投稿日:2025年10月12日

ペットフードの粒が均一に成形される押出機スクリューデザイン

はじめに:ペットフードの品質と成形技術の重要性

ペットフード市場は年々拡大し、その品質や安全性に対する消費者の要求も高まっています。
ペットオーナーの意識も変化しており、「本当に安心できるものをペットにも与えたい」という声が増えています。
このような背景において、ペットフードの粒の大きさや形状、見た目の均一性は商品価値そのものを大きく左右します。
均一で美しいフードは、単に「美観」の問題だけではなく、栄養管理や消化吸収効率、さらには製造効率にも密接に関わるからです。

それらを実現する鍵となるのが「押出機(エクストルーダー)」と、その中核部品である「スクリュー」のデザインです。
製造工程の現場で長年培った知見をもとに、今回はペットフードの粒を均一に成形する押出機スクリューデザインについて、実践的な目線で解説していきます。

ペットフード製造における押出機の役割

なぜ押出機が必要なのか

ペットフードは、複数の原材料を混ぜ合わせて「ペースト状」にし、それを一定の形・サイズで成型して加熱処理した製品が主流です。
この成形と加熱を一手に引き受けているのが「押出機」です。

押出機は、原料を高温・高圧で練り込み、一定の形状・サイズで連続的に成型する工程を担います。
このシステムがなければ、大量生産はおろか、均一な品質・粒度の確保すら困難です。
また、成形時に水分・窒素ガスなどをコントロールするとフード内に「気泡」を作り、サクサクした食感や浮力を与えることも可能です。

押出機の基本構造

押出機の主な構成は「フィーダー」「バレル(シリンダー)」「スクリュー」「ダイプレート」などがあります。

中でも最重要部品とされるのが「スクリュー」です。
このスクリューは原料の搬送、混練り、圧縮、加熱、ホモジナイズ加工といった一連のプロセスを、回転しながら担う特殊な構造体です。

スクリューデザインの根本と粒の均一性の関係

スクリューのセグメントと機能分担

スクリューは単なる「ねじれた金属棒」ではありません。
材質や長さ、ピッチ、フライト(ねじり角度)、ルート径、溝深さ…など、複数のパラメータが製品の出来を左右します。

通常、スクリューは大別して「搬送部」「混練部」「圧縮部」「計量部」などにゾーニングされ、原料の種類や製品によって最適配置が検討されます。
例えば、ピッチが緩く、溝が浅い混練部は、原料どうしを圧縮しながら練り合わせることに特化しています。
反対にピッチが広く、溝が深い搬送部は、原料を前方へスムーズに流す役割を持っています。

このゾーニングやパラメータ設計が不十分だと、原料が「偏る」「混ざらない」「固まり・ダマ」になる、「押し出し圧が一定しない」という問題が起き、粒の形や大きさにバラツキが発生します。

均一粒度のためのスクリュー設計ポイント

均一な粒が得られる理想のスクリューデザインには、以下の要素が不可欠です。

1. 原料投入量に合わせた最適な充填率
2. 食材物性データと一致した「スクリューピッチ・深さ」設計
3. 原料ごとの粘性差を吸収する「ミキシングエレメント」配置
4. 温度・圧力プロファイルに応じた素材選定
5. 異物混入やアンダークッキングを防ぐクリアランス管理
業界アナログのままでは「昔からの設計」や「経験則」がそのまま流用されるケースも多々あります。
しかしながら、昨今は品質要求レベルの高騰や差別化競争が加速しているため、「科学的根拠」や「データ駆動型設計(CAE等)」が標準に成りつつあります。

現場からみたスクリューデザイン改善の具体例

1: バラツキ原因分析とPDCAサイクルの重要性

筆者が現場責任者を務めていた工場では、ペットフードの粒の大きさや見た目が「ロットごとに微妙に異なる」「一部だけが砕けやすい」などのトラブルが定期的に発生していました。
初期対応として「ダイプレートの穴径変更」や「成形後のふるい作業強化」など“場当たり的”な対応が繰り返されましたが、根本解決には至らず。

原因をスクリュー前後でサンプリングし物性情報をデータ化したところ、「圧縮エリアで原料の粘度バラツキが大きい」ことが判明しました。
そこでスクリューのセグメント構成自体を見直し、バッチごとの熱履歴と混練プロセスを最適化。
さらに、各ロットでの「温度・圧力推移」を記録することで、不良発生前に事前検知できる体制を整えました。

このサイクルを継続した結果、「粒度のバラツキ率」を1/10以下に抑えることに成功しました。

2: アナログの壁―“現場の勘”と“科学的アプローチ”の融合

一方、長年の製造現場では「昔からこの形でやってきた」「ここのライン長はこう言ってる」といった属人的オペレーションが根強く残っています。
現場の勘を否定するわけではありませんが、「再現性」「ロス削減」の観点からはデータ化・可視化が不可欠です。

一例として、ライン担当者から「この温度帯だとどうも押し出し圧が不安定になる」という声がありました。
現行スクリューは、混練部フライトがやや浅く設計されていたため、材料の流動性が季節ごとに大きく変動。
冬場は材料が固くなり、裏目に出ていました。

そこで、CAE解析を取入れながら「流速分布」「トルク変動」「内部温度勾配」を可視化。
現場担当者との協議を重ね、セグメント長さや溝深さを実態に即したカスタマイズを行いました。
これが大きな歩留り向上と歩合コスト低減に寄与しました。

3: 外部要因との連携——原材料サプライヤーとの協調開発

粒の均一化を突き詰めると、原材料のロットバラツキや供給条件も見逃せません。
特に近年はバイヤー主導で「コスト最優先調達」が求められることも多いため、サプライヤー側との「物性情報共有」や「品質規格連動型発注」が重要になっています。

筆者はサプライヤーにも「原材料バラツキを減らすための前処理条件」「スクリューへの対応策」などをフィードバック。
双方で「理想原料物性」「適切な流動指数範囲」などを明示的に共有・合意しました。
こうした地道な連携が、従来のアナログ業界に新たな風を起こし、安定生産への道筋をつけました。

これからの押出機スクリューデザイン—デジタル化と未来展望

IoT・AIの活用とスマートファクトリー化

近年は、押出機にもIoT技術の導入が進んでいます。
各種センサで内部温度や圧力を常時モニタリングし、大量のデータをリアルタイムでAIが解析。
最適なスクリュー回転数や材料投入量を自動制御するラインも登場しています。

これにより「一度きりの最適化」から、「経時変化や材料差分にも柔軟対応する」スマートな成形が可能になりました。
粒の均一化やバラツキの抑制も、人の勘や経験のみに頼らず、データドリブンでも担保できる時代になります。

昭和的アナログからの脱却と、現場起点の価値創造

ただし現場では未だに「アナログ指示書」や「職人任せライン」が多数派で、ノウハウがデジタル化されていないのが現状です。
メーカー各社は、「現場と開発・品質保証・調達部門が共創するプロジェクト」や、「オープンプラットフォーム型のノウハウ共有」へと舵を切りはじめています。

新しいスクリューデザインや最先端素材の試用、AI支援のプロセス管理など、異分野協働による“ものづくり”が今後のスタンダードとなりそうです。

まとめ:バイヤー・サプライヤーの立場から見るスクリュー設計とその価値

ペットフードの粒が均一に成形されるか否かは、単に設備側・工程側の努力だけでなく、原料サプライヤーとバイヤー(調達者)との共通認識、本当に意味ある現場-本部の連携にかかっています。
スクリューデザインには、細部の“気づき”や“異分野知見”が重要であり、アナログからの脱却と現場の知恵の活用が不可欠です。

これからバイヤーを目指す方、あるいはサプライヤーの立場で「バイヤーは何を求めているのか」を知りたい方には、ぜひこの“現場目線と科学・データの融合”の視点を持っていただきたいと思います。
ペットフード業界の品質進化、および日本(ひいては世界)の製造業の発展に少しでも貢献できれば幸いです。

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