投稿日:2025年12月11日

見た目の段差ひとつが顧客クレームになる外観設計の難しさ

はじめに:”見た目の段差”がなぜクレームに発展するのか

製造業の現場に長くいると、「どうしてこんな些細な違いが問題になるのか」と頭を抱えることがよくあります。
その代表例ともいえるのが「見た目の段差」にまつわるクレームです。
機能的には問題がないのに、わずかな段差や微妙な色味の違いが、顧客からの厳しいクレームに結びついてしまう。
このテーマは自動車や家電、機械装置など多くの”モノづくり”現場で避けて通れません。

バイヤーや品質保証担当者、サプライヤーの皆さんにとっても、外観設計に要求される「美観」の基準は年々高まっています。
一方で、現場では”なかなかゼロにはできない”のが現実です。
このギャップと難しさにどう向き合えばよいのか、昭和からつながるアナログ的な意識や、現場の知恵、そして今後のトレンドも交え、考察を深めていきます。

なぜ外観設計で「段差」が問題になるのか

1. ユーザーの期待値が年々上昇している

SNSやECサイトの普及で、”当たり前品質”への期待は非常に高くなりました。
一昔前であれば「こんなもんだろう」で済んだ外観不良も、今はすぐ写真付きでクレームが上がり、おおごとになりやすいです。

例えばスマートフォンや家電製品は、性能だけでなく見た目の美しさが購入動機の一つ。
細かな組立ズレやパーツ間の段差、表面のムラすらも「初期不良」と認識されやすくなっています。

2. 機能には問題がない”許容範囲”が顧客とメーカーで異なる

工場の立場から見ると「公差範囲内で問題ない」と思える仕上がりも、お客様側からみれば「使いたくない」レベルの不良に見えることがあります。

特にBtoBでは部品メーカー側と完成品メーカー側で、「このズレは許される?」「ここまでの段差は仕様に書いていない」などの認識ズレがクレームを生む要因です。

3. 固定観念に縛られた設計プロセス

設計者は図面や3Dモデル上で「問題なし」と判断しがちですが、実際の現物は違った表情をみせます。
昭和的な経験則は大事ですが、ときに「これくらい大丈夫」と過信してしまいがちです。
ここが現場と設計、さらにはバイヤーとのすれ違いが起こるポイントです。

外観設計で段差が起きるメカニズムとその対策

1. 加工精度と組立のクセ

部品ごとに加工方法が違えば、わずかな歪みやバリ、残留応力で寸法がズレます。
さらに人手による組立の場合、毎回わずかな”癖”が積み重なり、意図しない段差につながります。

対策としては
・部品寸法の厳格な公差管理
・組立冶具導入による均一化
・検査ポイントの明確化
などが重要です。

2. 材料の個体差や経年変化

金属同士、プラスチック同士でも、同じロット・同じメーカーとは限りません。
温度・湿度による膨張や収縮、成形時の内部歪みも無視できません。

設計段階で
・材質ごとの特性を踏まえた設計配慮
・意図的に「逃げ」や「調整余地」を設ける
ことが、長い目で見てクレーム低減につながります。

3. 色や質感の違いによる”見え方”の誤算

段差自体は小さくても、隣り合う部品の色が違えば、実際以上に目立ってしまいます。
照明環境や視線の角度、表面の反射特性なども影響します。

デザインレビューやモックアップ段階で現場確認し、
「どの程度の見た目が許されるか」合意を取っておくことが重要です。

現場が苦しむ”ゼロトレランス”時代の課題

1. アナログ文化がひきずる設計観

現場では「職人技で揃えよう」「なんとかすり合わせしよう」といったアナログ的発想が根強いです。
ですが調達先・グローバルサプライチェーン化により、「明確で客観的な基準」が要求されています。

「誤差が業界平均だからOK」という発想は、デジタル検査やAIによる画像判定の時代には通用しにくくなりつつあります。

2. コストと品質のせめぎ合い

段差やズレなどの外観不良をゼロに近づけるには、
– 設計工数の増加
– 加工精度の極限追及
– QA部門の強化
– 再検査や手直し投入
などコストが膨らみます。

海外含めた競争激化の中、原価低減要求がある一方、見た目品質も絶対水準は上がっていく。
このジレンマに悩まされるのが現場や購買部門のリアルです。

バイヤー・サプライヤー双方に求められる工夫

1. 要件の見える化と合意形成

– 図面に「ここまでOK」「色はここまで」などの具体的な記載
– 検体サンプル(ゴールデンサンプル)のすり合わせ
– 定期的な現場立ち合い・レビュー

こうした小まめなコミュニケーションと、ルールの見直しが重要です。

2. データによる納得性の強化

– 段差や色味の数値可視化(非接触測定や画像解析ソフト)
– 訂正や再加工前後の比較写真を残す

感覚や言い回しに頼らない、客観的なエビデンス作りが大切です。

3. サプライヤークオリティの底上げ

サプライヤー側が単なる”作り手”ではなく、見た目設計や美観に関する知識を持つことも大事です。
– バイヤーの要求傾向や過去事例の共有
– 顧客(エンドユーザー)志向での自社内チェック

「これくらい大丈夫だろう」から「お客様はここを見ている」へ発想を転換しましょう。

昭和的アナログからの脱却と、ラテラルシンキングで新領域へ

現場で生まれ育ったアナログの知恵は、今なお有用です。
しかし「それだけ」では通用しない時代に入りました。

ラテラルシンキング的に考え直してみましょう。

・そもそも段差がゼロである必要性は”どこまで”本当か
・表面処理や模様、意図的デザインで段差を”目立たなく”見せる工夫はできないか
・検査基準を顧客体験に基づいた「機能美」に設定できないか
・最終ユーザーの視点で”どんな価値”が喜ばれるのか、その本質は何か
このような思考法で、外観設計に新たなアプローチや意味づけを生み出すこともできます。

まとめ:変わるもの・変わらないもの

見た目の段差、わずかなズレが大きなクレームにつながる時代。
これは製造業・バイヤー・サプライヤーに共通する、今後ますます重要なテーマです。

製品の本質的な価値を守りつつ、過度なゼロトレランス思考に陥らず、
現場・設計・顧客それぞれの納得感をバランスさせることが大切です。

昭和の経験値とデジタル・ラテラル思考を掛け合わせて、
新しい地平を切り拓き、持続可能なモノづくりに挑戦していきましょう。

製造業の現場から、その最前線の知見を今後も発信してまいります。
モノづくりに関わるすべての方の”気づき”と”進化”に貢献できれば幸いです。

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