投稿日:2025年11月11日

革バッグの製版で摩耗に強い柔軟性乳剤を選ぶための評価基準と試験法

はじめに

革バッグの製造工程の中でも、製版工程は商品の品質や仕上がりを大きく左右する重要なプロセスです。
特に、近年の多品種小ロット化や消費者ニーズの多様化により、製版材料の選定基準はますます高まりを見せています。
今回は、摩耗に強い「柔軟性乳剤」を用いた製版材料の評価基準と試験法に焦点を当て、現場目線から実践的な内容を解説します。
昭和時代から続く伝統的なアプローチと最新の業界動向を踏まえ、現場で役立つ情報をお伝えします。

柔軟性乳剤とは

柔軟性乳剤の概要

革バッグの製版工程に使われる乳剤は、素材の表面に感光層を形成する際に欠かせない材料です。
中でも「柔軟性乳剤」とは、一定の柔らかさ・しなやかさを持ちながらも、強度や耐久性を兼ね備えた特殊な配合の乳剤を指します。
これは、バッグのように使用頻度が高く、曲げやねじれなどの応力が頻繁にかかる商品ではとても重要な特性です。

なぜ摩耗に強い乳剤が必要か

本来、製版工程で乳剤が劣化や摩耗を起こすと、バッグの表面にムラが出たり、柄が消えてしまったり、最悪の場合クレームや返品リスクを高めます。
特に革素材は高額で、製品寿命も長いため、長期間の耐摩耗性は必須条件です。
現場では「この乳剤なら10年以上使っても柄が消えない」といったロングターム品質が求められます。

摩耗に強い柔軟性乳剤を選ぶ評価基準

1. 柔軟性と密着性

柔軟性乳剤の最大の特徴は、曲げや捻りに追従する柔らかさです。
ただし、柔らかいだけでは意味がなく、素材表面との密着性が伴ってこそ初めて良い製品ができあがります。
評価基準としては、
– 曲げや伸縮を繰り返してもクラック(ひび)や剥離が見られないか
– 時間経過による収縮・硬化が生じていないか
を必ず確認しましょう。

2. 耐摩耗性の評価

業界でよく用いられる試験法として「タバ―摩耗試験」や「Martindale摩耗試験」があります。
この耐摩耗性の試験結果は、乳剤選定の最重要項目です。
現場目線で意識したいのは、単に「摩耗しにくい」だけでなく、バッグ本体の使用環境(擦れやすい箇所、曲げが多い部分など)に合わせた本格的な評価です。
また、摩耗後に印刷柄や着色が残るかどうか、視覚的な変化も忘れずチェックしましょう。

3. 耐薬品性・耐水性

バッグは日常生活で水や薬剤、時には汗や皮脂などさまざまな影響を受けます。
乳剤がこれらに対して耐性を備えていれば、表面の劣化や剥がれを防ぐことができます。
JISやISO基準に基づく耐薬品試験や耐水試験のデータを取得し、カタログ値やメーカーが公表するデータだけでなく、実際のサンプルでの確認がおすすめです。

4. 加工適性(作業性)

現場で見落としやすいのが加工適性です。
いくら耐摩耗・耐薬品性が優れていても、塗布や乾燥に時間がかかったり、特殊な機器が必要になる乳剤は量産に向きません。
– 作業温度帯や湿度への許容度
– 乾燥速度
– 塗布時の伸びやすさ(スジやムラが出にくいか)
など「人の勘」も含めたトータル適性が、現場評価のポイントです。

摩耗に強い柔軟性乳剤の試験方法

摩耗試験の基本手順

革バッグ用製版では、以下の手順で耐摩耗性を評価します。

1. 試験片の作成
実際に使用する革素材に対象乳剤を標準条件で塗布し、指定条件で乾燥・硬化させてください。

2. 摩耗試験の実施
JP070811(JIS K 5600)やISO 11998などの基準に基づく摩耗試験機(タバ―摩耗機など)を用い、規定回数の摩耗を加えます。
現場では想定される使用頻度×想定年数の摩耗回数を設定すると、より実践的な評価が得られます。

3. 観察・評価
摩耗後、肉眼観察・顕微鏡観察で乳剤層の剥離や劣化をチェックします。
また、擦れた表面の柄や光沢の変化、手触りの違和感も評価対象です。

補助的な試験方法

実際の現場では、摩耗試験以外にも以下の補助的な方法を取り入れると、より高精度な評価が可能です。

  • 転写性試験:表面が摩擦で他物に色移りしにくいかを確認(特に淡色製品で有効です)。
  • 屈曲試験:繰り返し折り曲げてクラックや剥離を観察し、バッグの縫製箇所の挙動をシミュレーションします。
  • 実機使用テスト:サンプルバッグを実際の利用シーンで一定期間使ってもらい、摩耗状況・クレーム発生率を確認します。

昭和から続くアナログ業界の課題と変化

属人的な判断から脱却するには

製版現場では、いまだに「職人の経験則」に頼った乳剤選定や仕上がり判断が主流です。
これは「昔からこれを使っているから間違いない」という、いわゆる昭和的な判断基準によるものです。
一方、品質トラブルや顧客の高い要求増、サプライヤーの競争激化によって、計測データや見える化が強く求められる時代になっています。
それでもアナログな環境からなかなか脱却できない工場も少なくありません。

現場発の改善事例

最近の成功事例としては、製版担当者が自社で簡易摩耗試験キット(電動歯ブラシや消しゴムを活用)を自作し、新乳剤の導入効果を「数値」でアピールした例があります。
また、QCサークル活動で「摩耗残存率」や「生産効率」など独自KPIを作り、現場の作業性改善につなげた事例も増えています。
デジタル化は難しくとも、ラテラルシンキングを活用し、“今できること”を徹底する姿勢が変化を生んでいます。

バイヤー・サプライヤーが知るべきこと

バイヤー目線では、「差別化できる耐久テスト」「現場で運用しやすい乳剤」「安定したサプライチェーン」といった点を重視します。
一方サプライヤーは、ただ資料を提出するだけでなく、現場試験への立ち会いや現場作業者へのヒアリング、使い勝手のレビューを積極的に取り入れましょう。
この双方向のコミュニケーションが、真にユーザー本位の乳剤選定につながります。

今後の展望と業界動向

IoTとデジタルスキルの重要性

将来的には、製版工程そのものや乳剤の被膜厚さ・乾燥度合いをIoTやセンサーで常時モニタリングし、「最適な乳剤やプロセス」を自動で推奨する仕組みが普及する見込みです。
既存の昭和的アナログ志向と、AI・IoTなどの先端技術が融合することで、製造現場の品質はさらに向上します。

サステナブル対応への要請

最近では「環境にやさしい乳剤」のニーズも高まり、VOC(揮発性有機化合物)や人体安全性に配慮した製品の使用が重要視されています。
乳剤の選定段階で「グリーン調達・CSR調達」を意識し、環境ラベル取得やLCA(ライフサイクルアセスメント)への対応もバイヤーの大切な評価基準です。

まとめ

革バッグの製版において摩耗に強い柔軟性乳剤を選ぶ際は、耐摩耗性・柔軟性・密着性・耐薬品性や現場作業性など多角的な評価が必要です。
昭和から続くアナログ管理を続けつつも、現場主導の工夫や小規模なデジタル活用を積極的に取り入れていくことで、製造現場の品質レベルは着実に高まります。
バイヤーもサプライヤーも、現場視点・ユーザー視点・サステナブル目線の三拍子を意識した選定が求められる時代です。
これからも、現場で実践しやすい乳剤評価法を共有し、製造業の発展に貢献していきましょう。

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