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靴ひもの通し穴が裂けないハトメ打ち圧と布地補強の設計

目次
はじめに:靴ひもの通し穴「ハトメ」の役割と課題
靴を履いたとき、最初に手に触れる部分のひとつが靴ひもを通す「ハトメ」です。
実は、このハトメ部分には靴づくりの現場ならではの深い知見と工夫が詰まっています。
ハトメとは、靴ひもの通し穴の周囲に打ち付ける金属や樹脂のパーツのことで、主たる役割は「穴の補強」と「耐久性向上」です。
しかし、実際の現場では「ハトメを打ったのに通し穴が裂けてしまう」「ひもを強く締めると布地が破れる」といったトラブルも後を絶ちません。
特にアナログな工程が残る国内の中小靴工場や、工場自動化が遅れている現場では、設計・工程・素材選定の各段階で、昭和時代からのやり方がアップデートされず、品質トラブルの原因となっていることも事実です。
本記事では、20年以上の工場勤務経験をもとに、靴のハトメ打ち圧と布地補強について、最新の知見と現場目線のリアルな実践ポイント、そして今後必要とされる発想の転換まで、具体的に解説します。
製造業に勤める方、バイヤー志望、サプライヤーとして顧客の要望を理解したい方々それぞれに役立つ内容を、たっぷり詰め込みました。
靴ひもの通し穴をめぐる「あるある現場トラブル」とその本質
布地が裂けるのは「圧」だけの問題じゃない
ハトメ穴が裂けると言えば「ハトメの打ち圧が弱い!」が現場からすぐ聞こえてきますが、実は打ち圧の強弱“だけ”で解決できる話ではありません。
端的な原因は次の3つです。
– ハトメ自体の形状や材質が用途と合っていない
– 布地や合成皮革の下処理・補強が不十分
– 打ちの工程条件がバラツキ大で再現性が低い
現場サイドでは「強く打てば安心」という力業(ちからわざ)に走りがちですが、実際には「裂け」を招く最大の要因が布地の構造的弱さであるケースが多く、設計・素材選定・下地加工の多層的アプローチが求められます。
バイヤー視点で見抜く「裂けリスクの真因」
靴のバイヤーや企画部門がサンプルワークをチェックする際、「通し穴部の強度テスト」は必須です。
しかし現場の多くでは「社内基準値」に甘んじており、実運用やマーケット使用環境を見越したシビアな試験をしていません。
たとえば、靴ひもを締める手の力は平均18~25kgfの負荷がかかる場合もあり、これは想定外の瞬間最大荷重や、繰り返し動作耐久まで含めて設計し直す必要が出てきます。
実際にバイヤーの立場になれば、「なぜこの強度なのか」という根拠と「抜け漏れない工程づくり」の両方をサプライヤーに求めることになります。
ハトメ打ち「圧」の考え方:数値設定より“広がり”を重視
適正な打ち圧は何で決まるか?
ハトメ穴の「打ち圧」設定は、機械的に「○kg/c㎡で打てばよい」と思われがちですが、現場で結果を左右するのは次のポイントです。
– 使用するハトメの種類(金属/樹脂、裏座有無、爪の形状等)
– 布地・下地の層構成(合皮、ナイロン、メッシュ、芯材等の重なり)
– 打ち工程の装置差・治具精度・人によるバラツキ
– 量産再現性(ロットで変動しないか)
物理的な圧力値だけに着目せず、「ハトメと布地が一体化し、圧力が一点集中でなく面で均質に広がる」設計思想がカギとなります。
このためには、“打ち圧の数値”よりも“当たり面の広さ”や“ハトメ爪の曲げしろ”といったパラメータを工夫することが重要なのです。
現場改善例:「裂け」発生を激減させた工夫とは
私が現場で取り組んできた中でも、特に効果が高かった例をふたつ紹介します。
1. 「ハトメ爪の幅を広げるカスタム設計」
ハトメの外径そのものを広げるのではなく、爪部分だけを長く幅広に変更。
打設後、爪が布地内で大きく扇状に広がるため、1点集中力が分散され裂けリスクが大幅減。
2. 「打ち具のミラー面・ゴム緩衝材の追加」
従来の打ち具は金属一体式でしたが、部分的にミラー面や軟質ゴムを追加して、ハトメ圧の入り方をマイルドに制御。
これにより、芯材・布地への傷みを最低限にしつつ打圧の再現性もUP。
打ち圧の数値管理も大切ですが、「接地面で力を分散する工夫」こそが現場の裂けトラブル減少には効果的です。
布地補強の極意:下地まで見据えた「三層防御」
「芯材」と「接着工程」の落とし穴
靴のアッパー部分の布地は、表地・裏地・芯地など、複数層で構成されています。
ハトメ部分の強度対策として「芯材」を追加で貼りつけたり、裏地を厚くすることは一般的ですが、ここに大きな落とし穴があります。
– 接着剤の選定ミスで芯材が浮く=ハトメ打設後すぐ“裂け”
– 芯材の取りつけ位置ズレで、補強効果がムラ
– 厚すぎる芯材が逆に打ち圧不足を招く
重要なのは「芯材選び」と「接着工程」の両方を厳密管理し、成形時の熱・圧・時間にばらつきが生まれない工程設計です。
「三層防御」とは?
耐久性重視の現場が実践するのが、いわゆる「三層防御」です。
– 表地(強度とデザインを両立)
– 中芯材(力を吸収・分散)
– 裏地(摩擦・裂け対策の最終壁)
この三層全体で力を吸収+分散できるよう補強配置・材質選定を行います。
また繊維方向(バイアス方向/経緯方向)や、縫い合わせ位置も強度に大きく影響するため、サンプルワークの設計段階で十分な検証とバイヤー・現場との連携が不可欠です。
「昭和」からの脱却:現場データの価値を最大化する考え方
アナログ現場こそ「再現性」と「徹底した記録」が未来を作る
日本国内の多くの靴工場では、“職人のカン”や“経験則”が重視されがちです。
ですが、これからのものづくり現場・サプライヤーは、お客様(バイヤー)の求める「再現性・品質保証・説明責任」に応えるため、データ活用が不可欠です。
– ハトメ打設の圧力・時間・面圧分布の数値記録
– 打設前後の布地強度の測定
– 布地と芯材のロット別テスト結果の保存
このような記録の積み上げがノウハウ・品質保証体制となり、工場の競争力を一気に高めます。
たとえば、サプライヤーの立場では「なぜこの設計なのか」を論理立てて説明できることが、バイヤーとの信頼構築やスペック交渉の武器となるはずです。
他業種ベンチマーキングのすすめ
靴以外の業界、たとえばアウトドアギアのバックル補強や作業用グローブのホール部など、類似する「穴の補強技術」は多数あります。
これらのベンチマーキングを通じて、「布地層間を超音波溶着」「異素材(ナイロン芯+ケブラー繊維)」など、ラテラルに発想を広げたカスタムが可能です。
昭和の「これが定番」に囚われず、異業種の先例からヒントを得ることで、持続的な技術革新と現場改革がすすんでいきます。
これからの「バイヤー/サプライヤー」関係と設計思想の新潮流
「強度の根拠」と「ストーリーある製品」を求める時代へ
単純な打ち圧・芯材強度だけでなく、「なぜこう設計したか」「何回の耐久テストをクリアしたか」「お客様からどんな評価を受けてきたか」という、“ストーリーある品質設計”が今後はさらに重要視されます。
またサプライヤーの側には、「次はこう改善できる」「異業種のこのやり方を自社でもやろう」というパートナーシップ型提案力が求められます。
バイヤーもサプライヤーも、お互いの現場実情と未来について率直に語り合い、一緒に新たな基準やマーケット価値を生み出していく時代だと言えるでしょう。
まとめ:知見を積み重ね、日本の靴ものづくりを進化させる
靴ひもの通し穴のハトメ打ちと布地補強、そこには現場力と設計思想、そして少し先を読む発想の転換が不可欠です。
ハトメ打ち圧は“数値だけ”でなく「広がり」を持たせる設計、布地補強は三層防御の発想へ、昭和からのやり方を脱却した現場データマネジメントへ。
今日の一工夫・改善が、靴業界全体の未来を創ります。
製造業で働く皆さん、バイヤー志望の方、サプライヤーとしてバイヤーを深く理解し貢献したい全ての方へ、確かな知見と実行力で“これからの靴ものづくり”に挑戦しましょう。
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