投稿日:2025年8月20日

フリータイム超過によるデマレージ課金を抑える延長交渉と運用ルール

はじめに:フリータイム超過とデマレージ課金がもたらす現場への影響

製造業の現場では、調達から納入までの物流プロセスが事業競争力を左右します。
特にグローバル調達が主流となった現代では、コンテナ輸送時の「フリータイム」超過や、それによる「デマレージ」課金が、コスト構造にじわじわと影響を与えています。

デマレージとは、コンテナ貨物の輸送後、港湾施設などで無償で保管できる「フリータイム」を超過した際に発生する追加料金のことです。
一件一件の金額は比較的小さいものの、年単位・複数サプライヤーとの取引になると、想定外のコストが積みあがり、最終的には利益を圧迫する一因となります。

この記事では、20年以上の工場管理者・調達購買実務の経験をもとに、アナログ文化が根強い業界でも現場で実践可能な「フリータイム超過の回避手法」「デマレージ課金を抑える交渉術」「運用ルールと標準化」について解説します。

フリータイムとデマレージの基本を現場視点で整理する

フリータイムとは何か ―「当たり前」が現場を苦しめる理由

国際物流で広く利用される「フリータイム」ですが、現場では十分に理解されていないケースも散見されます。
港湾・ターミナルでコンテナを無償で保管できる日数(例:5日、7日など)があらかじめ設定されています。
これを超過すると、1コンテナ・1日当たりで課金されるのが「デマレージ」です。

サプライヤー、バイヤー、フォワーダー、運送会社、そして現場の受け入れ担当それぞれの役割認識のズレが、フリータイムの無駄な消費や超過の原因となっています。
「本船の遅れ」「書類トラブル」「納入タイミングの調整」「突発的な荷役設備トラブル」といった“アクシデント”は日常茶飯事で、ルーチンワークの中でいかにコントロールするかが重要です。

昭和から続くアナログ運用にひそむ落とし穴

多くの製造業では、依然として「メール・電話」「紙ベース」でのやり取りが主流です。
情報共有が遅れたり、現場担当者の異動・退職により知識が断絶したりすることで、フリータイム超過が繰り返される“組織のクセ”が温存されています。
サプライヤー⇔バイヤー間で責任の押し付け合いになる例も少なくありません。

現場マネージャーやリーダーが、デマレージコストの内訳や発生メカニズムを毎回腹落ちさせておくこと、またベテラン担当者の「俺のやり方」が属人化しないルールを作ることが、昭和的アナログ体質から脱却する第一歩です。

デマレージ発生を最小化するための延長交渉の実践ノウハウ

「交渉のタイミング」が勝負をわける ― 事後対応はコスト高の元

進捗遅延やトラブル対応のたびに「もう間に合わない!」となってから延長交渉していませんか?
現場目線で大切なのは、(1)仕入先やフォワーダー経由で「本船出港~現地到着までのスケジュール見える化」を徹底すること、(2)想定より遅延しそうな場合は、フリータイム超過“前”に取引先・運送会社・船会社に「延長相談」を打診しておくことです。

経験上、納入予定日前に事情説明&根回しした場合と、デマレージ発生後に“後出し交渉”した場合では、交渉成功率も追加コストも大きく変わります。
現場スタッフの日々の進捗管理レベル・書類チェック精度が、ひいては延長交渉の「説得力」「誠意」となります。

「船会社」「フォワーダー」「仕入先」…交渉先とその特徴

・船会社:フリータイム設定の主体。交渉時は、過去の取引実績(遅延の有無、取引量)や今後の取引見通しをアピール材料にします。
・フォワーダー:バイヤー側の代理人。柔軟な対応が期待できる一方、自社都合でフリータイム延長が難しい場合も。
・サプライヤー:FOB/EXW等インコタームズによる契約範囲次第だが、現地調整や書類発行の迅速化をお願いすることができる。

いずれも、交渉前に「現状把握」(誰が、どこまで、何に遅れているのか)を明確化し、解決プランをセットで提示できるかが鍵です。

交渉に必要なのは「証拠力」と「相手への配慮」

ダメもとで延長をお願いするよりも、「トラブル発生の経緯」「各ステークホルダーがどう動いたか」「書類やデータで確認できる事実」を整理したうえで、
「今回だけ」「今後は同じミスをしません」といった誠実な姿勢を示すことが、アナログ文化の現場でも効果的です。

特に長く付き合いのあるサプライヤーやローカル船社には、現場担当者の“顔の見える”説明や、本音ベースのお願いも有効です。

組織的に「フリータイム超過」を抑えるための運用ルール作り

現場レベルから始める「超絶・可視化」戦略

フリータイムの消費・超過リスクを抑えるには、サプライチェーン全体の「見える化」を推進することが最も重要です。
具体的には、以下3つの観点がポイントになります。

・いつ(ETA:到着予定日)、どこに(港・ターミナル)、どの商品が到着するのか、現場・調達部・営業・管理部門まで全員がアクセスできる「輸送スケジュール表」を持つ
・フリータイムの起算日・終了日・貨物引き取りリミットを自動計算できるシンプルなExcelツールを作成し、現場で毎朝確認する
・進捗に異常値があった場合、ルールに従い即アラートを発信(ワンストップでバイヤー・サプライヤー・運送会社に“同時報告”)

アナログな現場こそ、「紙とホワイトボード」+「最低限のExcel自動化」を組み合わせることで、コストをかけずに現場ルールを堅持できます。

製造現場・現場マネージャーが担うべき3つの役割

1. 社内外に対して「フリータイム/デマレージ発生リスク」の啓蒙活動を定期的に実施する。
2. 実際にフリータイム延長が必要となった際、「誰が・どこまで・どの理由で」交渉するかの標準フローを作成し、迷わず動ける状態にしておく。
3. 毎年、年度初めにフリータイム課金の過去実績を振り返り、改善アクションをPDCAサイクルで確実に回す風土を根付かせる。

超えられない“昔ながら”の壁を壊す:ラテラルシンキング活用法

昭和のアナログ文化が抜けきれない現場では、時に「フリータイム延長はできないもの」という固定観念があります。
しかし、ラテラルシンキング――「常識」を別の角度から疑う思考法――を応用すれば、
「本当にフリータイムは全ての港・契約で一律なのか?」「延長条件は交渉次第で緩和できないか?」「データドリブンで担当者ごとの成果を可視化したら?」
という発想も可能です。

デジタルツールを導入する余裕がない中小工場なら、「個人技」を蓄積し、「会社全体の資産」として横展開していくことがコスト抑制の突破口となるはずです。

まとめ:バイヤー・サプライヤー両方の相互理解がデマレージ撲滅の道

フリータイム超過によるデマレージ課金は、目に見えづらく、「なんとなく発生」してしまいがちなコストです。
目的は「罰金回避」ではなく、安全で計画通りの仕入・納品オペレーションを確立し、現場全体の生産性・利益率を高めることにあります。

そのために最も重要なのは、「現場を知るバイヤー」「最前線のサプライヤー」「全体を束ねる管理職」三者が、相手の立場・課題を理解し合うことです。
現場の知を結集し、固定観念を打ち破るラテラルシンキングを実践すれば、アナログ文化の中でも十分な延長交渉・運用改善が可能です。

デマレージ課金ゼロを目指し、今日から一歩ずつできる改善から始めてみてはいかがでしょうか。
製造業の現場で苦しむ仲間たち、そして未来のバイヤー志望者に、現場ならではのノウハウが伝われば幸いです。

You cannot copy content of this page