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日用品メーカーの量産コストダウンで工程集約が失敗する例

目次
はじめに:コストダウンの常識が通用しない「工程集約」という罠
製造業に携わる方にとって、量産コストダウンは永遠のテーマです。
特に日用品メーカーでは、利益率を守るために、効率的な量産体制の確立とコスト削減が重視されています。
その中でよく選択肢に上がるのが「工程集約」。
一見すると、複数の工程をまとめて処理すれば余計な手間とコストが削減でき、合理的に見えます。
しかし、現場目線で見ると、工程集約が必ずしも成功には結び付きません。
むしろ、昭和から連綿と続くアナログ体質や現場運用の実情を無視した机上の論理では、失敗に終わることが珍しくないのです。
この記事では、工程集約がなぜうまくいかないのか、現場で実際に起きた失敗事例を交えながら、その理由と本質的な改善ポイントを深掘りしていきます。
バイヤー志望の方はもちろん、サプライヤーとしてバイヤーの実情を知りたい方にも気づきが得られる内容にまとめています。
そもそも「工程集約」とは?現場の認識と経営層の狙い
工程集約の目的
「工程集約」とは、通常は個別に管理されている製造工程を一つのラインや装置に集約し、人員や設備、切替の手間を削減しようとするものです。
特に日用品メーカーでは、小ロット・多品種化の潮流を背景に、「無駄な待ち時間を減らす」「人員配置を最小化する」という経営判断で導入されることが多くなっています。
経営層の目論見と現場のズレ
経営層は、工程数を減らせば
– 保有する設備台数や作業員数が削減できる
– 在庫や仕掛かり、間接費を低減できる
– 品質トラブルの責任工程が明確になる
と考えがちです。
しかし現場からすると、
– 段取り替えが煩雑になる
– 一箇所のトラブルが全体に波及しやすい
– 属人化が進み現場オペレーターの負担が増す
といった新たな課題も生まれるのです。
実例1:単純化したはずが「段取り替え」の複雑化で生産性低下
一つ目の典型例は、複数品種を同一ラインで連続生産する「段取り集約モデル」での失敗です。
A日用品メーカーでは、工程ごとに異なるラインを一本化し、段取り替え(型交換・洗浄・材料搬送など)も集約することでコスト削減を図りました。
しかし、実際にはこうした問題が発生しました。
段取り時間アップ+ミス誘発で遅延多発
段取り作業の種類が増え、現場オペレーターの覚えるべき内容が格段に増加しました。
「この品種はこの手順」「このタイミングで材料補充」などルールが煩雑になり、ノウハウを持ったベテランが休むとミスが頻発しました。
個別ラインなら5分で済む段取りが、集約化ラインでは平均25分もかかる。
ライン切替時の材料残しや清掃不備で次品の品質問題も増加しました。
結果として、生産効率はむしろ悪化。
余計な教育・標準化コストや品質ロスが膨らみ、もともと想定していたコストダウン効果を上回る赤字ラインになってしまいました。
実例2:ボトルネック工程の「属人化」と現場負荷の増大
二つ目は、集約した工程の中に“熟練の技”が必要な作業が含まれるケース。
ある日用品メーカーでは、従来分離していた細かな仕上げ工程をフレキシブルラインで集約しました。
狙いとしては、
– オペレーター数を減らす
– 全体を一人の多能工で回す
というものです。
熟練者の退職で大混乱。教えられない技術の属人化
このモデルは、中心となる熟練者が在籍している間はスムーズでした。
しかし、中心人物が異動や退職すると多能工教育が間に合わず、工程がスタック。
工程全体の計画が遅れ、他工程にも悪影響を及ぼしました。
「多能工化」を口で言うのは簡単ですが、日用品の量産現場で本当に全員がすぐ多能工になれるとは限らない。
特に昭和から続く現場では、明文化されていない“現場の勘”や“技能”に強く依存しており、属人化が深刻化しやすい。
属人化解消のための教育やシステム導入には時間も費用もかかり、想定コスト削減効果を大きく下回ってしまうのです。
実例3:一箇所のトラブルが全体停止―リスク拡大の本質問題
三つ目の失敗は、「ワンストップ工程」で発生した大規模ロス。
あるメーカーでは、組立・検査・包装を一体化した自動化ラインを導入しました。
本来の目的は人員削減とトレーサビリティの強化でしたが、問題は意外なほど単純なものでした。
小さな詰まりやエラーで全工程がストップ
旧来は、検査工程でエラーが出ても組立や包装は独立して稼働できたのですが、集約ラインでは一つのエラーで工程全体が止まり、待ち行列が発生。
その都度、関係者が総出で復旧作業に回り、本来不要な手間が大きく膨れ上がりました。
また、個別工程では担当者が「自発的な気づき」でエラーを防げたのに、集約ラインでは「自動化任せ」が進み、かえって小さなミスが連鎖的な大トラブルにつながるようになりました。
特に設備トラブルは復旧に数時間以上かかることもあり、現場全体のパフォーマンスは低下、想定利益は大きく崩れました。
なぜ失敗するのか?アナログ体質と現場事情という「見えない壁」
日用品メーカーの現場は、単なるコスト計算だけでは動きません。
生産量だけを追いかけたり、経営層からの数値目標先行で進めたりすると、現場の事情や“現場力”の微妙なバランスが壊れる危険があります。
アナログ文化と属人ノウハウの絡み合い
昭和時代から続くアナログ体質は、無用に感じられることも多いですが、現場特有の事情やノウハウを暗黙知として支えています。
この文化を無視した急激な工程集約や自動化は、ノウハウ伝承やトラブル時の臨機応変対応力を失わせ、全体のレジリエンス(回復力)を下げてしまうのです。
理想と現実のギャップに現場が疲弊
工程集約は「理論値」では確かに合理化をもたらします。
ただし、現場の複雑さ(例えば非定常作業、人間が必要な微調整、品質変動等)が、実際は大きなボトルネックとなります。
このギャップを補うために、現場は精神的・肉体的な負荷が大幅に上昇し、退職や士気低下の原因にもなりかねません。
本当のコストダウンとは?現場と上流の「対話」による最適解追求
日用品メーカーで量産コストダウンを成功させるには、経営層と現場の「対話」と「共創」が不可欠です。
現場工程の“見える化”と“個別最適”の追求
例えば工程ごとに「なぜ手間がかかるのか」「どこが不具合の温床なのか」を見える化し、優先順位をつけて一つずつ改善する。
業務全体を無理に一本化するのではなく、それぞれの工程に合った最適解を現場と管理側が一緒に模索する、という姿勢が肝要です。
属人化解消と標準化の段階的アプローチ
いきなり全ての技能を標準化・自動化するのは難しいです。
まずは肝となる部分をデジタル化・見える化し、徐々にSTEPを踏んで標準化スキルを広げていく。
そうした着実なアプローチが、結果的に失敗しにくいコストダウン施策になります。
サプライヤー・バイヤー両視点で読み解く現場の課題とヒント
サプライヤーがバイヤーの発想を読み取ることも重要ですが、本質は「現場全体の幸せな最適化」です。
バイヤーなら、「数字」だけでなく「現場が持つ目に見えない力と不満」にも目を向けてみてください。
サプライヤーの立場では、「現場の本音」「現場を支える知恵」を前面に押し出した交渉や提案が、結果として強い信頼関係を生み出します。
また、市場や流通、消費者ニーズ変化を見据え、サプライヤー・バイヤー協働による現場起点の改善サイクルを構築することが、今後の生き残り戦略になります。
まとめ:机上の空論だけの「工程集約」は危険。現場起点のラテラル思考で未来を切り開く
工程集約による量産コストダウンは、多くの課題を内包しています。
– 理想の合理化プランも、現場の実情や暗黙知を軽視すれば、逆に大失敗になりかねません。
– 見落とされがちな“段取り替え”“属人化”“全体停止リスク”など、現場目線での課題も見逃せません。
正しいコストダウンを目指すには、「現場との対話」「小さな個別最適」「段階的改善」の積み重ねこそが、未来を切り開くラテラル(横断的・創造的)な道となるでしょう。
製造業に関わる一人ひとりが、本質的な現場目線と新しい発想力を持つことで、昭和のアナログ文化と最先端のデジタル改革の架け橋となり、持続的な業界発展につなげてほしいと考えています。