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取引先が過剰な在庫引当を求めリスクを押し付ける問題

取引先が過剰な在庫引当を求めリスクを押し付ける問題
はじめに:昭和から続く構造的課題と新時代の兆し
日本の製造業は、戦後復興期から昭和・平成を経て、グローバルな競争とサプライチェーンの変化の中でも独自の進化を遂げてきました。
その一方で、業界には深く根付いた“昭和的商慣習”が今なお強く残っています。
その最たる例が、下請・サプライヤーに過剰な在庫引当や納期前倒しなどのリスクを一方的に押し付ける構造です。
この文化は単なるレガシーではありません。
DXや自動化が進む現場でも依然として大きな障壁となっています。
本記事では、現場目線で実践的な課題と、本質的な打開方法をラテラルシンキングを用いて掘り下げ、製造業の未来を切り拓くヒントを共有します。
取引先から押し付けられる“過剰な在庫引当”とは何か
発注元(バイヤー側)がサプライヤーに対し「需要が不安定なので、一定量の在庫を常に用意して欲しい」「出荷量がブレても柔軟に対応して欲しい」と依頼し、実質的に在庫の保管・運用リスクをサプライヤー側で背負わせる取引形態です。
多くの場合、これらは正式な契約ではなく「阿吽の呼吸」「業界標準」として要請され、費用負担やリスクの話は曖昧なまま進みます。
そして需給ギャップが発生した際には、在庫廃棄・返品・値引きの矛先がサプライヤーに向きがちです。
バイヤー(発注元)が“リスクの転嫁”を求める背景
なぜ、バイヤーがこうした過剰な在庫引当を求めるのでしょうか。
・発注元企業もエンドユーザーから急な納期短縮・需要変動を突き付けられる
・自社の在庫回転率を良く見せたい(決算や財務指標のために、在庫を社外化したい)
・もしもの時に「供給停止」「納期遅延」リスクをゼロに近づけたい
特に部品点数が多く、サプライチェーンが複雑な製造業では、「仕入先リスクゼロ化」を求めすぎるあまり、サプライヤーに負担が集約する傾向が強く出ています。
サプライヤー側に発生する具体的なリスク
サプライヤー側から見た場合、こうした過剰な在庫引当には以下のような具体的なリスクが生じます。
・在庫保管コスト(倉庫、管理人件費、保険など)
・資金繰りの悪化(売上計上までが長期化、キャッシュフローに影響)
・陳腐化・劣化リスク(特に半導体や電子部品、塗料など)
・売れ残りの廃棄や値引き強要
・急な需要変動への柔軟な生産計画が難しくなる
中小のサプライヤーほどこれらのリスク耐性が低く、“暗黙の慣習・圧力”により経営体力を蝕まれるケースも後を絶ちません。
現場の実態:昭和型体質と時代遅れの「互助」
歴史ある製造業ほど、「足りなかったら迷惑をかける」「困った時は互いに融通しあう」の精神が重視されてきました。
これは日本企業の“強み”として世界から評価された時期もありましたが、少子高齢化・グローバル競争の激化により、今や足かせとなりつつあります。
実際、多くの工場現場では
「毎月余裕をみたロット数を仕込め」
「万が一間に合わなかったら個人で調達しろ」
「エンドユーザーを止めるな」
といった“美談”が、過度なサービス残業や私財投入・無償対応へと形を変えています。
世界標準とのギャップを考える:サプライチェーンマネジメントの観点から
グローバル企業の多くは、調達・供給のリスクを適正に分担し、
契約書やSLA(サービス品質合意)で明確化しています。
需要予測精度の向上や、デジタルツールによるリアルタイム在庫管理で不測のリスクを抑制し、
「リスクを取るなら、その分コストとして上乗せする」
「緊急時対応にはアルファコスト(プレミアム価格)を払う」
といった合理的な取引が根付きつつあります。
しかし昭和からの商慣習が根強い日本の多くの一次・二次サプライヤーは、「お客様の要望には何でも応える」「ダメなら泣き寝入り」の姿勢が払拭しきれません。
この結果、真面目にコスト試算し価格交渉する企業ほど値切られやすい、という矛盾が生じています。
“過剰在庫”をビジネスモデルに進化させた事例
それでは、こうした状況を打破する考え方は存在するのでしょうか。
実際、ラテラルシンキングで新しいビジネスモデルを構築した企業も存在します。
たとえば、
「在庫引当量を契約で明文化し、一定ラインを超える部分については倉庫代を別建てで請求する」
「需要予測AIを導入し、可視化したリスク分を“サービス料”として価格構造に反映させる」
「部品在庫そのものを第三者ロジスティクスに移管し、共同利用型の『在庫プール』化する」
といったアプローチです。
このように、リスクという“不確定要素”を見える化・契約化し、新たな付加価値サービスに転化することで、サプライヤー自らが主導権を握ったケースも生まれています。
バイヤーを目指す方へのアドバイス
これから製造業のバイヤーや調達担当者を目指す方にお伝えしたいのは、
「サプライヤーに無理を押し付けることで、一時的に楽ができても、中長期的にはサプライチェーンの強靭性・信頼性を損なう」
という点です。
・在庫リスクをどこまで自社で引き受けられるか冷静に評価する
・サプライヤー側の事情や収益構造を理解し、公正なコスト分担を意識する
・契約書や仕様書で“例外時の対応”を事前に協議・明文化する
・急な発注変動が避けられない場合、協力金やプレミアムを積極的に認める
ベンダーも“リスクを伴うサービス提供者”と捉え、「対等なパートナーシップ」の構築を心がけることが、最終的なQCD(品質・コスト・納期)と安定調達につながっていきます。
サプライヤーから見た「バイヤーの考え」を知る重要性
サプライヤーや営業・生産管理担当者にとっても、バイヤー(発注元)が抱える「納期責任」「仕入れ評価」「自社のリスク」について想像力を持つことは、交渉力や提案力を磨く上で重要です。
・なぜ急な在庫確保を求めているのか?
・取引先社内で誰がどこまで意思決定権を持っているのか?
・コストダウン圧力とリスク回避のバランスに苦しんでいないか?
こうしたバイヤーの“事情”を踏まえて自主的にリスク分散案を提示したり、「在庫リスクの一部は有償サービス化できます」と説明できれば、価格交渉の主導権を握ることも可能です。
今こそ、現場主導の“取引構造改革”を
過剰な在庫引当・リスク転嫁という昭和型体質から卒業するには、現場で働く方々それぞれが一歩踏み込んで「見える化・契約化」に取り組み、対等なパートナーシップを築く意識改革が求められます。
・お互いのコスト・リスクを「見える化」して言語化する
・契約書や仕様書で例外時対応・費用分担ルールを明確にする
・古い慣習・阿吽の呼吸を「交渉力」「提案力」に置き換える
これは決して“ドライな関係”になるということではありません。
むしろ日本型モノづくりの強みである「現場力」を活かした分業体制のアップデートなのです。
まとめ:新しい時代の“Win-Win”関係構築に向けて
過剰な在庫引当・リスク転嫁の問題は、日本製造業の現場を知る人ほど身に覚えがある、根深いテーマです。
ですが、世界標準に近づく“適正なリスク分担”への第一歩を踏み出せば、調達・供給の安定化・収益力アップ・現場負荷低減の三方良しが実現します。
デジタル化や自動化で無駄をなくし、商慣習の見直しと契約重視の文化を浸透させる。
そしてサプライヤー・バイヤーが「パートナー」として互いにリスペクトし合える体制構築を目指しましょう。
現場と経営の架け橋として、ぜひ今一度、自社の「取引構造」を見直してみてください。
それが製造業の未来を切り拓く最大のカギとなるはずです。
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