写すのは構わないが、届いたファイルを直接直して使い回さない。

現場では印刷した一覧に手書きで直すのが一番早いと言われます

手書きで直すこと自体は止めなくてよい。決めておくのは、手書きの内容をその日のうちに誰が正へ戻すかである。戻した人は、印刷物に「反映済み」と書いて片付ける。戻されない手書きが溜まると、紙のほうが最新という状態になる。

まとめ

購買のファイルの最新版が分からなくなるのは、コピーが作られる道筋が残っているからで、ファイル名の規則だけでは止まらない。データの種類ごとに正の置き場所を 1 つ決め、直してよい人を限り、ほかは日付の入った写しとして扱う。正は上書きで直さず、何をいつ誰がなぜ変えたかを記録に残す。発注の記録をファイルで持っているなら、取適法の対象取引では給付の内容や代金の変更とその理由を速やかに記録し、電磁的記録なら訂正・削除の事実と内容を確認できるようにしておく。共有の表計算に移すときは、ダウンロードされたコピー、直せる範囲、履歴を見られる人、取引先に送った版との対応を確かめる。移したあとは正のバックアップを取り、1 か月後にコピーが増えていないかを見る。

出典・参考資料

  1. 電子帳簿保存法 電子取引データの保存方法をご確認ください【令和 6 年 1 月以降用】(国税庁/令和 5 年 7 月)
  2. 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
  3. 財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準(金融庁 企業会計審議会/令和 5 年 4 月 7 日改訂)
  4. 電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】(国税庁/令和 7 年 6 月)
  5. 中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン 第 4.0 版(独立行政法人情報処理推進機構(IPA)/2026 年 3 月)

品目・単価・発注を、社内で同じひとつのデータとして持つ

この記事で扱った項目のうち、Newji one(製造業の見積・発注クラウド)では、品目・取引先・取引先別の単価・発注を、社内のメンバーが同じデータとして画面で見て直せます。品目を直すと、どの項目を誰がいつ何から何へ変えたかが品目ごとの履歴に残り、単価改定や見積の採用による単価の変更は、変更前と変更後の単価が価格変動履歴に残ります。既に登録されている品番で新しい品目を作ろうとすると、登録を止めて知らせます。一覧は CSV で書き出せますが、書き出したファイルはその時点の写しで、ファイルを直してもシステムの内容は変わりません。

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