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エロージョンコロージョン発生メカニズムと防食対策

目次
はじめに:エロージョンコロージョンとは何か
製造業の現場では「設備の長寿命化」と「安定稼働」が永遠の課題です。
その障害となり得るトラブルの一つに、エロージョンコロージョン(Erosion Corrosion)が挙げられます。
エロージョンコロージョンは、日本語で「浸食摩耗腐食」とも呼ばれています。
これは単なる腐食(コロージョン)でもなく、単なる摩耗(エロージョン)でもない、両者が組み合わさった現象です。
配管、機器、ポンプ、熱交換器など、あらゆる設備で無視できない重要な劣化モードです。
近年は省エネ化・高効率化・自動化の流れによって、より高圧・高速流体条件下の設備が増えたことで、エロージョンコロージョンによる損傷が急増しています。
本記事では、現場での豊富な実体験に基づきつつ、発生メカニズム、業界でありがちな思い込み、防食対策までを網羅的に解説します。
エロージョンコロージョンの発生メカニズム
エロージョン(摩耗)のメカニズム
流体が高速でパイプや装置の内壁を流れると、流速の大きい部分では微小な固体粒子(水中の砂やサビ片など)や気泡が壁面に衝突します。
この衝撃によって金属表面が削り取られる現象を「エロージョン」と呼びます。
エロージョンだけの場合、往々にして表面が滑らかにすり減りますが、金属そのものの「腐食」とは明確に異なります。
コロージョン(腐食)のメカニズム
一方、コロージョンは金属が化学反応(例えば電気化学的な反応)によって劣化する現象です。
鉄の場合、大気中や水中の酸素と反応して錆を生じます。
コロージョンだけの場合、表面に腐食生成物(サビなど)が付着し、これ自体が一種のバリアとなって腐食の進行をある程度防いでくれます。
エロージョンコロージョンの相乗的悪化
エロージョンコロージョンの怖い点は、これら二つの現象が相乗的に悪さをする点にあります。
腐食生成物というバリアがエロージョンによって削り取られることで、常に金属の「生の面」が露出してしまいます。
本来なら守られているはずの金属面が、エロージョンで「むき出し」になり、そこがまたあっという間に腐食。
さらにエロージョンで削られる…という負のループが高速で繰り返されます。
特に配管や熱交換器のカーブ部、バルブ周辺の流速が高い箇所、摩擦や乱流が発生しやすい形状の部品で多発します。
現場あるある!発生しやすい状況5選
1. ポンプや配管の曲がり部分での激甚な被害
直進した流体が急なカーブ等で流速・乱流が増大し、一点集中で衝突するため、極端にエロージョンコロージョンが進行します。
これは目視で明らかに「この部分だけ薄くなっている」「穴が開きやすい」と現場でも話題になりやすいですね。
2. 温度が高くて酸素濃度も高い熱交換器内部
高温流体+豊富な酸素という腐食促進条件に加えて、温度勾配で生まれる局所セル(微小な電池のような構造)によってコロージョンも進行。
加えて高速流の影響で表面の腐食生成物が持続的に剥離されるため、ダブルパンチで進行します。
3. 微粒子やスケール成分を多く含む流体
水処理前の工業用水や未ろ過の海水は、砂・スラッジなど多量の微粒子を含みます。
これらは「削る材料」としてエロージョン要因となるだけでなく、微粒子成分の種類が腐食生成物と化学反応し、新たな腐食パターンを引き起こす場合もあります。
4. 蒸気ラインの初期ドレンやキャビテーション現象
蒸気配管の初期ドレンや圧力変動によるキャビテーション(気泡の発生と消失)も強烈なエロージョン要因です。
気泡崩壊の衝撃で金属面が局所的にえぐられ、そこが腐食の起点になります。
5. 設計・材料選定時の「コスト重視」優先
現場でよく耳にするのが「なんとかなるだろう」「前年踏襲でいこう」という発想です。
特に、流体条件が変わったのに材料・保護仕様がそのままになっているパターンに要注意です。
エロージョンコロージョン対策の本質(昭和流からの脱却)
現場目線の失敗例
ありがちなパターンとして、「ステンレスにすればなんとかなる」「塗装すれば大丈夫」といった安直な対策は、現場の皆さんも肌で失敗を経験しているはずです。
私自身、初めての現場で「高価なステンレス配管なのに半年も経たず穴が開いた」事例を経験しました。
当初は設計部門も「材料の強度は十分」と考えていましたが、結果的にエロージョンコロージョンへの視点が抜け落ちていたことが原因でした。
戦略的な防食対策5選
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流速・流れの見直し
配管設計やラインレイアウトを最適化し、流速・乱流が発生しにくい穏やかな流れに変更します。
カーブやバルブ周辺の構造改良、急激な流路変化の緩和が有効です。 -
材料の選定・グレードアップ
単なる「高価な材料」ではなく、その設備・工程条件に最適化された材料選定が重要です。
例えば、二相ステンレス鋼やニッケル基合金等の高耐食グレードの採用、厳格な材質証明書の確保などが挙げられます。 -
表面処理・ライニング技術の導入
耐摩耗・耐食被膜(エポキシ樹脂、セラミックスコーティング、ゴムライニングなど)を状況に応じて導入しましょう。
ただし、現場施工時の膜厚管理や品質管理が極めて重要になります。 -
流体管理(前処理・ろ過)
流体中の微粒子や固形物質の除去は、摩耗促進の観点で極めて大切です。
フィルター設置や前処理プロセスの最適化も検討しましょう。 -
定期点検・モニタリングの徹底
現場での定期目視点検(肉厚測定、サンプリング)や、最近では超音波やX線による非破壊検査技術も進化しています。
劣化の早期発見と傾向管理で、大被害を回避できます。
デジタル化とIoT活用による新時代の防食管理
昭和世代の「現場勘」や「打音検査」も大切ですが、現代ではIoT技術やビッグデータ解析を活用した「スマート保全」へシフトが進んでいます。
例えば、配管の肉厚減少データや流体条件センサ情報を常時モニタし、AIで異常兆候を早期に警告するシステムなども実用化が進みつつあります。
デジタルとアナログ、両方の知見を融合させた守り方こそ、今後の製造業現場防食の主流となっていくでしょう。
なぜエロージョンコロージョン問題を放置してはいけないのか
安全・安定操業への影響
一旦エロージョンコロージョン損傷が進行すると、配管の肉厚が短期間で半減し、設備爆発や大事故のリスクが一気に高まります。
現場のヒヤリハット事例でも、事故寸前で発見されたケースが少なくありません。
コスト面への影響
「急な修理交換」「応急措置の繰り返し」になれば、職場全体へ大きな負担となります。
特に、緊急停止からの生産遅延や、予定外の材料手配コストなど、経営面でも非常に重い責任問題となります。
取引先やバイヤー・サプライヤーが知っておくべき視点
バイヤー目線のポイント
・納入仕様書やカタログデータだけでは見落としがちな「劣化モード」への理解
・防食対策を予め「設計思想」に組み込めているかどうかのチェック
・定期メンテナンスの提案力、アフターサービス体制の有無
これらは価格交渉のみならず、設備全体の「信頼性保証」を考えた際に必須の視点です。
サプライヤーの視点強化
・現場声やユーザー事例に基づく「一次情報」の継続収集
・エロージョンコロージョン事例を蓄積し、設計・営業現場双方で知見を共有
・流体種類や運転条件など顧客現場固有の事情もヒアリング
ものづくりの川上から川下まで、現場起点のリスク管理がこれからの競争力となります。
まとめ:現場力×知識で、エロージョンコロージョンに強い職場へ
エロージョンコロージョン対策は、単なる材料の強化や表面処理で終わる問題ではありません。
現場の流体条件・設計思想・デジタル保全・ユーザー/取引先それぞれの視点を融合させ、「現場力」として組織全体で知恵を出し合うことが求められます。
アナログ的な「現場感」や「ベテランの知恵」を活かしつつ、最新のAIやIoT技術によるデジタル監視も恐れず導入することで、「強い現場」「安全・安定稼働」を実現していきましょう。
製造現場で働く皆さんはもちろん、購買担当、新人バイヤー、サプライヤーの皆さんにも、「エロージョンコロージョン」の本質と正しい防食対策で、“一歩先ゆくものづくり”の担い手として、更なるステップアップを目指してください。
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