値上げ・値下げの経緯をどう残すか——申し入れから適用日まで 1 件 1 行で記録する | newji
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投稿日:2026年10月2日

値上げ・値下げの経緯をどう残すか——申し入れから適用日まで 1 件 1 行で記録する

この記事のポイント(結論先出し)

表計算の単価表は「いま有効な値」しか持てず、値上げ・値下げの経緯はメールと担当者の記憶に散らばる。経緯は単価表とは別に、申し入れ・回答・合意・適用を 1 件 1 行の出来事として並べる記録にすると、後から「前回いつ、なぜ、いくら変えたか」に答えられる。取適法は 2026 年 1 月から、協議に応じない一方的な代金の決定を禁じており、従来の単価を引き上げた見積書が届いただけでも協議の求めに当たりうるので、見積書の値上がりも 1 件の申し入れとして記録しておく。表計算から移すときは過去を作り込まず、移行日の値を起点に、直近の改定と協議中の案件だけを遡って起こす。

経緯は、いまどこに散らばっているか

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表計算で単価を管理している会社では、品目と取引先の組み合わせごとに「現単価」の列があり、改定があるとその値を書き換える。几帳面な担当者は「旧単価」「改定日」の列を足しているが、2 回目の改定が来れば旧単価も上書きされる。残るのは直前の 1 回分だけである。

では、なぜその値になったのかはどこにあるか。仕入先から届いた申し入れの文書はメールの添付に、打合せの内容は担当者の手帳か個人のフォルダに、社内の決裁は回覧の紙に、それぞれ別々に置かれている。担当者が替わった瞬間に、単価の数字は残っても、その数字を説明できる人がいなくなる。

この記事は、その散らばった経緯をどう 1 か所に並べるかを扱う。単価そのものをどの項目で持つか(数量帯・有効期間・税の区分など)は購買単価の持ち方で、値上げの申し入れが来たときに何をどの順で確かめ、どう回答するかは仕入先から値上げの申し入れが来たらで扱っている。ここではその間をつなぐ「出来事の記録」に絞る。

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経緯が残っていないと困る 3 つの場面

次の協議で、出発点が説明できない

次に値上げの申し入れが来たとき、比べる起点は前回単価を決めたときの前提である。前回、材料費の上昇分だけを認めたのか、労務費も含めたのか、一部を見送ったのか。それが分からなければ、今回の申し入れのどこが新しい要素なのかを切り分けられない。

協議に応じたかどうかを問われる

2026 年 1 月施行の取適法第 5 条第 2 項第 4 号は、費用の変動などの事情を受けて中小受託事業者が代金の額の協議を求めたのに、委託事業者がその協議に応じなかったり、求められた事項の説明や情報を示さなかったりして、代金の額を一方的に決めることを禁じている[1]。公正取引委員会のテキストは、この「決定」には代金を引き上げることや引き下げることのほか、据え置くことも含まれると書いている[1]。

さらにテキストは、協議を求めたかどうかについて、書面か口頭かを問わず、協議を希望する意図が客観的に認められる場合を含むとし、その例として、中小受託事業者が従来の単価を引き上げて計算した見積書等を提示した場合を挙げている[1]。必要な説明や情報の提供をしたかどうかは、求められた事項、それに対して示した内容とその合理性、協議経過等を勘案して総合的に判断するとされている[1]。つまり、後から判断の材料になるのは「いつ、何を求められ、何を示したか」という経過そのものである。

担当が替わると、交渉が振り出しに戻る

労務費の転嫁に関する価格交渉の指針(内閣官房・公正取引委員会)は、取引の双方が採るべき行動として、価格交渉の記録を作成し、双方で保管することを挙げている。理由の 1 つとして、人事異動があっても記録があれば次回以降の交渉をスムーズに始められる点を挙げている[3]。

公正取引委員会の「令和 7 年度価格転嫁円滑化の取組に関する特別調査」では、通常調査で発注者の立場で回答した事業者のうち、交渉記録を作成・保管したと回答した割合は 27.2% だった[4]。同じ調査は、事業者名を公表された発注者が、取引価格を据え置く場合は据置きの理由を記録の残る方法で受注者に回答することをルール化し、価格協議の内容を統一フォーマットで記録・保管していた、とも報告している[4]。

単価表と、経緯の記録を分ける

経緯を単価表の列に押し込もうとすると、列がいくらあっても足りない。2 つは役割が違うので、別の表にする。

観点 単価表 経緯の記録
1 行が表すもの 1 つの合意(品目×取引先×条件×期間) 1 つの出来事(申し入れ・回答・合意・適用など)
行が増えるとき 新しい単価が合意されたとき 相手か自社が何かをしたとき(結論が出ていなくても)
1 回の改定で増える行 品目ごとに 1 行 申し入れ・合意・適用の 3 行以上(回答や協議が挟まればその分増える)
主に見る人 発注を作る人 次に協議する人・決裁する人・引き継ぐ人
消してよいか 消さずに有効期間で閉じる 消さない。誤記は訂正の行を足す

単価表に残すのは結果だけで、そこに至る道筋は経緯の記録に置く。単価表の各行には「この値を決めた合意の記録はどれか」を引ける番号だけ持たせておけば、両方を行き来できる。

出来事の 1 行に持たせる項目

経緯の記録は、日付順に並べたときに一連の流れとして読めることが大事である。1 行に持たせる項目は次のとおり。

項目 書くこと 抜けると起きること
日付 その出来事があった日(記録した日ではない) 回答までに何日かかったかが分からない
案件番号 1 回の申し入れに 1 つ。同じ案件の行をまとめる 別々の改定の行が混ざる
取引先・品目 対象。多品目なら品目ごとに行を分けるか、明細を添付する 一部の品目だけ見送った事実が消える
出来事の種類 申し入れ受付・資料の受領・回答・合意・適用・見送り・保留・こちらからの要請・移行時点の値(記録を始めた日の起点) 「協議中」か「終わった」かが読めない
金額 申し入れの額(率)と、合意した額。旧単価も書く 満額か一部かが分からない
理由の区分と説明 材料費・労務費・エネルギー・為替・数量の変化など。見送り・一部受入れの理由はここ 次の協議で同じ説明を繰り返す
適用の起点 何日の発注から、またはどの納入分から新単価か 発注済みの分にどちらの単価を使うか揉める
証拠の置き場所 申し入れ書・見積書・議事メモ・回答メールのファイル名や保存先 記録の根拠を後から出せない
担当(自社・相手) その出来事に関わった人 誰に確かめればよいか分からない

種類の欄は、自由記述にせず決まった言葉から選ばせる。後で「回答が済んでいない申し入れ」を一覧にするとき、言葉が揃っていないと拾えない。

見積書の単価が上がっていたら、それも申し入れとして 1 行

表計算の運用で抜けやすいのが、改定の申し入れ書という形をとらない値上がりである。定期の見積を取り直したら前回より高い単価が書かれていた、という場面は珍しくない。先に見たとおり、テキストは従来の単価を引き上げて計算した見積書等の提示を、協議を希望する意図が客観的に認められる例に挙げている[1]。

この見積書を「高いので今回は従来の単価で発注した」とだけ処理すると、相手から見れば協議を求めたのに一方的に据え置かれた形になりかねない。見積書の単価が上がっていたら、受け取った日を申し入れ受付として 1 行起こし、何を確かめ、どう回答したかを続けて記録する。見積の比較の段階で値上がりを見落とさない仕組みは取引先ごとの単価を一か所で持つで扱う。

逆方向も同じである。テキストは、委託事業者が代金の引下げを要請する場合に、中小受託事業者が説明を求めたのに具体的な理由の説明や根拠資料の提供をせずに引き下げた額を示すことも、一方的な決定の例に挙げている[1]。自社から値下げを求めた場合も「こちらからの要請」として 1 行を起こし、示した理由と資料を証拠の欄に書く。

合意と適用は、別の行にする

合意した日と、新単価を使い始める日は一致しないことが多い。値上げなら翌月 1 日から、値下げなら合意後に出す発注から、というように起点が決まる。単価表の上書きで管理していると、この差が消えて「いつから変わったのか」が曖昧になる。

取適法の対象になる製造委託では、発注ごとの記録(7 条記録)に代金の額を残し、その額に変更があった場合は増減額とその理由を記録することとされている(記録規則第 1 条第 1 項第 5 号)[2]。記録は事実が生じたときに速やかに行うこととされ(同第 2 条第 1 項)、電磁的記録で残す場合は、訂正や削除をしたときにその事実と内容を確認できることなどの要件がある(同第 2 条第 3 項)[2]。改定の経緯の表そのものは記録規則の記録事項ではないが、発注済みの注文の代金を変えたときは、その注文の記録に増減額と理由が要る。経緯の記録の「適用」の行から、影響を受けた注文を引ける形にしておくと、7 条記録の理由欄を書くときに迷わない。発注後の変更をどう記録するかは発注後の数量・納期の変更を記録に残すも参照してほしい。

メールで届いた申し入れ書と見積書の保存

申し入れ書や見積書をメールで受け取った場合、それは電子帳簿保存法の電子取引に当たる。国税庁の一問一答は、取引情報を注文書・契約書・送り状・領収書・見積書その他これらに準ずる書類に通常記載される事項とし、電子メールで授受する取引(添付ファイルによる場合を含む)を電子取引の例に挙げている[5]。正式な見積書前の粗々なものや一方的に送られてくる見積書などは保存の必要はないものと考えられる、ともしている[5]。

単価だけを定める申し入れ書や単価契約の見積書には、取引金額が書かれていないことがある。一問一答は、記載すべき金額がない電子取引データについて、検索要件の取引金額を空欄又は 0 円としてよいとしたうえで、空欄にするなら、空欄のデータを条件にして検索できる状態にしておく必要があるとしている[5]。経緯の記録の「証拠の置き場所」に保存先を書いておけば、保存した電子データと経緯の行がつながる。

表計算から移すときの手順

経緯の記録をこれから作る会社が最初にぶつかるのは、「過去の分をどこまで遡って作るか」である。全部を作り直そうとすると、メールを何年分も掘り返すことになり、途中で止まる。次の順で進める。

1. 移行日の単価を「起点」の行として登録する
品目×取引先ごとに、移行日の時点で有効な単価を 1 行ずつ、種類「移行時点の値」として入れる。過去の経緯が分からない行は、分からないとそのまま書く。推測で埋めない。

2. 協議中の案件を必ず起こす
回答していない申し入れ、保留にしている案件は、受け付けた日まで遡って行を作る。ここを落とすと、移行のせいで回答が止まる。

3. 直近 1 回の改定だけ遡る
品目×取引先ごとに、前回の改定日・理由・根拠をメールと回覧から拾う。次の協議の出発点として必要なのはまずこの 1 回である。

4. それより前は、必要になったときに起こす
古い改定は、その取引先と協議する前に調べて足せばよい。表計算の旧ファイルは消さずに保存し、経緯の記録から保存先を引けるようにする。

5. 並行期間の書き手を 1 人に決める
単価表と経緯の記録の両方を更新する期間は、改定ごとに「誰が両方を書くか」を決めておく。片方だけ更新された状態が、移行の失敗としていちばん多い。表計算のファイルの版が分からなくなる問題はどれが最新のファイルか分からない問題で扱う。

記録があれば答えられるようになる問い

経緯を出来事の行で持っておくと、表計算の単価表では答えられなかった問いに、絞り込みと並べ替えだけで答えられるようになる。

  • この品目のこの取引先の単価は、前回いつ、いくらから、なぜ変わったか
  • 直近の 1 年で、申し入れを受けてから回答するまでに何日かかっているか
  • 見送った・一部だけ受け入れた案件と、その理由
  • いま回答していない申し入れはいくつあり、それぞれ何日たっているか
  • 同じ理由(たとえば電力料金)で、複数の取引先から申し入れが来ていないか

最後の問いは、個別の協議では見えにくい。同じ時期に同じ理由の申し入れが重なっていれば、公表されている指標で根拠をまとめて確かめられる。過去の購入単価と届いた見積を比べるときの注意は届いた見積を過去の購入単価と比べるにある。

表計算のままでよい場合

取引先が数社で、改定が年に 1、2 回しか起きず、担当が 1 人で全部を見ている会社なら、表計算のシートを 1 枚足して出来事を 1 行ずつ書くだけで足りる。大事なのは道具ではなく、単価表と経緯を分け、出来事を消さずに足していくことである。表計算で続けるなら、シートの保護と変更履歴の保存を設定し、行を上書きせずに足す約束を担当者の間で決めておく。

よくある質問

電話で値上げの話をされました。記録しておくべきですか

記録する。協議の求めは書面か口頭かを問わないとされている[1]。電話を受けた日を申し入れ受付として 1 行起こし、こちらからはメールで受け付けた旨を返して記録が残るようにする。指針には、口頭での要請に対しても必ずメールで回答して双方に記録が残るようにしている、という発注者の事例が載っている[3]。

申し入れを全部受け入れた場合も、細かく記録する必要がありますか

申し入れ・合意・適用の 3 行で足りる(満額で受け入れるなら、回答は合意の行が兼ねる)。満額で受け入れた案件は、次の協議の出発点として「この時点で、この理由の上昇分は認めた」という事実が役に立つ。見送りや一部受入れのときは、理由の欄を厚く書く。

単価表に旧単価の列を 3 つ足せば、経緯の記録の代わりになりますか

ならない。値は残っても、誰がいつ何を求め、何を示したかが残らない。協議したかどうかを後から説明するのに必要なのは、値の並びではなく出来事の並びである。

記録は取引先とも共有すべきですか

指針は、価格交渉の記録を作成し発注者と受注者の双方で保管することを求めている[3]。打合せの議事メモは相手に送って確認してもらい、確認済みの版を証拠として保存しておくと、認識のずれが後から問題になりにくい。

まとめ

単価表は結果を持ち、経緯の記録は道筋を持つ。表計算の単価表を上書きしていくと、結果だけが残って道筋が消え、担当が替わったときに「なぜこの単価なのか」を誰も説明できなくなる。経緯は申し入れ・回答・合意・適用を 1 件 1 行の出来事として並べ、見積書の値上がりや電話での申し入れも受け付けた日から記録する。合意と適用は別の行にして、発注済みの注文の代金を変えたときはその注文の記録に増減額と理由を残す。表計算から移すときは、移行日の値を起点にし、協議中の案件と直近 1 回の改定だけを遡れば始められる。

出典・参考資料

  1. 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
  2. 製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第七条の書類等の作成及び保存に関する規則(e-Gov 法令検索(デジタル庁))
  3. 労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針(内閣官房・公正取引委員会/令和 5 年 11 月 29 日・令和 8 年 1 月 1 日改正)
  4. 「令和7年度価格転嫁円滑化の取組に関する特別調査」の結果について(公正取引委員会/令和 7 年 12 月 15 日)
  5. 電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】(国税庁/令和 7 年 6 月)

単価が変わった経緯を、品目ごとに履歴として残す

この記事で扱った項目のうち、Newji one では次のことができます。値上げ・値下げを、理由(原材料費・為替・定期見直しなどの区分と説明)と適用日を付けた単価改定として起票し、取引先が品目ごとに承認・却下・保留で回答します。承認された単価は適用日に取引先別の単価へ反映され、変更前後の単価・理由・変更した人が価格変動履歴に残り、CSV で書き出せます。見積依頼の回答を採用して単価が変わった場合も、見積依頼の番号付きで同じ履歴に残ります。なお、単価改定の依頼に回答できるのは Newji one を使っている取引先だけで、依頼は画面の通知で届き、メールは送られません。単価改定の起票は管理者が行い、適用で変わるのは取引先別の単価で、発注作成時に入る品目の仕入単価は変わりません。

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