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取適法が求める記録——何を書いて、2 年間どう残すか

この記事のポイント(結論先出し)
取適法の第 7 条は、発注側に取引の経緯を記録して残すことを義務づけている。発注書の控えを保存しているだけでは義務を果たしたことにならないのがこの規定の要点で、検査の結果、変更やり直しの理由、実際に支払った額と支払日まで含めて記録しなければならない。保存期間は記載または記録をすべき事項の全部を書き終えた日から 2 年間で、税法の保存期間とは年数も起算日も違う。電磁的記録で残す場合は、訂正削除の履歴、画面表示と書面出力、名称と発注日による検索という 3 つの要件を満たす必要がある。違反すれば 50 万円以下の罰金の対象になり、法人と担当者の両方が罰せられる。
目次
第 7 条は「取引の経緯」を残せと言っている
取適法(中小受託取引適正化法)の第 7 条は、製造委託等をした場合に、給付、給付の受領、代金の支払その他の事項を記載または記録した書類または電磁的記録を作成し、保存しなければならないと定めている[1]。具体的に何を書くかは公正取引委員会規則に委ねられており、その規則が「第 7 条の書類等の作成及び保存に関する規則」、通称の記録規則である[1]。この規則に従って作った書類または電磁的記録を、公正取引委員会と中小企業庁のテキストは7 条記録と呼んでいる[1]。
規定が置かれた狙いも書かれている。取引の内容を記載した書類または電磁的記録を作成し保存することで、取引に係るトラブルを未然に防ぐとともに、行政機関の検査の迅速さと正確さを確保するためである[1]。後半が実務上は重い。立入検査に入られたとき、調査官が最初に見るのはこの記録になる。
発注書の控えでは足りない
テキストの Q&A に、4 条明示した内容の写しを 7 条記録にしてよいか、という問いがある。答えは、発注内容や単価、納期などを明示した内容の写しを 7 条記録の一部とすることは可能だが、7 条記録は取引の経緯に係る記録なので、取引開始時に定めた事項だけが書かれた写しを保存するだけでは記録事項をすべて満たすことはできず、義務違反になるというものである[1]。
ここが最も誤解されやすい。発注書を PDF で残す運用を作っただけで対応済みと考えている会社は多いが、発注書に書けるのは発注時点までの情報である。検査を完了した日、検査に合格しなかった給付をどう扱ったか、いつ実際に払ったかは、発注書には存在しない。4 条明示の側の項目については発注書の 4 条明示 12 項目で整理している。
| 比べる観点 | 4 条明示(第 4 条) | 7 条記録(第 7 条) |
|---|---|---|
| 相手 | 中小受託事業者に渡す | 自社で作って持つ |
| 時点 | 委託をしたら直ちに | 事実が生じ、または明らかになったときに速やかに |
| 対象になる情報 | 発注時点の取引条件 | 受領・検査・変更・支払を含む経緯 |
| 保存の義務 | 条文上の保存期間の定めはない | 書き終えた日から 2 年間 |
| 違反したとき | 50 万円以下の罰金・両罰規定 | 50 万円以下の罰金・両罰規定 |
表の 1 行目にある「渡す」側は、2026 年 1 月から紙に限られなくなった。メールや EDI で出せる条件と、それでも書面を求められたときの扱いは発注条件の電磁的方法による明示で扱っている。この記事が見るのは、渡したあとに自社の側で持つほうである。
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記録しなければならない事項
記録規則の第 1 条は、明確に記載または記録しなければならない事項を 13 号にわたって並べている[1]。テキストは、これを実務で使いやすいように 17 の項目に分けて示している[1]。取引の流れに沿って並べ替えると次のようになる。
1. 相手の識別
中小受託事業者の商号または名称。事業者別に付された番号や記号など、相手を識別できる符号による記録でもよい。
2. 委託した日
製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託または特定運送委託をした日を記録する。
3. 給付の内容と受領する期日
何を作らせるか、いつ受け取ることにしたか。役務提供委託と特定運送委託の場合は、提供される役務の内容と、その提供を受ける期日または期間になる。
4. 実際に受領した内容と受領した日
予定ではなく実績を書く。役務提供委託と特定運送委託では、提供を受けた日または期間を記録する。
5. 検査の結果
給付の内容について検査をした場合は、検査を完了した日、検査の結果、そして検査に合格しなかった給付をどう扱ったかを記録する。
6. 変更ややり直しの内容と理由
給付の内容を変更させた場合、または受領後にやり直させた場合は、その内容と理由を記録する。理由まで書かせている点が重要で、後から相手方の責任だったと主張するには、その時点の記録が必要になる。
7. 代金の額
算定方法を明示した場合には、その後に定まった額を記録しなければならない。算定方法に変更があった場合は、変更後の算定方法、それによって定まった額、そして変更した理由まで記録する。
8. 支払期日
受領日から起算して 60 日以内に定める必要がある期日である。数え方は支払期日 60 日と遅延利息で扱っている。
9. 代金の額が変わった場合の増減額と理由
増額も減額も対象になる。理由の記載が求められている以上、社内で説明のつかない差引きは、記録の時点で行き詰まる。
10. 金銭で支払った場合の支払額・支払日・支払方法
口座振込による場合はその旨も記録する。
11. 一括決済方式で支払った場合の事項
金融機関から貸付けまたは支払を受けることができることとした額と期間の始期、代金債権相当額または代金債務相当額を金融機関へ支払った日、その他その貸付けまたは支払に関する事項を記録する。
12. 電子記録債権で支払った場合の事項
電子記録債権の額、支払を受けることができることとした期間の始期、電子記録債権の満期日、その他その使用に関する事項を記録する。
13. その他の支払手段を使った場合の事項
支払手段の種類、名称、価額などの事項と、その支払手段を使用した日、そして相手方が引換えによって得ることとなる金銭の額などを記録する。
14. 原材料等を有償支給した場合の事項
品名、数量、対価、引渡しの日、決済をした日、決済方法を記録する。支給材の決済時期そのものの規制は有償支給材と金型代で扱っている。
15. 一部支払いや対価控除をした場合の残額
代金の一部を支払った場合、または原材料等の対価の全部もしくは一部を控除した場合は、その後の代金の残額を記録する。
16. 遅延利息を支払った場合の額と支払日
年率 14.6%を支払ったのであれば、その額と支払った日を残す。
17. 未定事項があった場合の扱い
正当な理由があって明示しなかった事項がある場合は、その内容が定められなかった理由、内容を明示した日、そしてその内容を記録する[1]。
いつ書くか、誰ごとに書くか
記録規則の第 2 条は、書き方の運用を 3 つ定めている[1]。まず、記載または記録は、それぞれの事項に係る事実が生じ、または明らかになったときに速やかに行わなければならない。決算期にまとめて作る運用はここで否定される。
次に、書類に記載する場合は中小受託事業者別に記載しなければならない。伝票の日付順に綴じただけのファイルでは、この要件を満たさない。
そして、項目を別々の書類や電磁的記録に分けて持つことは認められているが、その場合は相互の関係を明らかにしなければならない[1]。発注データ、検収データ、支払データが別システムに散っている会社は多いが、注文番号などで突き合わせられる状態にしておく必要がある。
情報成果物の作成委託では、打合せをしながら給付の内容を確定していく進め方がある。どの程度の変更から記録するのか、という問いに対して、テキストは、個々の作業指示をすべて記載する必要はないが、少なくともそれによって代金の設定時には想定していない新たな費用が発生する場合には記録し保存しなければならないと答えている[1]。費用が動いたかどうかが線引きになる。
電磁的記録で残すときの 3 要件
記録事項を電磁的記録で作成し保存することは認められている。ただし、公正取引委員会等の検査に当たって内容が容易に確認できるようにするため、記録規則第 2 条第 3 項の 3 つの要件を満たさなければならない[1]。
| 要件 | 規則の求めていること | 確認する場所 |
|---|---|---|
| 訂正削除の確認 | 記録事項を訂正または削除した場合に、その事実と内容を確認できること | 更新履歴・監査ログの有無 |
| 表示と出力 | 必要に応じて画面に表示し、書面に出力できること | 一覧画面と印刷・PDF 出力 |
| 検索機能 | 相手の名称等を条件に設定でき、委託をした日は範囲を指定して条件を設定できること | 取引先での絞り込みと期間指定 |
3 つ目の書き方には注意がいる。相手の識別情報は検索の条件として設定できることが求められ、委託をした日については範囲を指定して条件を設定できることが求められている[1]。日付は単一値の一致ではなく、期間で絞れる必要がある、という意味になる。表計算ソフトで管理するのであれば、取引先名と委託日の列を持たせ、オートフィルタで期間を指定できる形にしておくのが最小限の作りになる。
1 つ目の要件も見落とされやすい。表計算ファイルを上書き保存していく運用では、訂正や削除の事実そのものが残らない。訂正の履歴を別列や別シートに残すか、履歴が残るシステムに載せるかの判断が必要になる。同じ「訂正削除の履歴」という言葉は電子帳簿保存法にも出てくるが、根拠となる法律も対象になる書類も別である。税務の側の要件は電子帳簿保存法の対応で扱っている。
2 年間はいつから数えるか
記録規則の第 3 条は、書類等はその記載または記録をすべき事項の全部の記載または記録をした日から 2 年間保存しなければならない、と定めている[1]。起算日は発注日でも納品日でもなく、その取引について書くべきことを書き終えた日である。
この違いは実務で効く。たとえば 2026 年 4 月に発注し、6 月に納品と検査を終え、8 月末に代金を支払った取引であれば、支払額と支払日を記録した 8 月末が起算日になる。遅延利息を払っていれば、その記録を書いた日がさらに後ろにずれる。取引ごとに起算日が違うため、発注日を基準に一律で 2 年経過分を削除する運用を組むと、まだ保存期間内の記録を消すことになる。
取適法リーフレットも、義務項目のひとつとして「取引が完了した場合、給付内容、代金の額など、取引に関する記録を書類または電磁的記録として作成し、2 年間保存すること」を挙げている[2]。改正ポイント説明会の資料でも同じ 2 年間が示されている[3]。
税法上の保存期間はこれとは別に走る。根拠になる法律が違うので、年数も起算日も一致しない。実務では長いほうに合わせて残すことになるが、取適法の側は「2 年経ったから捨ててよい」ではなく「書き終えてから 2 年」である点だけは分けて理解しておきたい。帳票ごとの保存年数は帳票の保存期間で整理している。
記録規則の施行は 2026 年 1 月 1 日
記録規則の附則には、この規則は令和 8 年 1 月 1 日から施行する、と書かれている[1]。法律名が下請法から取適法に変わったのと同じ日である[2]。したがって、2026 年 1 月 1 日以降に委託した取引から、この記録事項と 2 年間の保存が適用される。
記録の不備は実際に指摘されている
手続の規定は軽く扱われがちだが、実際の指導件数を見ると印象が変わる。改正ポイント説明会の資料には、令和 6 年度の勧告・指導について、行為類型別の件数が示されている(1 つの事案で複数の類型に計上されることがあるため、合計は処理件数と一致しない)。実体規定違反が 7,177 件で 52.2%、手続規定違反のうち書面交付が 5,944 件で 43.2%、書類保存が 633 件で 4.6%である[3]。書類の保存だけで年に 600 件を超えて計上されている。処理の総数も減っていない。令和 7 年度の指導件数は 8,261 件だった[4]。
罰則も定められている。テキストは、罰則が両罰規定であり、代表者や行為者である担当者個人が罰せられるほか、会社も罰せられると説明している。金額は 50 万円以下の罰金で、対象になるのは発注内容等の明示義務違反、書類等の作成・保存義務違反、報告徴収に対する報告拒否や虚偽報告、立入検査の拒否・妨害・忌避の 4 つである[1]。
減額や買いたたきといった実体規定の違反が勧告と公表につながるのに対し、記録の不備は罰則の対象になる。性質が違うので、どちらかを守れば足りるという関係ではない。調査がどこから始まり、指導と勧告がどう分かれるかは違反したあとの手続で追える。
よくある質問
既存の販売管理システムのデータで足りますか
足りるかどうかは、記録事項が揃っているかで決まる。多くのシステムは発注、受領、支払のデータを持っているが、検査を完了した日と検査に合格しなかった給付の取扱い、そして変更ややり直しをさせた理由が抜けていることが多い。この 2 つは検収や品質の記録として別に管理されていることが多く、注文番号で紐づけられるかを確認する必要がある。分けて持つこと自体は認められている[1]。
紙とデータが混在していても問題ありませんか
記録規則は、事項を別々の書類等に分けて記載または記録することを認めており、その場合は相互の関係を明らかにすることを求めている[1]。混在そのものは禁じられていない。ただし紙の側は中小受託事業者別に記載する必要があり[1]、データの側は 3 要件を満たす必要があるため、確認すべきことは倍になる。
取引先ごとにファイルを分ければ検索要件は満たしますか
相手の名称等を検索の条件として設定できることは満たせるが、それだけでは足りない。委託をした日について範囲を指定して条件を設定できることが別に求められている[1]。取引先ごとのフォルダに月次でファイルを置く運用だと、期間指定の検索が成り立つかを確かめておく必要がある。
算定方法で代金を明示した場合は何を記録しますか
その算定方法と、それによって定められた具体的な金額を記録する。算定方法に変更があったときは、変更後の算定方法、変更後の算定方法によって定められた具体的な金額、そしてその理由を明確に記載または記録しなければならない[1]。金額が動いた経緯を、後から追える形で残す必要がある。
2026 年 1 月より前に発注した取引はどうなりますか
記録規則の施行日は令和 8 年 1 月 1 日である[1]。改正前の下請法にも書類の作成・保存義務は置かれていたので、記録そのものが不要だった期間はない。実務では、施行日をまたぐ取引について、どちらの項目立てで記録するかを社内で決めておくことになる。適用対象の判定も 2026 年 1 月から従業員基準が加わって広がっているため、これまで対象外だった会社が新たに義務を負っている可能性がある[2][5]。
まとめ
7 条記録は、発注書の控えの保管とは別の義務である。求められているのは、誰に、何を、いつまでに頼み、実際にいつ受け取り、検査でどうなり、内容を変えたならなぜ変え、いくらをいつ払ったか、という一連の経緯である。
点検の順序としては、まず記録事項のうち自社に該当するものを洗い出し、それぞれがどのシステムまたは帳票に載っているかを対応づける。次に、注文番号などで相互に突き合わせられるかを確認する。最後に、電磁的記録で持っている部分について、訂正削除の履歴、画面表示と書面出力、取引先名と委託日の範囲指定という 3 要件を確かめる。抜けが見つかりやすいのは、検査の結果と、変更ややり直しの理由の 2 か所である。
この義務は、委託事業者に課された 4 つの義務のひとつという位置づけになる。残りの義務と 11 の禁止行為を含めた並びは取適法の全体像にまとめてある。
出典・参考資料
- 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
- 2026年1月から「下請法」は「取適法」へ!(取適法リーフレット)(公正取引委員会)
- 2026年1月施行! 下請法は取適法へ 改正ポイント説明会 公正取引委員会説明資料(公正取引委員会・令和 7 年 8 月 21 日 東京開催)
- 令和 7 年度における取適法の運用状況及び中小事業者等の取引適正化に向けた取組(公正取引委員会/令和 8 年 6 月 10 日)
- 取適法・振興法(公正取引委員会)
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