投稿日:2025年8月17日

リサイクル材の適用範囲を拡げ材料調達コストを下げる品質保証

はじめに:製造業を取り巻くリサイクル材の現状

近年、製造業を取り巻く環境は大きく変化しています。
グローバルな資源の枯渇問題や環境規制の強化、さらには原材料価格の高騰など、安定したモノづくりを続けるには材料調達の新たな工夫が求められています。

こうした中で「リサイクル材」の活用は、材料調達コストを下げる切り札でありながら、SDGsやカーボンニュートラルなどの社会的要請にも応える優れた手法です。
ただし、現場目線でみると「品質保証」がリサイクル材適用拡大の大きな壁となっているのも事実です。

本記事では、長年の製造現場経験をふまえ、リサイクル材の適用範囲を拡げるための実践的な手法と、材料調達コスト低減に本当に効く品質保証の考え方を解説します。
バイヤー志望の方や調達担当者、サプライヤーとしてバイヤー心理を理解したい方にも役立つ内容をお届けします。

昭和の常識を覆すリサイクル材活用の必要性

なぜ「新材」が絶対だったのか

昭和から平成初期にかけて、日本の製造業は高品質な「新材」こそが安定供給・高品質を担保するという強い常識を持っていました。
「不安要素を持つ再利用材は絶対に使わない」「たとえコストが高くても新材が安心」という風土が社内ルールや品質マニュアルにも色濃く残っています。

この背景には、過去に起きた材料由来の不良やクレーム、歩留まり悪化への「トラウマ」が多く存在します。
現場の責任感ゆえですが、この思い込みが材料調達の硬直化やコスト高体質の温床となっている点は否めません。

リサイクル材の品質管理技術は大きく進化している

ところが近年、材料メーカーやサプライヤーによるリサイクル材の選別・再生技術は飛躍的に進化しました。
不純物混入や物性ばらつきのリスクを高度な分析手法やIT・AI技術で見える化することが可能になり、以前は考えられなかった高付加価値製品への再生材適用事例も増えています。

しかし、最前線の現場では「そんな大した違いは本当にあるのか?」「品質トラブルが怖いので新材が無難」というムードがいまだ根強く残っています。
リサイクル材の真価は「知っているか」「使いこなせるか」で大きな差がつく時代になったと言えるでしょう。

リサイクル材導入例:現場でうまくいったケース・失敗したケース

成功例:全数検査+工程内モニタリングでロス削減

ある樹脂メーカーでは押出成形プラントの原料において、新材比率を維持しつつリサイクル材を段階的に導入しました。
導入初期は、入荷時・工程中・最終製品時の三段階で、一般に採用されるよりも項目の多い品質検査を設定し、不適合ロットを徹底して除外する運用に注力しました。

さらに、日々の生産データ(温度、圧力、樹脂流動特性など)とロットごとの不良発生率をIT活用で可視化し、現場の作業員が「材料ごとに微調整する文化」を育成しました。
この結果、リサイクル材比率を従来の10%未満から50%へ引き上げながらも、品質不良コストは逆に減少し、材料単価も大幅に低減しました。

失敗例:当事者不在の現場ルール変更は混乱のもと

一方、別の金属加工メーカーでは、調達部門主導でコスト低減効果だけを重視した導入方針を設定しました。
品質部門や生産現場と十分な擦り合わせをせず、元々の管理基準や検査項目を「そのまま流用」してリサイクル材へ適用させた結果、工程内で歩留まりが大きく悪化。
想定外の不良発生がサプライチェーン全体に遅延をもたらし、現場改善の負荷も増加しました。

結局、約半年で導入は頓挫し、新材への「逆戻り」となってしまいました。
このケースでは「リサイクル材=新材と全く同じ管理でいけるはず」という安易な類推が招いた失敗だったのです。

適用拡大の鍵は「リスクを見積もり、最適な管理手段をとること」

なぜ、リサイクル材には独自の品質保証が必要か

リサイクル材は、その性質上「工程ごとの変動」や「原材料毎の履歴」の管理が極めて重要です。
新材と比べてばらつきや不純物混入リスクがゼロにはなりませんが、その傾向を正確に把握し、現場運用のPDCAの中でフィードバックできれば「品質・コスト・納期のトリレンマ」は崩せます。

そこで求められるのは「まずリスク(想定不良パターン、変動要素)を洗い出すこと」。
そして「可視化したリスクに合わせて多層的に保証管理すること」です。
過剰な検査ではコスト削減効果が薄れるため「弱い部分を重点監視し、リスクが低い部分の手間や検査は縮小する」ことも重要です。

管理のコツ1:履歴管理とトレーサビリティの徹底

リサイクル材は想定以上の「履歴管理」がものをいいます。
投入原料ごとにバッチ管理し、どのサプライヤー・どの工程由来の材料かトレースできるようにしておくことが、万一の不具合発覚時にも工程つぶし込みや原因追求に役立ちます。

また、履歴情報を「見える化」し、現場作業者と一緒に情報を分析する仕組みをつくることで「気づき」や「現場改善」も加速します。

管理のコツ2:工程内検査とリアルタイムモニタリング

新材で慣れた「抜き取り検査」のみではリサイクル材のばらつきを掴みきれません。
少なくとも導入初期や工程のキーマテリアルについては、工程内にポイントとなる「リアルタイム検査」(流動性測定、成分分析、外観検査など)や「品質予測システム」を導入することが有効です。

最近はIoTセンサーや簡易分析機器のコストも低下しており、従来難しかった「つど記録・逐次検証」が現場レベルで実施しやすくなっています。
「残留水分」「純度」「粒度」など、その材料特有の弱点にターゲットを絞った検査仕様を柔軟に組み込めるかが、担当バイヤーや品質保証部門の腕の見せ所です。

管理のコツ3:現場巻き込み型の改善文化づくり

リサイクル材のバリューチェーンは、調達担当・工程管理・品質保証・作業者・サプライヤーと「多層構造」になりがちです。
工程ごとに異なる「リスクの押し付け合い」を生まないためには、信頼できるフォーラムや現場参加型のQC活動を頻繁に行い、「なんでも話せる空気」と「肌感覚での共通認識」を作ることが不可欠です。

この“泥臭い”アプローチこそ、昭和的な製造業組織特有の「壁」を打破し、現場を変革する基盤となります。

バイヤーやサプライヤーが知っておくべき「本当のコストダウン」

イニシャルコストとトータルコストはイコールではない

よくある誤解ですが、「リサイクル材に切り替える=即コストダウン」といった短絡的な考えはリスクを伴います。
調達価格は確かに安くなっても、不良返品や工程内ロス、トラブル対応にかかるコストの増大、サプライヤー管理負荷の増加などで、“全社的なトータルコスト”が逆に上昇するケースも多々あります。

重要なのは、イニシャル工数や検査コスト、リスク対応費用など隠れたコスト要素まで含めた「トータル原価管理」を行うことです。
また、導入時は段階的に適用範囲を拡げ、品質データやクレーム情報を継続的に分析しながらPDCAサイクルを高速で回すことが小さなつまずきや失敗を防ぎます。

サプライヤー選びも「品質保証ポテンシャル」で見極める時代

新材主体時代のような「価格一本勝負」ではなく、リサイクル材時代の仕入先選定では「材料選別・分析の能力」「トレーサビリティ体制」「工程での監査受入の柔軟性」も重視ポイントとなります。
求める保証レベルや追加管理コストとのバランスを見極めながら「一緒に育てていけるサプライヤー」を選ぶ時代です。

まとめ:未来志向のリサイクル材活用が調達・製造現場に求められる

これからの製造現場において、リサイクル材の活用範囲は確実に拡大していきます。
その際に大事なのは「新材が当たり前だった昭和の常識」にとらわれず、リサイクル材特有のリスクを適切に把握したうえで独自の品質保証スキームを構築することです。

成功事例に共通するのは、現場の参加と組織を横断した情報共有、そして段階的なPDCAサイクルの徹底です。
バイヤー志望の方には「コストだけでなく現場目線から品質保証の現実を学ぶこと」、サプライヤーの方には「顧客側バイヤーがどこまでリスクを見ているのか」を“肌感覚”でつかむことが今後の競争力となるでしょう。

昭和の延長線上で思考停止せず、ラテラルシンキングで新しい材料・新しい現場運用のあり方を開拓することが、真の意味での“現場力の底上げ”と製造業の持続的発展につながるのです。

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