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発注はメールで出してよい——電子化の条件が変わった

この記事のポイント(結論先出し)
2026 年 1 月に施行された取適法で、発注条件の渡し方が変わった。中小受託事業者の承諾がなくても、電子メールなどの電磁的方法で明示できるようになった点が改正の目玉のひとつである。認められる方法は、受信する相手を特定して送る電気通信と、記録媒体の交付の 2 つ。メール、EDI、メッセージ機能のほか、電磁的記録をファイルに記録する機能を持つ FAX への送信も含まれる。一方、受信と同時に紙が出てくる FAX への送信は電磁的方法ではなく「書面の交付」として扱われる。ただし電子で送った後に相手から書面を求められたら、原則として遅滞なく交付する義務が残る。
目次
承諾を取る手順がなくなった
取適法(中小受託取引適正化法)の第 4 条第 1 項は、製造委託等をした場合は直ちに、給付の内容、代金の額、支払期日、支払方法その他の事項を、書面または電磁的方法により明示しなければならないと定めている[1]。電磁的方法とは、電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって公正取引委員会規則で定めるものを指す[1]。
この条文の書きぶりが、2026 年 1 月の施行で実務を変えた。公正取引委員会のリーフレットは改正事項の一覧で、書面交付義務について中小受託事業者の承諾の有無にかかわらず電子メールなどの電磁的方法とすることが可能になると説明している[2]。従来は電子で出すこと自体に相手の承諾が必要で、承諾を取れていない取引先には紙を出す、という二重の運用が生まれていた。その前提が外れた。
| 場面 | 2025 年 12 月まで | 2026 年 1 月以降 |
|---|---|---|
| 電子で出す前提 | 相手の承諾が必要 | 承諾の有無を問わず可能 |
| 承諾を取っていない取引先 | 紙で交付 | 電子で明示してよい |
| 後から書面を求められたとき | 交付する | 遅滞なく交付する(例外あり) |
| 明示する項目の数 | 渡し方では変わらない | 渡し方では変わらない |
誤解しやすいのは最後の行である。渡し方が電子になっても、明示しなければならない項目そのものは減らない。項目の中身は発注書の 4 条明示 12 項目で整理している。この記事が扱うのは、その 12 項目をどう渡すかだけである。
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認められる 2 つの方法
公正取引委員会と中小企業庁のテキストは、明示事項を記録した電磁的記録を電磁的方法で提供する場合の方法を 2 つに分けて示している[1]。改正ポイント説明会の資料でも同じ 2 分類が示され、それぞれ明示規則第 2 条第 1 項第 1 号、第 2 号に対応するとされている[3]。
ひとつは、電子メールその他のその受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信を送信する方法である。電子メール、EDI のほか、ショートメッセージサービスやソーシャルネットワーキングサービスのメッセージ機能など、受信者を特定して送信することのできる電気通信を送信する方法がこれに当たる[1]。
もうひとつは、電磁的記録を記録した記録媒体を交付する方法である。明示事項を記録した電子ファイルのデータを保存した USB メモリや CD-R などを相手に渡す方法が該当する[1]。
どちらの方法でも共通の条件がある。明示事項が、相手方の使用に係る電子計算機、つまりコンピュータやスマートフォンの映像面に文字、番号、記号その他の符号で明確に表示されるものでなければならない[1]。読めない形式で送れば、送ったことにならない。
該当する送り方の例
テキストは、1 つ目の方法に該当する具体例を 4 つ挙げている[1]。
ひとつ目は、明示事項を記録した電子ファイルを添付して、相手方の指定するメールアドレス宛てにメールを送信する方法。もっとも一般的な形で、注文書の PDF を添付するやり方がここに入る。
ふたつ目は、第三者が閲覧できないメッセージ機能を使い、明示事項を記録したメッセージを相手方宛てに送信する方法。閲覧範囲が限定されていることが条件になる。
みっつ目は、明示事項の一部を掲載したウェブページをあらかじめ設けておき、他の明示事項とともにそのページの URL を記載してメールで送る方法。発注ポータルを持っている会社は、この形になることが多い。
よっつ目は、明示事項を記載した書面等を、電磁的記録をファイルに記録する機能を有する相手方の FAX へ送信する方法。FAX が電磁的方法として認められるのは、この条件を満たす場合に限られる。
逆に該当しないものも明示されている。相手方がインターネット上に開設しているブログやウェブページへの書き込みのように、特定の個人がその入力する情報を第三者に閲覧させることに付随して情報を伝達できる機能が提供されるものは、受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信を送信する方法には含まれない[1]。公開の場に書き込む形は、相手に届いていても明示にならない。
FAX は 2 つに分かれる
ここが今回いちばん実務に効く切り分けである。テキストには注記が付いていて、受信と同時に書面により出力される FAX へ送信する方法は「書面の交付」による明示に該当すると書かれている[1]。
つまり、同じ FAX 送信でも、相手の受信機がどういう機械かで法律上の位置づけが変わる。受信データをファイルとして保持できる複合機やインターネット FAX に送れば電磁的方法、紙が出てくるだけの機械に送れば書面の交付になる。あわせて注記では、電子計算機とは内部に CPU やメモリーを有し、電気通信回線を通じて電磁的記録を受信できるものと定義されている[1]。
| 送り方 | 法律上の位置づけ | 後から書面を求められたら |
|---|---|---|
| メールに注文書を添付 | 電磁的方法 | 原則として遅滞なく交付 |
| EDI で送信 | 電磁的方法 | 原則として遅滞なく交付 |
| 記録機能を持つ FAX へ送信 | 電磁的方法 | 原則として遅滞なく交付 |
| 受信と同時に紙が出る FAX へ送信 | 書面の交付 | 既に交付済みとして扱える |
| USB メモリで渡す | 電磁的方法 | 原則として遅滞なく交付 |
| 公開のウェブページに掲示 | 明示に当たらない | そもそも明示のやり直しが必要 |
FAX で受け取った注文をどう保存するかは、また別の法律の話になる。税務側の扱いはFAX・電話の見積依頼と電帳法で扱っている。取適法が見ているのは渡した瞬間の形式で、保存の要件は帳票の保存期間の側で決まる。
電子で送っても、書面を求められたら断れない
第 4 条第 2 項は、電磁的方法で明示した場合において、相手方から当該事項を記載した書面の交付を求められたときは、遅滞なく交付しなければならないと定めている[1]。ただし、中小受託事業者の保護に支障を生ずることがない場合として公正取引委員会規則で定める場合はこの限りでない、というただし書きが付いている[1]。
求める側にも作法がある。テキストは、相手方が書面の交付を求める際には、共通事項に係る明示なのか、いずれの発注に係る明示なのかなど、発注側が対象を特定し得る程度の情報を示す必要があるとしている[1]。「全部紙でください」では特定されない。
書面を出さなくてよい 3 つの場合
保護に支障を生ずることがない場合として、テキストは 3 つを挙げている[1]。
ひとつ目は、相手方から電磁的方法による提供を希望する旨の申出があった場合。ここでいう申出には、特定の電磁的方法による提供を希望する旨の申出のほか、発注側があらかじめ相手方の承諾を得た場合も含まれるが、いずれも書面または電磁的方法によるものに限られる[1]。承諾は不要になったが、承諾を取っておくと書面交付の義務が外れる、という関係になっている。今後の取引について一括して申出があった場合は、撤回の申出がない限り、発注の都度の申出がなくてもこの扱いになる[1]。
ふたつ目は、その製造委託等について既に書面の交付がされていた場合。一度紙を渡していれば、再交付を求められても必ずしも応じる必要はない[1]。
みっつ目は、フリーランス法と重なる取引で、同法の規則が定める場合に当たるとき。取引の内容が特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の業務委託に該当し、同法第 3 条第 2 項ただし書の規則で定める場合に該当するときは、同法の趣旨に鑑みて取適法でも書面を交付しなくてよいとされている[1]。定型約款をインターネットのみで締結し、その約款を相手方が閲覧できる状態に置いているときが例として挙がっている[1]。
相手が読めなくなったときは誰の責任か
1 つ目の例外にはただし書きがある。相手方の責めに帰すべき理由がないのに、電磁的方法により明示を受けた事項を画面に表示して閲覧することができない場合は、この限りでない[1]。この線引きが具体例で説明されている。
メッセージ機能で明示したところ、そのサービスが終了して内容を確認できなくなったことを理由に書面の交付を求められた場合は、発注側は応じる必要がある。一方、相手方が自らアカウントを削除した結果として閲覧できなくなった場合は、相手方の責めに帰すべき理由があるものとして、必ずしも応じる必要はない[1]。
この一文は、送信の手段を選ぶときの判断材料になる。外部サービスのメッセージ機能に依存すると、サービス終了という自社で制御できない事象で書面交付義務が復活する。メールや自社の発注ポータルのほうが、その意味では安定している。
毎回送らなくてよい項目もある
4 条明示は原則として発注の都度必要だが、取引は継続的に行われることが多い。そのため、明示事項のうち支払方法や検査期間のように一定期間共通である事項がある場合には、あらかじめこれらの共通事項を書面の交付または電磁的記録の提供により明示しておけば、その期間内は発注の都度明示することが不要になる[1]。
条件が 2 つある。ひとつは、発注の都度「代金の支払方法等については現行の『支払方法等について』によるものである」といった形で明示し、都度の明示と共通事項の明示との関連性を明らかにすること。もうひとつは、共通事項の明示に係る書面または電磁的記録に、その明示が有効である期間を明記することである[1]。新たな明示が行われるまでの間を有効とする場合も、その旨を書く必要がある[1]。
電子で運用するなら、共通事項をウェブページに置き、都度の注文メールからその URL を参照させる形が組みやすい。テキストが挙げる 3 つ目の例が、まさにその形である[1]。
取引条件をあらかじめ取り決めておくという発想は、基本契約書と重なる。ただし共通事項をまとめて明示した場合でも、発注の都度の明示と関連付けることは省けない[1]。契約書を交わしてあること自体が、都度の明示の代わりになるわけではない。両者の役割分担は取引基本契約書で扱っている。
電子で送った内容は、別に記録として残す
電子化で見落とされやすいのが、第 7 条の記録義務との関係である。テキストは、メール等を送信する方法で明示した場合、その内容は相手方の電子計算機のファイル等に記録されるものではないため、トラブル防止の観点から、相手方は自らファイル等に記録して保存することが望ましい、と述べている[1]。送信は保存を兼ねない、という指摘である。
発注側についても同じことが言える。第 7 条は取引の経緯を記録して 2 年間保存することを求めており[2]、送信済みメールが受信箱に残っていることと、記録義務を果たしていることは別である。残すべき項目と、電磁的記録で持つ場合の 3 要件は取適法が求める記録に分けて書いた。
あわせて、メール等で明示する場合は、明示された内容を相手方が一括で確認できるようにするなど、分かりやすく認識できる方法によることが望ましいともされている[1]。本文と添付に情報が分かれ、さらに URL の先にも項目がある、という構成は避けたほうがよい。
よくある質問
電子で出せるようになったので、紙の注文書は廃止してよいですか
電磁的方法だけで明示すること自体は認められている[2]。ただし、書面の交付を求められたときに遅滞なく交付する義務は残るため[1]、求められた場合に出せる体制は必要になる。あらかじめ書面または電磁的方法で相手方の承諾を得ておけば、この義務は外れる[1]。
受発注システムの利用料を取引先に負担してもらえますか
できない。4 条の明示義務は発注側にあり、システム開発費、保守費、発注情報の提供に要する費用など本来発注側が負担すべき費用を、システム利用料等として代金から徴収すれば、代金の減額に該当する[1]。電子受発注システムを導入し、相手方が得る利益がないにもかかわらず「オンライン処理料」と称して代金を減じた事例が、違反行為として掲載されている[1]。
チャットツールで発注条件を送っても明示になりますか
第三者が閲覧できないメッセージ機能を使い、明示事項を記録したメッセージを相手方宛てに送信する方法は、該当する例として挙げられている[1]。ただし画面に明確に表示されることが条件であり[1]、サービス終了で閲覧できなくなった場合には書面交付を求められうる[1]。業務用のツールであっても、記録の保全は別に考えたほうがよい。
明示が漏れていたらどうなりますか
発注内容等の明示義務違反は罰則の対象で、50 万円以下の罰金となる。両罰規定なので、代表者や担当者個人が罰せられるほか、会社も罰せられる[1]。テキストは罰則の項目に、電磁的方法で明示した場合であっても書面の交付の求めがあれば遅滞なく交付しなければならない旨の注記を添えている[1]。手続の不備が実際に指摘されていることは、運用状況からも読み取れる。令和 7 年度の指導件数は 8,261 件だった[4]。
この規制は自社に適用されますか
2026 年 1 月から従業員基準が加わった。順序があり、資本金の区分に当てはまらなかったときに、はじめて従業員数を見る。製造委託等なら 300 人、政令で定めるものを除く情報成果物作成委託と役務提供委託なら 100 人が境目になる[2]。自社が発注側として当てはまるかは自社の取引は取適法の対象かに判定の順で書いた。資本金は意図的に操作が可能で、減資により対象外となる場合があることが課題とされていた、という背景も公表されている[5]。従来は資本金で対象外だった会社が、新たに義務を負っている可能性がある。
まとめ
承諾を取る手順がなくなったことで、電子での発注に踏み切りやすくなった。ただし、電子にしたから紙が完全に不要になったわけではなく、求められたときに出す義務は残る。あらかじめ相手方から電磁的方法を希望する旨の申出をもらう、あるいは承諾を得ておけば、この義務は外れる。承諾は必須ではなくなったが、取っておく実益はあるという状態になった。
点検するなら順序は 3 つになる。まず、送信先の FAX が記録機能を持つ機械かどうかを取引先ごとに確認する。次に、共通事項をまとめて明示している場合は、有効期間の記載と、都度の発注からの参照が付いているかを見る。最後に、送った内容が第 7 条の記録として残る形になっているかを確かめる。3 つ目は、送信ログだけでは満たせないことが多い。
渡し方は取適法が定める手続のうちの入口にあたる。支払期日の定め方や禁止行為までを含めた並びを一度押さえておくと、どこを直すべきかの見当がつきやすい。全体は取適法の概要にまとめてある。
出典・参考資料
- 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
- 2026年1月から「下請法」は「取適法」へ!(取適法リーフレット)(公正取引委員会)
- 2026年1月施行! 下請法は取適法へ 改正ポイント説明会 公正取引委員会説明資料(公正取引委員会・令和 7 年 8 月 21 日 東京開催)
- 令和 7 年度における取適法の運用状況及び中小事業者等の取引適正化に向けた取組(公正取引委員会/令和 8 年 6 月 10 日)
- 取適法・振興法(公正取引委員会)
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