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クルマの完成後も続く開発体制が生む疲弊

目次
はじめに:完成車メーカーの「終わらない開発体制」とは
自動車産業の現場に長年身を置いて実感しているのは、クルマが完成したはずのタイミングでも「開発」は終わらない、という現実です。
これは日本の自動車メーカーが持つ「品質第一」や「カイゼン」といった風土にも密接に関係しています。
しかしその裏側では、現場で働くエンジニアや調達担当者、そしてサプライヤーが想像を超える疲弊に直面していることは、あまり表に出ません。
本記事では「昭和体質」から抜け出せない部分を含め、完成後も終わらぬ開発・改良がもたらす現場の負荷と、バイヤー・サプライヤー双方に求められる突破口を考察します。
クルマの開発プロセス概要と「完成」の定義づけ
従来型の自動車開発とは
自動車の開発とは、単なる設計~製造だけを指しません。
新車種企画、全体設計、試作、各種テスト(衝突・耐久・環境・騒音等)、生産準備、そして量産といった複雑な工程の集合体です。
多段階の「ゲートレビュー(品質管理上のマイルストーン)」をクリアし量産開始、一般的にはここを「完成」と呼ぶ風潮が強いのですが、現代の現場では量産以降にも膨大な改良タスクが続きます。
「完成」の後に何が起きているのか?
実際には量産車両出荷後も、顧客からのクレームや市場不適合レポート、リコール対応、追加法規への対応など、「終わらない開発体制」は現場にのしかかります。
たとえばある新型車のリコール対応では、開発チームが休日返上で解析・対策案を練り、生産現場やサプライヤーも巻き込んだ追加”開発”が突発的に繰り返されます。
なぜ日本の製造業は「未完成の完成」を受け入れないのか
品質神話が生み出す無限ループ
日本メーカーの強みでもあった「妥協なき品質追求」は、同時に「納期優先」や「割り切ったリリース」をしづらくします。
海外自動車メーカーがバグや不具合を受け入れつつ定期的アップデートを選択するのに対し、日本は「できる限り完全な製品を最初から出す」価値観が根強く、改良要求が現場から現場へ飛び交い続ける構造から抜け出せません。
お客様第一主義のジレンマ
クルマは命を預かる商品であり、現場には「1件の事故もミスも許さない」という高い倫理観が求められます。
しかし、そのために「納車後も設計変更」「同型車でも仕様ごとに小改修」といった手戻り作業が発生し、現場の人的リソースを圧迫する悪循環に陥ります。
現場にのしかかる疲弊の現実
サプライヤー側から見た「終わらない要求」
バイヤー(調達部門)からの設計変更や追加検証依頼は、しばしば突然かつ短納期で求められます。
「この部品、急遽設計を一部見直せないか」
「海外市場の仕様変更に間に合わせて追加試験を」
「納入済みロットにまで品質調査を遡ってほしい」
こうした要望は、既に量産や他案件にリソースを割いているサプライヤーの現場には大きな負担となり、心身の疲弊・サービス残業・ミスの誘発といった課題の温床となります。
バイヤー現場の葛藤と限界
一方でバイヤーも「下流」にイニシアティブを丸投げしているわけではありません。
上層部からは「サービス品質維持」「コスト圧縮」「リードタイム厳守」等の矛盾する指令が次々下ります。
サプライヤーとの関係維持、自社内への調整役、品質問題の調査・報告と、日々心休まる暇もなく「板挟み」状態になることもしばしばです。
昭和アナログ体質の負の遺産は今も根強い
属人的対応から抜け出せない理由
自動車製造現場では、まだ「巧みなベテラン現場力」や「暗黙知・職人芸」に依存した課題解決が主要なアプローチになっている場面が多く見られます。
例えば「あの担当者が動けば何とかなる」「現場のつてで部品を急造」といった、その場しのぎの”神業”に頼るマネジメントが、結局また新たな問題を招く結果となります。
情報共有・標準化の壁
情報伝達のアナログ性、口頭指示やFAX文化が根強く、最新のデジタルツールも「一部先進ライン・プロジェクトでしか使われていない」ことが多いのが現状です。
こうした旧態然とした体質では、ノウハウの”属人化”→「同じ失敗や手戻りの再発」という悪循環を断てず、全体最適が進みません。
バイヤー・サプライヤーの立場から考える打開策
バイヤーに求められる「現場伴走力」
調達担当者は、単なるコスト削減や依頼事項の伝達役だけでなく、
・サプライヤー現場と一緒に課題解決を考える力
・現場目線でのリスク発見・予防提案
・属人的運営やムリ・ムダ・ムラの見える化と、プロセス標準化への道筋づくり
といった「現場伴走型マインド」の醸成が不可欠です。
現場の声を直接拾い上げ、サプライヤーを一方的な”下請け”でなく、パートナーとして尊重する姿勢が求められます。
サプライヤーが身につけるべき「情報発信と交渉力」
一方サプライヤー側も「言われたことをこなすだけ」から脱却し、
・設計変更・追加試験など負荷の見える化
・コスト・リードタイムの増加要因を明確に開示し、相手と協議する交渉力
・現場事情や工程上の理由を論理的に説明し、バイヤーとの共通理解形成
を強化することで、「もっと良い進め方」の提案や改善がしやすくなります。
求められる「ラテラル思考」と業界地殻変動のヒント
既存の常識を一度疑う勇気
「こうあるべき」「昔からこうしている」だけで動くことが、現場疲弊の根源になっている場合も多いです。
例えば「全て自社開発でなければならない」「不具合は現場の努力でゼロにする」といった価値観を問い直し、
・”合格”の定義を市場ニーズに応じて柔軟化
・外部リソース活用、コミュニティ型仕組みへの脱皮
・ベンダーとの共創による共通プラットフォーム化
・データドリブンな品質管理やフィードバックサイクル短縮
といった「新たなモデル」を積極的に模索することが重要です。
デジタル化・標準化で疲弊の「見える化」を進める
成功している先進現場に共通しているのは、
・業務プロセス・設計情報のデジタル管理
・改良要求・課題管理の標準フロー化
・改修作業やトラブル対応のリソース”見える化”
進捗管理やリソース配分が属人化・ブラックボックス化せず、余計な疲弊ポイントや業務負荷が可視化されます。
まずは現状のボトルネック可視化、そして「何を止めるか」「どこまでやるべきか」の合意形成こそが、疲弊からの脱却の一歩ではないでしょうか。
まとめ:今こそ製造業の「終わらない開発疲弊」を乗り越えるために
自動車産業を支える現場には、クルマ完成後にも続く多くの改良・要求が降り注ぎ、エンジニア・バイヤー・サプライヤーそれぞれが業務負荷の限界に直面してきました。
これは「品質第一」の美徳と引き換えに生まれた、日本的な工場・現場体質の裏面でもあります。
今後は「ムリ・ムダ・ムラ」を正面から可視化し、バイヤー・サプライヤーの双方が一歩踏み込み、時には従来のやり方を疑うラテラルシンキングが必須です。
足元の小さな現場改善だけでなく、全体最適を見据えた透明性・パートナーシップ・情報共有を産業全体で推進することで、「終わらない現場疲弊」からの脱却がはじまります。
あなたの現場にも”新たな地平線”を、ぜひこの機会に切り拓いてください。