投稿日:2025年10月25日

ホテル業がオリジナル寝具を作るための生地試験とラベル表示ルール

ホテル業界で求められるオリジナル寝具の必要性

ホテル業界は、近年ますます競争が激化しています。
ゲストがホテルを選択する際、単なる宿泊場所ではなく、快適な寝心地や特別な体験を重視する傾向が強まっています。

その中で、多くのホテルが独自の差別化戦略として「オリジナル寝具」の導入を検討するようになっています。
業務用寝具においては、耐久性や安全性、清潔さはもちろん、ブランドイメージを最大化するデザイン性も非常に重要です。

しかし、オリジナル寝具を作る際には、宿泊業界特有の規格や法的なルール・ラベル表示、さらには厳しい品質基準をクリアするための生地試験が必要不可欠です。

本記事では、これからオリジナル寝具の企画・導入を検討しているホテル経営者やバイヤー、またそのサプライヤーとなる企業の方に向けて、現場の知見と最新の業界動向を交え、知っておきたい生地試験とラベル表示のルールについて徹底解説します。

ホテルの寝具に求められる性能と選定ポイント

ホテルで使用される寝具は、家庭用とは異なり「不特定多数の宿泊客」を「繰り返し受け入れる」ことが前提です。
このため、以下のポイントを満たす必要があります。

耐久性

日々頻繁に洗濯やクリーニングを行うホテルでは、生地自体の強度が重要です。
擦れや破れにくさを保証するために、引張強度や摩耗試験などが必須となります。

清潔・衛生面

ダニやカビ、アレルゲン対策の機能性、抗菌・防臭加工は不可欠です。
とくに近年の衛生意識の高まりを受け、JISなどで規定された抗菌性試験への適合を求められるケースが増えています。

安全面

火災や事故への備えとして、消防法に基づく防炎性能を持つ生地(防炎性能試験合格)が推奨または義務付けられています。
特にシティホテルや大規模宿泊施設では、厳格な防炎基準をクリアする必要があります。

快適性・肌触り

ゲスト体験最大化のカギを握るのは、やはり寝心地の良さです。
吸湿性や通気性、肌当たりの滑らかさを生地段階からチェックし、ブランドコンセプトに合致した素材選びが求められます。

オリジナル寝具づくりの流れと現場の課題

ホテルがオリジナル寝具を開発する場合、多くは専門メーカーやサプライヤーと連携し「生地選定→試験→製品化」というステップを踏みます。
しかし、昭和から続く伝統的なアナログ調達体質やコスト重視の風土が根強く、最適な寝具づくりを阻む課題も少なくありません。

伝統的なアナログ現場との向き合い方

長年使い慣れた標準品への固執や、最安価格での調達優先の傾向は今なお根強く残っています。
このため、サプライヤー側は新しい生地や加工技術の提案をする際に「なぜ今それが必要なのか」を論理的に説明し、現場担当者の納得感を得る「共創型」調達スタンスが求められます。

現場の声を丁寧にすくい上げ、機能性やコスト、供給の安全度など多様な側面から意思決定をサポートすることが、ホテル・サプライヤー双方の競争力向上につながります。

オリジナル寝具に必要な主要な生地試験

寝具生地を採用するには、以下のような試験をクリアすることが望まれます。
これら試験は、JIS規格や業界標準、各施設の独自ルールにより具体的な基準値が設定されています。

引張強度・破裂強度試験

繰り返しの使用に耐えるため、生地がどれくらいの力で裂けたり破れたりするかを検証します。
JIS L 1096(引張強さおよび伸び)などが代表的な規格です。

摩耗試験

シーツや枕カバーは特に摩耗による劣化が問題となるため、摩擦にどれだけ耐えられるかを判定します。
JIS L 1096の摩耗試験や、マーチンデール摩耗試験(ISO12947)が広く用いられています。

防炎性能試験

消防法や旅館業法で義務となる場合の多い試験です。
材料が直接火にさらされた時どこまで燃え広がるか、自己消火性・残炎性等も含め評価します。

抗菌・防臭性試験

汗や皮脂などから雑菌が繁殖しやすい寝具では、抗菌性能が必須です。
JIS L 1902などによる抗菌性試験が一般的です。

ホルムアルデヒド検査

シーツ・カバー類では、乳幼児の利用や肌に直接触れる用途で厚労省基準に則ったホルムアルデヒド含有量検査が求められます。
安全・安心なアピールポイントにもなるため、省略せず実施しましょう。

色落ち・変色検査

特にホテルのブランドカラーやロゴ入りオリジナル生地の場合、繰り返しの洗濯で色落ちや変色しないかを事前に確認します。

ホテル寝具のラベル表示ルールと注意点

寝具ついては、家庭用品品質表示法や消費者庁のガイドラインが定める「表示ルール」を必ず守る必要があります。
これはエンドユーザー(宿泊客)が安全かつ安心して寝具を利用できるようにするため法律で義務付けられています。

必須の表示項目

寝具関連で主に必要となる表示は以下のとおりです。

– 組成表示(素材:綿◯%、ポリエステル◯%など)
– サイズ表示(例:150×210cm)
– 洗濯表示(国際基準のアイコンで洗濯方法を明記)
– 製造者名または販売者名、連絡先
– 原産国表示
– その他(注記表示、難燃性や抗菌性の有無、詰物量など)

業界目線でのラベル運用上の注意点

業務用のオリジナル寝具の場合、大量のロット生産やリネンサプライへの貸出で「誤表示」や「ラベル不明確」の問題がしばしば発生しています。
現場では「表示取り違えによる交換トラブル」「洗濯時のラベル劣化→品質事故」等の失敗事例も多くあります。

近年は、洗濯耐久性の高いラミネートラベルや、QRコードによる追跡表示も拡販されているため、単なる「義務」を守るだけでなく、ユーザー接点やメンテナンス効率を意識した工夫も推進しましょう。

サプライヤー側が知っておくべき現場バイヤーの本音

寝具を供給するサプライヤーにとって、ホテルバイヤーの「本音」を知ることは商談成功のカギとなります。

コストだけでなく「安全と安心」に最大限配慮

現場担当者は「安い」だけで選んでいるわけではありません。
クレームや事故リスクを恐れているため、「第三者機関の試験合格」「法令完全遵守」「事故発生時の迅速対応力」を極めて重視しています。

現場の省力化・オペレーション効率にも注目

「ラベル表示が見やすい」「管理番号で追跡しやすい」「洗濯堅牢度が高い」など、清掃・リネンサプライ現場の人手不足対策にも寄与するスペックは積極的に採用されやすいです。

ブランド価値向上を支援する提案

オリジナル生地をブランドストーリーとして打ち出すため、「環境配慮素材」や「地域産業連携」などサステナブルな付加価値が歓迎される傾向です。
試験レポートや生産背景を”見える化”し、ホテルのWebサイトや客室案内で訴求できるよう配慮した企画も評価されます。

これからのホテル業界における寝具調達の新地平

DXやインバウンド需要、SDGs推進の流れをうけて、ホテル業界の寝具調達も大きく変わろうとしています。

アナログ体質からの脱却として、
・サプライチェーン全体の品質トレーサビリティ確保
・IoTやAI検品による省人化
・定量データに基づく生地選定や不具合予兆(ビッグデータ活用)
・パーソナライズ体験とブランド価値向上

こうした新しい調達・品質管理手法を積極的に取り入れることで、ホテルゲストのさらなる満足度向上と収益機会の拡大を実現できます。

まとめ

ホテル業がオリジナル寝具を作るにあたり、「生地試験の信頼性」と「ラベル表示の適正化」は絶対に外せない要素です。
また、省力化や安全・安心対応、ブランド戦略の観点からも、バイヤーとサプライヤーが現場目線で連携し続けることが、アナログ業界に残る慣習から一歩抜け出す推進力となります。

今日からできることは、「目的意識をもって必要な試験・表示ルールを徹底する」「現場の声を聞いた上で柔軟な提案と仕組み改善を繰り返す」ことです。

一歩先の価値をいち早く形にし、ホテルもサプライヤーもともに発展を遂げていきましょう。

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