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取引先ごとの単価を一か所に集める——見積を採用したら何を残すか

この記事のポイント(結論先出し)
取引先ごとの単価が、見積書の PDF・メールの本文・部署ごとの単価表・前回の発注書の控えに分かれていると、「いまこの取引先から買うといくらか」に答えるたびに 4 か所を見比べることになる。そして実際には、前回の発注書をコピーして次の発注書を作る運用が、いちばん信用されている単価表になっていることが多い。一か所に集めるときは、品目と取引先の組ごとに、直近の発注書・単価表・最新の見積の 3 つの値を並べ、一致しないものを取引先と確かめてから入れる。見積を採用したら、その場で単価の置き場所を更新し、どの見積を採用したかを結んでおく。単価の根拠として結ぶのは、取引先が正式に出した見積書か、合意した内容を確認し合ったメールなどの記録にする。品目も取引先も少なく、発注する人が 1 人なら、Excel の単価表 1 枚に決めるだけで足りる。
目次
取引先ごとの単価は、いまどこにあるか
同じ部品を 2 社から買っている会社で、「A 社から買うと 1 個いくらか」を聞いてみると、答えの出どころは人によって違う。よくあるのは次の 5 か所である。
1. 見積書の PDF か紙。取引先から受け取った正式な見積書。数量別に何段かの単価が書かれていることも多い。メールの添付として個人の受信箱にあるか、共有フォルダのどこかにある。
2. メールの本文。「先日の件、1,000 個以上なら 1,150 円で承ります」のように、見積書を出し直さずに本文で回答された単価。読んだ人しか知らない。
3. 部署ごとの単価表。購買が持っている Excel の単価表。品目ごとに 1 列だけ単価があり、2 社目は備考欄に書いてある。いつ更新したかは分からない。
4. 前回の発注書の控え。次の発注書を作るとき、前回の発注書のファイルをコピーして日付と数量だけを書き換える。結果として、ここに書かれた単価が実質的な正になっている。
5. 会計の仕入明細。経理が請求書から入力した金額。購買の担当からは見えにくい。
単価を 1 行にどう持つか(取引先・数量帯・有効期間・通貨・税の区分・合意の根拠)は購買単価の持ち方で詳しく扱っている。この記事は、いま散らばっている単価をどう一か所に集め、見積を採用したときに単価をどう残すかに絞る。
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散らばっていると、何が起きるか
前回の発注書のコピーで、改定が届かない
前回の発注書をコピーして次を作る運用では、単価が改定されても、改定を知った人が書き換えない限り古い単価が使われ続ける。逆に、まだ合意していない見積の単価を誰かが発注書に書いてしまうと、その単価が次からも使われる。どちらの場合も、単価表を見ている人と、発注書を作っている人で、違う数字を正だと思っている。
単価の根拠がたどれない
単価表の 1,150 円がどの見積から来たのかが書かれていないと、取引先と単価の話になったとき、見積書を探すところから始めることになる。取引先から価格の見直しを求められた場合も同じである。内閣官房と公正取引委員会の労務費の価格転嫁に関する指針は、発注者・受注者に共通の行動として、価格交渉の記録を作って発注者と受注者がそれぞれ持っておくことを挙げている。担当が異動しても、記録があれば次の交渉を前回の続きから始められる、というのがその理由である[4]。単価の置き場所から、その単価を決めた見積や交渉の記録へたどれることが、この指針のいう記録を生かす前提になる。値上げ・値下げの経緯の残し方は価格改定の経緯を残すで扱う。
2 社目の単価が並ばない
JIS Z 8141 は、同一品目を 2 社以上に発注する方式を「分散発注」と呼び、事故や災害による納期遅延のリスクを減らし、発注先間の競争力強化努力が期待できるとしている[5]。分散発注をしている品目では、取引先ごとの単価を並べて見られなければ、どちらに出すかを決める材料が欠ける。1 品目 1 列の単価表では、2 社目の単価は備考欄に追いやられ、比べるたびに探すことになる。
見積を採用しても、単価表が更新されない
相見積で 1 社を採用し、発注まで済ませても、単価表の更新は「後でやる」ことになりやすい。採用を決める人と、単価表を管理する人が別だと、なおさらである。次に同じ品目を発注する人は、古い単価表を見て、採用前の単価で発注書を作ってしまう。
一か所に集める手順
手順 1:品目と取引先の組を洗い出す
単価は品目ではなく、品目と取引先の組ごとにある。まず、直近 1 年程度の発注の実績から、実際に発注した品目と取引先の組を一覧にする。単価表に載っているが 1 年以上発注していない組は、いったん別の一覧に分けておく。集める対象を「いま使っている組」に絞るためである。
手順 2:3 つの出どころの値を並べる
組ごとに、直近の発注書の単価・単価表の単価・最新の見積の単価を並べる。一致していれば、その値を入れる。一致しなければ、どれが合意した値かを確かめる。並べてみると、次のような食い違いが出てくる。
| 品目と取引先 | 直近の発注書 | 単価表 | 最新の見積 | 判定 |
|---|---|---|---|---|
| ブラケット・A 社 | 1,150 円 | 1,150 円 | 1,150 円(1,000 個以上) | 一致。数量の前提も添えて入れる |
| ブラケット・B 社 | 1,180 円 | 記載なし(備考に「B 社も可」) | 1,180 円 | 一致。単価表に無かった組として新しく入れる |
| シャフト・A 社 | 820 円 | 780 円 | 860 円(回答期限内・未採用) | 不一致。合意した値を取引先と確認 |
| カバー・C 社 | 2,400 円(3 年前) | 2,400 円 | なし | 古い。次の発注の前に取引先と確認 |
3 行目のように、届いているが採用していない見積の値を、合意した単価として入れてはいけない。公正取引委員会と中小企業庁のテキストも、新しい単価の見積書を受け取った事実だけでは、単価の合意があったとは扱わないと明記している[1]。どこから新しい単価を使うかの線(引下げは合意後の発注から、など)は購買単価の持ち方で扱っている。
手順 3:根拠を結ぶ
入れる単価ごとに、根拠になった見積書の番号と日付、合意した日、交渉の記録があればその所在を添える。見積書そのものを単価の一覧にコピーする必要はない。見積書は電子取引のデータとして保存されているはずなので、一覧からそこへたどれれば足りる。
ここで、どの見積書を根拠にするかを決めておく。根拠として結ぶのは、取引先が正式に出した見積書か、合意した内容を確認し合った記録である。国税庁の電子帳簿保存法一問一答は、書き損じのあるもの、検討の段階で作った正式な見積の前の粗いもの、取引を望む会社が一方的に送ってきたものなどを、保存しなくてよいと考えられる見積書に挙げている[2]。これは保存の要否の話で、どれを単価の根拠にするかは自社で決めることだが、線の引き方の参考にはなる。メールの本文で回答された単価は、正式な見積書を出し直してもらうか、合意した内容を書面かメールで確認し合ってから入れる。
手順 4:古い置き場所を閉じる
新しい置き場所に入れ終えたら、旧の単価表は読み取り専用にして、更新しない。前回の発注書をコピーして次を作る運用もやめ、発注書は必ず単価の置き場所から作る。古い置き場所を閉じない限り、どちらかが必ず古くなる。どれが最新か分からない問題は購買のファイルの最新版問題で扱う。
見積を採用したとき、単価をどう残すか
集め終えたあとに崩れるのは、見積を採用したときである。採用と単価の更新を別々の作業にしておくと、更新が抜ける。次の 4 つを決めておく。
1. 採用と単価の更新を同じ手続にする。採用を決めた人が、その場で単価の置き場所を更新する。あるいは、採用の操作そのものが単価を更新する仕組みを使う。相見積の比較の仕方は相見積の比較表を Excel から移すに書いた。
2. 数量の前提ごと残す。見積に「1,000 個以上なら 1,150 円」「500 個なら 1,260 円」のように数量別の単価があるなら、採用した見積の数量の段をそのまま残す。単価だけを残すと、少量の発注に大量発注の単価を使うことになりかねない。
3. 複数の金額がある見積の扱いを決める。電子帳簿保存法の検索要件では、見積書の「取引金額」で検索できることが求められる。国税庁は、異なる取引条件に応じた複数の見積金額が記録された見積書について、最もシンプルな条件の金額、実際に発注することとなった金額、最も高額または低額の金額などのうち、自社で統一したルールを定めて説明できるようにしていればいずれを用いてもよいとし、課税期間の途中でルールを変えないよう求めている[2]。数量別の単価が並ぶ見積を日常的に受け取るなら、索引に入れる金額のルールを単価の運用と一緒に決めておく。
4. 変えた記録を残す。単価の置き場所を書き換えたら、変更前と変更後の値、変えた人、日時、根拠の見積を残す。取適法の対象取引では、7 条記録に代金の額を記録し、代金の額に変更があった場合は増減額とその理由を記録することになっている[1]。単価の置き場所の変更履歴は、この記録を作るときの元になる。財務報告の内部統制の実施基準も、IT に係る業務処理統制の例に「マスタ・データの維持管理」を挙げている[3]。単価は、まさにそのマスタ・データに当たる。
Excel のままでよい場合
品目と取引先の組が数十から百程度で、発注する人が 1 人なら、Excel の単価表 1 枚で足りる。そのかわり、次の 3 つを守る。単価表は 1 行を「品目×取引先」にし、1 品目 1 列にしない。根拠の見積書の番号と日付の列を持ち、見積書のファイル名を「日付_取引先_金額」のように統一しておく(国税庁は、ファイル名に取引年月日・取引金額・取引先を統一した順序で入れて検索要件を満たす方法を示している[2])。発注書は前回のコピーではなく、単価表から作る。
Excel では足りなくなる目安は、発注する人が複数いる、相見積の採用が月に何件も出る、数量別の単価を持つ品目が多い、取引先ごとの単価の推移を見て交渉したい、のどれかに当てはまったときである。過去の単価をすぐ引けるようにする方法は過去の単価と発注をすぐに引くに書いた。
よくある質問
同じ品目で、取引先ごとに単価が違うのは問題ですか
問題ではない。取引先ごとに条件(数量・納期・品質の保証範囲)が違えば、単価が違うのは自然である。大事なのは、どの取引先のどの条件の単価なのかが一緒に残っていることである。違いの理由が説明できない単価は、手順 2 で取引先に確かめる対象に入れる。
メールで回答された単価を、そのまま単価表に入れてもよいですか
合意したことが確認できれば入れてよいが、根拠としてはメールの本文より正式な見積書のほうがたどりやすい。少なくとも、そのメールを単価の根拠として結び、メールのデータを保存しておく。電子メールで受け取った取引情報は電子取引のデータとして保存の対象になる[2]。
3 年前の単価のままの品目があります。どうすればよいですか
次の発注の前に、取引先にいまもその単価でよいかを確認する。発注側から単価を見直さないまま古い単価で発注し続けることには、取適法の買いたたきの論点もある。考え方は購買単価の持ち方と買いたたきの記事を参照してほしい。
まとめ
取引先ごとの単価は、見積書・メール・単価表・前回の発注書・会計の明細に散らばりやすく、実際には前回の発注書のコピーが正になっていることが多い。一か所に集めるときは、品目と取引先の組を洗い出し、直近の発注書・単価表・最新の見積の値を並べ、一致しないものは取引先と確かめ、正式な見積書か、合意を確かめ合った記録を根拠として結び、古い置き場所を閉じる。見積を採用したら、その場で単価を更新し、数量の前提と根拠の見積と変更の記録を残す。組が少なく発注する人が 1 人なら、1 行を品目×取引先にした Excel の単価表で足りる。
出典・参考資料
- 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
- 電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】(国税庁/令和 7 年 6 月)
- 財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準(金融庁 企業会計審議会/令和 5 年 4 月 7 日改訂)
- 労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針(内閣官房・公正取引委員会/令和 5 年 11 月 29 日・令和 8 年 1 月 1 日改正)
- JIS Z 8141:2022 生産管理用語(日本産業標準調査会 JIS 検索で閲覧/2022 年 3 月 22 日改正)
見積の採用と、取引先別の単価の更新をひとつの操作で
Newji one は、製造業の見積依頼から発注までを扱う見積・発注クラウドです。この記事で扱った項目のうち、Newji one では品目ごとに取引先別の単価・リードタイム・最小発注数・ロットを持てます。見積依頼の回答を採用すると、その取引先の単価などと品目の仕入単価が更新され、変更履歴が残ります。数量別単価は品目単位で 1 組だけ持つもので、取引先別には持ちません。採用した回答に数量別単価があればその内容に入れ替わり、無ければ前に登録されていた分(以前の採用分や手で入れた分)がそのまま残るため、直近に採用した取引先の単価と食い違うことがあります。採用できるのは 1 つの見積依頼につき 1 社です。単価に有効期間を付ける機能はなく、発注を作るときに自動で入る単価は品目の仕入単価で、取引先別の単価からは入りません。
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