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相手国規制に対応しない仕入先が原因で輸出が滞る問題

目次
はじめに:相手国規制の重要性と製造業現場の課題
製造業のグローバル化が進む中で、製品を海外に輸出することはもはや特別なことではなくなっています。
しかし、この国際取引において頭を悩ませるのが、相手国ごとに異なる「規制への対応」です。
特にサプライチェーンの多様化が進み、仕入先(サプライヤー)が相手国の法規や規制を遵守していない場合、たとえ自社が万全の体制を敷いていても輸出が滞ってしまうという問題が、現場の大きなリスク要因として浮上しています。
この記事では、長年工場現場で培った実務経験と最新の業界動向を踏まえ、相手国規制に対応しない仕入先が原因で輸出がストップする現場課題、その背景、対応策について深く掘り下げます。
バイヤーや調達担当はもちろん、サプライヤーや将来バイヤー職を目指す方、業界内でアナログ慣習に違和感を持つ方々に向けて、実践的なヒントや現場で役立つ知識を共有します。
相手国規制とは何か:製造業を取り巻くグローバルルールの複雑化
海外に製品や部品を輸出する場合、単に数量や納期、価格だけでなく、仕向け先となる国・地域ごとの「法規制」「技術基準」「環境規制」「通関要件」などをクリアしなければなりません。
例えば、ヨーロッパであれば「REACH規制」や「RoHS指令」、「CEマーキング」が有名です。
中国では「CCC認証」、米国であれば「FCC認証」や「UL規格」など、国や用途ごとに求められている内容は大きく異なり、しかも改正や追加が頻繁に行われます。
特に近年は、SDGsやESG投資の潮流を背景に、「脱炭素」や「有害物質削減」、「人権配慮」など、従来以上に厳しい要求が突き付けられるケースが増えています。
このような規制は大手メーカーだけが対象ではなく、部品、材料レベルのサプライヤーも順守が強く求められる時代となりました。
昭和的な現場感覚とのギャップ
ところが、長年アナログな慣習が根付く製造業界では、「相手国仕様は最終製品メーカーが何とかしてくれる」「昔から問題なかったから大丈夫」といった思い込みが根強く残っています。
結果として、一部のサプライヤーは必要な書類の不備や規制対応の遅れが頻発し、輸出工程全体に大きな支障をきたす事例が後を絶えません。
現場で多発する輸出停止・遅延事例:どんな問題が起きるのか
実際の現場では、サプライヤーの規制未対応が原因となって次のようなトラブルが頻繁に発生します。
1. 必要書類の未提出(遅延)
REACHやRoHSなどの規制証明書、輸出許可に必要なMSDS、含有化学物質管理表、部品単位での安全認証証明など。
サプライヤーが「作り方が分からない」「自社は対応が不要と思っていた」と未提出のまま、納期直前になって事態が発覚。
最悪の場合、出荷自体が不可となります。
2. 法改正・規制変更へのキャッチアップ不足
規制はしばしば改正や拡張が行われます。
しかし情報収集や体制づくりを怠ったサプライヤーが、従来のやり方のまま納入した結果、「新規制違反」と判定され、製品が税関でストップ。
再調達・代替手配などで膨大な追加コスト・遅延が発生します。
3. 規制対象外と誤認してしまったケース
「自社の部品は規制対象外」と独自判断で対応しなかったところ、顧客の完成品では規制対象になり得る用途だった事例もあります。
この誤認により、完成品の最終工程で全数再検査や、最悪のケースでは廃棄・リコールにつながる場合もあります。
4. 旧態依然の現場文化が足枷になるパターン
例えば書類の手渡し、ハンコ文化、FAXなどアナログな手法に依存しすぎて、ちょっとした不備や伝達遅れが積み重なり、致命的なトラブルに発展する現場も依然少なくありません。
現場の属人的な運用が多い企業ほど顕著な傾向です。
なぜ仕入先が規制対応を徹底できないのか
仕入先、特に中小規模のサプライヤーでは、なぜ規制順守が実行できないのでしょうか。
そこには複数の要因があります。
1. 情報収集・理解力の不足
相手国の規制情報は基本的に英語や現地語が中心、内容も複雑で、専門用語も多いため、社内に知見のある人材がいないと「何をすべきか分からない」というのが実情です。
2. リソース・コスト負担への消極スタンス
規制対応には法務、品質、技術など社内横断のマンパワーやIT投資が要求されます。
営業利益が圧迫されがちな中小サプライヤーほど、消極的な傾向が残りやすいです。
3. 顧客任せの昭和的慣習
「証明書は最終的に大手メーカーがまとめて出すもの」「今まではOKだった」といった、昭和から抜け出せない受け身な習慣も根強く、「自分ごと」として規制対応を捉えきれていないサプライヤーが目立ちます。
バイヤーが取るべき対策:現場目線のリスクマッピングとエンゲージメント
バイヤー(調達担当)は、サプライヤー任せにせず、主体的かつ構造的にリスク管理を進める姿勢が不可欠です。
ここでは主な実践策を紹介します。
1. 契約書・仕様書で規制対応義務を明文化
無意識レベルの抜け・漏れを防ぐために、取引契約書や部品仕様書の中で「最新の相手国規制を遵守すること」「必要書類の期限内提出義務」などを明文化し、法的効力をもたせることが基本です。
2. ランキング・リスト化によるサプライヤー管理
サプライヤーの規制対応実績や提出スピード、過去の遅延履歴を点数化し、A~Cランク等に格付け。
リスクの高いサプライヤーに対しては、追加監査や予備品確保、代替サプライヤーへの切替も視野に入れて管理します。
3. 定期的な研修・勉強会の開催
規制内容の逐次アップデートに合わせて、サプライヤーを集めた勉強会やオンライン研修を定期的に実施。
キャッチボールの頻度を高めることが、現場感覚のまま放置状態を防ぐ秘訣です。
4. 規制情報を「見える化」したITシステム導入
Excelや紙ベース管理から脱却し、Web上で規制情報・証明書提出状況・期限などをリアルタイム「見える化」するITシステムを標準化することで、抜け・漏れリスクを劇的に減らせます。
大手メーカーでは既に普及が進みつつあり、中堅規模でも活用が広がり始めています。
サプライヤー側へのメッセージ:「規制順守力」は競争優位性の源泉
サプライヤーから見れば、規制対応は「手間がかかる」「コストばかりかかる」と負担に感じがちです。
しかし、本当にそうでしょうか。
世界のモノづくりのトレンドは、かつての「価格優先」「納期優先」から、「法令遵守」「環境・人権対応」「レジリエンス強化」へと、静かに、でも確実に転換し始めています。
相手国ごとの規制情報をいち早くキャッチし、対応工程・証明書管理をシステマチックに回せるサプライヤーは、顧客からの信頼を集め、値上げ・取引継続等においても確かな強みとなるでしょう。
「皆やっていないから…」と保守的になることで、かえって競争から取り残されるリスクの方がはるかに大きい時代なのです。
まとめ:規制順守こそが日本のモノづくり現場を強くする
相手国規制対応の失敗は、1回の取引をパーにするだけでなく、信頼や顧客関係を根底から揺るがしかねません。
製造業現場で本当に求められているのは、「安く・早く」だけでなく、「安全・確実に輸出できる仕組み」を構築し、サプライチェーン全体の信頼性を高めることです。
一人一人が 「昭和の現場感覚」にとどまらず、ラテラルシンキング(横断的思考)で時流を読み、柔軟に未来を切り拓く。
バイヤー・サプライヤーが連携して「規制対応力」を高めあうことこそ、これからの製造現場の新たな競争力の源泉になります。
今後も世界中の規制は絶えず変化します。
情報をいち早くキャッチし、確実に実行する現場こそ、日本のモノづくりの真の強さだと信じています。
今こそ、業界の壁や慣習を超えて「変化への一歩」を踏み出しましょう。
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