投稿日:2025年9月4日

受発注システム導入によるROIを可視化する評価方法

はじめに―昭和的なアナログ管理からの脱却

製造業の現場では、いまだにFAXや手書き帳票、エクセルによる受発注管理が根強く残っています。

理由は、「今までこれで何とかなった」や「大きく変えるリスクが怖い」といった”昭和的”な思考が背景にあるからです。

しかし、VUCA時代を迎えた今、取引のスピードや精度、リスク耐性はこれまで以上に求められるようになりました。

そこで、多くの企業が注目しているのが受発注システムの導入です。

この記事では、受発注システム導入によるROI(投資対効果)をいかに可視化し評価するか、現場目線で掘り下げて解説します。

また、バイヤーやサプライヤー双方の立場から見える業界事情も交え、深い洞察と新しい視点をお届けします。

受発注システム導入の目的と現場課題

製造現場の悩み―「人」頼みの受発注業務

製造業の多くでは、ベテラン社員による「阿吽の呼吸」と言えるアナログオペレーションが主流です。

ヒューマンエラー、伝達ミス、手配もれ、納期遅延、過剰在庫や欠品といった「あるある」は枚挙にいとまがありません。

取引データの不整合や帳票ミスは、サプライヤーとの信頼関係にも影響します。

一方、バイヤー側は自社のサプライチェーン全体像が把握できず、原価やリードタイムの短縮努力も属人化しがちです。

今なぜ受発注システムなのか

背景には市場要求の多様化・短納期化とともに、以下の課題が顕在化しています。

– 部品点数やサプライヤー数の増加
– トレーサビリティ要求の高度化
– DX投資による人手不足・脱属人化の必要性
– サステナビリティ経営(BCP、ESG)への対応

これらの課題に対応できる「新しい業務標準」として受発注システムの導入が求められています。

ROI(投資対効果)とは何か

ROIの基本的な算出方法

まずROI(Return on Investment:投資対効果)の基本を押さえましょう。

ROI=「収益増加+コスト削減」÷「投資に要した費用」

受発注システムで期待できる効果は主に「コスト削減」が中心ですが、最近では「収益増加」や「新たな付加価値創出」も評価軸に含まれるようになっています。

よって、システム投資費用(初期+運用)に対してどのくらいの期間で効果が現れて投資回収できたか、がポイントとなります。

可視化しづらい「現場価値」をどう測るか

現場の効率化や業務品質向上、コミュニケーションの質などは、従来”定性的価値”として捉えられ曖昧でした。

しかし、人件費やトラブル防止、リスクヘッジ、従業員満足度向上なども立派なROIの一部です。

見える化と数値化、この2つの視点が評価成功のカギとなります。

受発注システム導入の効果指標(KPI)

1.工数削減・作業効率化

– 受注処理に要する時間、発注作業にかかる時間
– 月次の受発注処理件数あたり人件費(労務コスト)
– 二重入力やヒューマンエラー件数(誤発注や伝達ミス)

例:1日あたり3時間の業務短縮、月次トータル60時間削減→年間約720時間、仮に1人分の工数(約40万円/年)が浮く計算となります。

2.取引ミス・クレーム削減

– 誤発注、誤納品、納期遅延発生回数
– クレーム対応工数と損失金額

エラー頻度が半減すれば、社内対応工数やクレームコスト(場合によっては違約金も)が大きく削減されます。

3.在庫最適化・キャッシュフロー改善

– 在庫回転率、適正在庫日数
– 過剰在庫による滞留コストの削減

リアルタイムで注文・出荷データが同期されることで、在庫過多や欠品リスクが減り、資本効率が高まります。

4.戦略的なデータ活用

– 部門間での情報共有者数
– データ活用による需給予測精度の向上
– サプライヤーとの連携(アンケート評価、ベンチマーク調査)

ビッグデータ連携やAIによる需要予測に結びつけ、原価低減・リードタイム短縮を実現した事例もみられます。

評価ステップ:現場に根付かせるための戦略

ステップ1:現状業務の「見える化」

アナログ管理ならではの属人的な業務フローを、まずはフローチャート・マトリクスなどで可視化します。

どの部分に時間や手間、ミスが多いのか、現場と一緒に棚卸しすることが肝要です。

「ベテランの勘・経験」がブラックボックス化している工程ほど重点的に見直します。

ステップ2:導入前後のKPIを設定

定量化できる指標(工数、エラー回数、在庫数、リードタイム等)と、定性的評価(現場ストレス、残業削減、部門連携のしやすさ等)を両立させた目標値を設計します。

KPIの具体化には「現場の声」と「経営的観点」の両面が必要です。

ステップ3:経営層・現場への定期発信と巻き込み

ROI評価は一過性ではなく、実運用が始まってからもPDCAが重要です。

現場リーダーを中心に数値報告やアンケート調査を通じ、成功体験や課題を全社共有します。

失敗事例も「ノウハウ資産」として可視化し、次回システム構築や業務改革に活かします。

サプライヤー・バイヤーそれぞれの視点

サプライヤー:バイヤーの「見える化」による恩恵

バイヤーの受発注業務が効率化すれば、サプライヤーにもメリットは波及します。

– 発注ミス・納期急変更が減り、安定した調達となる
– 取引情報共有や納期回答がWEBで完結し、担当者負荷軽減
– サプライヤーマネジメント評価が定量化され、販路拡大のヒントも得られる

旧態依然としたアナログ商習慣をアップデートし、パートナーシップ強化に役立ちます。

バイヤー:新たな付加価値創出へ

受発注システムを”単なる省力化ツール”で終わらせず、調達戦略や全社デジタル化の起点として活用する企業も増えています。

– 需給変動リスク把握→調整力強化
– サプライヤー管理基盤→複数購買先との調整・最適化
– SDGs経営推進(環境配慮型取引、監査対応等)

「受発注業務=単なる事務作業」という昭和的発想を超え、経営発展に直結する”バリューチェーンの中核”へと変革できます。

ROI可視化の実践事例

事例1:中堅自動車部品メーカーの導入例

年間2万件の発注がエクセル、メール一斉送信と紙帳票で行われていた現場が、受発注システム導入によって次の効果を得ました。

– 発注処理に要する時間、従来の平均10分/件→システム後3分/件へ短縮
– 年間で約2,300時間(約1.5人分)の工数削減
– 過剰在庫は前年比20%減、帳票の誤記載件数はほぼゼロ
– 社内外問わず、トラブル対応・電話確認が9割減

投資額は初期・保守含めて1,000万円、1.5年で全額回収し以降は純利益として現れる構造となりました。

事例2:電子部品商社のバイヤー改革

18社のサプライヤーを抱えていた大手商社事例では、システムで主要サプライヤーとの取引状況を見える化。

– リアルタイムで調達進捗を一元管理
– 在庫総額30%削減。物流コストの最適化達成
– 年間3,000万円超のキャッシュフロー改善
– サプライヤー評価指標(品質、納期、対応力等)が標準化され、次年度取引選定が合理的に

「IT活用に積極的な企業」として外部評価も向上し、他メーカーからの新規大型案件獲得にも繋がりました。

ROI可視化の未来〜「これから」を開拓するラテラル発想

受発注システムのROI評価は、単純なコスト削減以上の意味を持つ時代です。

現場で生まれる「気づき」や「変化」の情報を徹底的に紐解き、従来の枠組みを超えた新しい価値、たとえば、

– シームレスなサプライチェーン連携による”垣根を超えた情報共創”
– データドリブン経営への転換
– 社員の働きがい向上(手間から創造へ、属人化からチームへ)
– ESG、BCP、ダイバーシティ推進に向けたデジタル地盤作り

など、「計測できない価値」も組み込んだ評価が求められます。

まとめ―ROIを可視化し、”昭和的現場”から次のステージへ

受発注システムは、現場の煩雑さを解消する「道具」であるのと同時に、会社全体の強さ=競争力を磨き上げる「資産」です。

ROIの可視化は、現場・サプライヤー・バイヤー、三方がWin-Winとなるための出発点です。

短期の効果だけでなく、中長期の成長・変革に向け挑戦を続けること。

それこそが、製造業の明日を拓く本質的な投資効果なのです。

受発注システムのROI可視化は、単なる業務効率化では終わりません。

現場目線に立ち、ラテラルな発想をもって、新しい価値創造の一歩を踏み出しましょう。

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