投稿日:2025年6月13日

エンジン熱効率向上技術と排ガスのクリーン化および次世代燃焼技術

はじめに:まだまだ求められるエンジン熱効率向上と排ガスクリーン化

自動車業界は激動の時代を迎えています。
電動化が加速し「内燃機関=終わった技術」という見方も広がっていますが、現実にはグローバル市場の多様な需要に応えるため、これまで培われてきたエンジンの熱効率向上や排ガスのクリーン化技術は、依然として高い関心を集めています。
特に製造現場やサプライチェーンの最前線では、既存技術の究極的な進化と、新たな燃焼方式の両立がますます重要です。

本記事では、昭和から脈々と続く製造業現場の目線を軸に、最新のエンジン技術動向と今後期待される次世代燃焼技術について、多角的かつ実践的に解説します。
調達・購買担当者やサプライヤー、現場エンジニアに役立つ視点を織り交ぜ、製造業が抱える「次の一手」を探ります。

エンジン熱効率向上技術の潮流と現場インパクト

現場で痛感する“熱の無駄遣い”が改革の起点

ガソリンやディーゼルエンジンの熱効率は、理論上の最大効率を大幅に下回っている状況が長く続きました。
昭和から平成初期まで、多くの工場やエンジン開発現場では「エネルギーの大半が熱として無駄になっている」という課題を肌で感じてきました。
発熱・廃熱のほとんどが大気中に捨てられてきた事実に、今こそ正面から向き合う時代がきています。

エンジン熱効率向上の取り組みは、単なる技術の進化ではなく、莫大な材料コスト削減や工場全体のCO2排出抑制、そしてサプライチェーン全体の競争力強化にも直結します。
現場目線では、「1%の効率アップ」が調達コストや顧客満足度に大きく跳ね返ることを日々実感しています。

ダウンサイジングターボ:小さなエンジンでも大きなパワー

ダウンサイジングターボは、エンジンの排気量を抑えつつ、ターボチャージャーの過給によって同等以上の出力を得る技術です。
排気量低減による熱損失のカット、部品削減によるコスト減、さらには燃料消費量減少によるエネルギー効率の底上げ。
これらは、バイヤーや工場の購買担当者にとっても明確なメリットです。
一方で、高温・高圧に耐える材料選定や部品精度といった品質管理の高度化が求められ、納入サプライヤーには量産技術の革新が突き付けられます。

ミラーサイクルやアトキンソンサイクルの新定番化

近年、ハイブリッド車(HEV)を中心に広がっているのが、ミラーサイクルやアトキンソンサイクルという特殊な燃焼サイクルです。
これらは混合気の膨張比と圧縮比を制御し、燃焼から得られるエネルギーを極限まで有効活用します。
燃費向上のための「標準技術」となりつつあり、部品の品種・設計自由度拡大、調達先の多様化など、新しい調達・製造戦略を促進しています。

熱マネジメント:冷却系統と排熱回収の進化

昭和の工場現場では単純だった冷却技術も、今や最先端の「熱マネジメントシステム」へと進化。
ウォーターポンプの電子制御化、モジュール冷却、排熱回収に着目したサーモエレクトリック発電(TEG)など、現場レベルでの省人化・自動化投資と連動しつつ、全体効率を底上げしています。

排ガスのクリーン化:変化する法規と現場のプレッシャー

自動車メーカーのサプライヤー管理強化と連動した環境規制

昭和的な「数重視」から、2000年代以降は一気に「品質・環境」シフトへ。
エンジンから排出されるNOx、HC、CO、PMといった有害物質の許容値は、グローバルの規制強化(欧州のEuro 6d、日本のポスト新長期規制、中国VIなど)によって格段に引き下げられました。
この流れは、OEMだけでなく、その先に広がるティア1~ティア3のサプライヤー、原材料調達担当、全ての関係者に強いプレッシャーをかけています。

最新排ガス浄化技術:EGR、SCR、DPF、三元触媒など

現場で最も多く目にするのが、以下のような排ガス処理技術の高度化です。

・EGR(Exhaust Gas Recirculation):排気ガス一部を再循環させ、燃焼温度低減とNOx低減を実現
・SCR(Selective Catalytic Reduction):尿素水などを用いてNOxを選択的に還元・除去
・DPF(Diesel Particulate Filter):ディーゼル車の粒子状物質(PM)を除去
・三元触媒:ガソリン車のNOx、CO、HCを同時に浄化
これらは、「高密度・高価格」な材料(貴金属触媒やセラミック基材)が使われるため、バイヤー目線ではコスト・供給安定性とのせめぎあいも激化しています。
一方、サプライヤーでは品質トレーサビリティや機能保証の体制強化、高精度検査装置への投資が欠かせません。

水素燃焼・アンモニア燃焼:次世代クリーン化技術の兆し

日本の産業界では、水素燃焼・アンモニア燃焼など新たな燃焼方式の研究開発が加速。
これらはCO2排出実質ゼロという究極の狙いのもと、既存エンジン製造ラインの大規模改修や新素材の開発が視野に入ります。
現場・バイヤー双方とも、「今何を準備すべきか?」という情報戦が激しく、次世代調達体制の構築が競争力を決定づける時代となっています。

業界動向:昭和的発想を打破するためのラテラルシンキング

“エンジンは斜陽産業”の誤解と日本の競争力再生

電動化偏重の議論から「エンジン関連はもう終わり」といった風潮もありますが、実際には、途上国を中心としたグローバル需要の堅調さ、エンジン技術者のノウハウ蓄積、既存資産の有効活用など、まだまだ潜在力は大きいです。
例えば、再生可能エネルギーとのハイブリッド化、農機・産業用エンジンで要求される超低排ガス・高効率化、その現場対応力こそ日本の製造業の「生き残る道」だと考えます。

カーボンニュートラル時代に向けた“繋ぎ役”としての熱効率技術

いきなり全てをEV化するのは非現実的。
実は、「熱効率の最大化+排ガス削減」技術が、現行インフラの持続利用と新規エネルギー社会への円滑な移行を支える重要な“繋ぎ役”になります。
このステージでは、工場の自動化投資、AI・IoTといったDX推進、新素材適用による部材置換など、サプライチェーン全体での“見えない競争”が激化しています。

サプライヤーとバイヤーのパートナーシップが資産になる

これまでエンジン技術はOEM主導で動いてきましたが、今後はバイヤー・調達担当者とサプライヤーの“密接な対話力”が競争力の源泉です。
例えば、「この部材、少しスペックを変更してこう使えませんか?」、「前工程でIoT化し品質検査の負担を軽減できませんか?」など、現場密着型のアイディア出しと実践が、従来の上下関係を超えて新たな価値創造につながります。

ラテラルシンキングで見えてくる“次世代燃焼技術”の地平

非連続な進化:循環型ものづくりの視点

部品一つとっても「再生材料の有効活用」「排熱の電力化」「CO2フリー燃料への適応」など、現場には新たな発想が求められています。
例えば、EV生産ラインの隣にエンジン再生ラインを設け、部品サイクルを回し続ける考え方が今、海外OEMで注目されています。
日本企業にも「リビルド技術」や「アフターサービスとの連動=事業構造の再設計」が急がれるでしょう。

ディープラーニング+センシング:生産現場の武器になる

AIを活用した燃焼制御、排ガス最適化、生産ライン上での品質予測など、従来の延長線では得られなかった新しい生産・品質保証の方法論が実用化しつつあります。
現場の知見をディープラーニングに落とし込み、より柔軟な燃焼状態モニタリングやフィードバック制御を開発することで、競争力の本質が「ハード力」から「ソフト力」へとシフトしているのです。

まとめ:エンジン技術革新は今も、現場主導で深化する

エンジン熱効率向上や排ガスのクリーン化、さらに次世代燃焼技術は、「もう古い」のではなく、今こそ「もう一歩突き抜ける」ための絶好の“発想転換”の機会です。
バイヤー・サプライヤー・生産現場、それぞれの役割を越えて、現場知見をもとに大胆なアイディアを磨き合うラテラルシンキングこそ、これからの製造業発展のカギとなるでしょう。

内燃機関の最大効率化とクリーン化、その先に見える新しい製造業の未来を、一緒に切り拓いていきましょう。

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