投稿日:2025年8月28日

EU ICS2 Release対策:事前貨物情報の粒度と責任分担の実務

はじめに:ICS2とは何か?製造業に及ぼすインパクト

ICS2(Import Control System 2、第二世代輸入管理システム)は、EU圏への貨物輸送において事前貨物情報の提出を義務付ける新制度です。

2023年以降、段階的に展開されており、2024年からは空路によるすべての貨物だけでなく、海上・陸路・郵便貨物にも拡大しています。

この制度の目的は、テロ対策やコンプライアンスの強化ですが、製造業をはじめとするグローバルサプライチェーンにとっては、「従来のアナログな慣習との衝突」や「新たな責任体制の構築」が喫緊の課題となっています。

本記事では、昭和的な現場感覚も織り交ぜつつ、製造業バイヤーやサプライヤー向けに、ICS2対策の実務ポイントを深掘りします。

ICS2が変える「事前貨物情報」の粒度とは

従来の貨物情報管理はどうだったのか

長年、製造業の現場では「最小限の情報を都度伝達する」ことで、出荷業務の効率化と柔軟性を保ってきました。

例えば船積書類でも「品名(Product Name)」や「数量」、「送り先住所」が揃っていれば通関は何とかなった。

担当者は経験値や仲間うちのコネに頼り、「どうせ通るだろう」とリスクマネジメントを軽視しがちでした。

この『良い意味でのアナログ感覚』が日本の現場を支えてきた半面、グローバル基準では「不十分な情報管理」と判定される時代がやってきたのです。

ICS2が要求する情報粒度の具体例

ICS2では、製品ごとに詳細な情報提供が要求されます。

具体的には、
– 6桁または8桁のHSコード
– 明確な商品説明(General cargoではなく、具体商品名)
– 荷主・受取人のEORI番号も含めた完全な連絡先情報
– VAC(Value Added Chain)を追跡するためのサプライヤー・バイヤー情報

これまでの「ざっくり通関」ではなく、漏れや不備が発覚すれば即差し止めや罰則のリスクがあります。

サプライチェーン全体で情報の粒度を均一化しなければなりません。

粒度向上に向けたデータ連携の現実的課題

粒度の高い情報を収集・管理するには、デジタル化やDX(デジタルトランスフォーメーション)が不可欠です。

しかし、多くの下請けや地方工場は、未だにFAXや手書き帳簿を活用している現実があります。

– データ入力・転記ミス
– 情報更新のタイムラグ
– 部門間の壁

こうした「昭和から脱却できない壁」をどう突破するかが、今や製造業全体の喫緊課題なのです。

ICS2と責任分担:曖昧さから脱却し、実効性ある体制を作る

なぜ責任分担が重要なのか

ICS2では、「Who is responsible?」がメーカー・商社・物流会社で問われます。

– 情報が欠落していれば誰が責任を持つのか
– 提出期限に遅延が起きた場合、追加コストやペナルティを誰が被るのか
– 現場で起こりがちな「丸投げ」「たらい回し」文化を改めるには

この構造が、日本の伝統的な「誰が悪いと言わない空気」とは完全対極にあります。

業務プロセスの明文化と役割分担のポイント

ICS2へ対応する際、まずは「情報の起点」と「提出責任者」を明文化しましょう。

1. バイヤー(欧州顧客)
– 欧州のEORI登録番号を早期通知
– 商品要求仕様を事前共有

2. サプライヤー(日本のメーカー/工場)
– 正確な商品情報(HSコード・品名・数量)の起票
– 個社コードやロット管理情報も正確付与

3. ロジスティクス担当(フォワーダーや商社)
– 収集した情報の取りまとめ
– ICS2システムへの最終提出

どこか1箇所でも「まあ大丈夫だろう」と目をつぶれば、全体が止まってしまう。

ここでは「現場に明文化されたガイドライン」と「責任追跡の仕組み」が要となります。

曖昧さを防ぐRA(責任分担表)の制定例

下記のRA例は、ICS2への貨物情報提出の流れを整理したものです。

| プロセス | 責任者 | 二重チェック |
|——————————-|——————|————-|
| 製品情報の起票(品名・HS) | サプライヤー | バイヤー |
| EORIなど欧州識別情報の取得 | バイヤー | ロジ担当 |
| 情報集約・ICS2提出 | ロジ担当 | サプライヤー|
| 提出後のフィードバック監視 | ロジ担当 | バイヤー |

こうして「なんとなく」ではなく、「明確化」という昭和的精神からの脱却が不可欠です。

現場目線で考えるICS2対応の実践Tips

アナログな職場でも始められるデータ統一

– 最初からERPやEDIを導入しようとせず、「まずExcelテンプレート化」から入る。
– 添付ファイルや手書き伝票を「スキャン→PDF化」で一元管理し、誰がどの情報を記入したのか記録を残す。
– 商品マスターの整備を優先。今後の追加対応を見越して、品名・部品番号・HSコード欄を揃える。

現場の「ITアレルギー」に配慮しつつも、「新しい仕組みは慣れると楽だ」と腹落ちしてもらう工夫が肝心です。

ICS2対応の人材育成:製造現場と調達部門の連携強化

製造業の特徴として、調達・生産管理・営業・物流が「部門縦割り」になりがちです。

ICS2対応の正しい進行には、部門横断的なワーキンググループが有効です。

– 部署横断のICS2プロジェクトチーム設置
– 各部門ごとの担当者に「ICS2とは?」ステップバイステップ研修
– 物流現場には「現場用チェックシート」など分かりやすい支援ツールを配布する

つまり、立場の違う社員同士を”つなげる”ことが現場を動かす一歩なのです。

バイヤー・サプライヤー間の信頼強化で遅延/手戻りを防ぐ

現場の困りごとは、「情報が足りない」「問い合わせに時間が掛かる」という点に集約されます。

– 事前にEORI番号や商品マスターの共有を徹底
– ICS2提出直前には「Wチェック体制」を
– トラブル発生時は責任のなすり合いをせず、共に原因究明・再発防止

いまだに「うちのせいじゃない」「ヨーロッパが厳しすぎる」と嘆く現場もありますが、大切なのは「お客様視点」で信頼を勝ち取ることです。

DX・AI・自動化時代の北風と太陽戦略

真の自動化やAI導入は一夜にして実現しませんが、「北風政策」でトップダウン導入を迫っても反発されることが多いのが製造現場です。

まずは「太陽戦略」——
– 現場の声を集め、実際に困っていることを見える化
– 属人的なエクセル集計を「ボタン一つで」できるような小規模自動化から着手
– 目に見える改善効果を現場にフィードバックする

「やらされ仕事」ではなく、「現場が納得できる合理性」を持つ仕組みにこだわることで、現場のアナログ文化から抜け出す突破口となります。

まとめ:ICS2時代の製造業現場に求められる“新常識”

ICS2 ReleaseによるEUの輸入管理強化は、日本の製造業やサプライヤー・バイヤーの常識を大きく揺さぶっています。

– 商品情報の粒度を徹底的に上げること
– 責任分担体制を明文化し、曖昧さを残さないフローの構築
– アナログ現場にも着実に浸透させる“現実的な第一歩”から始めること
– バイヤーとサプライヤーが“対等なパートナー”として情報共有・問題解決に取り組む姿勢

昭和からの伝統を尊重しつつ、グローバルスタンダードも強く根付かせる。

今、ICS2をきっかけに「現場目線×新基準」の両立を探ることが、日本の製造業を次世代へ導く原動力となるでしょう。

皆様の現場で、ぜひ“できること”から始めてください。

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