ペットフードの粒が均一になる押出機のスクリューデザインと乾燥制御

はじめに：ペットフード製造における品質の重要性

ペットフード市場は年々拡大を続けており、その品質に対する消費者やペットオーナーの要求も高まっています。

特にドライフードにおける「粒の均一性」は、見た目の美しさだけでなく、栄養価の均質化や嗜好性の維持、安全性など多岐にわたる品質指標と密接に関わっています。

その一端を担っているのが、製造現場の押出機スクリューデザインと乾燥制御の技術です。

本記事では、昭和時代から続くアナログ的なものづくり文化の中で、なぜ今スクリューデザインや乾燥技術の見直しが求められるのか。

そして、実践現場で得た知見や悩みを元に、押出機技術の潮流とこれからの製造業界への提言を深く掘り下げていきます。

粒が均一であることの意味と現場の課題

消費者が感じる「粒の不均一」とは何か

ペットオーナーが手に取ったとき、粒の大きさや重さがバラバラなフード袋を見ると、品質への信頼が一気に低下します。

偏りがあると、ペットが好き嫌いをしやすくなり、個体によって摂取する栄養バランスが崩れることもあります。

また、キレイに計量したつもりでも実際に与えるエネルギー量が不安定になり、健康リスクも見過ごせません。

粒の均一性がもたらす現場のメリット

均一な粒は下工程や包装時の自動化・省力化を容易にします。

計量充填機のトラブルや粉塵発生、流路詰まりなど、生産現場にありがちな問題からの解放につながります。

さらに品質不良クレームの減少による現場オペレーション負担の軽減など、現場の「見えないコスト」を大きく引き下げます。

現場で直面する三大課題

1. 材料の変動や温度・湿度など外部環境に左右されやすいこと
2. 設備老朽化やメンテナンスレベルの差によるばらつき
3. 現場熟練者の「勘と経験」に依存した運用

これらアナログ的な問題にどう現実解を見出すかが、日本のペットフード工場の根本課題です。

押出機におけるスクリューデザインの役割

押出機の基本と製造プロセス

ペットフードの基剤（ミール・澱粉・タンパク質原料など）はまずブレンドされ、押出機に投入されます。

押出機は、筒状のバレル内を回転するスクリューによって原料を搬送・加熱・混練・加圧成形します。

成形口（ダイ）から吐出された材料が所定の形にカット（スライス）され、次工程の乾燥・冷却・コーティングなどへと進みます。

この一連のプロセスの中で、「スクリュー形状と運転条件」は粒均一性の重要な決め手となるのです。

スクリュー各部の設計思想

スクリューは単純な1本棒ではなく、さまざまな設計パラメーターがあります。

・ピッチ（ねじ山の間隔）
・フライト（羽根の高さ・厚み・形状）
・混練部・圧縮部・計量部のバランス
・開閉バルブやベント（脱気装置）の有無
・材質（耐摩耗性／耐蝕性）

これらを最適化することで、原料流動・加熱・均質化・成形時の押出安定性—どれもが向上し、結果として粒形状・粒密度の均一化を実現します。

現場でありがちなスクリューデザインの失敗例

・原料切り替え時にスクリュー交換不要を優先して、汎用設計に頼る → バラツキ増
・短納期のため、設計パラメータのトライアンドエラーを省略 → イニシャルトラブルの増加
・熟練者が手探りで運転条件を調整し、ノウハウが属人化 → 標準化できない

このような事例は決して他人事ではなく、アナログ重視の日本の現場で頻発しています。

最新トレンド：モジュールスクリューとデータドリブン設計

欧米の最先端工場では、スクリューをモジュール式で細分化し、原料特性やレシピごとにピンポイントで部品を差し替えます。

また、実運転データをAIやCAE（流体解析）で蓄積・解析し、都度設計をブラッシュアップする「データドリブン設計」も普及しはじめています。

これは、現場の「なんとなく」を排し、科学的根拠に基づいた粒均一化に大きく寄与しています。

乾燥工程における粒均一化のポイント

乾燥前後で粒性状は大きく変わる

押出直後のペットフードは、水分含有量が30～35％と高く、やわらかな状態です。

ここをしっかり乾燥させることが、最終的な粒密度・大きさの安定と保存性確保には欠かせません。

しかし、乾燥がムラになると—粒が膨れたり、逆にしぼんだりして、不均一な外観・食感につながります。

乾燥制御の肝となるパラメータとは

・温度分布：層ごとの温度ムラ解消
・風量・風速：過乾燥や乾燥不足防止
・滞留時間：粒径や製造ロットごとに最適化
・湿度コントロール：結露や吸湿による品質劣化対策

これらを一元制御するためのセンサーや自動制御装置の導入が進んでいますが、現場目線では「簡単にできる」話ではありません。

現場ノウハウ頼みからの脱却が生死を分ける

熟練工が「音」や「におい」「手触り」で判定していた時代から、センサー・カメラ画像認識・IoTデータ活用へと、乾燥制御技術も大きく進化しています。

特に、乾燥機出口で粒の水分値や密度を自動計測し、そのデータをスクリューフィードバックへ活かす、いわゆる「閉ループ制御」に取り組む先進現場も登場しています。

この流れがアナログに頼りすぎる現場体質の改変のカギです。

昭和的な「現場主義」とデジタルの融合

現場の熟練者は、粒の出来栄えや製品性状を、五感や微妙な機械音で判断し、臨機応変な対応をしてきました。

しかし、属人技術のままでは次世代への継承や大規模ラインの標準化には限界があります。

一方で、デジタル・データの導入は必須ですが、現場の感覚や経験を無視してはうまくいきません。

本当に求められるのは、「現場ノウハウの言語化・データ化」と「現実的な段階的自動化」です。

これが、昭和的な現場主義が持つ強みと、現代のスマートファクトリー戦略の架け橋となっていきます。

バイヤー・サプライヤー双方が知るべき視点

バイヤー視点：品質要求の「見える化」が優先事項

バイヤーは自社ブランドを守るため、均一な粒・安定した品質を必須要件としています。

しかし、「均一」とはどの程度を許容範囲とするのか、その判断基準が曖昧だと、現場では過剰品質・コスト増につながる場合もあります。

測定方法や品質確認フローを標準化し、サプライヤーと共通認識をもつことが、長期安定調達には不可欠です。

サプライヤー視点：正直な「現場課題」の開示が信頼のカギ

自社工場での押出機・乾燥機の限界、スクリュー交換や清掃タイミングによる変動要因を、きちんとバイヤーへ報告できるかが、信頼関係の出発点です。

そのうえで「どこまでならバラツキを抑制できるのか」「設備投資でどこまで歩み寄れるか」を、お互い現場目線で腹を割って話し合う必要があります。

(提案) 共創による「品質目線のものづくり」

一方向的な要求・指示だけでなく、現場同士が「粒均一化のボトルネックをどう解決するか」を協議し、改善策を共に考える。

ときにはバイヤーが現場実地を観察し、ときにはサプライヤーが新しい測定ツールやIoTを提案する。

このような双方向の現場革新が、これからの「競争力あるサプライチェーン」を生み出します。

今後の成長戦略：日本のペットフード製造業界へのメッセージ

押出機のスクリューデザインと乾燥制御—この二つは単なる機械設計や設備選定の問題にとどまりません。

そこには、現場の「気づき」や「こだわり」、そして「未来の製造現場像」への強い想いが込められています。

いま、アナログな日本の現場にこそ、世界にも負けないイノベーションの種が眠っています。

それをどこまで現場主体で磨き、標準化し、最終的にはグローバル品質へ昇華できるか。

ペットの健康とオーナーの信頼、その両方を守るために、現場目線を持ち続けた品質づくりを―

それこそが「昭和的ものづくり」の良さを現代に活かす、最大の生存戦略になるはずです。

まとめ

・粒の均一性は消費者のみならず現場と経営双方に大きな付加価値を生む
・押出機スクリューデザインと乾燥制御は、品質安定の要
・熟練者のノウハウとデータドリブン技術を融合させることが、昭和からの脱却のカギ
・バイヤーとサプライヤー、現場の相互理解と共創が新たな競争力を生み出す

日本のペットフード業界が今後も世界に誇れる品質ブランドでありつづけるために、現場の「挑戦」と「知恵」を惜しみなく次世代に継承していくこと―
そこに、製造業に身を置く私たち一人ひとりに求められる、真のプロフェッショナルの使命があると確信しています。