投稿日:2025年8月15日

EUのCBAM炭素国境調整に備えて素材輸入の排出データを管理する体制構築

はじめに:CBAMとは何か、なぜ備えが必要か

EUのCBAM(炭素国境調整メカニズム)は、2023年10月より試行段階に入りました。

これは、EU域外で生産された鉄鋼、アルミニウム、セメント、電力、肥料、そして2026年以降は対象拡大が見込まれる幅広い素材・製品について、その製造時のCO2排出量に応じて課金し、EU内産業との競争条件を公平に保つ制度です。

この動きは、CO2削減が国際競争力の重要な軸になる時代の到来を意味します。

とりわけ素材輸入を大きな割合で行う日本の製造業にとって、素材調達時の排出量を「見える化」し、適切に報告・管理できる体制構築は避けて通れないテーマとなりました。

CBAMの要点整理:知っておくべき制度の本質

CBAMは、EUが推進する「グリーンディール」の中核的施策で、主な目的は「炭素リーケージ(高炭素排出国への生産拠点流出)」の防止です。

これまではEU域内生産者に排出権取引制度(EU-ETS)を課してきましたが、域外製品は野放しでした。

CBAMによって域外の製品にも同様の炭素コストを課し、EU域内と同水準の環境対応を事実上義務づけます。

以下が要点です。

  • 対象品目はまず鉄鋼、アルミ、セメント、肥料、電力(今後は拡大見込)
  • 輸入者(日本の商社・メーカー等)がEU当局へ排出データを四半期ごとに提出
  • データは各素材のサプライヤー情報を含め、排出係数の証明が必須
  • 2026年以降は申告データに基づき「CBAM証書」購入=炭素コスト課金が本格化
  • サプライチェーン全体の「トレーサビリティ」構築が求められる

素材輸入における排出データ:なぜ管理体制が難しいのか

日本の製造業に根強く残る課題に、「アナログな管理慣行」や「ピラミッド型取引構造」があります。

とりわけ加工度が低い素材類は、国内外の商社や卸、2次3次サプライヤーを経由した複雑な取引になりがちです。

この中で「どこで、どのような排出が発生しているか」は、従来ブラックボックス化していました。

CBAMは「素材(例:鉄鋼)1トンあたりどれだけのCO2が排出されているか」をソースまでさかのぼって証明することを求めます。

アナログ取引慣行のままでは到底対応できず、データの収集・管理・報告に膨大な労力と新たな仕組みが必要となります。

アナログ業界の現実:データ管理のボトルネック

現場レベルでは、発注書、検収書など紙ベースの書類や、Excelによる個人管理が主流です。

取引先によっては「帳票はFAX送信」「仕様変更は電話口で指示」など、デジタル連携が進んでいない事例も珍しくありません。

材料メーカーからの「環境負荷データ」提供への意識も低いままです。

こうした状況下でCBAMに対応するには、次のような課題があります。

  • 排出量や素材ロットごとのトレーサビリティ情報を集める手間・コスト
  • BOM(部品表)や構成情報と環境データのひも付け作業の煩雑さ
  • 海外サプライヤーとの言語・文化の壁、証明書偽造リスクなど信頼性の担保
  • 一次データではなく「推定値」や「代理値」で報告せざるを得ない場合が多い

これらを乗り越えずして、今後のグローバル調達における競争優位性は保てません。

現場目線で考える、CBAM対応の「新しい発想」

では、昭和から続くアナログ文化をも変革できる、CBAM対応の新たな仕組みはどう設計すれば良いでしょうか。

1. 「サプライチェーン全階層」を巻き込む意識改革

まず大切なのは、バイヤー(調達部門)だけでなく、二次・三次サプライヤー、グローバル拠点まで「自分ごと」として巻き込む強力な働きかけです。

トップダウンで「CBAMに基づくトレーサビリティ要件」を示し、必須要件を全階層に周知徹底しましょう。

エビデンスが提出できない場合、「今後の取引継続・現場入札から外れるリスクがある」旨現実的に伝えることが、意識を根底から変えるきっかけとなります。

2. デジタル連携の急速促進:紙の書類から「データ統合」へ

素材や部品の受発注、検収、環境データまで「データベース一元管理」を急ピッチで進めることが求められます。

海外先進工場では、ERP(基幹システム)やPLM(製品ライフサイクル管理)、SCM(サプライチェーン管理)システムに排出データ連携を標準装備しています。

日本的なExcelやFAX文化は、今後は大きなビジネスリスクになる時代です。

3. 排出係数の「見える化」と共通プラットフォーム活用

素材種別ごとに大きく異なる排出量を、「JIS/ISO基準」や、「産業界共通データベース(例:EcoLeaf、JCMデータベース)」を用いて客観的に証明しましょう。

また、バイヤー同士が「CO2情報取引プラットフォーム」を構築・活用する動きも始まっています。

単独企業の努力では限界があるため、業界横断でプラットフォーム導入・データ相互認証の仕組みを積極的に支援すべきです。

CBAMに備えた現場主導の体制構築ステップ

ここからは、私が工場長・調達管理職の立場で実際に進めた施策をベースに、現場目線で「CBAM対応体制」のロードマップを提示します。

ステップ1:調達戦略の見直しとリスクアセスメント

まず、EU域向け・域内調達の比率、素材別の調達先リスト、現行のサプライヤー評価体制を洗い出します。

そのうえで、以下の観点でリスク評価を行います。

  • 各サプライヤーが排出データを提出できる体制か
  • 証明書の信頼性(実測値か推定値か、省エネ法/ISO14067等との整合性)
  • 調達コスト(現状コストとCBAM適用コストとの差額)
  • CBAM対応未満のサプライヤーの代替先有無

この情報が、今後の調達方針(取引先の選定、長期契約の見直し等)の全体設計図となります。

ステップ2:デジタル変革(DX)の推進

現場としてまず推進したいのは、紙やExcel管理からの脱却です。

  • 受発注・検収・納入・物流・環境データまで統合可能な基幹システム(ERP/PLM)の導入
  • サプライヤーと直接データ交換できるB2Bプラットフォームの全社普及
  • CO2排出原単位のBOM上自動計算、可視化
  • 外部システム(EcoLeaf, JCM等)とのAPI連携

自社だけでなく協力会社も巻き込むため、「デジタル連携によるコストとリードタイム削減」というメリットを明確に訴求しましょう。

ステップ3:「CBAM担当者」育成とバイヤー・現場融合

調達購買、生産管理、品質管理など縦割り部門に横串を刺す「CBAMプロジェクトチーム」設置を推奨します。

以下のようなミッションを持つ担当者をアサインしましょう。

  • 国際規格やEU法規のキャッチアップ(法務・監査との連携)
  • 製品ごと、サプライヤーごとの排出データ収集と分析
  • 工場設備・生産プロセスのCO2排出量削減支援
  • サプライヤー教育、認証取得促進

また、バイヤーと現場(加工・物流・設備担当)が密に連携し、「要求→証明→改善サイクル」を構築することが理想です。

ステップ4:パートナーシップ型の「共創」に踏み出す

一方的な取引でなく、「一緒にCBAM対応するパートナー」という関係構築が大切です。

  • 共同でLCA(ライフサイクルアセスメント)算定・減排プロジェクトを立ち上げる
  • 業界団体・NGO等と連携し、エビデンスの共通仕様・ツールを開発
  • データの透明性を確保するための監査・認証スキームを設ける

共に学び、共に改善していく「共創型」の体制こそが、結果的に最長期・最強の競争力源泉となります。

今後の業界動向—「脱昭和」の最先端に立つために

CBAMは、一過性のテーマではありません。

今後10年で、USAや中国、アジア諸国も「炭素関税」導入の方向へ進む可能性が高いといえます。

素材調達時点からの排出可視化と、全社ベースのデジタル変革、そしてバイヤーとサプライヤーの本質的な共創が本格的に求められる時代です。

欧米のグローバル企業は既にこの分野で一歩先を進み、「サプライチェーン全体のCO2可視化=ブランディング価値」「脱炭素対応が値決め・信用格付に直結」という時代が訪れています。

日本の製造業が世界で生き抜くためには、「昭和のやり方」を乗り越え、新しい枠組みで先頭に立つ覚悟が不可欠です。

まとめ

CBAM対応は、単なるEUの法令対応にとどまらず、「ものづくりの現場の本質的アップデート」に直結する大テーマです。

現場目線に立ち、全社・全サプライチェーンを巻き込んだデータ管理・体制構築が強く求められます。

変化の大きな時代こそ、ラテラル思考で新しい地平線を切り拓き、日本のものづくりの底力を世界に示しましょう。

製造業の現場が一丸となり、これからのサステナブルな社会をリードしていく。

その第一歩をともに踏み出しましょう。

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