投稿日:2025年11月14日

陶器ボウル印刷の露光で細線欠けを防ぐための露光テストチャート活用

はじめに

陶器ボウルなどの成形品に対して、印刷工程で美しいパターンやロゴを表現するためには、露光の精度が極めて重要です。
特に細線部分で欠けやつぶれが発生すると、製品の品質に大きな影響を与えます。
本記事では、豊富な現場経験を踏まえ、露光工程において細線欠けを防ぐための露光テストチャートの活用法について、実践的な知見と業界動向を交えてご紹介します。

陶器ボウル印刷と露光工程の基礎知識

陶器などの立体成型品に印刷パターンを定着させる方法はいくつか存在しますが、シルクスクリーン印刷やパッド印刷が主流です。
これらいずれの手法も、版(スクリーンやパッド)を作成する段階で、「露光」という重要工程を経ます。
露光とは感光性乳剤を塗布した版に、デザインデータに基づいたフィルムを載せて紫外線などの光を照射し、可溶・不溶のパターンを転写する作業です。

この露光工程で失敗すると、印刷時に思ったような線幅が出なかったり、塗りの部分が欠けたり、微細な文字がつぶれたりという現象が発生します。
とくに細線や微細なロゴ、飾り枠などは露光条件の最適化なしでは表現が難しい領域です。

露光不良による細線欠けの原因

なぜ露光不良によって細線が欠けてしまうのでしょうか。
現場目線で考慮すべき主な原因は次の通りです。

光源の出力不足あるいは過度の露光時間

光が弱すぎる(露光不足)場合、焼き付けるべき部分まで感光性乳剤が溶解してしまい、細い部分が欠けることがあります。
逆に、光が強すぎる・時間が長すぎる(露光過多)場合、乳剤が硬化しすぎてデザイン部分がきちんと洗い出せず、線が太ったりつぶれたりするのです。

版とフィルムの密着不良

フィルムが版面にしっかり密着していないと、光が回り込み「アンダーカット」現象が起きます。
これにより意図しない部分にまで光が入り、細線部分の欠けやモヤっとした仕上がりになることがあります。

フィルム自体の解像度やプリント品質

出力時の解像度が低かったり、インクがにじんだフィルムでは、細線表現が難しくなります。
最近ではレーザープリンターやイメージセッターの進歩でかなり改善していますが、フィルムの管理不良は今なお現場での品質低下要因となっています。

露光テストチャートとは何か

露光テストチャートは、露光条件を最適化するためのサンプルパターンが描かれたフィルムです。
デザインは細線から太い線、グラデーションや点線、ドットパターンなど様々な幅や形状が含まれているのが特徴です。

このチャートを実際の印刷用版と同じ条件で露光・現像処理を行い、テスト印刷をしてみることで、「どこまで細い線がきちんと再現できるか」「線巾・濃淡がどのように出るか」といったことを定量・定性的に判断できます。

業界の現場でテストチャートが活用される背景

現在も陶器やガラスなどの加飾工程は、昭和の時代から続くノウハウが色濃く残っています。
デジタル化・自動化が進む一方、試行錯誤を繰り返しながら現物合わせを重視する「勘と経験」が根強く、仕様書や数値管理よりも「刷ってみて確かめる」文化が存在しています。

このため、露光テストチャートを使ったテスト露光は、現場オペレーターの「肌感覚」と数値管理の橋渡しとして位置づけられています。
新しい印刷機が導入された時や、乳剤や光源ランプを切り替えた時、大ロット生産立ち上げ前のパイロット運転時など、多くの現場で「まずテストチャートで状態を確認する」という手順が組み込まれています。

露光テストチャートの具体的な使い方

ここからは実践的な手順をご紹介します。

テストチャート出力の準備

まずは細線やグラデーション、各種パターンが盛り込まれた露光テストチャートのデータを用意します。
市販品もありますが、自工場でよく使う線幅や表現を盛り込んだオリジナルデータをAdobe Illustratorなどで作成することもおすすめです。
経年変化も考慮して、複数セット出力し紫外線や湿度に強い保管方法を工夫しましょう。

現場の露光条件でテスト実施

本番同様の感光乳剤を塗布したテスト版を準備し、テストチャートのフィルムをぴったり密着させて露光します。
この際、真空状態が保てるフレームを使い、ホコリや気泡が入っていないか厳重にチェックします。

露光時間を複数パターンで変えてテスト版を複数枚用意し、例えば
・基準露光時間
・基準+10%
・基準-10%
のように調整すると、現場の許容範囲や最適露光の幅が可視化できます。

現像とチェック

現像工程でしっかり乳剤を洗い出し、テストチャートで最も細い線・パターンがきちんと残っているかを顕微鏡やルーペで確認します。
また、版のエッジがシャープに出ているか、ノイズやピンホールが発生していないかも併せてチェックします。

試し刷り・実印刷での確認

さらにテスト版で実際に陶器ボウルに印刷テストを行い、量産条件に近い状態で仕上がりを肉眼で確認します。
本来の目的は「最適な印刷品質の再現」であり、線だけでなく面積、色ムラ、文字の可読性など総合的な観点で判断しましょう。

データとしての残し方とロット傾向管理

テストチャートの結果は、日付・担当者・ロット・露光時間・気温湿度・使用した乳剤や光源のロットも記録しておきます。
このデータ蓄積が「いつも通りやったのに失敗した」リスクの低減につながり、異常発生時のトラブルシュートの頼れる武器になります。

特に昭和から引き継いだアナログ工程では「勘に頼る伝承」が多いですが、テストチャートによる数値・画像管理を併用することで、属人化の解消と品質の標準化が同時に進みます。

サプライヤーやバイヤーの視点と露光テストチャート

調達バイヤーや協力工場、OEM供給者の視点では、「自社・委託先の工程が標準化され、安定した品質が出せるか」は大きな関心事です。
テストチャートに基づく実績データや、印刷工程での再現性・不良発生率の低下は、受注競争力向上や取引継続のための重要なアピールポイントとなります。

一方、発注者としてもサプライヤーから「この露光テストで管理し、これだけ細線保証できます」と明確なデータ提示があれば、安心して発注しやすくなります。
社内標準や新規取引先選定時の評価項目にもなりえるトピックスです。

新たな地平線への取り組み—アナログからDXへ

2020年代以降、印刷版作成もデジタル化・自動化の波が押し寄せています。
フィルムレスのダイレクトイメージングや、自動現像ライン、AIを活用した画像解析による細線保証技術など、アナログ一辺倒だった現場も大きな変化の時代を迎えています。

しかし、人の感性による色表現や、陶器特有の立体曲面での印刷精度管理は、デジタル工程だけではカバーしきれません。
「昭和流の現物合わせ」×「テストチャートで数値管理」×「DXによる管理自動化」の三位一体こそ、これからの製造現場に求められる新たな品質保証手法といえるでしょう。

まとめ

陶器ボウルなどの印刷で細線欠けやパターン不良を防ぐためには、露光テストチャートを活用した工程管理は欠かせません。
現場での試行錯誤を活かしつつ、記録・データによる管理を進めることで、属人性からの脱却や品質の安定化を実現できます。

サプライヤーとバイヤー、両者の信頼構築の架け橋としても有効なテストチャート活用に、ぜひ積極的に取り組んでみてください。
これからも「人×デジタル×現場感覚」を磨きながら、ものづくり現場のさらなる進化に貢献していきましょう。

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