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特定社員しか分からない設備操作が事業継続を脅かす問題

目次
はじめに:設備操作の属人化が招く「昭和の罠」
製造業の現場では、今もなお「ベテラン社員しか分からない設備操作」という状況が深く根付いています。
私自身、長年工場の現場管理や生産技術に携わる中で、何度も「属人化された技術」が現場力の足かせとなる瞬間を目の当たりにしてきました。
本記事では、特定社員に依存する設備操作の危険性と、現場に根付いたアナログ文化がなぜいまだに変革しきれないのか。
そして、製造現場が今後生き残り・発展していくために何を考え、どのような道を切り開くべきか、実践的な視点で深掘りします。
現場のリアル:属人化の背景とその“安心感”
なぜ属人化は「強み」から「弱み」に変わるのか
高度成長期からバブル経済にかけての製造業現場には、熟練職人やクセの強いベテランオペレーターが“花形”として君臨していました。
マニュアルに書ききれない微細なノウハウ、機械の「クセ」を把握した個人技のおかげで、歩留まりを維持できていた事実は否定できません。
ですが今、社会構造は大きく変化しています。
団塊世代の大量退職、若手の人員不足、事業継続計画(BCP)への要求が高まり、属人化は「強み」から「最大のリスク」に転化しました。
その背景には、いくつかの日本的な“安心感”が根強くあります。
経験と勘に頼る現場文化、ベテランへの過度な信頼組織、ノウハウの口伝え主義、紙記録と“手書き”の安心感など、昭和の遺産が今も息づいています。
事例で見る:設備トラブル発生時の深刻な停滞
ある中堅部品メーカーでは、大型プレス設備の特定オペレーションが、毎年勤続30年のS氏だけが対応可能でした。
彼の急な体調不良で数日間設備が止まり、生産計画が大幅に遅延。
顧客からの信頼が毀損し、納期遅延ペナルティも発生しました。
「Sさんしか分からない」「マニュアルはあるが工程の肝が書ききれていない」と現場は混乱し、結局、隠れたリスクが事業継続を脅かしたのです。
工場自動化やDXの波が叫ばれる一方で、現場の実態はこうした属人化問題によって、トラブル時の対応力が著しく落ちているのが現状です。
なぜ属人化から抜け出せないのか:アナログ業界の深層心理
抵抗感の正体:「自分たちの存在意義が失われる」
現場でベテラン社員の手に委ねられているのは「技術」だけではありません。
長年培った“プライド”と“責任感”も一体化しています。
このため、マニュアル化・標準化・デジタル化などの施策に、「自分の存在意義がなくなる」「教えたら自分が要らなくなる」といった無意識の抵抗が生まれます。
時には、無意識的にノウハウの開示を嫌がるベテラン、データ活用への不信感などが、変革への足かせになります。
変化を嫌う組織風土:上層部の無関心と現場依存の構造
また、現場への「丸投げ体質」も根深い問題です。
管理職が「現場に任せればなんとかなる」と思い込み、設備の標準化や人材の多能工化に本気で投資しないケースが多数あります。
ここにも、「今は問題なく動いている」「人がいなくなってから考える」という“先送り”の論理が働いています。
組織風土全体が属人化を温存する方向にエネルギーを使ってしまう、これが日本的な製造現場の共通点です。
属人化が事業継続を脅かす根本的な理由
キーマン喪失の即死リスク:BCPの観点から再考
BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)は、自然災害やパンデミック、突発的人員流出など、あらゆる事態を想定し「会社が倒れない」仕組みを作ることが目的です。
しかし、属人化された設備操作、特定社員依存の保守作業が温存されれば、キーマンの突然の離脱が即、「生産停止=納期遅延=顧客離れ」となります。
リスク分散しようにも、「あの人がいないと○○ができない」という状況自体が経営上の脅威です。
特に、顧客から絶対的な納期遵守を求められる自動車部品業界や、24時間稼働が当たり前の化学プラントなどでは、致命的な痛手を負いかねません。
AI・自動化時代の人材戦略との矛盾
時代はIoT、AIによる自動化、働き方改革へと驚くべき速さで進んでいます。
製造現場にも“スマートファクトリー”の波が押し寄せ、設備データの可視化やリモート監視が普及し始めました。
ところが、肝心の現場運用が属人化にとどまっていては、新技術の恩恵を十分に享受できません。
データの活用が中途半端なまま、本当の意味で生産性向上や省人化、グローバル競争力強化ができなくなってしまいます。
どのように属人化を脱却し、事業継続力を高めるか
技術伝承と標準化のための3つの極意
製造業は“人の技術”が根幹。
ただし、それを「見える化」して組織的資産に転換させていくことが今求められています。
1. 徹底した動画・画像記録の活用
従来の文章マニュアルでは伝えきれないノウハウを、動画や写真で記録。
現場でのトラブル対応や細かな手順を、ベテランの“手元動画”としてアーカイブ化。
「百聞は一見にしかず」の考えで技術をオープン化します。
2. 人手を介するプロセスの“見える化”とデータ連携
紙帳票・手書き日報をやめ、設備の稼働データ、作業進捗、設備パラメータのデジタル化を推進。
生産実績や保守履歴も、クラウドベースで管理。
どこで誰がどの作業をしていたのか、いつでも誰でもアクセスできる運用へ。
3. OJT+オフJT、ICTツールを組み合わせた多能工教育
現場実践(OJT)のみならず、座学やeラーニングなども活用し、若手・中堅が複数の設備分野を担えるよう教育します。
ローテーションによる定期的な担当入れ替えも、属人化解消への特効薬です。
成功事例で学ぶ:自動車Tier1企業の「ペアリング」と「運用ルール化」
自動車部品Tier1企業では、設備の「キーマン偏り問題」に対し、ペアリング・ジョブローテーション制度を徹底しています。
どの現場でも、Aさんが突然休んでもBさんCさんがバックアップできる体制。
加えて、設備パラメータやトラブル履歴も社内サーバーに蓄積し、「誰が対応しても同じ品質で生産できる」ことを目標に運用ルールを整備しました。
導入当初は「OJTで忙しい」「ベテランの負荷が増える」などの懸念もありましたが、半年後には若手の技術力向上、想定外トラブルへの対応力UP、属人化による生産停止リスクの大幅低減という成果が生まれています。
これからの製造現場に必要なラテラルシンキング
旧来の枠組みを超えた“水平思考”の実践
属人化問題の真の打破に必要なのは、「従来の延長線上での改革」ではありません。
現場の当事者が“水平思考(ラテラルシンキング)”で、伝統や常識に縛られない発想を持ち、柔軟な技術伝承と業務見直しに踏み込むことです。
たとえば、「ベテランだけの匠の技が必要」を逆手にとり、その技を動画コンテンツ化して社内教育ビジネスに転用する。
自社工場だけでなく、サプライヤーや協力会社とも技術的知見をシェアし、業界全体の底上げを狙う。
属人化撤廃を現場の「やらされ感」ではなく、「これが成長の武器だ」と納得して行動できるよう、ストーリーづくりやインセンティブ設計も重要です。
バイヤーとサプライヤー、双方に求められる「属人化リスク」への目線
バイヤー目線:納期・品質リスクの“正体”を見抜く
バイヤーはサプライヤー選定の際、目に見えない属人化リスクを徹底的に精査すべきです。
単に「納入実績がある」「技術力が高い」だけでなく、どこまで標準化が進み、複数人での対応力が本当に担保されているかをヒアリングしましょう。
RFI(情報提供依頼)や監査時に、「この工程のキーマンがいなくなったらどうなりますか」と具体事例で質問することは、健全な関係維持の第一歩です。
属人的リスクを正直に話してくれないサプライヤーは、いずれ大きなトラブルを抱える恐れがあります。
サプライヤー側の覚悟:変革をアピールする“差別化戦略”
サプライヤーは、属人化問題に真正面から向き合い、「標準化・教育・データ化」の取り組み状況を積極的にPRすべきです。
“属人化からの脱却こそが、長期的な取引の安心感である”というメッセージを発注側に届けることで、選ばれるサプライヤーへの進化が図れます。
付加価値提案の一例として、「自社の設備操作標準化事例」「教育動画システムの公開」「サプライチェーン全体でのノウハウ共有」など、具体的な施策を資料や面談で説明しましょう。
まとめ:未来に残る現場力とは“技術の見える化”である
属人化の根強い日本型製造現場も、今まさに変革のチャンスを迎えています。
特定社員しか分からない設備操作のままでは、せっかく築いた技術資産も「会社ごと消える」危険性が拭えません。
ラテラルシンキングで常識を疑い、ベテランの技を動画・データ・標準化で世代・企業を越えて継承する。
これが安全と成長を両立する唯一の道であり、これからの製造業サバイバルの核心です。
あなたの現場でも「個人技から組織力へ」のシフトを始めませんか?
この記事が、現場担当者、バイヤー、サプライヤーいずれの立場の方にも、自分の現場や取引先の未来を考える一助となれば幸いです。
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