購買担当が 1 人の会社は、システムに移すべきか——休んだ日と記録の義務で決める | newji
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投稿日:2026年10月2日

購買担当が 1 人の会社は、システムに移すべきか——休んだ日と記録の義務で決める

この記事のポイント(結論先出し)

購買担当が 1 人の会社で、システムに移すかどうかを決めるときに見るべきなのは、作業の速さより「その人が休んだ日に、誰が発注の状況を答えられるか」と「法令が求める記録を、1 人の手作業で欠かさず残せるか」の 2 つである。取引条件の明示や取引の記録の義務は、担当者の人数で軽くならない[1][2]。一方で、電子取引のデータの保存は専用のシステムがなくても満たす方法が示されており[3]、件数が少なく取引先も限られるなら Excel と規程で十分なことも多い。システムに移すなら、利用者を 1 人に限る使い方では「休んだ日に誰が見るか」は解けない点と、ID とパスワードを共有して 2 人で使わない点を、先に決めておく[5]。

1 人の購買担当が抱えているもの

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従業員数十人までの製造業では、購買を 1 人で担っていることが珍しくない。多くは専任ではなく、生産管理や総務と兼ねている。見積を取り、発注を出し、納期を追い、入荷を確かめ、請求書を経理に回すまで、全部がその人の Excel とメールの中で完結している。

この形には、はっきりした強みがある。判断が速い。取引先との関係が近い。誰に確認する必要もないので、急ぎの手配にもすぐ動ける。件数が月に数十件程度なら、Excel の発注台帳とメールのフォルダで十分に回る。

困るのは、普段は表に出ない次の 3 つの場面である。

1. 担当者が休んだ日
取引先から「来週の納期を前倒しできないか」と電話が来る。製造から「あの部品はいつ入る?」と聞かれる。答えはその人の Excel とメールにあるが、ほかの人はファイルの場所も見方も知らない。

2. 自分の作業を自分しか見ていないこと
発注を出す人、届いたことを記録する人、支払を回す人が同じだと、間違いがあっても誰も気づかない。金融庁の内部統制の実施基準は、取引の承認・記録・資産の管理を別の者に担当させて相互牽制を働かせる考え方を示し、業務を特定の者に一身専属的に属させると組織としての継続的な対応が困難になる、という問題点にも触れている[4]。これは上場会社向けの基準だが、指摘している問題は会社の規模に関係なく起きる。人を増やさずに置ける代わりの統制は発注する人と検収する人を分けるで整理している。

3. 辞める・異動するとき
引継ぎの期間が短いと、進行中の発注や、取引先との口約束が抜け落ちる。何が抜けるかは購買担当の引き継ぎで抜けるものに書いた。

担当者が 1 人でも、法令の義務は減らない

「うちは購買が 1 人だから」は、法令の義務を軽くする理由にならない。義務がかかるかどうかは、取引の内容と、自社と相手の資本金や従業員数で決まる(判定は自社の取引は取適法の対象か)。購買担当の人数は関係しない。

取適法の対象となる取引では、製造委託等をしたら直ちに、給付の内容・受領する期日と場所・代金の額・支払期日などの明示事項を、書面か電磁的方法で相手に明示しなければならない[1]。口頭で頼んで後から注文書を出す、という 1 人の現場にありがちな流れは、ここに引っかかる。また、取引ごとに給付の内容・受領した日・検査の結果・代金の額・支払った日などを記録し、全部を記録した日から 2 年間保存しなければならない[2]。この記録を電磁的記録で残すなら、訂正・削除の事実と内容を確認できること、相手と発注した日の範囲で検索できることも要件になる[2]。

税務の側では、メールなどでやりとりした注文書・見積書・請求書のデータは、データのまま保存する必要がある[3]。ここには小さな会社向けの扱いがある。基準期間の売上高が 5,000 万円以下で、税務職員のダウンロードの求めに応じられるようにしている場合などは、検索機能の確保が不要になる[3]。ただし、これは売上高の基準であって、購買担当の人数の基準ではない。売上高が 5,000 万円を超える会社では、担当が 1 人でも検索の要件はかかる。

1 人の手作業でこれらを欠かさず続けられるなら、システムは必須ではない。国税庁は、配偶者と 2 人で事業を営む個人事業主の例で、ファイル名に日付・取引先・金額を規則的に入れて任意のフォルダに保存し、改ざん防止の規程を備え付ければ要件を満たすと回答している[3]。システムを入れずに要件を満たす方法の全体は電子帳簿保存法の対応——システムなしで満たす方法にまとめている。

移すかどうかを決める 4 つの問い

1 人の購買でシステムに移すかどうかは、件数の多さだけでは決まらない。次の 4 つを順に自問すると、答えが出やすい。

問い 1:担当者が 3 日休んだとき、発注の状況を誰がどこで答えるか
答えが「誰も答えられない」なら、Excel のままでもシステムでも、まず担当者以外が見られる場所に記録を置くことが先になる。システムを入れるなら、2 人目が見られる使い方にしないとこの問いは解けない。

問い 2:口頭やメールの本文で頼んだ発注に、あとから注文書を出していないか
出しているなら、作業量の問題ではなく、明示の手順の問題である。注文書を作らないと発注が出せない流れに変えると解ける。Excel のテンプレートでも、システムでもよい。

問い 3:取引の記録を 2 年分、取引先と日付で引けるか
引けないなら、記録の置き方を変える必要がある。フォルダと索引簿で足りるか、件数が多くて手作業では追いつかないかを見る。

問い 4:月末や期末に、発注と入荷と請求の突き合わせに丸 1 日以上かかっていないか
かかっているなら、同じ情報を何度も打ち直しているはずである。ここは仕組みに移したときに手間が減りやすい。

4 つのうち 1 と 2 は「仕組みがあるか」ではなく「やり方を決めているか」の問題で、システムを入れても決めていなければ解けない。3 と 4 は、件数が増えるほど手作業では追いつかなくなる問題で、システムの効き目が出やすい。

クラウドを使っている会社、使っていない会社

購買のシステムを検討するとき、多くはクラウドで提供されるものが候補になる。総務省の通信利用動向調査(常用雇用者 100 人以上の企業が対象)では、製造業でクラウドを全社的に、または一部で利用している企業は合わせて 8 割を超える[6]。調査の対象が 100 人以上の企業なので、購買が 1 人の小さな会社の実態をそのまま表すものではないが、使っていない企業がその理由として何を挙げているかは参考になる。

項目(令和 6 年) 割合 分母
製造業:全社的に利用している 54.2% 製造業の回答企業(n=358)
製造業:一部の事業所または部門で利用している 26.4% 同上
製造業:利用していないが、今後利用する予定がある 10.4% 同上
製造業:利用していないし、今後利用する予定もない 8.1% 同上
利用しない理由:必要がない 46.0% 全産業のクラウドを利用していない企業
利用しない理由:導入に伴う既存システムの改修コストが大きい 29.6% 同上
利用しない理由:情報漏えいなどセキュリティに不安がある 24.9% 同上

上の 4 行は製造業の回答企業が分母で、下の 3 行は全産業のうちクラウドを使っていない企業が分母である[6]。分母が違うので、行を足し合わせたり比べたりはできない。使っていない企業で最も多い理由が「必要がない」であることは、1 人の購買にもそのまま当てはまる。上の 4 つの問いに引っかからないなら、無理に移す理由は小さい。

1 人で選ぶときに確かめること

1 人で選ぶと、比べる相手も相談する相手もいない。情報処理推進機構(IPA)の中小企業向けの手引きは、クラウドサービスを選ぶとき・運用するとき・セキュリティを管理するときの確認点を 15 項目にまとめている[5]。そのうち、購買が 1 人の会社で特に効くのは次の 4 つである。

1. 管理担当者を決める
手引きは、サービスの特性を理解した管理担当者を社内に確保することを確認点に挙げている[5]。購買担当が自分で管理者を兼ねると、その人が休んだときに設定を変えられる人がいなくなる。管理者だけは上長や総務など、もう 1 人に持ってもらう。

2. 利用者の範囲と、ID の共有をしないこと
手引きは、利用者の範囲を決めること、ID・パスワードを共有しないことを挙げている[5]。利用者が 1 人の契約で、休んだときのために同僚に同じ ID を教えておく、という使い方は避ける。誰が操作したかが記録に残らなくなり、取適法の記録で求められる「訂正の事実を確かめられる」意味が薄れる。2 人目が見る必要があるなら、2 人目の利用者として登録できる契約にする。

3. 手元にもデータを持つ
手引きは、サービスの停止やデータの消失に備えて重要な情報を手元に確保することを挙げている[5]。発注の一覧や単価の一覧を定期的に書き出せるかを確かめておく。

4. やめるときのデータの扱い
手引きは、利用終了時にデータを返してもらえるか、互換性や移植性はあるか、残ったデータを消去してもらえるかの確認を挙げている[5]。1 人で決めたシステムは、その人が辞めたあとにやめる判断をされることもある。出口の確かめ方はクラウド購買システムの出口対策に詳しい。

Excel のままでよい場合

次の条件がそろっていれば、1 人の購買は Excel とメールのままでよい。

1. 発注が月に数十件までで、取引先が十数社まで
台帳 1 つとフォルダで、取引先と日付から 2 年分を引ける。

2. 発注は必ず注文書を出してから動いている
口頭や電話の依頼が先行していない。

3. 担当者以外にも、台帳とフォルダの場所と見方を伝えてある
休んだ日に、上長か同僚が台帳を開いて答えられる。共有の場所に置き、見る人ごとの ID で開ける。

4. 発注・入荷・請求の突き合わせが、月末に半日以内で終わる
打ち直しが少なく、手作業の負担が小さい。

このとき、Excel のままで整えておくとよいのは、取引先・品番・発注日が 1 行にそろう台帳の形と、メールの添付を規則的な名前で共有の場所に置くことの 2 つである。過去の単価や発注をすぐ引ける形にする手入れは過去の単価と発注をすぐ引ける形にするにまとめた。

移すなら、どこから始めるか

1 人の購買でシステムに移すと決めたら、全部を一度に移さず、上の 4 つの問いで引っかかったところから始める。

1. 注文書を出す流れから移す
口頭で先に頼んでしまう問題(問い 2)は、注文書を作ってから相手に届くまでを 1 つの流れにすると解ける。届けた記録が残る形にする。

2. 発注の状態を、担当者以外も見られる形にする
休んだ日の問題(問い 1)は、発注の一覧と状態を上長や同僚が見られれば解ける。利用者を 1 人に限る契約では解けないので、2 人目を登録するか、書き出した一覧を共有の場所に置く運用を決める。

3. 月末の突き合わせを減らす
件数が多い会社ほど、入荷と検収の記録をシステムに残すことで手間が減りやすい。

Excel からシステムに移す全体の順番(どの業務から、何を並行で残すか)はExcel の購買業務をシステムに移す順番、発注の状況を担当者しか知らない問題は発注の状況を担当者しか知らないときで扱う。

よくある質問

1 人しか使わないのに、システムの費用は見合いますか

見合うかどうかは、上の 4 つの問いのうち 3 と 4(記録を引けるか、突き合わせに時間がかかっているか)にどれだけ当てはまるかで決まる。1 と 2 は、システムを入れなくても、やり方を決めれば解ける。費用の比べ方と、効果を盛らずに稟議を書く方法は購買システムの稟議書にある。

社長が承認するだけの会社でも、承認の仕組みは要りますか

社長が発注の前に必ず見ているなら、その事実が記録に残っていれば足りる。メールで「承認します」と返してもらい、そのメールを発注の記録と一緒に保存するだけでもよい。承認の段の決め方は承認の段は何段にするかで扱っている。

売上高 5,000 万円以下なら、何も準備しなくてよいですか

不要になるのは検索機能の確保であって、データそのものの保存や改ざん防止の措置は残る。しかも税務職員からのダウンロードの求めに応じられるようにしておくことが条件になっている[3]。取適法の対象となる取引なら、取引の記録の作成と 2 年の保存も別にかかる[2]。

担当者が 1 人のまま、もう 1 人に見てもらうだけの使い方はできますか

できる方法は 2 つある。見る人を 2 人目の利用者として登録できる契約にするか、システムから定期的に書き出した一覧を共有の場所に置くかである。1 つの ID を 2 人で使う方法は、操作した人が記録に残らなくなるので避ける[5]。

まとめ

購買が 1 人の会社で、システムに移すかどうかの判断は、作業の速さよりも、担当者が休んだ日に誰が答えられるか、法令が求める明示と記録を 1 人で欠かさず続けられるかで決まる。明示と記録の義務は担当者の人数で軽くならない一方、電子取引のデータは専用のシステムがなくても規則的なファイル名や索引簿と規程で保存できる。休んだ日の問題と口頭の発注の問題はやり方を決めれば解け、記録の検索と月末の突き合わせは件数が増えるほど仕組みが効く。移すなら、管理者をもう 1 人に持たせ、ID を共有せず、手元にデータを持ち、やめるときのデータの扱いを確かめてから始める。

出典・参考資料

  1. 中小受託取引適正化法テキスト「下請法」から「取適法」へ(公正取引委員会・中小企業庁/令和 7 年 11 月)
  2. 製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第七条の書類等の作成及び保存に関する規則(e-Gov 法令検索(デジタル庁))
  3. 電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】(国税庁/令和 7 年 6 月)
  4. 財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準(金融庁 企業会計審議会/令和 5 年 4 月 7 日改訂)
  5. 中小企業のためのクラウドサービス安全利用の手引き(独立行政法人情報処理推進機構 セキュリティセンター/2026 年 6 月)
  6. 令和 6 年 通信利用動向調査報告書(企業編)(総務省 情報流通行政局)

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