投稿日:2024年10月13日

金属製品で必要な接合技術:摩擦攪拌接合の基礎知識

摩擦攪拌接合(FSW)とは何か

摩擦攪拌接合(Friction Stir Welding: FSW)は、1991年にイギリスのTWI(The Welding Institute)によって開発された固相接合技術です。
この技術は、特にアルミニウム合金の接合において広く利用されていますが、鉄、チタン、マグネシウム、銅などのさまざまな金属にも適応可能です。
FSWは溶接時に溶融状態にならないため、溶接後の変形が少なく、溶接欠陥(例えば、目に見える亀裂や強度不足)も抑えられる点が特徴です。

摩擦攪拌接合のプロセス

FSWのプロセスは比較的シンプルです。
まず、接合する部材をクランプでしっかり固定し、専用のツールを用いて部材の接合ラインに沿って摩擦熱を発生させます。
ツールの先端にはピンがあり、これが材料の表面に押し付けられながら高速回転します。
生成された摩擦熱により、素材が部分的に塑性流動状態になり、ツールが過ぎ去った後には、接合が完了している状態になります。

ツールの役割

FSWにおけるツールは、単に熱を発生させるだけでなく、接合の品質や効率にも大きく影響します。
ツールの形状、材質、回転速度、押し込み力、傾斜角度などが全て重要な要素です。
例えば、ツールの形状は熱と材料の流動性を管理する役目を持ち、ツールの材料は耐磨耗性や耐熱性が求められます。
これにより、安定した接合を実現し、材料特性の変化を防ぎます。

摩擦攪拌接合のメリット

強度と品質の向上

固相接合技術であるFSWは、溶融溶接でしばしば発生する亀裂や空洞のリスクを低減します。
接合部分の強度が母材とほぼ同等となるため、高い構造強度が求められる製品に適しています。

熱影響が最小限

FSWは低温プロセスであるため、溶接による熱影響が小さく、材料の熱変形や硬さ変化のリスクを減少させます。
特に、熱変形が課題となる軽量合金製品において、そのメリットは顕著です。

溶剤や添加材が不要

FSWでは溶剤や添加材を必要としないため、プロセスが簡素化され、その結果、環境への負荷や製造コストを削減できます。

高生産性

FSWは自動化が容易で、適切な設定により高速かつ連続した溶接が可能です。
これにより、大量生産が求められる製品や部品において、高い生産性を確保できます。

摩擦攪拌接合の活用事例

FSWは、その特性からさまざまな分野で活用されています。

航空宇宙産業

軽量かつ高強度が求められる航空機用部材の接合にFSWが採用されています。
フランジやファスナーの削減が可能となり、軽量化とコスト削減の両方を達成しています。

輸送機器・自動車産業

自動車のシャーシやボディ部品の接合にFSWが用いられています。
特に、電気自動車やハイブリッド車のバッテリーケースの製造において、軽量化が重要視され、FSWが適しています。

造船業

船体構造材や甲板材の接合にFSWが使用されます。
塑性変形が少なく、耐水性に優れた接合が可能なため、船舶の信頼性向上に貢献しています。

電気・通信機器

アルミニウム製のヒートシンクや筐体の製造にFSWが導入されています。
熱変形が少ないため、回路基板などの精密部品に対する影響が抑えられます。

FSWの発展と課題

FSWは技術革新を伴いながら進化していますが、新たな課題も浮上しています。

材料の多様化

新しい合金や複合材料にも適用が期待される中で、これら材料に対する適切なプロセスパラメータの確立が求められています。

自動化とロボティクス

自動化技術の進化により、より柔軟なFSWシステムの開発が進んでいますが、ロボットアームの適応性やコスト面での課題も残されています。

環境への配慮

製造工程の効率化と並行して、環境への負荷を低減するための技術開発も重要です。
リサイクル可能なツールの開発や、プロセス自体のエネルギー効率向上が取組まれています。

まとめ

摩擦攪拌接合(FSW)は、溶接技術としてその独特の特性を活かし、多様な産業分野での技術革新に寄与しています。
金属製品の製造において、高品質かつ高効率な接合を可能にするFSWを活用することで、競争力を高めることができます。
今後の技術のさらなる進展により、FSWの適用範囲はますます拡大し、製造業界全体の発展に大きく貢献することでしょう。

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