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投稿日:2026年10月2日

「前回いくらで誰から買った?」にすぐ答える——引く鍵は法令の検索の要件と同じ

この記事のポイント(結論先出し)

「あの品番、前回いくらで、どこから買った?」に即答できない原因は、記録が無いことより、記録が年ごと・担当者ごと・書類の種類ごとのファイルに分かれていて、同じ鍵で引けないことにある。引くための鍵は、法令が保存の要件として挙げているものとほぼ重なる。電子帳簿保存法は取引の日付・金額・取引先で検索できることを[3]、取適法の記録の規則は取引先を識別するものと発注した日の範囲で検索できることを求めている[2]。ここに品番を加えた 4 つで引ける形にしておけば、日々の問い合わせにも、税務や公正取引委員会の確認にも同じ記録で答えられる。前回の単価は、代金を決めるときに「通常支払われる対価」を判断する材料にもなる[1]。

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購買の担当者は、1 日に何度も過去の取引を聞かれる。設計からは「この部品、前はどこで作ってもらった?」、営業からは「去年の見積で使った単価は?」、上司からは「その仕入先の値上げ、前回はいつ何%だった?」。答えはどこかにあるはずなのに、探すのに 15 分かかる。そのあいだ、問い合わせた人は手を止めて待っている。

Excel とメールで回している会社で、答えが出てこない理由はだいたい次の 4 つである。

1. ファイルが年ごと・担当者ごとに分かれている
「発注台帳_2025.xlsx」「発注台帳_2026_田中.xlsx」のように、年や人でファイルが割れている。1 つの品番の履歴を見るには、ファイルを順に開いて同じ検索を繰り返すことになる。

2. 品番の書き方が揃っていない
「AB-1042」「AB1042」「AB-1042」が混在していると、検索で 1 件しか出てこない。自社の品番と相手の品番が入り混じっていることも多い。

3. 単価表が上書きされている
単価の一覧を「最新の値」で上書きしていると、前回の単価そのものが残っていない。発注台帳の過去の行から逆算するしかない。

4. 見積・発注・合意の経緯が別の場所にある
見積書はメールの添付、発注は台帳、値上げの合意は担当者のメモ、と分かれていて、「なぜこの単価になったか」まではたどれない。

単価の持ち方(取引先・数量帯・有効期間を付けて、上書きせず行を足す)は購買単価の持ち方で、引いてきた過去の単価を新しい見積と比べるときの条件は届いた見積を過去の購入単価と比べるで扱っている。この記事は、その手前の「過去の単価と発注を、すぐ引ける形にしておく」ことを扱う。

引く鍵は、法令の保存の要件とほぼ同じ

過去の取引を何で引くかを考えるとき、手がかりになるのが法令の検索の要件である。取引の記録を後から確かめられるようにする、という目的が同じなので、求めている鍵も実務で欲しいものとほぼ重なる。

電子帳簿保存法では、メールなどで受け取ったり送ったりした注文書・見積書・請求書のデータを保存するとき、取引年月日その他の日付・取引金額・取引先を検索の条件に設定できること、日付または金額は範囲を指定できること、二以上の任意の記録項目を組み合わせて条件を設定できることが求められる[3]。国税庁のパンフレットは、これを「日付・金額・取引先」で検索できる必要がある、と短く書いている[4]。ただし、税務職員の質問検査権に基づくダウンロードの求めに応じられるようにしていれば、範囲の指定と項目の組み合わせの機能までは要らず、さらに、そのダウンロードの求めに応じられるようにしていることを前提に、基準期間の売上高が 5,000 万円以下の事業者などは検索機能そのものが要らなくなる[3]。

取適法の側では、対象となる取引(判定は自社の取引は取適法の対象か)について第 7 条の書類等を電磁的記録で残す場合に、受託事業者を識別できる名称や符号を検索の条件として設定できること、製造委託等をした日について範囲を指定して条件を設定できることが求められている[2]。あわせて、記録した事項を訂正・削除した場合にその事実と内容を確認できることも要件になっている[2]。

見るところ 電子帳簿保存法(電子取引のデータ) 取適法(第 7 条の記録を電磁的記録で残す場合) 実務の問い合わせで欲しい鍵
検索の条件 日付・金額・取引先[3] 受託事業者を識別するもの・製造委託等をした日[2] 品番・取引先・日付(金額は補助)
範囲の指定 日付または金額[3](ダウンロードの求めに応じられるなら不要) 製造委託等をした日[2] 「直近 1 年」「前回の改定以降」
組み合わせ 二以上の任意の項目[3](同上) (規則に定めなし) 「この品番 × この取引先」
保存の期間 法人の書類は 7 年。青色申告で欠損金が生じた年度の分は、その繰越しの適用を受けるなら 10 年(法人税法施行規則第 26 条の 3)[6][3] 全部の記載・記録をした日から 2 年[2] 次の値上げ協議で前回と比べられる期間
訂正の跡 改ざん防止の措置のいずれか[4] 訂正・削除の事実と内容を確認できること[2] 「いつ誰が単価を変えたか」

表の右端を見ると、法令の要件に品番を足せば、日常の問い合わせに必要な鍵がそろうことが分かる。逆に言えば、品番で引けても取引先や日付で引けない記録は、問い合わせには答えられても、保存の要件を満たしていないことがある。発注の記録を 2 年・7 年どう残すかの違い(対象も起算点も違う)は発注の記録を 2 年どう残すかで詳しく扱っている。

前回の単価は、代金を決めるときの物差しでもある

過去の単価をすぐ引けることは、便利さだけの話ではない。取適法の買いたたきは、受託事業者の給付と同種または類似の給付に対し「通常支払われる対価」に比べて著しく低い代金を不当に定めることを指す[1]。公正取引委員会のテキストは、通常支払われる対価とは市価のことだとしたうえで、市価の把握が困難な場合は、給付が従前のものと同種または類似であるのに従前の給付に係る単価で計算した対価に比べて著しく低い額や、主なコストの著しい上昇が公表資料から把握できるのに据え置かれた額を、著しく低い代金として扱うとしている[1]。

つまり、前回の単価は、新しい代金が妥当かを判断する基準そのものとして使われる。前回の単価を引けない状態で新しい単価を決めると、自社が知らないうちに大きく下げていた、あるいはコストが上がっているのに据え置いていた、ということに気づけない。テキストは、多量の発注を前提に見積もらせた単価を少量の発注の単価として定めることも、買いたたきに該当するおそれがある方法として挙げている[1]。前回の単価を引くときは、その単価がどの数量を前提に決まったかまで一緒に引ける形にしておく。

価格交渉の経緯も同じである。内閣官房と公正取引委員会の労務費の転嫁に関する指針は、発注者・受注者共通の行動として、価格交渉の記録を作成し双方で保管することを挙げ、人事異動があっても次回以降の交渉をスムーズに始められることを具体的なメリットとしている[5]。取組事例には、受注者ごとに交渉記録や資料を電子データで保存しているもの、口頭の要請にも必ずメールで回答して双方に記録を残しているものが紹介されている[5]。単価の数字だけでなく、その単価に至った協議の記録も、取引先ごとに引ける場所に置いておく。

すぐ引ける形にするための 5 つの手入れ

新しい仕組みを入れる前に、いまの Excel とメールのままでもできる手入れがある。順番に効いてくる。

1. 品番の書き方を 1 つに決める

全角・半角、ハイフンの有無、大文字・小文字を、自社の品番として 1 つの書き方に決める。相手の品番は別の列に持ち、自社品番と紐づける。紐づけの考え方は自社品番と相手品番をどう紐づけるかにある。既存の台帳は、検索用の列を 1 本足して、そこに正規化した品番を入れるだけでも、検索で拾える件数が変わる。

2. 発注の明細は 1 行 1 品目にする

1 枚の注文書に複数の品目があるとき、台帳を注文書単位の 1 行で持っていると、品番で引けない。品番・数量・単価・取引先・発注日が 1 行にそろう明細の形にする。注文書の番号は各行に入れて、注文書単位にも戻れるようにする。

3. ファイルを年や人で割らない

年ごとのファイルを残すなら、検索用には全期間を 1 つにまとめたファイル(またはシート)を別に持つ。担当者ごとのファイルは、少なくとも取引先と品番の列の形を揃えて、1 つにつなげられるようにする。

4. 単価は上書きせず、変わった日と理由を残す

単価の一覧を上書きしている限り、「前回いくら」は出てこない。改定のたびに行を足し、適用した日・理由・根拠(見積の番号や協議の日)を書く。値上げ・値下げの経緯を残す話は値上げ・値下げの経緯を残すで詳しく扱う。

5. メールの添付を、取引先と日付で引ける場所に移す

見積書や注文書の PDF が担当者の受信箱にあるうちは、本人しか引けない。国税庁は、専用のシステムがなくても、ファイル名に日付・金額・取引先を規則的に入れて特定のフォルダに集める方法や、表計算ソフトで索引簿を作る方法で検索の要件を満たせると示している[4]。ファイル名の例として「20210131_株式会社霞商店_110000」のような付け方が示されている[3](国税庁の例は株式会社を 1 文字の記号で書いているが、その記号は取り込む環境によって化けることがあるので、ここでは文字に置き換えた)。ここに品番も入れておけば、品番でも引ける。

Excel のままでよい場合

次の条件がそろっているなら、上の 5 つの手入れをした Excel とフォルダで十分答えられる。

1. 品目が数百程度で、取引先が十数社まで
1 つのファイルで全期間を持っても重くならず、フィルタで品番 × 取引先を引ける。

2. 記録を書く人が 1〜2 人
書き方のぶれが小さく、品番の正規化を保てる。

3. 単価の改定が年に数回
行を足す運用が負担にならない。

反対に、書く人が 3 人を超えた、ファイルが重くて開くのに時間がかかる、同じ品番を複数の取引先から買っていて単価の比較を頻繁に求められる、という状態になったら、表計算の検索では時間がかかり始める。単価を「いつ誰が変えたか」を表計算で残すのも、編集の履歴が残る仕組みを使わない限り難しい。

仕組みに移すときに確かめること

購買のシステムに移すときは、「検索できます」という説明だけで判断せず、次の問いを実際の画面で確かめる。

1. 品番から、取引先ごとの単価と最後に買った日が一度に見えるか
品目の画面を開けば、どの取引先からいくらで買えるのかが並んで見えるか。

2. 単価の変更が上書きではなく履歴として残るか
前の値・新しい値・変えた人・理由が残るか。取適法の記録でいえば、訂正の事実と内容を確認できるかに当たる[2]。

3. 取引先と日付の範囲で発注を引けるか
法令の検索の要件と同じ鍵で引けるか。画面で引けない場合でも、書き出したデータで引けるか。

4. 見積の採用と単価が結びついているか
「この単価はどの見積を採用して決まったか」がたどれるか。

5. 移行前の過去分をどうするか
過去の単価と発注を全部移すのか、直前の改定前の単価だけ移すのか。移さない分も保存の期間が残っているので、引ける場所を決めておく。移す範囲の決め方は受発注システムへのデータ移行にある。

Excel の品目表をシステムに取り込む前に品番の揺れや重複を直す手順はExcel の品目表をシステムに取り込む前に直すこと、「どれが最新の Excel か分からない」をなくす話は購買のファイルの最新版問題で扱う。

よくある質問

過去の単価は何年分残しておけばよいですか

保存の義務としては、取適法の記録が 2 年、法人の税務上の書類が原則 7 年である[2][3]。実務上は、次の値上げ協議で前回と比べられること、量産が終わった品目を再発注するときに当時の数量と単価を確かめられることを基準にすると、少なくとも直前の改定前の単価と、その単価が決まった前提(数量・時期)は残しておきたい。

メールの添付を全部共有フォルダに移すのは手間です

全部を一度に移さなくてよい。まず、取引先と品番で問い合わせが多いものから移し、ファイル名の付け方を決める。新しく受け取る・送るものから規則に沿って保存し始めれば、半年もすると問い合わせの大半はそこで答えられるようになる。検索の要件を満たす簡易な方法は国税庁が示している[4]。

単価を引くとき、金額でも検索できたほうがよいですか

税務の検索の要件では、売上高 5,000 万円以下の特例を使う場合を除けば、取引金額は条件に設定できる項目として残る。ダウンロードの求めに応じられるようにしていれば外れるのは、金額などの範囲を指定する機能と、項目を組み合わせる機能のほうである[3]。要件のためだけなら、金額の範囲で絞れることまでは必須とは限らない。実務の問い合わせは品番と取引先で引くことが多い。それでも、「10 万円を超える発注だけ」「単価がいくら以上」のように金額で絞れると、異常な値の洗い出しにも使える。

担当者が辞めたあと、過去の経緯が分からなくなりました

単価の数字は台帳から拾えても、なぜその値になったかは本人の記憶にしか無いことが多い。指針が勧めるように、価格交渉の記録を取引先ごとに作って保管し[5]、単価の行から交渉の記録へたどれる番号を書いておく。担当が替わるときの引き継ぎで何が抜けるかは購買担当の引き継ぎで抜けるものにまとめている。

まとめ

過去の単価と発注をすぐ引けない原因は、記録の有無より、年・人・書類の種類で記録が分かれ、同じ鍵で引けないことにある。引く鍵は、電子帳簿保存法の「日付・金額・取引先」と、取適法の記録の「取引先・発注した日」にほぼ重なり、そこへ品番を加えれば日常の問い合わせにも答えられる。前回の単価は、代金を決めるときに通常支払われる対価を判断する物差しにもなるので、数量の前提や交渉の経緯と一緒に引ける形にしておく。品番の書き方を揃え、明細を 1 行 1 品目にし、ファイルを年や人で割らずに通して引けるようにし、単価を上書きせずに行を足し、添付ファイルを規則的な名前で共有の場所に置く。この 5 つで、Excel のままでも多くの問い合わせに答えられるようになる。

出典・参考資料

  1. 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
  2. 製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第七条の書類等の作成及び保存に関する規則(e-Gov 法令検索(デジタル庁))
  3. 電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】(国税庁/令和 7 年 6 月)
  4. 電子帳簿保存法 電子取引データの保存方法をご確認ください【令和 6 年 1 月以降用】(国税庁/令和 5 年 7 月)
  5. 労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針(内閣官房・公正取引委員会/令和 5 年 11 月 29 日・令和 8 年 1 月 1 日改正)
  6. 法人税法施行規則(e-Gov 法令検索(デジタル庁))

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