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工程FMEAの基礎と不具合未然防止へのポイント

目次
はじめに:なぜ工程FMEAが今、注目されているのか
工程FMEA(Failure Mode and Effects Analysis:故障モード影響解析)は、製造現場における不具合の未然防止を実現するための重要な手法です。
かつて日本の製造業は「職人技」や経験則を重視し、昭和の高度成長期にはそれで十分に競争力を保てました。
しかし、グローバル競争の激化や、製品サイクルの短縮、製品の複雑化、安全規制の強化など、現代のものづくりを取り巻く環境は大きく様変わりしています。
重大なリコールや品質問題が発生すれば、企業経営を揺るがすことも少なくありません。
だからこそ、工程FMEAを駆使した「不具合の未然防止」は、古い体質のままでは乗り越えられない壁となり、業界全体で導入・定着が急務とされています。
本記事では、実際の現場で20年以上にわたり工程改善に携わってきた筆者が、工程FMEAの基礎から、現場目線の実践的な活用ポイント、そして、日本の製造業に深く根付く“昭和的アナログ文化”とどう向き合うかも含めて解説します。
工程FMEAとは何か?基本を押さえる
工程FMEAの目的と位置づけ
工程FMEAは、製造工程に潜む「故障モード(不具合の発生要因)」を体系的・網羅的に洗い出し、それぞれが「どのような影響を及ぼすか」「発生する確率はどの程度か」「どのくらい早期に検出できるか」を分析して、リスクの高いものに優先的に対策を講じる手法です。
FMEAには設計FMEAと工程FMEAがあり、設計FMEAは主に設計段階の潜在リスク分析を担当し、工程FMEAは実際の生産段階での工程不具合を中心に分析するものとなります。
ここでは「工程FMEA」に焦点を当てて説明します。
工程FMEAの実施手順
一般的なフローを以下にまとめます。
1. 分析対象工程の明確化(工程分解)
2. 各工程ステップでの「故障モード(潜在不具合)」をリストアップ
3. それぞれの故障モードが与える「影響(最悪ケースを含む)」を明確化
4. 故障モード毎に「発生度」「重大度」「検出度(または検出困難度)」を評価
5. 「リスク優先数(RPN)※」を算出する(重大度×発生度×検出度)
6. RPNの高いものをピックアップし、対策アイデアを立案・実施計画へつなげる
※最近ではRPNにこだわらず、「重大度」「発生度」が高いものだけを重点管理する手法や、AIやIOTが絡む新たな評価の視点も増えています。
リスクマトリクスの役割
現場でよくある失敗が、FMEAを単なる“チェックリスト”や“帳票作業”で終わらせてしまうことです。
工程毎のリスクレベルを可視化し、対策優先順位を決めて“アクションに落とし込む”ところまできちんとやり切ることが、真のFMEA活用に必要です。
そのためには、リスクマトリクスを活用して、現場チームが「これだけは必ずつぶす!」という共通認識を持つことが重要です。
現場目線で捉える工程FMEAの実践的ポイント
1. 工程FMEAを「形式知化」する意味
属人化が根強い組織風土では、「ベテランが暗黙知でやってきたこと」を見える化し、形式知・標準化へ落とし込むプロセスが肝心です。
工程FMEAで得た知見や、現場のちょっとした“肝”となる注意点を、チェックリストや教育資料として積極的に展開しましょう。
「この作業は新人にはまだ早い」ではなく、「この手順を守れば新人でもミスしない」設計を目指すのがFMEAの価値なのです。
2. 不具合発生後の“FMEA逆引き”も重要
不具合が発生した際、現場は「対症療法」に終始しがちですが、同じモードの再発を防止するには、発生事象をFMEAに“逆インプット”して持続的にブラッシュアップしましょう。
FMEAが一度きりの“作成物”で終わる現場が多いものですが、むしろ短サイクルで「運用しながら更新」こそが真の現場改善サイクルなのです。
3. 創発的なリスク発掘には“現場多職種の眼”が不可欠
工程FMEAを作成する際、設計・生産管理・品質・現場オペレーターまで、多様な視点を入れると、新たなリスクや改善点が見えてきます。
昭和的な「課長だけがFMEA記入担当」では見落としが生まれやすいので、ぜひ多部門ワークショップなども取り入れてください。
4. “帳票”にならない、実践的な活かし方事例
工程FMEAの内容を、例えば製品ラベルの表記漏れ防止策や、工程分岐ポイントの“自働検知化”につなげるなど、具体的な改善案に結びつけていきます。
シンプルな“カンバン方式”や“目視チェックシート”といったアナログツールにもFMEAの知見は十分に活かせます。
「自分たちのやり方で、何がリスク減少につながるか?」を現場で五感を使って考え、対策をトライ&エラーすることで本当の強い現場が育ちます。
昭和的アナログ現場との向き合い方
“意識改革”だけで現場は動かない
古参ベテランの多い現場や、紙ベース主流の工程も少なくありません。
ただし、FMEAの本来の目的は“現場負荷を下げる”ことにあります。
例えば、重大な不良発生件数が減れば、その分、現場の手直し・やり直し・客先報告の手間がぐっと減り、本来業務に集中できます。
「FMEAは、現場のムダをなくすための“現場味方ツール”」と繰り返し伝え、管理部門主導だけでなく、現場と一体のプロジェクト体制を意識してください。
まずは小さな一歩から始める
最初からデジタル化や自動化にこだわらず、紙のFMEAシートや、Excelなど手軽に始められるツールでOJT的にトライしていくことをおすすめします。
具体的な「失敗事例」や「過去のヒヤリハット体験」を題材にすると、現場メンバーの当事者意識も高まりやすいです。
今後求められる工程FMEAの方向性
自動化・DXとFMEAの融合
スマート工場化が進む中、異常検知AIやIOTデバイスによるデータ収集が可能となっています。
FMEAにも「センシング技術」「リアルタイムデータ分析」をどう取り入れるかが次世代の課題です。
例えば、「この工程にセンサーアラームをつけると、○○不良が初期段階で検知できる」といった連携アイデアを考えることで、人手任せでは達成できなかった早期発見・未然防止が可能になります。
顧客志向(エンドユーザー目線)でのFMEA再設計
市場クレームやリコール事例を見ても、最近は「顧客体験に直結する品質問題」への視線がますます厳しくなっています。
単なる工程内の品質だけでなく、「消費者がどのように感じるか」まで踏み込んだ影響分析が必要です。
例えば、「組立時の小さなキズが、消費者の信頼を損なう可能性」「パッケージの誤表示が食の安全リスクにつながる」など、FMEAの枠組みそのものを拡張していく発想が求められています。
バイヤーやサプライヤーの方にとっての工程FMEAの意義
バイヤー:調達先選定や監査の新基準に
バイヤー側からは、取引先の「工程FMEA実施状況」や「不具合未然防止の実効性」が、今や“取引可否”や“ランク選定”の重要指標になっています。
現場任せではなく、マネジメントサイクルとして、FMEA改善が継続している企業はバイヤーからの信頼も獲得しやすいです。
サプライヤー:差別化の“武器”としてのFMEA
下請けや外注の立場でも、FMEA報告や対策提案ができれば「管理能力の高さ=品質リスク低減企業」と評価されます。
他社との差別化、信頼向上、単価交渉の有利化にもつながるため、積極的に取り組んでいくことをおすすめします。
まとめ:現場の知恵こそが工程FMEAの真髄
工程FMEAは、一見すると難解に思えるかもしれません。
しかし本質は「こんな失敗が起きそうだから、先回りして手を打とう」を徹底的に見える化し、全員参加で“知恵を寄せ合う”ことにあります。
アナログな現場でも、デジタル先進企業でも、現場の現実を直視し、本気で「未然防止」に取り組んでいく姿勢こそが、日本の製造業をさらに強くする原動力となります。
明日の製造現場を変える第一歩として、ぜひあなたの現場から工程FMEAにチャレンジしてみてください。
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