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投稿日:2026年8月28日 | 更新日:2026年8月31日

下請法は取適法になった——2026 年 1 月改正で変わった 7 つのこと

この記事のポイント(結論先出し)

下請法は 2026 年 1 月 1 日に取適法(中小受託取引適正化法)へ変わった。改正されたのは名称と用語だけではない。適用基準に従業員数が加わり、対象取引に運送が加わり、手形払が禁じられ、価格協議に応じないこと自体が禁止行為になった。条文番号も動いており、これまで 3 条書面と呼んでいた発注書は第 4 条の明示、5 条書類と呼んでいた記録は第 7 条の記録になっている。適用されるのは2026 年 1 月 1 日以降に行った発注で、それ以前の発注は旧法のままである。社内規程と発注システムの文言を、どの発注日から切り替えるかで決めていくのが現実的な進め方になる。

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根拠になっているのは「下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律」(令和 7 年法律第 41 号)である。令和 7 年 5 月 16 日に成立し、同月 23 日に公布された[1]。施行期日は令和 8 年(2026 年)1 月 1 日で、同日以降に行う製造委託等について適用される[1]

改正の議論をしていたのは、公正取引委員会と中小企業庁が共同で開いた「企業取引研究会」(座長は神田秀樹東京大学名誉教授)である。令和 6 年 7 月から 12 月にかけて計 6 回開かれ、同年 12 月 25 日に報告書が取りまとめられた[4]。出発点にあったのは、労務費・原材料費・エネルギーコストの上昇分を取引価格に反映させる「構造的な価格転嫁」を定着させるという政策目標で、協議に応じない一方的な価格決定のような商慣習を規制の対象に取り込むことが狙いとされている[4]

名称と用語がすべて置き換わった

法律の題名は「下請代金支払遅延等防止法」から「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」に改められた[2]。長いので、略称として「中小受託取引適正化法」、通称として「取適法」が用いられる[1]。e-Gov 法令検索でも、法令番号は昭和 31 年法律第 120 号のまま題名だけが新しいものに置き換わっている[6]

取引当事者の呼び方も変わった。発注する側は「親事業者」から「委託事業者」へ、受注する側は「下請事業者」から「中小受託事業者」へ、代金は「下請代金」から「製造委託等代金」へ改められている[2]。社内規程や発注書のひな形に旧用語が残っていると、どの時点の法令に基づいた書式なのかが読み手に伝わらない。

旧法での呼び方 取適法での呼び方 条番号
親事業者 委託事業者 第 2 条第 8 項
下請事業者 中小受託事業者 第 2 条第 9 項
下請代金 製造委託等代金
3 条書面(発注書面) 4 条明示(発注内容等の明示) 第 4 条
5 条書類(取引記録) 7 条記録(書類等の作成・保存) 第 7 条
4 条(禁止行為) 5 条(禁止事項) 第 5 条第 1 項・第 2 項
7 条(勧告) 10 条(勧告) 第 10 条

条番号が動いたことで実務に影響が出るのは、契約書や社内マニュアルの引用箇所である。「下請法 3 条書面」と書いてある文書は、そのままでは現行法のどの規定を指すのか追えなくなる。発注書に明示すべき 12 項目は中身が大きく変わったわけではないが、根拠条文の書き換えは必要になる。現行法でどの条文が何を求めているのかは、取適法の全体像に一覧で置いた。

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適用の入口が広がった——従業員基準の新設

旧法では、発注側と受注側の資本金の組み合わせだけで適用の有無が決まっていた。取適法は、これに加えて常時使用する従業員の数による区分を新設した。製造委託・修理委託・特定運送委託と、政令で定める情報成果物作成委託・役務提供委託については 300 人、それ以外の情報成果物作成委託・役務提供委託については 100 人が境目になる[2]

なぜ従業員数が加わったのか。公正取引委員会は、資本金は意図的に操作が可能であり、事業規模は大きいのに減資によって適用対象から外れる例や、受注者側に増資を求めて対象外にする例があったことを挙げている[3]。規模の実態と、規模を示す数字が離れていたということである。

⚠️ ここで誤解が起きやすいのは、資本金基準と従業員基準の関係である。条文上、従業員基準は資本金基準が適用されない場合に適用されるという構造になっており、二つの基準が並列に置かれているわけではない[1]。資本金で判定して該当するなら、そこで判定は終わる。数え方や判定の時点まで含めた手順は対象かどうかの判定手順にまとめた。

対象取引に運送が加わった

取適法は「特定運送委託」という取引類型を新設した(第 2 条第 5 項)。販売・製造請負・修理請負・情報成果物作成請負の目的物を、その取引の相手方に引き渡すための運送を他の事業者に委託する取引である[6]

旧法でも、元請運送事業者から下請運送事業者への運送委託は役務提供委託として対象だった。対象外だったのは、荷物を出す側(発荷主)が元請の運送事業者に委託する部分である。ここが規制の外にあったため、立場の弱い物流事業者が荷役や荷待ちを無償で行わされるという問題が顕在化していた[3]

注意したいのは、運送であれば何でも対象になるわけではない点である。自社の工場から自社の物流センターへ運ぶような拠点間の輸送は、通常「取引の相手方に対する運送」とはいえず特定運送委託に当たらない[1]。どこまでが対象の運送かを含め、どの取引類型に当たるかで 5 類型の線を引いてある。

製造委託の対象物品に、金型以外の型等が加わった

旧法で製造委託の対象に入っていた型は金型だけだった。取適法では、条文が「金型、木型その他の物品の成形用の型若しくは工作物保持具その他の特殊な工具」となり、木型・砂型・樹脂製の型、治具、切削工具といった特殊な工具まで広がった[6]。いずれも、目的物の製造に専ら用いられるものであることが条件になる[1]

この改正は、型そのものの製造を委託する取引を対象に取り込むものである。すでに納めた型の保管費用や、支給を受けた型の扱いについては別の論点で、有償支給材と金型代の扱いに整理した。

電磁的方法による発注に、相手の承諾が要らなくなった

旧法では、発注内容を電子メール等で明示するには、あらかじめ受注側の承諾を得る必要があった。取適法では、中小受託事業者の承諾の有無にかかわらず電磁的方法による明示が可能になっている[2]

ただし義務が軽くなったわけではない。電磁的方法で明示した場合でも、中小受託事業者から書面の交付を求められたときは、遅滞なく書面を交付しなければならない(第 4 条第 2 項)[1]。しかもこの交付義務は、明示義務そのものと同じく50 万円以下の罰金の対象になっており、代表者や担当者個人と法人の双方が罰せられる両罰規定である[1]。電子で送りっぱなしにできる、という理解は誤りになる。使える送信の方法と、書面を求められたときの手当ては発注内容の電磁的方法による明示に整理した。

禁止行為が 2 つ増えた

協議に応じない一方的な代金決定の禁止

第 5 条第 2 項第 4 号として新設された。費用の変動その他の事情が生じた場合に、代金の額に関する協議を求められたにもかかわらず、協議に応じず、あるいは求められた事項について必要な説明や情報提供をせずに、一方的に代金の額を決める行為である[1]。公正取引委員会は、明示的に協議を拒む場合だけでなく、協議の求めを無視する、協議を繰り返し先延ばしにして実施を困難にさせる場合も違反になるとしている[5]。据え置きも「決定」に含まれるという運用は、実務への影響が大きい。詳しくは買いたたきと協議応諾義務で扱った。

手形払等の禁止

手形による支払は、支払遅延(第 5 条第 1 項第 2 号)に該当する行為として禁じられた[5]。旧法ではサイトが 60 日を超える手形が禁止されていたが、取適法は手形払そのものを認めない[3]。公正取引委員会の説明資料は、受領日から支払日まで 60 日、そこから手形サイト 60 日で現金を受け取るまで 120 日かかっていた状態を 60 日に縮める改正だと図解している[4]。支払期日の数え方そのものは支払期日 60 日と遅延利息に整理してある。

電子記録債権やファクタリングは、一律に禁じられたわけではない。判定の分かれ目は満期日・決済日が支払期日より前か後かである[4]

支払手段 旧法(2025 年 12 月 31 日まで) 取適法(2026 年 1 月 1 日から)
手形 サイト 60 日超が禁止 交付そのものが支払遅延に該当
電子記録債権・一括決済(満期日が支払期日以前) 利用可 利用可。ただし支払不能等で金銭と引き換えられなければ違反
電子記録債権・一括決済(満期日が支払期日より後) サイトの制限内なら可 不可。割引料を発注側が負担しても不可
振込手数料の受注者負担 書面合意があれば実費の範囲内で控除可 合意の有無にかかわらず減額に該当

振込手数料の扱いは、条文ではなく運用基準の変更である。旧運用では受注者が負担する旨の書面合意があれば実費の範囲内で差し引けたが、取適法では合意があっても差し引けば減額に当たる[1][5]。決済に伴って一時的に受取手数料が生じる場合でも、あらかじめ書面等で合意したうえで支払期日までに委託事業者がその分を補填し、受注側が満額の現金を受け取れる状態になっていれば問題にならない[5]。支払時に差し引いている項目が減額に当たるかどうかの線は、代金の減額に当たるのはどこからかで扱っている。

省庁の関わり方も変わった

旧法では、事業を所管する省庁には調査権限しかなかった。取適法では、事業所管省庁の主務大臣に指導・助言の権限が付与され、あわせて報復措置の禁止に係る申告先にも事業所管省庁の主務大臣が加わった[3]。公正取引委員会・中小企業庁・事業所管省庁の三者が、必要な限度で相互に情報を提供できる規定も新設されている[1]。窓口が増えたぶん、違反が表に出る経路も増えたことになる。

施行日をまたぐ発注をどう扱うか

改正法の附則第 2 条は、施行前にした行為には新しい規定を適用しないと定めている。具体的には、金型を除く型や工具の製造に係る製造委託、特定運送委託、従業員基準によって委託事業者に当たる者による製造委託等のうち、施行前に行われたものには取適法は適用されない[1]。さらに、第 4 条(明示)・第 5 条(禁止事項)・第 6 条第 2 項(減額の遅延利息)・第 10 条(勧告)は施行後にした製造委託等について適用し、施行前の発注については従前の例によるとされている[1]

実務上は、発注日を基準に旧法と取適法を切り分けることになる。2025 年 12 月中に発注し 2026 年 2 月に納品・支払を迎える取引は、旧法の枠組みで処理される。逆に、2026 年 1 月 1 日以降の発注は、たとえ継続的な単価契約の下での個別発注であっても取適法の対象になる。単価契約書の締結日ではなく、個々の発注の日で見る点に注意したい。

なお附則第 6 条は、施行後 5 年を目途として施行状況を勘案し、必要があれば改正後の規定について検討を加えると定めている[1]。今回の内容が長く固定されるとは限らない。

切り替えの順序

第一に、支払手段を確認する。手形払と、満期日が支払期日より後に来る電子記録債権は使えない。振込手数料の控除も止める。ここは合意書があっても救われないため、最優先で止める必要がある。

第二に、取引先の一覧を洗い直す。資本金では対象外だった取引先が、従業員基準で対象に入っている可能性がある。特に、受注側の従業員数が 300 人前後で変動する相手は要注意になる。新規仕入先を審査するときに確認項目として組み込んでおくと、後から遡って調べる手間がなくなる。

第三に、運送の発注を棚卸しする。これまで購買部門の管理外にあった出荷側の運送委託が、対象取引に入っている場合がある。

第四に、協議の受け口を決める。値上げの申し出がどの部署に届いても同じ窓口に集まり、期限内に回答が返る形にする。協議に応じない状態が、それ自体で禁止行為になったためである。

よくある質問

法律名が変わっただけで、中身は同じではないのですか

違う。公正取引委員会の説明資料は、今回の改正を用語の見直しと規制の見直しの二本立てで整理しており、規制の見直しとして協議に応じない一方的な代金決定の禁止、手形払等の禁止、運送委託の対象取引への追加、従業員基準の追加、面的執行の強化の 5 項目を挙げている[4]

2025 年 12 月に結んだ基本契約はどうなりますか

契約の締結日ではなく、個々の製造委託等をした日で判断される。附則第 2 条第 2 項は、施行後にした製造委託等について新法を適用し、施行前にしたものは従前の例によると定めている[1]。基本契約が旧法下のものであっても、2026 年 1 月以降の個別発注には取適法が適用される。

相手が了解していれば手形で払ってよいですか

よくない。取適法の禁止事項は、中小受託事業者の了解を得ていても、また委託事業者に違法性の意識がなくても、規定に触れれば違反になるという構造になっている[1]

取適法違反はどのくらい摘発されているのですか

公正取引委員会が令和 8 年 6 月 10 日に公表した令和 7 年度の運用状況によると、勧告件数は 39 件、指導件数は 8,261 件だった。違反行為類型の内訳は不当な経済上の利益の提供要請が 31 件、代金の減額が 6 件、返品が 6 件、不当な給付内容の変更等が 1 件、買いたたきが 1 件である[7]。同年度には委託事業者 177 名から中小受託事業者 5,165 名に対し、総額 25 億 5,698 万円相当の原状回復が行われている[7]

電磁的方法での発注に切り替えたら、書面は一切要りませんか

要る場合がある。中小受託事業者から書面の交付を求められたときは、遅滞なく交付しなければならない[1]。求めがあったときに出せる形にしておく必要がある。

実務で起きやすい不備

社内規程の条番号が旧法のまま残る。「下請法第 3 条に基づき発注書を交付する」という記述は、現行法では第 4 条の明示に当たる。監査で照合が取れなくなる。

支払手段の変更が経理部門で止まる。手形の廃止は経理の判断で進むが、発注書に記載する支払方法は購買が管理している。両方を同時に直さないと、発注書に手形払と書いたまま現金で払う状態になり、明示内容と実際の支払が食い違う。

適用対象の見直しを資本金だけで済ませる。従業員基準が加わったことに気づかないと、対象外と整理していた取引先がそのまま放置される。

運送の発注が誰の管理下にもない。出荷側の運送委託は物流部門や営業部門が個別に手配していることが多く、発注内容の明示や支払期日の管理が購買のルールから外れている場合がある。

まとめ

2026 年 1 月 1 日の取適法施行で変わったのは、名称・用語・条番号に加えて、適用の入口(従業員基準と特定運送委託と型等の追加)、発注の方法(電磁的方法の承諾不要化)、支払の手段(手形払等と振込手数料)、そして価格協議への態度、そして執行の体制(事業所管省庁への指導・助言権限の付与と、報復措置の申告先の追加)(協議に応じない一方的な代金決定の禁止)である。

切り替えの基準は発注日である。2026 年 1 月 1 日以降にした発注から新しい規定が適用され、それ以前の発注は旧法の枠組みで処理される。どの発注がどちらの規律に属するかを後から示せるよう、発注日と発注内容が記録として残っている状態を作っておくことが、この改正への一番地味で確実な備えになる。

出典・参考資料

  1. 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
  2. 2026年1月から「下請法」は「取適法」へ!(取適法リーフレット)(公正取引委員会)
  3. 取適法・振興法(公正取引委員会)
  4. 2026年1月施行! 下請法は取適法へ 改正ポイント説明会 公正取引委員会説明資料(公正取引委員会・令和 7 年 8 月 21 日 東京開催)
  5. トリテキ法の注意ポイント ー 代金編 ー(委託事業者向け)(公正取引委員会)
  6. 製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(e-Gov 法令検索/昭和 31 年法律第 120 号)
  7. 令和 7 年度における取適法の運用状況及び中小事業者等の取引適正化に向けた取組(公正取引委員会/令和 8 年 6 月 10 日)

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