投稿日:2025年11月25日

OEMトレーナーで量産前に必ずやるべき“生地収縮試験”

OEMトレーナーにおける生地収縮試験の重要性

OEMトレーナーとは、アパレルメーカーなどが製品企画・デザインを行い、実際の製造工程は外部の工場へ委託する仕組みの中で生産されるトレーナーのことです。

見た目やデザイン性だけでなく、着心地やサイズ感の再現性にも多大な注意が必要になります。

多くのOEM製造現場ではサンプル品の確認やパターン作成、量産工程の調整に多くの工数がかけられていますが、「生地収縮試験」は量産トラブルを防ぐための最重要タスクの一つです。

特に日本のアパレル業界は高品質が求められる市場。

顧客満足とブランド信頼の両立のためにも、生地収縮試験は避けて通れません。

本記事では、現場目線から見た実践的な生地収縮試験の必要性、具体的な手順、そして現場に根付くアナログな課題とその改善策まで多角度から掘り下げていきます。

バイヤーやサプライヤーだけでなく、製造業に関わる全ての方に役立つ内容です。

なぜ生地収縮試験が必要なのか

織物やニット素材は湿度や温度、洗浄方法によって寸法に変化が発生します。

厳格なパターン通りに裁断・縫製しても、洗濯後に縮んでしまえばサイズ不良が発生するリスクは非常に高いです。

OEMトレーナーで生地収縮試験を怠ると、以下のような問題が発生します。

  • 量産品のサイズが基準から大きく外れる
  • 顧客からの返品やクレーム対応が必要になる
  • ブランド価値の毀損・信頼性の低下
  • 工場内での追加手直しやコスト増加

特に大手量販店やブランドからの受託案件では、一定ロット以上の全数検品・返品リスクも高まるため、余計なコストを請求される可能性もあります。

昭和のアナログ作業を引きずる現場では「なんとなく経験則で行う」ことも多いですが、現代の品質基準や取引先の期待レベルを考慮すれば、生地収縮試験の標準化は必須です。

生地収縮試験の基本フロー

生地収縮試験を安全・確実に行うには、以下のステップを忠実に守る必要があります。

また、記録やエビデンスとして残すことで、サプライヤーとバイヤー、双方の信頼関係構築にも繋がります。

1. 素材サンプルの入手と確認

まずは使用予定の生地ロールから、最低でも30cm四方のサンプルを採取します。

異なる反やロットがある場合は、それぞれからサンプルを抜き出すとより確実です。

原反のロット違いや素材ブレが後のトラブルにつながるため、サプライヤーへの確認も徹底しましょう。

2. チェックマークの作成

サンプル生地に、縦横各10cmの基準線を水性ペンなどで記入します。

この線を基点に収縮率を後で計測しますので、正確な直角・直線を心掛けてください。

3. 洗浄・乾燥処理

実際の消費者が行う想定で、生地を水洗い(またはお湯洗い)し、陰干しや平干しで乾燥させます。

工場や製品によっては、洗濯機での処理やタンブル乾燥を想定するケースもあります。

ブランドや納品先の取り決めがある場合は、その条件に従うことが鉄則です。

4. 寸法の再計測と収縮率の算出

乾燥後、再度10cm基準線の実寸をノギスやメジャーで計測します。

計測誤差がないよう、測る位置や道具の精度にもこだわりましょう。

収縮率は以下の式で算出します。

収縮率(%)=(洗濯前-洗濯後寸法)/洗濯前寸法 × 100

縦方向と横方向で差が出やすいため、両軸で数値化することが大切です。

5. 最終結果の評価と活用

試験結果を設計図面や縫製パターンに反映し、量産時の「出来上がりサイズ(Finish)」を逆算して調整します。

生地ごとに収縮率が違えば、パターンもそれぞれ補正が必要です。

また得られたデータは、報告書としてバイヤーや発注元へ提出することで工場の信頼獲得にもつながります。

アナログ現場でのよくある失敗事例

筆者自身が管理職や現場責任者として数多く見てきた、アナログ現場での失敗例をいくつか紹介します。

・経験則による「大丈夫」の落とし穴

ベテラン職人が「これくらいの生地なら心配ない」「昔からこの方法でやってる」と根拠のない判断を下し、量産後に裾丈が2cm以上縮んだ…。

最終的に返品、納期遅れ、大量再仕入れで赤字に転落した事例が後を絶ちません。

・他現場のルールを安易に流用

他工場や他ブランド向けに使っていたデータや洗浄条件を、新規量産案件でそのまま使ってしまう。

生地メーカーが違えば「同じ混率(例えば綿100%)」でも織りや密度、糸番手、整理加工の違いで想定外の縮みが発生します。

・測定ミスや報告の遅れ

正しい手順や測定道具を使わず「目検」で値を決めてしまう。

あるいは現場で異常値が出ても、忙しさから上司やバイヤーへの報告を怠る。

小さな見逃しが納品クレームの全数返品に発展しやすいです。

デジタル化・標準化へのシフトで生産性向上

昭和から続く習慣や慣例が残る製造現場ですが、今や「再現性」「トレース可能性」が高品質の証になっています。

生地収縮試験においても、データ記録や共有を徹底することが強く求められています。

・デジタル管理の導入

測定データをExcelや専用管理ソフトへ記録。

ロット管理、履歴の一元化、異常値の自動アラートなど、属人的な判断依存から脱却できます。

またクラウド型サービスを利用すれば、工場・サプライヤー・バイヤー間でリアルタイム共有が可能となり、コミュニケーションロスの大幅削減が実現できます。

・手順書・フォーマットの標準化

現場に操作手順書や測定フォーマットをあらかじめ配布。

サプライヤー任せにせず、バイヤーも現状把握のために現場訪問や工程監査を併用すると良いでしょう。

アナログとデジタルのいいとこ取りで相互補完する仕組み作りが理想です。

バイヤー・サプライヤーそれぞれの視点で考えるポイント

生地収縮試験の重要性を理解しつつ、バイヤーとサプライヤー双方の視点で注意すべき点についても考えてみます。

バイヤーが押さえるべきこと

  • サプライヤーの試験結果報告を必ず入手し、管理記録として残す
  • 収縮率変動のリスクを想定したパターン調整または発注スペックを明確に指示する
  • 品質不良時の責任範囲や対応フローを事前に契約書で明確化する
  • 現地監査やサンプル抜取確認を定期的に実施する

サプライヤーが注意したいこと

  • 生地ロット・反ごとにサンプル抜取を徹底し、再現性ある測定データを残す
  • 収縮率が基準より大きい場合、早期にバイヤーへ報告し、納期やパターン調整を協議する
  • 社内や協力業者にも手順書を配布し、全体最適を目指す
  • デジタルツールや自動化機器の導入による作業効率化を推進する

どちらの立場でも、「あとからの言い訳」が通じない世界です。

事前準備・データ化・情報の見える化を徹底し、品質リスクを限りなくゼロに近づける努力が重要です。

未来志向で考える生地収縮管理の新たな地平線

AIやIoT技術の進歩で、今後さらに「生地特性の自動分析」「遠隔地でのリアルタイム判定」「AIによるパターン自動補正」など革命的な技術が増えていくでしょう。

しかし、どんなに新技術が進んでも「現物に触れた経験」「目で見て、手で測る感覚」「異常を素早く察知し、現場で即対応する判断力」は、現場プロフェッショナル達の強みです。

デジタルとアナログが融合することで、品質保証は新次元に進化します。

まとめ:生地収縮試験は、信頼とブランドを守る”要”の仕事

OEMトレーナーの量産で「生地収縮試験」を怠ると、失うのは納品物だけではありません。

お客様の信頼、協力会社との絆、そして企業ブランドそのものが傷ついてしまいます。

どんなに時代が進んでも、「収縮試験」という地味で地道な作業を徹底する。

それが現場の安全網であり、バイヤー・サプライヤー双方の成長エンジンです。

目先の効率や工数削減だけでなく、信頼されるモノづくりの原点を共に見つめ直していきましょう。

今後も本質を突いた現場視点のノウハウを発信し、製造業の未来を切り拓くための一助となれば幸いです。

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