投稿日:2025年6月20日

実務に必須の英文テクニカルライティングの基本習得講座

はじめに:なぜ製造業の現場で英文テクニカルライティングが重要なのか

製造業では、国内市場はもちろん、グローバルな展開が今や当たり前となっています。
世界各国のサプライヤーや顧客とのやり取りが増え、調達購買や生産管理の現場では、英語でのテクニカルコミュニケーションが求められています。
特に、「英文テクニカルライティング」の素養は、今後の製造業パーソンにとって不可欠なスキルです。

昭和世代のアナログ的感覚が強く根づく現場でも、もはや「翻訳者任せ」「自動翻訳だけ」では通用しなくなっています。
実際に、海外サプライヤーとの仕様認識ミスや誤調達、品質トラブルの要因が「英文指示書の曖昧さ」によるものだった事例は枚挙に暇がありません。
この記事では、現場目線で、今日から役立つ英文テクニカルライティングの基本を徹底解説します。

製造業におけるテクニカルライティングとは何か?

現場で求められる「伝わる」英文テクニカルドキュメント

テクニカルライティングとは、専門的かつ正確な情報を、読み手に誤解なく、的確に伝える技術です。
製造業で扱う文書には、図面指示、設計仕様書、品質要求書、手順書、調達仕様など、多種多様なテクニカルドキュメントがあります。
これらを英語でやり取りする際、単語や文法が正しいだけでは「伝わるドキュメント」にはなりません。
「現場で実際に手を動かす人が、その通りに作業できる」「サプライヤーが誤解なく製品を作れる」ことが必要条件となります。

和文英訳、直訳NGの壁にぶつかる理由

日本語独特の曖昧表現や行間、文脈に頼った指示は、英語では通用しません。
「~相当」や「良品範囲で」などの表現は、海外の現場担当者には伝わらず、不良・トラブルの温床です。
また、「他社追随で」や「お取引条件は追って連絡」という調達現場特有の曖昧な発注も、英文だとほぼ意味を持ちません。
このような背景から、実用的な英文テクニカルライティングの基本を身につけることは、製造現場を守る確かな武器なのです。

まず押さえるべき!英文テクニカルライティングの基礎ルール5選

1. 主語+動詞+目的語のシンプルな構文を徹底する

和文英訳でありがちな「長文」「副詞や修飾語過多」は、現場で誤解されやすい致命的欠点です。
安全最優先・品質絶対命題の製造業ドキュメントでは、SVO構文(Subject-Verb-Object)の基本を崩さないことが鉄則です。
例えば「配線を赤色ケーブルで実施のこと」は “Use red cables for wiring.” と明快に書きます。

2. 受動態を避け、命令文・指示文を使い分ける

調達契約や作業指示書では、責任の所在が曖昧になる受動態(”should be”, “is to be” など)は厳禁です。
“Provide the inspection report by Friday.” のような命令文を用いれば、責任の所在が明確になります。

3. 数値や単位を厳格に記載する

例えば「必要に応じてネジを締める」は英訳すると常に曖昧になりがちです。
“Torque the bolt to 15 Nm.” のように、必ず数値や規格、単位を明記しましょう。
アメリカ規格(インチ・ポンド)や国際規格(ミリ・ニュートン)を混同しないよう注意してください。

4. 用語の一貫性、中立的表現の徹底

同じ部位・部品でも、和文では「端子」「コネクタ」「カプラー」など複数表現を使いがちです。
必ず一つの単語に統一します。
また、”must”, “shall”, “can” など指示の強度に応じた表現も標準化しましょう。

5. 読点や箇条書きで視認性を高める

多くの日本人技術者の英文書類は、情報を「ひとつながり」の文章で表記してしまいがちです。
英語では、短いセンテンスに区切り、要件は箇条書き(bullet points)で明示することで、現場の作業者が見落としを減らせます。

バイヤー・サプライヤーの視点でよくある英文指示ミスと対応策

よくある失敗例1:納期・数量の曖昧な記載

“Please deliver as soon as possible.” では相手に緊急性も納期指定も伝わりません。
必ず “Deliver 1,000 units by June 30, 2024.” のように具体的に指示します。

よくある失敗例2:品質要求のあいまいな表現

“Good quality is required.” のような抽象的な表現は意味を持ちません。
“Surface roughness shall be less than Ra 0.8μm.” など、要求仕様を数値で明示します。

よくある失敗例3:保守・アフター対応範囲の不明確さ

“Provide support if problem occurs.” では、誰が、いつまで、どこまで対応するか不明瞭です。
“Supplier shall provide onsite support within 48 hours after notification of failure.” まで明記します。

よくある失敗例4:イディオムや日本のローカル表現の誤使用

“Under the same conditions as last time” や “according to Japanese law” などは意味を正確に伝えられません。
必要に応じて、契約書や標準規約を添付し、法的に明確な表現を選択しましょう。

業界のアナログ文化とどう向き合うか:昭和的慣習から脱却する書き方

平成・令和の今でも、製造業界には「言わなくても分かるはず」「長年の慣習通りで良い」といった昭和的な感覚が根強く残っています。
しかし、グローバル化の波は待ってくれません。
以下のようなマインドセットの転換が、英文テクニカルライティングには不可欠です。

「空気を読む」はグローバルに通じない

日本流の「忖度」「阿吽の呼吸」は、文化やバックグラウンドが異なる海外パートナーには全く伝わりません。
全てを明示的に、論理的に、誰が見ても同じ結果を出せるようドキュメント化する姿勢が重要です。

「現場実態」を明文化する習慣をつける

口頭伝承や「現場リーダー任せ」から一歩踏み出し、実際の作業や判断ポイント、リスクも全て英文でマニュアル・指示書に落とし込むことが求められます。
特に多品種少量生産や、設計変更の頻発する日本型ものづくりでは、最新手順を即時英文更新する体制を構築してください。

今すぐ使える!英文テクニカルドキュメントの実例集

作業指示書のサンプル

1. Install the shaft into the bearing with a press fit.
2. Apply lubricant type A to the surface.
3. Tighten four bolts to 10 Nm using a torque wrench.
4. Inspect clearance, and record the result in Form A.
5. If NG, rework as per Section 5.2.

調達仕様書のサンプル

1. Material shall be SUS304 or equivalent.
2. Surface finish shall be Ra 0.4μm or less.
3. Tolerance: ±0.02mm unless otherwise specified.
4. Supplier must submit a material certificate with each lot.
5. Delivery address: XX Plant, Receiving Section.

品質要求書のサンプル

1. No defects such as cracks, dents, or burrs shall be present.
2. Packaging must prevent corrosion during sea transport for at least 60 days.
3. Outgoing quality control to be performed by supplier, with sampling plan Level II.

英文テクニカルライティングの実践力を身につけるための学習法

作成した文書を必ず第三者にレビューしてもらう

実務では、必ず英語ネイティブや海外の現地スタッフ、あるいは現場作業経験がある人にレビュー依頼をしてください。
当事者の立場だけでは盲点が生まれやすく、誤解や読み違いを防げません。

世界標準の規格書や英語マニュアルを模写する

ISO、IEC、ANSI、DIN などの国際規格書や、欧米メーカーの英語仕様書を実際に読み、表現や記載ルールを模写することが、現場派には最も効果的です。
特にフォーマット、言い回し、禁止表現など、実際の運用に活かせるノウハウが詰まっています。

必ず現場にフィードバックする「生きた英文」づくりを

英文テクニカルドキュメントは「机上の理論」ではありません。
自分の書いた英文を実際に現場で使わせ、フィードバックを受け、改善するPDCAサイクルが肝です。
「現場で使われてこそ価値がある」ことを最優先してください。

まとめ:製造業における英文テクニカルライティングは現場力の武器になる

グローバル時代の製造業において、「伝わる英文テクニカルライティング」は、生き残る現場・組織の絶対条件です。
今回は、SVOの鉄則から具体事例、昭和の慣習との決別、実践的な学習法まで、現場経験者の目線で徹底解説しました。
バイヤーやサプライヤー、現場管理者それぞれの立場を理解しつつ、このスキルを磨くこと。
それが、あなた自身のキャリアアップと、製造業界全体の競争力強化への近道です。
ぜひ、明日からの現場で実践してみてください。

You cannot copy content of this page