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技術シーズを効果的に活用する潜在ニーズ抽出法と製品開発への応用

目次
はじめに 製造業の成長を左右する「技術シーズ」と「潜在ニーズ」
製造業の現場で長年仕事をしていると、「良い技術や製品はあるが売り方や活かし方がわからない」という話をよく耳にします。
日本の製造業は、昭和から続く職人気質と手堅いものづくり文化に支えられ、世界に誇れる技術力を培ってきました。
しかし、高度成長期から令和に至るまでの間、技術の深化や自動化が進んだ一方で、「顧客の潜在的な課題(=潜在ニーズ)」の掘り起こしや価値提供の手法については、アップデートが遅れている現場も多いのが実情です。
ここでは、工場現場の知恵や管理職経験を踏まえつつ、「技術シーズ」をどう見つめ直し、それをどのように「本質的な顧客ニーズ(とくに潜在ニーズ)」へ結びつけていけばいいのか。
そしてそれを購買・調達側、バイヤー、サプライヤー、すべての立場でどう実践的な製品開発につなげていけるのかについてご紹介します。
技術シーズとは何か 昭和から続く価値観と課題
製造業現場の「圧倒的技術力」=顧客の課題解決、ではない
多くの製造業では社内に眠っていたり、現場で「当たり前」になっている高度な技術やノウハウがたくさんあります。
これがいわゆる「技術シーズ」です。
たとえば、
– 独自の表面処理技術
– 社内装置のカスタム設計ノウハウ
– 少量多品種対応の生産ライン柔軟化技術
など、現場目線で見れば「すごいけど、今の得意先以外にどう売り込めばいいかわからない」と感じるケースも少なくありません。
そして往々にして、「自慢の技術を商品化したが売れない」「外から見えにくい強みが埋もれている」といったジレンマに陥ります。
なぜ埋もれるのか?昭和型メーカーに多い“内向き志向”
– 現場主体で長らく改良や改善が続けられ、価値を言語化できていない
– 営業も技術も“昔からのやり方”にこだわりを持ちすぎている
– 顧客起点ではなく「当社の強み・高性能」押しがち
こうした背景があると、いくら技術シーズを磨いても「お客様の現場での課題」や「新しい価値」につながりません。
ここから脱却するためには、「潜在ニーズ」を探すラテラル(水平)な発想が重要です。
潜在ニーズの正体とは? 表層ニーズ/潜在課題/インサイトの違い
顕在ニーズ vs 潜在ニーズ 消費者の“心の声”はどこにあるか
現場の営業や調達のコミュニケーションでよく聞くのが、
– 顧客:「Aの納期をもっと短縮できませんか」
– バイヤー:「品質規格Bの条件をクリアしてください」
といった、“顕在ニーズ=見えている・言語化されている要求”です。
しかし、本質的な価値創造や新市場の開拓を目指すとき、重要なのはむしろ
– 顧客/現場担当者が自覚していない
– 言葉になっていない
– 他社が見逃している
=「潜在ニーズ」です。
たとえば「ランプルール」の例。
最初に自動車のランプカバー素材に着目し、「黄ばみ防止」を訴求したのは、顕在ニーズへのアプローチでした。
しかし、実はユーザーが真に求めていたのは「いつまでも新車のように美しく乗っていたい」「安全性を長く保ちたい」という、深層の“インサイト”であった—という話は有名です。
なぜ潜在ニーズは重要なのか?
・競争が激しい成熟市場で生き抜くには、顕在ニーズだけでは差別化できない
・“消費者自身も気づいていない課題”を見つける企業が勝つ
・「技術シーズ起点」で新しい使い方や価値を生み出せる
顕在化していない課題や願望こそ、付加価値の源泉なのです。
潜在ニーズを抽出するための実践的メソッド
1. 現場観察(ユーザー現場の“非効率”や“あたりまえ”に目を向ける)
私自身、調達・購買担当だったとき、ベテランバイヤーから教わったのが「現場は現場でしかわからない。机上の商談だけじゃ本質を見抜けない」ということです。
自社工場だけでなく、サプライヤーやユーザー現場に足を運び、一見“当たり前”の作業や工程の裏にある、
– 余計な手順
– 二度手間
– 無駄なロス・中断
– グレーな処置(現場の小ワザ)
といった「現場特有の課題」を観察すること。
現場の困りごと、小さな“溜め息”やヒヤッとした瞬間に、潜在ニーズは隠されています。
2. ヒアリング術(5回のなぜで本音を掘る技)
現場担当者も「なぜその作業が面倒か」を意外と自覚していません。
そこで「なぜ、それをしているのか?」を5回繰り返してみます。
・「なぜ、その部品は都度現場に取りに行くのか?」
→「ストックがない」
→「なぜストックしないのか?」
→「スペースがない」
→「なぜスペースが作れないのか?」
……というように、真の“不便さ”の根源を特定できます。
バイヤーやサプライヤーがこのプロセスを取り入れることで、「単なる価格・納期交渉」に終始しない、課題解決型のバリュー提案がしやすくなります。
3. “ラテラルシンキング”の活用法 —既存事例の水平展開—
業界の常識にとらわれず、他分野で成功しているソリューションやアイデアを“ずらして応用”する方法です。
・建設現場の安全管理システムを生産ライン監視に応用
・食品工場の衛生ノウハウを、精密部品の組立工程に転用
こうしたラテラルシンキングで、「今までなかった解決策」を見つける土台になります。
4. データ活用・業務プロセスの“見える化”
工場の自動化・IoT化が進むなか、どの工程にどれだけ時間がかかっているか、どこにロスが多いか—など、データの“可視化”は重要です。
現場の「見える化」データを細かく分析することで、「実はこの工程・時間が非常に無駄だった」「この不良品率が顧客満足に響いていた」など、潜在ニーズに迫るヒントになります。
技術シーズと潜在ニーズを“価値”にする製品開発の実践ステップ
1. 現場の困りごとに技術視点で答案を出す
バイヤー/購買担当とサプライヤーが「共に現場を見る」こと。
「この作業、本当はもっと楽にできる方法ないですか?」
「ほら、御社の●●技術でこういう自動化できません?」
という共創対話が、次世代の製品開発では求められます。
2. “スペック”より“現場価値”を重視する
「当社の新素材は従来比10倍の強度!」というアピールよりも
「現場でこんな困りごと(例:リードタイム短縮、セット替え工数削減)が解消できます」
など、“使う側のメリット”をわかりやすく翻訳して提案しましょう。
これは商品企画部門だけでなく、営業、調達部門、さらには現場(作業者~工場長レベル)まで一体で取り組むべき視点です。
3. 試作・検証・フィードバックを高速で回す
昭和型ものづくりにありがちな、「トップダウン一発勝負」や「大規模投資→ローンチ失敗」は避けます。
– 小ロットで試作・PoC(実証実験)
– 必ずユーザー現場に使ってもらい、課題・改善点を収集
– なるべく短いサイクルでアップデート
こうすることで、理論上の良さではなく“実際に役立つ解決策”を導けます。
まとめ:潜在ニーズの発見と、真の価値創造に挑もう
昭和から令和の時代へと移りゆく今。
日本の製造業が真に強くなるためには、「自社技術にこだわる」内向き志向を打破し、「顧客現場の課題解決=潜在ニーズへのアプローチ」を全員参加で追求していくことが不可欠です。
現場に眠る技術シーズは、横展開や新視点と結びつけることで「新しい価値=顧客がまだ気づいていない満足」へと進化させられます。
バイヤーを目指す方、サプライヤーの立場で悩む方、今日から実践できる“小さな現場観察”や「なぜ?を繰り返す会話」から、一歩ずつ始めてみてください。
積極的な現場歩きと、水平的な発想力、それがあなたの会社・工場、そして日本のものづくりの新たな価値創出につながります。
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